トキメキ

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20キロを超えた荷物を抱え東京へ来て3日。


これまでも自分の順応性の高さに驚きながら生きてきたが、2日前にはなにもなかったマンスリーの一室を「いや〜もうこっちきて2ヶ月もなるのにまだキャリー片付けられてなくて〜!すみません、はっはっはっ!」感のある部屋にまで進化させた。

住めば都というけれど、都にする努力も必要だ。1ヶ月後には処分するのだから、シャンプーもトリートメントもドラッグストアにしては高めのものを買った。なるだけぴったり1ヶ月でなくなるように、いつもよりプッシュは多めで使っている。ボディソープは泡で出てくるし、ティッシュは1個売りのカシミヤ。もったいないからと言い訳しながら、贅沢をして都を作っているのだ。

街に対してだけは順応が遅く、乗り換えに迷ったり、買い出しにハシゴしたり、諦めて歩いたりしているうちに、昨日と今日の平均歩数は1.7万歩。これだけあらゆる機能が発展しているはずの東京なのに、一部分だけ健康的な暮らしを送っている。


過去にも二度東京へ滞在する期間があったものの、そういえばその時はどちらもコンサートが合間にあり、なんだかんだで福岡と行き来していたのだと気づいたのは出発の直前。丸々1ヶ月東京で暮らすというのは、意外と初めてのことだった。


6/29からシアターサンモールで上演するミュージカル「雫の星語り~Only God Knows~」は、5月の頭から稽古が始まっている。その前の顔合わせとほぼ初回の1幕本読みには参加できたものの、それ以降はどっぷりと違う作品を作っていた私は、本番の幕が上がってようやく余裕を持って稽古映像を見始めた。

今回ダブルキャストで相方とも言える逆班の秋野祐香ちゃんがすべての稽古に入ってくれていた。彼女の声、仕草、ひとつひとつがシズクとしてすでに存在していて、果たしてここから追いつけるのだろうかと、正直今でも不安なのだが、それ以上につい動画を止めて天を仰いだ瞬間があった。めちゃくちゃ踊っていたのだ。


ミュージカルなのだから当たり前に歌と芝居とダンスがあるわけなのだが、今回は比較的巻き込まれる役柄なこともあり、そんなに踊らないと思っていたのだが、そんな予想をはるかに超え、しっかりと踊っていた。


ここで誤解がないように言っておきたいのだが、私は決して踊ることが嫌いなわけじゃない。むしろ好きなのだ。こう見えて2歳からずっとダンスを習っていた。と、いうと先輩である今村麻莉愛さんは「(松岡)はなちゃんよりも長いの」と爆笑するのだが、そうなのだ。恐ろしく向上心のない子供は、代わりにただただ楽しくて踊っていたのだった。

それがいま仕事になり、経歴などただの数字だということを自ら証明した私は、踊ることは心から好きだが自信は全くない。むしろ、踊りを見られることは少しだけ苦手だとすら思ったりする、のだけれど。その思わず天を仰いだナンバーは、かつて私が通っていたところで踊っていたようなジャンルに近く、血が騒ぐものだった。



私が習っていたのはジャズダンスで、園児から小学生と幅広いキッズクラスからはじまり、明確な区分はないものの大体中学生くらいから大人クラスになる。こちらにはキッズクラスの親世代もいて、いま思えばあの空気は親戚とか大家族とか、そういうものに近かった気がする。いつもは地域の祭りに出たり、地域のホールで踊ったりするのだが、2年に一度大きな発表会がある。大きなホールを借りて、2部に分かれての発表会。いろんな人がいろんな曲を踊る。衣装もメイクもさまざま。そしてなによりそこには、お姉さんクラスのみんなも出るのだ。


別の曜日に別の教室で行われているお姉さんクラスは、いわゆる社会人クラスで、おそらく年齢もいまの私くらいかその前後だったのだと思うけれども、当時の私にとってはかっこいい大人たちだった。お姉さんたちのダンス、そしてそこに先生も加わって踊る曲はどれも美しく、かっこよく、セクシーで、おしゃれだった。衣装はただの服じゃなく、ひらひらと舞い、空気も動かすようなそんなミューズたちだったのだ。そんな姿を思い出して、これから向かうナンバーに勇気を持つためにも、当時の映像を引っ張り出して見てみた。

すると驚くことに、改めて見ると、正直そんなに上手いわけではないのだ。いや、もちろん、上手いのだけれど、スキルがずば抜けてあるとか、揃っているとか、そういうものはなかった。衝撃だった。だけれど、がっかりすることもなかった。なぜならば、気迫や、感情がそこに確かに存在して、改めて自分の出自を知ったような、そんな感覚があったからだった。



そんなわけで、私は久しぶりに、当社比ではあるがしっかりとジャズダンスを踊る。それにあたり、一足の靴を買った。

普段はスニーカーでレッスンやリハーサルをしているが、昔は違った。それを思い出し、大きな買い物をした。


子どもの頃、母に連れられて半年に一度ほど行っていたのは福岡・大名にある路面店。そこには小さなバレエシューズが並んでいる。チャコットだ。指定されていたわけではないが、私の通う教室では大体みんなバレエシューズを履いていた。

だが、大人クラスになるとみんな、足を全て覆うタイプのジャズシューズに変わる。それが大人になった証のように思っていた。そして、その中でも先生の履いているジャズスニーカーは特別かっこよかった。床と土踏まずの間の隙間が美しく、いつかあれを履きたいと思いながらも、体育館シューズで事足りた中学生の終わり頃から、私はあまり通わなくなってしまった。



だから、いま、あの靴を買おう。

そう決めて記憶をたどり向かった路面店はつい最近移転したそうだ。なんとも言えない寂しさを抱えながら阪急へ行くと、明らかに場違いな気のするそこに少々怖気付く。路面店だとなおさらだったのではないだろうかと、小さくなったり壊れたりするたびに連れて行ってくれた母の愛情に今更ながら感謝した。

おどおどしながらも試着させてもらったジャズシューズは、軽くフィットし、柔らかく動き、一気に私をあの頃へと戻した。決して安くはない買い物だった。でも、はやく踊りたくてたまらないと思ったのも事実だった。誰がなんと言おうと、どう評価しようと、私は踊ることが好きだったのだと、ちゃんと気づけたのだ。


まだ肝心のそのナンバーは迎えていない。だが、稽古場は同じようなスニーカーで溢れていた。ミュージカルの現場ではほとんどの人がジャズシューズだ。私は今そんなところにいるのだと、身が引き締まる。

不安も普段も正直大きい。けれど足元を見るたびに、幼い頃の私が奮い立たせる。今までだって、なんとかしてきたからここに居るのだ。そう、思わせてくれるのは、あの頃があったからなのだ。



そしてあの頃というともうひとつ話がある。先ほど見たと言った発表会の映像は確か2006年ごろのものなのだが、今日新宿を歩いているとその時の衣装とそっくりなものたちがずらりと並んでいた。あれはまさしく2000年代ファッション、いわゆるY2Kだったのである。ピッタリとした短めのキャミやタンクトップに腰履きのジーンズ、ゴツメのチェーンに迷彩のミニスカート、すべてが本物だった。当時からそんなお姉様方に憧れていたのだから、本当に私は生粋の平成女児なのだ。


このY2Kブームの中でもトップレベルのアツい出来事は、なんといってもナルミヤキャラクターズの復活だ。と言っても当時の私はそんな名前であることも知らず、ただただナルミヤの服、特にメゾピアノが大好きだった。今考えると本当に不思議なのだが、なぜか私の地元にお店があって、エンジェルブルー、デイジーラバーズと並んだそこに、祖父母と姉と4人でよく行っていた。もちろんいつも買ってもらえるわけではないのだが、その空間に行くだけで幸せな気持ちになったのだ。


今日、1日限定で開催されていたナルミヤキャラクターズのポップアップに姉に誘われて行ってきた。エスカレーターを上がったちょうど一角にあったそれが、幼い頃の記憶とよく似ていた。


保育園の発表会、小学校の入学式、お祭り、少し遠いお出かけ、全部メゾピアノだった。ランドセルもメゾピアノなくらいメゾピアノが大好きだった幼馴染とお揃いのリコーダー入れと、誕生日にもらったキラキラの下敷き、はじめて持った財布。思い出がいっぱい詰まっている。


ブルーやグレーの似合うおねえさんになりたかった私はそこからポンポネットも好きになった。エンジェルブルー は姉のもののような気がしていたけれど大好きだったし、旅行に行く時に買ってもらったデイジーラヴァーズのワンショルダーバッグは、それこそダンスに行く時にいつも使っていた。フロントに携帯が入れられるのだ。最高にクールだった。


そしてなにより、ポップアップストアの一角に香水が置いてあった。使っていいですよと言われ、一振りすると、完全に20歳若返った。その昔、ちゃおについていた広告の香りだとちゃんと身体が覚えていたからだ。

きっとそれって簡単なことじゃない。幼くも本当に好きじゃなければ、いやむしろ幼いからこそ本当に好きじゃなければすぐに忘れるそれを、だけどその幼いからこそ嘘のない好きを、いまに至るまで作り続けていることが、本当にすごいのだ。

メッセージをぜひと言われ書いている途中、お店の方と少しお話しさせていただいた。家族の思い出のどこかしこにナルミヤがあること、今でもどこにリボンがあったかだって覚えていること、あの頃のトキメキが今をつくっていること。伝えられる大人になれてよかった。

リボンもフリルも苺も好きなこと、今ではすっかり秘めてしまっているが、その始まりはどれもこれもあの一角。もう二度とあそこへ行くことは叶わないけど、もう一度、あのトキメキを味わえている。未来も捨てたもんじゃない。




この刺激の多い街で、もうしばらく激動の数週間を送る。

きっといろんなことがあるのだろうけど、

足元の魔法と、胸のトキメキを御守りに、

私は明日も歩く。

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