これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

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永遠の約束

誰か肉塊よりも先にアイツをなんとかしてくれ・・・!

 

あの馬鹿はこの夢幻世界だったら誰も巻き込まないから安心という謎理論でバイクのエンブリオを紋章から実体化させ、俺と肉塊と質量キューブをものともせずに飛び回っている。

 

爆破すら熱が伝わる前に突っ切るストロングスタイルで空を切り、肉塊の咀嚼よりも早く肉塊に風穴を空け、宙を舞う質量キューブを破壊し、俺の右腕を吹き飛ばしやがった。

 

コイツの頭にはフレンドリーファイアの考慮というものがないに違いない。

 

というか肉塊を討伐する様子もなくただブレーキが取っ払われたバイクで空間内を超音速暴走しているので危険極まりない。

 

アレは生粋のスピード狂で走り屋だ。汚い叫び声を上げながら非常に楽しそうだということが超音速で表情が捉えられなくてもわかる。

 

だが俺がギリギリで回避していなかったら俺の頭部が真っ赤なトマトのように破裂していただろう。

 

俺はもう諦めて肉塊ごと爆破しているのだが、無駄に高い耐久と速度で突っ切られている。

 

だから俺は俺よりも高いAGIのバイクを警戒しながら早くカーソンが解析し終わらないか待っているのだ。

 

気絶している時見捨てていればこんな面倒にならなかったのによぉ!

 

いっそ肉塊よりも殺意が湧いてきた。気分を萎えさせる呆れも燃え盛る怒りの前には消し飛んでいくのを感じる。

 

肉塊も肉塊で消耗が少ない再生能力がウザったらしく、なんでか知らないが多種多様の属性ブレスを吐いてくる。

 

しかもブレスの発射口を増やすおまけ付きで。

 

本当に何を食ったんだお前は。

 

肉塊が道草で食ったのは絶対メタルなスライムではないという事を俺は確信した。

 

特に闇属性のブレスはダメだな。あれは壁を透過して来るので回避しかない。

 

あとなんでアンデットのお前に聖属性のブレスが使えるのか非常に問い詰めてやりたい。お前は俺と同じ浄化される側だろうが。

 

聖属性のブレスは正面から紙のように怨念の壁をぶち抜いてくる上に、《ネクロボディ》の再生力にデバフが掛かる。

 

聖属性ブレスは闇属性ブレス以上にウザい。というか妬ましい。俺も神聖なる聖属性を使いてぇな。

 

開拓家系統のジョブを消すと決めた以上カルマ値が下がりまくりそうなジョブ構成になる事が確定している俺だが、偶には王道の冒険というものをしてみたいものだ。

 

つまりイメージアップだ。聖属性というのはどう見ても邪悪な肉塊の竜が使って良い属性ではないと思う。

 

お前は聖女系ヒロインに浄化されるラスボス枠の悪竜に決まってんだろうが。

 

それはどちらかっつーと俺が使うべき属性なんじゃねーか?俺は主人公様ぞ?

 

俺だって辻ヒーラーで初心者に手助けしてチヤホヤされたい。特にきれいな女性だとなお良い。むさ苦しい男は死ね。

 

つまり、俺はアイツの特典武具が欲しい。アンデットでも聖属性を使ったって良いじゃない、というのが実情であり、いい加減マイナスを突っ切る俺のカルマ値をプラスじゃなくても良いので中立あたりまで引き上げてやりたいのだ。

 

行動を開始する人間に手遅れなどないというのが俺の支持する持論であり、秩序側の味方につくのは【死霊王】で裏社会で上層部の地位を持っていても手遅れなどではないのだ。

 

俺は聖人君子ではないということは知っているが、本心は心優しい好青年であると言うことを知っている。多少ツンデレのツンが悪寄りに行き過ぎてしまうのもアイデンティティの内。

 

俺は秩序と裏社会の両方の架け橋になるんだ。◯ルトがサ◯ケと和解したようにな。

 

そして橋の利用料として良心的な仲介料を俺が貰う。みんなが幸せになれるハッピーエンドだぜ。

 

・・・だからその踏み台としてこのUBMの討伐MVPになる必要がある。

 

決してぽっと出の乱入者にMVPを取られてはならない千載一遇の機会であるという事を俺は熟知しており、

 

ーーー小数点並みの可能性でも摘む必要があるという事を結論づけていた。

 

【死霊王】の本気が光る。

 

俺はアイテムボックスから放出した蝗の群に起爆符を持たせて分散させた。

 

同時に夢幻世界の空中に幾つも壁兼目隠しのキューブを浮かべて蝗の分散を手伝う。

 

肉塊のブレスと暴走バイクによって幾つかの蝗が爆発するが、全体のごく一部に過ぎない。

 

そして、キューブで肉塊ごと暴走する馬鹿を包囲すると、一斉に起爆符を起動した。

 

超音速の凶器であるバイクは当然のように破壊の乱流を貫き、包囲する質量キューブを破壊して包囲網を破るが、それも想定内。

 

ーーーそして《術符作成》で符に込められた【死霊王】の状態異常魔法が起爆符の包囲網をさらに覆う形で発動した。

 

《フォースド・ヒューマン・ピラー》。【拘束】【呪縛】【衰弱】の状態異常を発生させて呪いの生贄である人柱に仕立てる呪いだ。

 

下級職の上限であるLV5の《術符作成》では【高位霊術師】の奥義は劣化したとしても込めることは出来た。

 

しかし【死霊王】の状態異常魔法は《術符作成》のレベル不足で込められなかった。

 

下級職では超級職の魔法スキルを込めるのは力不足だった。

 

ーーーだから【符】を《カース・オブジェクト・クリエイション》で呪って強化してから込めた。

 

呪いのデメリットを【符】に課す事で【符】の魔法スキル封入難易度を緩和。

 

代償に生命力の徴収がついたがSPによる回復で十分賄える。いずれは【黒龍道士】になって《術符作成》をLV8まで上げられれば解決するだろう。

 

悪く思うなよ。お前も先に俺の右腕を吹っ飛ばしたからこれで恨みっこなしだぜ。

 

そして地面に転がる馬鹿を目標に【死霊王】の状態異常魔法を発動させる。

 

【猛毒】【劣化】【麻痺】【呪詛】【酩酊】【脱力】【死呪宣告】etc・・・これらはあの生贄を殺す為の状態異常では無い。

 

対象の罹患している状態異常の数だけ威力を上げる【死霊王】の最大の呪術《ファンデーション・シンドローム》の為の事前準備だ。

 

効果はシンプル。対象を対象が罹患した状態異常を範囲内に撒き散らす呪いの基点に設定する。

 

罹患している状態異常を他者に掛けると言う点で同じである《同病哀葬》と違う点は、キチンと第三者側に状態異常の抵抗が発生すること、そして状態異常の数だけ多段的に抵抗判定が行われて、一つでも抵抗に失敗した場合には抵抗判定を成功させた状態異常も罹患させる。

 

【死霊王】の状態異常魔法を考慮して最終的な発揮値を考えると《同病哀葬》より上にはなるな。《窮鼠精命》でカロリーも使わないし、何より状態異常の系統縛りが無い。

 

この状態で【即死】を付与したらどうなるのか気になるが、【死兵】でも無ければ【即死】をばら撒く前に生贄が死ぬ。つまり生贄に罹患させる状態異常の威力の上限はあると言う事だ。

 

生贄は生かさず殺さずの塩梅が良い。そう考えると【即死】よりも長くばら撒ける【死呪宣告】が一番だな。

 

ーーーそして【死霊王】の最大の呪術は生贄を基点にする前に肉塊にプチッと踏み潰された事で阻止された。

 

・・・ミスったな。俺とした事が、生贄の撃墜地点と肉塊の距離が近すぎたか。

 

さて、どうしようかね。状態異常の基点と攻略の足掛かりが潰されてしまった。割と物理的に。

 

あとさっきから溜め込んでいる全力投球の聖属性のブレスをなんとかしなければ。あれは俺でも喰らったら不味い。いや、俺だからこそ非常に不味い。

 

【大死霊】よりもアンデットに成り果てた【死霊王】が、あの規模の聖属性のブレスを喰らったら一巻の終わりだ。

 

俺は残りの起爆符を全て放出して質量キューブも総動員して壁にするが、一時凌ぎだ。最悪なことに聖属性のブレスの発射口が複数あるせいで左右に逃げることが出来ない。

 

聖属性の発生した熱量が質量キューブを焼き溶かし、無数の起爆符の爆風の壁もブレスは一直線に突き進む。

 

これは・・・久しぶりに、詰んだか。ブレスの基本性能が高すぎるな。

 

せめてカーソンが。・・・いや、俺の慢心

 

久しく聞いていなかった声が聞こえた。

 

ーーー主様が一番に頼る相手はワシなのじゃろう?

 

聖属性のブレスが目の前まで迫っている。確実なデスペナルティになるのはあと少しで、それよりもやるべきことを見つけたから、

 

その今起きている全てが

 

俺にとってどうでも良いことに成り下がった。

 

ーーー・・・そうだったな。俺はいつもカーソンに頼ってたよ。

 

邪悪を滅ぼす聖なる光が【死霊王】を覆った。

 

・・・・・

 

聖属性のブレスが肉竜の前方全てを薙ぎ払った。

 

副次的に発生した熱で煙が上がり、揺らめく陽炎が立ち昇る。

 

聖属性のブレスは肉竜の前方方向の全てを破壊していた。あの創造主にして仇敵の【死霊王】でさえアンデットの聖属性に対する脆弱性から逃れることは出来ない。

 

かつて【怨霊のクリスタル】だったものは、肉竜は、【ピリア=ネイコス】と命名された肉塊は、己が食らって全てを奪った竜のように咆哮を上げた。

 

創造主の体ですら盗み取り、哀れな竜の全てを奪った怪物は燃えたぎる怨念に突き動かされる。

 

生まれた理由である使命は果たした。あとは生きているもの、全てを喰らって殺して奪い、己がものにしてやる。

 

まずはこのレジェンダリアの強者の全てを奪ってからーーー!?

 

そして信じ難いものを見た。

 

聖なる破壊の跡地に人型の何かが立っている。

 

そして人型の何かからアンデットである己が恐れるものを感じる。

 

聖属性。

 

しかし、あり得ない。

 

今この世界でいるのは奴と己しか居なかった。奇妙な絡繰に乗った煩い小蝿は潰し、他の誰もいない筈だった。

 

だったら何故立っている?何故アンデットである創造主が聖属性の反応を示している!?

 

ーーーかつて【怨霊のクリスタル】だったものは知らなかった。

 

創造主の片割れが姿形は無くとも常に左手にいた事を。

 

ーーー肉竜は知らなかった。

 

己が創造主の知り得る情報は【アノン・セミリビング・ボディ】時の戦闘と拘束されかけて逃げた時、そして【ピリア=ネイコス】として仇敵を討つ戦いでしか得ていない、非常に偏ったものである事を。

 

ーーー【死源竜肉 ピリア=ネイコス】は知らなかった。

 

創造主の全力とは創造主の片割れが揃った時のみにしか発揮されないという事を。

 

そして【死霊王】は忘れていて【星浄巫蠱】は知っていた。

 

新しい未解放スキルはアンデットの克服であるという事を。

 

黒く覆われていた未解放スキルの名は《星天使徒・双極》。

 

それはカーソンの種族である『天使』から発展した力。

 

邪悪なアンデットと聖なる天使は混ざり合い、白と黒の太極図のようにピッタリと嵌り合う。

 

効果は種族特性のデメリットの消去。そして種族特性のメリットの強化。

 

アンデットの被聖属性特攻を消去。天使の聖属性耐性を強化。

 

アンデットの再生力の強化。天使の回復力の強化。

 

短所を補い、長所を伸ばして共鳴し合う。

 

それが彼と彼女の望む関係を表しているから。

 

だから、はっきり言って負ける気がしねーな、って事だ。

 

俺は上乗せされたカーソンのステータスを駆使して駆け出し、【ピリア=ネイコス】の頰面を殴り飛ばした。

 

スキルによって発現した聖属性エネルギーを込めた【死霊王】の拳は【ピリア=ネイコス】の肉を浄化して一片の肉片も残さず、瞬時に竜の頭部が消し飛ぶ。

 

直ぐ近くに生成していた発射口から火属性のブレスがゼロ距離噴射されたが、怨念の壁で完璧に熱をシャットダウン。

 

【もかでぃあ】が練り上げた《竜王気》にカーソンの聖属性エネルギーを混ぜ込み、【ピリア=ネイコス】を一撃で消し飛ばす聖なるオーラを纏う。

 

ーーーそしてアンデットの本能に従って【ピリア=ネイコス】は最も己が必殺とする切り札を切った。

 

すなわち、全属性収束ブレス《結離死源現象・エンペドクレス》の発動。

 

【虹才光輝 アルケー】から奪い取った全属性の適正と必殺スキルの全てを。

 

相反する属性の対消滅から発生する純粋なエネルギーは進行方向に何があろうと消しとばし、夢幻世界を崩壊させ、己の肉体の大部分を発射の反動の犠牲にして放つ肉竜の咆哮。

 

本来なら自滅にもなり得る切り札をノータイムで切ったのはそのリスクさえも上回る脅威が現れたから。

 

全てが終わった時の結末はどうなるのか【死霊王】から再生の不死を盗み取った【ピリア=ネイコス】でさえ部が悪い賭けになる。

 

だが目の前の最大の障害を破壊せずして己の存続は絶える。消えてしまう。折角【怨霊のクリスタル】からここまで至ったのに。

 

燃え盛る怨念が言っている。壊せ、殺せ、消せ、砕け。我等が憎悪を討て、と。

 

止まらない。止める事はない。確実に、ここで、今。奴を殺す。殺さなければならない。

 

己が存在理由を果たす為に、奪い盗み喰らった全てを賭けて殺す。

 

大きく広げられた竜の口腔に浮かぶ極彩色の光球は恒星の如き存在感を発する純白の珠へと純化され、制御から離れたエネルギーが自らを撃つ。

 

そしてーーー今【ピリア=ネイコス】の上半身から下半身に至るまでを消しとばした純白の光の柱は放たれ、消滅の光を前に俺は呟いた。

 

ーーー《メッセンジャー・アポートシス》《天上天下唯我独尊》

 

音速の壁をぶち抜いて放たれた異形の聖拳はルンバの目の前の空間に入口となる黒い穴を開けて、

 

ーーー出口となる黒い穴が尻尾だけになった【ピリア=ネイコス】の頭上に開いた。

 

俺は《天上天下唯我独尊》の力で目の前の空間と【ピリア=ネイコス】の頭上までの空間の間を破壊し、空間と空間を無理矢理繋げる黒穴を空けた。

 

お前はお前が奪ったもので死ね。外道には外道の決着がお似合いだぜ?

 

すなわち、自らが放ったブレスによる自滅。

 

相手の嫌がる事は積極的に。戦闘の基本だ。

 

俺の前に空いた黒い穴が軋みを上げながら白い柱を飲み込み、逃げ出そうとする【ピリア=ネイコス】の頭上の黒い穴から白い柱が天罰のように降り注ぐ。

 

【ピリア=ネイコス】の上半身と下半身を反動で消しとばした白い柱は【ピリア=ネイコス】の残滓をいっぺんも残さずに分解して消しとばし、何もない空間だけが残った。

 

<UBM>【死源竜肉 ピリア=ネイコス】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【ルン・バ・ンル】がMVPに選出されました】 

【【ルン・バ・ンル】にMVP特典【四源竜素 ピリア=ネイコス】を贈与します】

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

「カーソン。」

 

「なんじゃ?」

 

「いつもありがとうな。」

 

「ふふふ。おんしはワシがいなくてはダメだったであろう?」

 

「まぁ、そうだな・・・カーソンの力が無かったら絶対に無理だった。」

 

「だから、これからも俺専属の相棒として隣にいてほしい。やはり俺にはカーソンが必要だ。」

 

「承った。主様がいつかこの世界から消えてしまうまで」

 

「ワシがおんしのそばに、その時が来るまで居続けよう。約束じゃ。」

 

「・・・あぁ。助かる。」

 

子供の教育方針はどれにする?

  • 蠱毒にぶち込む
  • 普通の子供のように育てる
  • 子供の為だけの揺籠()で育てる
  • 放任主義。子供は勝手に育つ
  • 帝王に愛など要らぬ!!

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