これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

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創造主への反逆

最近レジェンダリアの森で不審な肉塊の目撃情報が多発しているのはなんで?

 

っていうか動き回っている肉塊の時点で既に不審物なんだが。なんで不審な肉塊って言ってたの?

 

ともかく、あの俺のパチモンはいまだに生きて?いるようだ。

 

おっかしーなぁ。確かにあの規模に爆発が起きたっていう事は奴の保有している怨念を吹き飛ばしたって事なんだが。

 

なんらかの固有スキルか?自身の内側の爆破から生存していたとなると、かなり性能が良いな。

 

俺のような、

 

・・・【死霊王】。

 

あ。

 

・・・・・。

 

今日は肉塊を狩りに行くか。他の誰かに関与がバレる前に。(証拠隠滅)

 

新種だからそういう種族的な特徴かと思われる可能性は高いが、奴の保有する怨念と【死霊王】を結びつけられては不味い。

 

!(突然のエクスクラメーションマーク)

 

待てよ・・・いっそのことジュエルに閉じ込めて研究室送りにしてやろうか。

 

それなら俺は証拠隠滅できて幸せ、研究員はデータがとれて幸せ、レジェンダリアの住人は怪物が居なくなって幸せ、みんなが幸せになれる唯一の方法では無いだろうか。

 

俺は目を$マークにして肉塊が生み出す価値について査定し、頭の中でチャリーンと効果音が鳴った。

 

大判小判ザックザクの金の気配がする。これは良い商売のネタを見つけちまったなぁ・・・!!

 

俺は酒を飲んでる場合じゃねぇと森に向かって駆け出した。

 

アイツは俺の金蔓だ。他の誰にも渡さねぇ!

 

という訳で俺は怨念を森中にばら撒いた。森を吹き飛ばすテロ計画の前段階では無い。

 

剥き出しの魂が溶けないように、俺を中心にするほど僅かに濃度を濃くして。

 

アイツは肉塊で生物のように生きているように見えるが、本質的には怨念で稼働するアンデッド。つまり絶対に怨念に引き寄せられてくる。

 

この広い森を捜索するのはハッキリ言って無理だ。

 

だったら向こうから来てもらわにゃあならんよなぁ?

 

・・・そして獲物が引っ掛かったようだ。怨念が敢えて弱くしている俺の制御から離れた。

 

制御から離れる怨念がどんどんこちら側に寄ってきたようだ。

 

今度は《デッドリー・エクスプロード》で吹き飛ばしたりはしない。今回の目的は飽くまでも捕獲。

 

だったら生存能力が強くても補足が難しくなるような爆破は避けた方がいい。

 

俺は拡散していた怨念を【怨霊のクリスタル】に戻した。

 

この距離なら、もう俺を認識した筈だ。怨念の撒き餌はもう必要ない。

 

アイツの行動原理は俺の殺害、肉体の補完、アンデットの本能の順だろう。

 

アイツはモンスターのドロップアイテムを喰っていたし、こうして怨念に誘き寄せられた。

 

だがアレの発生原因は俺への殺意だ。

 

だから、ホラ、やっぱりな。

 

荒々しく樹々を掻き分けて突き進んで来る音が大きくなっていく。

 

そして途切れる。

 

俺は一応警戒しながら近づいていく。音が途切れた場所に向かうと、俺が仕掛けて置いたトラップに引っ掛かった肉塊の姿があった。

 

あの時よりも大きくなっている。大量にモンスターを喰ってきたな。人の形を捨てて体格差で押し切ろうとしてきたか。

 

馬鹿め。俺が生存能力が高いと分かっている怪物を正面から戦うと思ったか。俺も再生能力が高いから知っている。

 

こういうタイプは傷つけるより拘束した方が嫌がるという事を。

 

他人の嫌がる事は積極的に。戦闘の基本だ。

 

肉塊が掛かったトラップはワイヤーの罠。

 

但し、そのワイヤーは純竜級の魔蟲からドロップした糸を千切れにくいように編んだ特注品だ。

 

かつて【猛毒王】が愛用していた拘束用の糸の原材料を【高位罠職人】に持ち込んでワイヤートラップ用に作ってもらったもの。

 

たとえ俺の手を噛みちぎれる口をどこでも作れようが、ワイヤーの保有スキルによるSTRを参照して拘束する【拘束】の状態異常を発生させて仕舞えば、自慢の口を閉ざす事すら出来まいよ。

 

さて、と。

 

取り敢えず強引にテイムするから、死なない程度に削り取りますかね。

 

俺が肉塊に近づいた瞬間、肉塊が爆散した。

 

ベチャベチャベチャ!!と水っぽい音を立てて自爆した肉片があちらこちらにへばりつく。

 

俺は咄嗟に怨念で形成した壁で肉片を防いだが、バラバラになった肉片が脈動して蠢いているところを見ると防いでいて正解だったようだ。

 

しかし、ワイヤーから抜けられてしまった上に拡散している。これではテイムもできる状態ではない。

 

爆散した肉片が広がって神経のように繋がっていく。

 

面倒臭せぇ。これならさっさと状態異常で縛った方が手っ取り早い。

 

俺は【石化錠】を人肌に温めて自身に投与した。

 

《窮鼠精命》と《同病哀葬》を発動させて散らばりながらも繋がった肉塊を【石化】させようとしたが、【石化】した肉塊を切り離されて大部分が土に潜ってしまった。

 

逃げたか。

 

安直に地上を逃げていれば【石化】させていたのだが。これしきで逃げられると思ったか。

 

俺は石化した肉塊を踏み砕いて塵に変え、地面に潜った肉塊の怨念の残滓を辿り追跡していく。

 

肉塊は逃走の先々で遭遇したモンスターを手当たり次第に食らっているようで、進行方向からモンスターの断末魔がいくつも聞こえて来る。

 

更に追跡中の地面に残された肉塊の痕跡が断末魔が聞こえるたびにより大きくなっているのを発見した。

 

不味いな・・・。ストーリーの御約束かよ。

 

どう見ても遭遇時より大きくなっている。だが、俺が来るまでよりも短い間でこんなに成長するものなのか?

 

俺が来るまでこんな成長速度で成長していたのであればもっと巨大なサイズになっていた筈だ。

 

一体逃走中に何を喰ったらこうなった?

 

よっぽどリソースが高い獲物を食べていなければこんなに膨張しない。【メガプランテスト】が膨大な土地のリソースを吸い上げて小さい種から巨大樹まで急成長したように。

 

しかし、アレに強力なドレイン能力があったとは思えない。アレは怨念収集と捕食機能、自爆、あとは【死霊王】の細胞由来の生存能力ぐらいだ。

 

ならば運良く遭遇したメタル系のスライムでも捕まえたか、それとも・・・

 

ーーーリソースを丸々吸収できるUBMを喰ったか。

 

UBMを通常、UBMを問わないモンスターが倒してMVPに選ばれた場合、UBMを構築していたリソースはMVPとなったモンスターのものに変わる。

 

レジェンダリアは〈アクシデントサークル〉で強力なモンスターが現れる事はあるが、それでも放置すれば場合によって超級魔法以上の被害を出す可能性がある。

 

なので召喚、転移問わず早期討伐が推奨されているのだが、今回はもっとヤバい奴が強力なモンスターの早期討伐をやらかしたかもしれん。

 

俺は追跡中に見た激しい戦闘の痕跡を見てそう思わざるを得なかった。

 

強力なモンスターのリソースの移動先が容易に予想できたからだ。

 

そして、追いついた。

 

いや、追いついたのではなく待っていたようだ。

 

ーーー今までの戦闘から俺の殺害を可能と判断できるまで成長したと確信を得たから。

 

待っていたのは肉の壁だった。巨大すぎて【メガプランテスト】同様に近くだと全体が見渡せず壁にしか見えない。

 

そして肉塊はーーー肉の竜になった。

 

肉の竜は猛る。あまねく全ての命を食らって、全ての障害を破壊せんと。

 

【(<UBMユニーク・ボス・モンスター>認定条件をクリアしたモンスターが発生)】

【(履歴に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】

【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】

【(対象を<UBM>に認定)】

【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】

 

【(対象を古代伝説級――【死源竜肉 ピリア=ネイコス】と命名します)】

 

ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”ァ“ァ”ァ“ーーー!!

 

そして汚い悲鳴を上げながら空を切り裂くバイクによって起きた交通事故で、擡げた竜の頭が吹き飛んだ。

 

あ。落ちた。

 

「ブッ!オグエッ!?」

 

衝突事故の衝撃でバイクの搭乗者が投げ出されて汚い声で地面に転がった。

 

かなり痛そうな落ち方だったのだが、首を骨折してデスペナにならないあたり結構頑丈らしい。

 

死にかけの魚のように時折ピクピクと痙攣しながら横たわる姿を見るにそう無事でもなかったようだが。

 

乗ってたバイクも消えているし追突者が何者か気になるところだが今はそれどころじゃない。

 

竜の首断面からブレスの発光らしきものが出ていて、今にも頭がない状態でブレスを吐こうとしているのだから。

 

まぁ、竜の形をとっているだけで肉塊である事は変わらないからブレスも首が捥げた状態でも大丈夫なのだろう。

 

俺は搭乗者を俵担ぎにして怨念の壁を生成した。

 

怨念の防壁が炎のブレスと衝突するが、怨念の物質操作の応用で出来た物理エネルギーの防壁に熱はあまり効果はない。

 

しかし、UBMになったあの肉塊が新しい能力を獲得している事を確認した。火属性や竜なんて全然縁がなさそうな感じだったのだが、今まで喰ったやつにいたのか?

 

こいつは俺の細胞を培養した実績があるのでやっていてもおかしくはない。

 

疑問を他所に熱を持った壁を射出して根性焼きの要領で肉塊の表面を焼く。火を吹いた奴に意味はあるのかと思うだろうが、アンデッドの弱点に炎がある事は変わらない。

 

どうやら火炎ブレスに関する器官以外の炎熱耐性が低いようで焼け爛れた部位を庇うような動きを見せた。そんな動作も生物臭いな。痛覚があるのか。

 

アンデットにしては生物的。更に言うと自然発生型のアンデットにしては随分と知能的だ。

 

普通そんな知能はアンデットには存在しない筈なのだが。もしかしたら俺を模したことで人間規格の脳を生成したのかもしれない。

 

でもあの爆破から生き残ったという事は脳への攻撃は致命傷にならないのか。面倒な。

 

こういう時固定ダメージの攻撃手段が欲しくなるな。しかし俺だけでも解析中のカーソンが出るまでも無く殺せる筈だ。

 

要は肉片でも生き延びて逃げられることを防いでしまえばいいのだから。

 

俺は《夢静風景》でこの場の全てを夢幻世界に誘致した。

 

鈴虫のような静かな音が場違いにも修羅場に広がっていく。

 

奴が力が抜け落ちた様に体勢を崩したことを確認して俺も夢幻世界に入っていった。

 

夢幻世界の中は俺のテリトリー。いくら能力が不詳なUBMだろうとここなら有利に立ち回れる。

 

現実世界で気絶していたバイクの搭乗者も夢幻世界ではハッキリと意識があるようで夢幻世界の空間を興味深そうに見回していた。

 

その間に奴と夢幻世界に生成された質量キューブが圧殺せんと苛烈な衝突を起こしているのだが、肝が据わっている。

 

怪物と質量がぶつかる轟音の中で観光できるのは危機感が足りない気がするが。

 

どう見ても制御出来ていない超高速バイクに乗ろうとするだけの度胸があると見るべきか。

 

「おい。お前は何をしている?」

 

へ?と首を傾げた女の左手には紋章があるのでマスターなのだろうが。大方、あのバイクもエンブリオだろう。

 

「お前は誰で、なんであのUBMと交通事故を起こした?」

 

別のことに気を取られていて質問の意味がわからなかった様子を見かねて質問の内容を変える。

 

んん〜〜?おぉ!と剽軽な仕草で質問を理解した女はビシィ!とポージングを取って言った。

 

「アタシはクロムウェル!理由?だってあの子ブレーキが無いからね!」

 

あれ超音速はあったと思うんだが。

 

「最高速度はね!」

 

ブレーキ、無いのか?

 

「無いよ!」

 

超音速のバイクにブレーキが無いってお前のパーソナルはアホなの?

 

「アタシはアホじゃ無いよ!私のIQは53万ですってやつだね!」

 

それは◯リーザ様の戦闘力でお前の知能指数じゃ無いだろ。

 

「違うよ!あの子の速度は私の知能指数そのものなんだから!」

 

超音速程度じゃAGIは53万に届いてすらないだろ!

 

俺は滅茶苦茶な言動にツッコミを入れながらコイツをどうするか考えていた。

 

コイツはアレだ。レジェンダリアンよりもやりにくい馬鹿だ。呆れて殺意すら湧いてこないのはこいつにとって長所なのか。相手する価値すらないと見られることは短所だと思うのだが。

 

だがあの殺人バイクの追突事故でも死んでいないってことはENDはかなりの物。振り落とされていないならSTRもか。

 

AGIはあるかどうかすら分からんが、方向転換も出来ないようだしそんなに高くは無いだろう。

 

・・・・・。

 

取り敢えず肉塊に《デッドリー・エクスプロード》を叩き込んで肉塊が死んだら放り出すか。

 

今も衝突させている質量キューブの間を縫って《デッドリー・エクスプロード》を叩き込む。

 

竜の全体像が爆炎に覆われて見えなくなる。どうせ俺からパクった能力で生きているだろうが、これが俺の一番の火力だ。

 

《デッドリー・ミキサー》で粉砕しても良いのだが、あの肉塊に物理攻撃が有効とは思えない。砕いてばら撒くより焼いた方が良い。

 

それに爆散した肉片の逃げ場はこの閉ざされた夢幻世界にはない。

 

だがやはり肉塊は平気な様子で爆煙から出てきた。それに最初の爆破よりも今の爆破の規模が小さく、どういう原理か《デッドリー・エクスプロード》の怨念の燃焼を妨げる性質を持っているようだ。

 

つくづく、やり難い相手に育ったものだ。アイテムボックスと中身が破損してでも【怨霊のクリスタル】の時点で《デッドリー・エクスプロード》を叩き込んでいればこんなことにはなっていなかったというのに。

 

だがカーソンが解析を終えるのも間近。だからそれまで時間稼ぎが出来れば良い。これしきの些事で俺がカーソンのやりたいことを中断させる理由にはならない。

 

俺は《術符作成》のレベル上げで大量にストックしていた起爆符をアイテムボックスから取り出した。

 

奴の怨念が燃えにくくなっても別の怨念を燃料にしてやれば肉の体を焼く事は出来る。

 

今すごく【道士】らしい戦い方をしている。【道士】になっても業務的に起爆符を作成するだけだったのでとても新鮮な気分だ。純粋な後衛として活躍する機会も初めてだというべきか。

 

大体殴ったり斬ったり毒殺したり暗殺したりと後衛職らしくない戦闘スタイルだったし・・・

 

それはさておき。

 

今日は屋外焼肉パーティーだな。カーソンが来るまで焼肉が炭になっていれば良いんだが。

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

後ろからバイクのエンジン音が聞こえて来る・・・

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