異議申し立てとしての犯罪
保護司を殺害した事件。加害者の飯塚紘平容疑者は滋賀県大津市仰木の里4丁目が住所である。2019年に彼はセブンイレブン大津仰木の里店にナイフを持って2万円を強盗した。あらためて地図で確認すると、とても近い。わざわざ自宅近くのコンビニで強盗をしているのである。一部報道によれば、面接に落とされた逆恨みという説もあるが、そこは判然としない。だが、本当に金目当ての強盗であれば、近所ではやらないだろう。これは彼なりの恨みの表現に思える。あくまで彼としては、異議申し立てのために近所のコンビニを訪れナイフを突きつけたのであり、強盗は強盗だが、本人にとってはデモンストレーションである。この強盗事件について、保護司の人が悪事を反省する態度を求めていたのであれば、かなり認識の齟齬がありそうである。本人としては抗議活動のつもりだっただろうし、ありふれたコンビニ強盗と同列に扱われるのは、納得がいかなかったに違いない。普通のコンビニ強盗でも、社会から疎外された人がやるのであろうし、どんな犯罪でも社会的孤立や疎外感は背景にあるだろうが、やはり彼の強盗については、疎外感の表現という側面が非常に強かったと思われる。本人の主観としては、社会に抗議するために強盗をしたのであるから、その思想性を理解されないことで、さらに孤立が深まったのである。今回の保護司の殺害についても、執行猶予五年があと一ヶ月か二ヶ月で終わるというタイミングでの殺人であるから、ずいぶんわざわざご丁寧に、という印象を受ける。そろそろ執行猶予が終わるからこそ殺害したのだと思うし、彼としては抗議活動なのである。どこに行っても他人と馴染めないのであるし、多数派と少数派のどちらが悪いのか知らないが、彼は迫害された人生を生きていた。ごく普通にアスペルガー症候群など自閉傾向もある感じだし、ヤンキーがワルをやり尽くしておとなしくなるプロセスとは様相が異なる。彼はワルではないだろうし、大真面目にコンビニ強盗や保護司殺人をしたと思うから、ただの善悪ではなく、自閉性を巡る問題として捉える必要がある。自閉は治らないから「昔はワルだった」という物語に落とし込めないし、更生もしないのである。更生しない人を更生させようとした悲劇に見える。