これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

72 / 114
Q.不死者の攻略回答

武器腕は浪漫だが、流石に戦艦級の巨砲は擁護できねえかなぁ・・・・

 

実際に見てると浪漫より先に体のバランスが気になってくる。手抜き欠陥住宅を見た時の感想の様だ。

 

俺達は遠く離れた地点で双眼鏡を覗いて【呪王】を偵察していた。

 

あの狂人は以前よりも更に人離れしていた。具体的に言うと、全体的な形が人から逸脱し始めている。

 

妖刀らしきボロボロの刀が腕から生え、背中から黒い棒が幾つも飛び出している。どれも酷く呪われている逸品の数々だという事が遠目に見て分かる。

 

「蟶?屮繧貞ケイ縺輔↑縺代l縺ー」

 

狂人が腕と融合している錆びついた巨砲を草を食む草食の純竜に向ける。

 

純竜の方は殺気を向けられてスキルを発動させたのか、全身が鉄鋼の金属光沢に変化した。明らかに純竜のENDが上昇している。

 

但し、あの純竜の防御はただENDで止めるだけでは無い。

 

生半可な砲撃なら硬そうな見た目に反して柔らかく受け止められ、砲弾が保有しているエネルギーは吸収されてその場に落ちる。

 

海属性のエネルギー吸収と上昇したENDを合わせて、生半可な砲撃で揺らぐ事は無い。

 

上級職の奥義を何回か受けても生きているタフネス。普通なら持久戦に持ち込まれる。

 

しかし、音速で発砲された砲弾は純竜のエネルギー吸収をものともせず、肉に食い込んでいく。

 

裂けた皮膚から血が吹き出し、水っぽい音を立てて純竜を風船の様に破裂させた。

 

大きな肉片が重たい音を立てて地面に撒き散らされ、飛び散った血吹雪が空に咲く。

 

耐久に優れた純竜も一発で爆散か。

 

俺のENDも余裕で貫きそうだな。あの巨砲。

 

あの狂人は、本当に何処から呪いの武具を取集しているんだ。

 

腕が良い【大砲職人】でもあれほど高性能な巨砲はそうそう作れやしない。

 

それに表面が錆び付いているが、特徴的な緋色の巨砲はヒヒイロカネで出来ている。

 

天地で産出される神話級金属を加工出来る人間は、鍛治大国である天地でも五人はいない為、ヒヒイロカネ製の武具は希少だ。

 

理由は単純に、ヒヒイロカネが硬すぎて普通に加工出来ないと言う一点にある。地属性の金属操作に超高熱で加工しなければヒヒイロカネ製の武具は作る事は出来ない。

 

だからこそ、ヒヒイロカネを戦艦に載せる様な巨大な大砲にするなんて無茶苦茶の所業だ。

 

ヒヒイロカネが錆び付いているという事はかなりの年代品という事だが、マジで何処から持ってきた。

 

歴史的付加価値を込めると誇張抜きで国宝級の代物じゃねぇか。なんで呪われた武具としてあの気狂いの腕になってんだ?

 

「あの棒」

 

ん?

 

「生きてる」

 

・・・インテリジェンスウェポンか?

 

スルーしてたけど、あの何もしていない様に見える不気味な棒は【ヘイワン】と同じようなアクセサリーなのかもな。呪われているって事は碌な物ではないのだろうが。

 

というか背中に生えている時点でアウトだ。なんなら呪われた国宝以上に厄の気配を感じる。

 

にしてもあの狂人から【呪王】のジョブは未だに離れていない様だ。モンスター化したらジョブは離れていく筈だが、渋とくも人間に留まっているらしい。怪物め。

 

よく見てみると◯ェンソーマンの魔人みたいな姿をしている。悪魔が人間に受肉したと言われても頷ける筈だ。

 

ぐりんと首が曲がって双眼鏡越しに視線がぶつかる。

 

【呪王】がニタァ・・・と口が裂けたような笑みを浮かべた。

 

「遘√?豁灘セ?@縺セ縺」

 

バレた・・・!

 

「おい!撤退s・・・いねぇ!」

 

さっきまでいた筈の小さな狩人は消えて、急いで描き殴られたメモが落ちていた。

 

『足止め』

 

成る程、ぶっつけ本番って訳か・・・!後で依頼人に報連相を怠った罰でお尻ペンペンしてやる・・・!

 

俺は【竜禍喰匣】に指を突っ込んで怨念を変換した聖属性魔力をフルバーストした。

 

周辺の地形が発生している熱で溶けて、呪われた武具の塊に突き進んでいく。

 

呪いの武具と聖属性の相性は最高だ。浄化できた分だけ威力が弱くなる・・・!

 

・・・・・

 

呪いと化した【呪王】は致命的な聖属性の奔流に対し、【呪王】は冷静にカウンターを選択した。

 

そして向かって来る聖属性の奔流を見据え、大砲ではなく体内から一つの弓を取り出して腕と融合させる。

 

【臨機応變 カーテインリィ】

 

【呪王】のとった対応は極めてシンプルだ。

 

“臨終”の名を冠する弓の弦を引き絞り、構えた矢を放つ。

 

それだけで放たれた矢は黒い線となって衝突し、聖属性の魔力を殺す。

 

【臨機応變】の装備スキル、《臨終応射》はカウンターに際して命中した対象を強制的な不活性状態に移行させる。

 

聖属性の性質を不活性状態にされた魔力の奔流はその勢いと性質の一切を停止し、霧散。

 

もし生物に命中した場合、全身の運動エネルギー及び生命力を不活性状態にされて即死していただろう。

 

万物に対して絶大な効果を齎すカウンターを見ても俺は動じず、闇属性の魔力を小刻みに放出していく。

 

【呪王】は弓を体内に収納し、巨砲の照準を合わせて来る。

 

【呪王】は連射された闇属性の魔力に構わず砲弾を発射。

 

俺は放たれた音速の砲弾を目で捉えながらも、その場から逃げ出した。

 

【呪王】の邪悪な笑みに不吉な予感を感じた訳ではない。

 

大抵の危険では反応しなくなった《危機察知》が、大砲を向けられた時点で激しいアラートを鳴らし始めたからだ。

 

《幾何学的砲撃》

 

着弾。

 

思ったよりも爆発音等の発生は無かった。

 

しかし、着弾地点が石も地面も草も纏めてぐちゃぐちゃに攪拌されて、不自然な状態に固定化されている。

 

着弾地点に触ってみたが壊れない。破壊不能オブジェクトに似た感触。

 

俺が不死性任せに受け止めていたら・・・

 

ーーー地面と撹拌されて融合した状態に成り果てていただろう。

 

思わず冷や汗が流れる。

 

危ねぇーー!!何アレ!?

 

当て付けか?以前破壊不能オブジェクトの樹で擦り潰した俺への返礼なのか!?

 

・・・危うくコロシテと呟く猟奇的なオブジェクトになる所だった。

 

コスト的に考えて破壊不能オブジェクト化は一時的な物だろうが、戦闘中に拘束するなら充分すぎるだろう。

 

というか破壊不能オブジェクト化が解けた瞬間大抵が死ぬと思うが。生き物は地面と融合されて生きる事は出来ない。

 

俺は全身がバラバラになって体内に異物混入どころか、溶液に希釈されても生きていられるから必殺にはなり得ないが、致命的にはなる。

 

特に、何が出来るのか全く分からない【呪王】にとっては。

 

バカスカ砲撃して来るが純竜を破裂させた威力重視に切り替えたようで、一気に周囲の情景が戦争の様相に変えられていく。

 

距離を取り続けるか、不利を覚悟で接近するか。以前のように《夢幻黒森》の質量で擦り潰せるようなタマでは無いのは明らか。

 

【呪王】は尋常ならざる速さで距離を詰めている。接敵まであまり時間は無い。

 

・・・『足止め』。

 

殺しても殺せない奴を殺せる自信があるって事か?

 

依頼人放っぽいて勝手に覚悟完了してんじゃねーよ。第一、俺は◯スタじゃねぇ。

 

・・・だが、また狂人の死に際の顔を拝んでおくのも悪くはない。それにこっちの依頼もあるんでな。

 

俺は【怨霊のクリスタル】を踏み砕いた。

 

クリスタルに蓄積された大量の怨念が解放されて【竜禍喰匣】に吸い込まれていく。

 

【もかでぃあ】が意図を汲んで《竜王気》を発動させる。

 

更に精製された風属性の魔力を《竜王気》に混ぜて気体の鎧を形成した。

 

圧縮された気体の鎧は地属性の鎧に防御力で劣るが、風圧によって接触させないという性質において優れている。

 

遠距離砲撃から近接戦闘に移行した狂人が取り回しが悪い巨砲を体内に収納して投擲斧を取り出す。

 

とても良く見覚えのある斧。アレは確か【石化】の・・・

 

「《繝舌ャ繝峨?繝?ぅ繝?Μ繧ェ繝ャ繝シ繧キ繝ァ繝ウ》」

 

【呪王】の出力がバグって意味不明の言語の羅列と化したスキル宣言の直後。

 

突然、投擲斧から感じられる呪いの気配が変化した。

 

より刺々しく、触れるもの全てを傷付ける深い呪いの気配。切った空気さえ【石化】させているのかボロボロと石が刃の接触面から落ちて、常に風が吹き込む。

 

狂人のエンブリオは常に強化し続けるタイプだった筈だ。進化で新たに獲得したか・・・

 

ーーー【呪王】の強化スキル。

 

・・・・・

 

【呪王】の固有スキルは最終奥義を含めた3つ。

 

一つは《レゾナンス・オブ・カース》という呪われた武具のデメリットの何割かを、敵対者へのデバフに変化させる変則的な耐性スキル。

 

デバフに変化させる状態異常の強度によって割合は上下する。

 

そして、《バッドネス・デトリオレーション》という呪われた武具の最終発揮値に補正をかける強化スキルだ。

 

武器としての性能を強化する効果もあるが、それは副次的なものに過ぎない。呪われた武具を対象として発動される以上、その根幹たる呪いこそ本懐。

 

己の敵対者に掛ける呪いをより強く、悪質に。

 

呪われた武具を強化するエンブリオと【呪王】によって強化された【石化】は、不可逆的な変化を対象に齎すようになる。つまり、【石化】の治癒の超難化。

 

切断面から全身を【石化】していく《石呪の斬痕》とのシナジーは凶悪としか言いようがない。

 

空気も【石化】させている投擲斧を警戒して回避しているが、一発でも喰らったらアウトな切迫した感覚は久しぶりだ。

 

自分に届く程ステータスがここまで高い手合いも。

 

強化された装備補正によってステータスが強化されているのか、俺のステータスに追随して来ている。装備強化に特化したエンブリオの面目躍如といったところか。

 

流石に全ステータスを俺並まで上げるとはいかないのか、AGI補正のみを選んで融合しているようで、ENDやSTRは俺には及ばない。

 

しかしそれで十分だった。僅かに切り傷がつけられたなら。ENDもSTRも必要ない。

 

俺は至近距離で【竜禍喰匣】の闇属性魔力を放出。足や関節といった継戦に影響が出る器官を狙っているが、以前よりも高性能な《危機察知》で回避され続けている。

 

接近戦が出来ない以上、ダメージソースは闇属性に集中している。

 

生物以外に干渉できない闇属性ならば物理的な切断は不可能だからだ。

 

ただしこちらも呪われた武具の弱体化は聖属性以外では出来ないので、狂人の弱体化は不可能。

 

更にその他の属性は投擲斧に切断されて次々に【石化】されるから使用出来ない。せめて風属性の風圧で吹き飛ばせたら一方的に攻撃できるのだが。

 

戦況は膠着。有効な手段の乏しさと一撃の脅威が桁違いな事もあって、お互いに回避し合う地味な光景が繰り広げられた。

 

《危機察知》で投擲斧を回避しているが、ここ最近は一方的な蹂躙ばかりで実力が拮抗した場合の白兵戦の勘が鈍ったか。

 

狂人が体内に収納していた【臨機応變】によるカウンタースナイプを囮に《危機察知》の反応対象を増やした。

 

注意を逸らされて動きが僅かに鈍った俺に向けて投擲斧を投げつける。

 

【石化】した空気を撒き散らして回転する投擲斧が、回避し損ねた《竜王気》を僅かに切り裂いた。

 

切断面の発生という条件を満たした《石呪の斬痕》が発動する。

 

ピシリと不吉な音が鳴った。

 

・・・魔法抵抗が高い筈の《竜王気》の一部が、【石化】していた。

 

【石化】が広がる《竜王気》は俺が操作出来なくなった。【極毒】を試しに受けてみた時の感覚に似ている。

 

【石化】の活動不可を覆してデメリットを相殺する《窮鼠精命》が、強化された【石化】に力負けしている証拠だった。

 

これはとあるVRMMOの物語、

A.一つに特化したシンプルなパワーで圧殺する。

子供の教育方針はどれにする?

  • 蠱毒にぶち込む
  • 普通の子供のように育てる
  • 子供の為だけの揺籠()で育てる
  • 放任主義。子供は勝手に育つ
  • 帝王に愛など要らぬ!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。