これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

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天上天下唯我独尊

『ハァハァハァ。人外っ娘のはだk』次。

 

『【規制済み】!【規制済み】!?』次。

 

『もるるる!もる!もるぁ!(人外娘スキーが集められたと聞いて)』次。

 

『隣のメイデンちゃんは人外ってマ?』次。

 

『セイレーンの聖水(意味深)が欲しいだけの人生だった・・・』次。

 

『ドリアートたそn』次。

 

『異種族間レビュワーの募集はここですか?』次。

 

『この大きな俺のtnkを見てくれ』殺した。次。

 

『おいおい、良いのか?俺はノーマルでも』次ぃ!

 

俺は激しい痛みを発する頭痛で頭を抱えた。レジェンダリアンの癖が強すぎる・・・!!

 

しかも、なんか混じってたし!俺の後ろを狙われたんだが!?

 

だが数人に絞り込んだ上で個人面談を行い、立場上森を出れない人や連れて行っても指名手配犯になりかねない危険人物、そもそも人外娘スキーではなかった人を除外して候補を二人まで絞り込めた。

 

この段階までに至る過程がクッソ大変な作業だった・・・

 

広場を覆う変態の群れを選り分けて厳選し、最も広く受け入れられそうな嗜好を選び抜いた。

 

厳しい選考基準の結果、選ばれたのは『人外レベル1からレベル◾️を網羅したベテランの変態』と『最も同人映えする人外娘を推す玄人の変態』の二人だ。

 

どっちも変態だが人格、嗜好、能力ともに基準を超える最高評価を下された男たち。

 

彼らにはこの選考の意図を伝えてある。すなわち【人化薬】開発アドバイザーの選出。

 

極秘情報を渡すに足る人格を保証された二人は【人化薬】の開発にとても強い関心を持っていて、どちらかの変態を採用しようと思っている。

 

【人化薬】アドバイザーの座を巡って『もる?もるぁ!もるるっ・・・』と唸り合っている野生のレジェンダリアン達の間に入っていき、最後の選考試験を伝える。

 

とても驚いた表情をしていたがやる気は十分のようですぐに準備に取り掛かるあたり、流石能力も最高評価と称された者たちだ。

 

野生のレジェンダリアンは野生化するにあたって人間の理性を失う者が多い中、この二人は狼の群れでいうところの賢狼ポジション。

 

選ばれた変態とは野生に生きる存在でありながら人間より聡明な獣達だ。

 

俺が奴らに伝えた試験はつまり、プレゼンテーション。

 

【人化薬】をより多く売るにはどうするか。消費者の立場から商品開発に対して的確な指摘ができ、不特定多数の客に売り込む為の魅力的な商品紹介が出来る人材が俺は欲しい。

 

今集まっている野生のレジェンダリアンの群れを対象にどちらのプレゼンテーションが性癖に刺さったか投票で決定する。

 

準備期間が極めて短かく、【可逆性変身薬】のサンプルを幾つか渡しただけで即席のプレゼンテーションを行うのは至難の業だろう。

 

しかし俺は綿密に組まれたプレゼンテーションよりも即興のプレゼンテーションに対応できるかどうかの能力が見たい。

 

如何に同胞に刺さるアプローチを掛けるか。己が性癖を確立しているレジェンダリアンのポテンシャルを俺は知っているからこその試験だ。

 

と思っていたのだが、

 

無駄に能力が高くブレーキが壊れている野生のレジェンダリアンは常に俺の想定の斜め上を逝く。

 

つまり、プレゼンテーションそっちのけで野生のレジェンダリアン同士の抗争が勃発したのだ。

 

・・・・・

 

抗争の始まりは候補者の協力者を集める演説だった。

 

プレゼンテーションで多角的な視点の意見を発信する意図があったのだろう。

 

もるもる言って集まった野生のレジェンダリアンに向けて己が性癖を語り、相反する意見であろうと取り入れようとするイメージ戦略も兼ねていた事前準備を、敏感に察知した片方の候補者が【可逆性変身薬】を用いて大衆を扇動し、幾つかの派閥を作り出すことで浮動票と固定票のカテゴリー分けを画策。

 

どんどんと両候補者の事前の根回しによって高度な政治的工作に発展して行った結果、形成された派閥同士の対立と分裂が発生。

 

収集が付かなくなってきた事態に長老が神前決闘による決着を各派閥の代表に提示し、事態は収束の様子を見せる・・・

 

ことはなく。

 

寧ろ表舞台裏での暗殺謀殺誅殺に裏切りが発生し、抗争が更に複雑化する。

 

神前決闘の代表者を殺害された派閥が報復を行い、更にその報復が泥沼化を招いた事で誰が敵で味方か分からぬ人狼ゲームのような混沌の時代に突入。

 

「全人類人外娘化計画の会」はまだ可愛いもので「人外娘補完計画推進党」など怪し過ぎる派閥が創られては解体され、また新しい派閥が頻繁に発生する。

 

俺はと言えば特にティアンの人死もないので別の用事を果たす為に外出していた。

 

マスター同士で血祭りに上げる程度はまだ平和なものよ。【拳姫】なんていう黄河帝国に喧嘩吹っかけた大物なんていたんだし。

 

そういえば黄河帝国、TSした女性が多くなりすぎて一夫多妻制になったらしい。

 

TSハーレムもののエロゲの設定かな?

 

まぁ、男と女の割合が【拳姫】によって崩されたからな・・・元男と男がくっつく事例が発生しているようだ。元男はTSによって顔面偏差値が向上しているし。

 

なんか黄河帝国を見る目が変わりそうだ。

 

黄河は俺の初期国で、最初は結構まともだったんだがなぁ・・・

 

運営がホームページで発表している黄河を選んだ初心者のアンケート結果にハーレムの四文字があったのは俺でも予想できんかった。

 

まぁ色々と緩々のガバガバになっている黄河は兎も角、俺の用事は【死霊王】の転職クエストだ。

 

抗争が締結するまでの時間の有効活用で【大死霊】のレベルをカンストさせたら

 

【【大死霊】のレベルがカンストしました】

【条件解放により、【死霊王】への転職クエストが解放されました】

【詳細は【死霊王】への転職可能なクリスタルでご確認ください】

 

というアナウンスが告知された。

 

クエスト画面で確認すると『5000年分の命のアンデッド化』と『【怨霊のクリスタル】の作成』、そして『【大死霊】のレベルカンスト』が【死霊王】の転職クエストに必要な最後の条件だったらしい。

 

恐らく蝗の群をアンデッド化させて、怨念の貯蓄用に【怨霊のクリスタル】を作成したのが偶然解放条件を達成していたんだろうな。

 

普通アンデッドを戦力として使う場合、使うのは弱い死体ではなくて強かった死体をアンデッド化させるし、生者を直接アンデッド化させるより殺して死体にしてからアンデッド化させた方が効率が良い。

 

それに5000年の命なんて虐殺でもしなきゃ達成出来ない。

 

【怨霊のクリスタル】だって【大死霊】とは対極にある【清浄のクリスタル】が必要だ。

 

俺の場合は【忌騎融鎧】で常に生成される怨念を処理しないといけない理由があったから使ってたけど、普通怨念は死霊術師の資材にも等しい存在だからわざわざ消すような勿体ない事はしない。

 

怨念の器だって【怨霊のクリスタル】に限定せずとも別の方法があるだろうからな。

 

ぶっちゃけ【怨霊のクリスタル】は最高の触媒だけど製法がわかりにく過ぎる。絶対に情報アドバンテージとして製法を独占しているやつがいるだろう。

 

まぁそんな訳で急な棚ぼたに非常に気分が良い。しかも【死霊王】の転職クリスタルはレジェンダリアにあるようだし、掲示板に超級職就職マウントを取る日も近い。

 

超級職は一人しか就けないから、その系統をメインにしている掲示板住人が一斉に嫉妬で狂う光景はデンドロ板の掲示板名物の一つだ。

 

とうとう俺も勝ち組の仲間入りだと思うと感慨深いものがある。

 

そんなこんなで【死霊王】転職クリスタルを目指して巨大なプレーリードッグになったカーソンに《騎乗》して移動しているのだが、目的地は苔で覆われた遺跡のようだ。

 

多分【死霊王】の転職クリスタルを封じてある神造ダンジョンだな。

 

〈魔王転職ダンジョン〉に近いものがあるが、違うのは条件を満たした者だけが入れるという点だろうか。

 

なんか内装は尋常ならざる表情で叫ぶ人の顔で覆われていて非常に悪趣味だ。障害としてポップしたアンデッドを適当に壊しながら進むと巨大な扉と文字が刻まれた碑石があった。

 

碑石はかなり古びていて解読できるか不安だったのだが、意外と現在の文章で書かれている。

 

『【死霊王】の試練を受ける者へ

 

【死霊王】は自らの体を裂いてアンデッドを作り出す常軌を逸した所業を最終奥義とするが故に狂気に耐えうる精神力が求められる。

 

同じアンデッドである超級職の【尸解仙】の仙人に至る精神の昇華とは反対に、【死霊王】とは死霊としての精神の異形化。

 

同じ生者ならざる身、求める領域は人を逸したものであれど進む道こそ正しく分かたれた。

 

死霊の王を冠するに相応しい精神を持たざる者、一切の資格なし。

 

異形を己とする者よ。異形に至し試練を受けたまえ。』

 

というのがシステムからのメッセージで試練の内容は書かれていなかった。

 

多分クリスタルに触れたらアナウンス通りに詳細が確認できるのだろうが。

 

しかしまぁ・・・凄い不吉なことばっかり書いてる碑石だな。

 

異形化、狂気、自らの体を裂く・・・急に棚ぼたムードがSAN値判定いっとく?な空気に。

 

え?これ大丈夫なんだよね?

 

ま、まぁここまで来たんだし行くしか無いわな。

 

躊躇ってたら【死霊王】掻っ攫われましたじゃ笑い事にもならないし。と、取り敢えず心の準備をしてから・・・・・

 

扉の向こうは生贄を捧げる典型的な邪神を崇めていそうな冒涜的な大聖堂だった。

 

決めていた覚悟が削れる音が聞こえた。ここは何処?・・・おうち帰りたい・・・

 

ハッ!!幼児退行している場合じゃねぇ!さっさと【死霊王】転職してズラかるかぁ!

 

聖堂の講台に鎮座するドス黒い転職クリスタルを前に一瞬躊躇ってから触れた。

 

【転職の試練に挑みますか?】

 

・・・yes。

 

肯定した瞬間奇妙な空間に飛ばされる。

 

アナウンスが試練の内容を告げた。

 

【四つの試練から一つ選び達成せよ】

【成功すれば、次代の【死霊王】の座を与える】

【失敗すれば、次に試練を受けられるのは一か月後である】

 

【四つの試練は】

 

【体が引き裂かれて生理的嫌悪感を最大限に引き立たせる蟲や獣に変貌し、怨念の呻きと嘆きを聞きながら自分が徐々に死んで死体になる幻覚を見る】

 

【凡ゆる生命の不快感すなわち飢餓、溺没、不眠、恐怖、激痛等を並行して体感する】

 

【用意されたあらゆる方法で自死する】

 

【己が殺害した死者との再戦】

 

【の四つであり試練の中断は可能】

 

【中断は失敗と見做す】

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

( ゚д゚)絶句

 

( ゚д゚)<・・・マジで?

 

エゲツない。全部挑戦者の心を折りに来てるっていうか・・・殺しに掛かってる。

 

上三つはどう見ても精神的な拷問と変わりないし、唯一有情に見える【己が殺害した死者との再戦】だって場合によってはかなりクルものがあるだろう。

 

多分というか、これ親しい人間を殺していたら絶対出してくるパターンじゃん。負い目を抱いている親しい人間が殺しにくるって相当だと思うのだが。

 

あと再戦としか言っていないから何が起こるかすら言っていないし。なんなら再戦回数も宣言されていないド外道さが滲み出ている。

 

infinite dendrogramはゲームとして全年齢対象にしてもよかったのだろうか・・・

 

まぁ俺は遠慮なく【己が殺害した死者との再戦】を選ぶのだが。

 

幻覚は精神保護で無効化できそうな気配がするのだが確実な方を選んだ結果だ。

 

それに俺は殺しても問題ない奴らばっかり殺しているから・・・

 

過去に【死霊王】転職の為に虐殺した奴の場合はどうなるかわからんが。この手の楽をしようとすると落とし穴があったりするからなー。

 

恐らく俺の殺害歴を参照しているのか少しの間待つと

 

光の塵が何処からか発生し、生き物らしき形を象っていく。

 

とても見覚えのある獣。

 

それは尋常ならざる強者だ。

 

それは木乃伊だ。

 

それはかつて【鎮樹獣神 アガナースタ】と呼ばれていた魔獣の死体だった。

 

そして奴は生命力もない木乃伊の体で何も無い空間に枯れた森を展開した。

 

光を失った窪んだ眼孔はただ無機質にこちらを見据え、生前の灼けつくような眼光は今はない。

 

《万象神森》によって限定的な無敵化した〈神話級UBM〉は再び俺の前に立っていた。

 

なんともまぁ、滑稽な趣向だ。奴は満ち足りて逝った筈なのに死んだ身体だけが再現されて、また闘おうとしている。

 

本当に【死霊王】の試練というのは悪趣味極まりない。

 

ーーー何処まで挑戦者を精神的に叩きのめす為だけに最悪の外法を用いるのか。

 

この空間ではなんでもありなのだろう。リソースを全て失った死者ですらカタログスペック通りに再現している。死者の遺志は宿っていないようだが。

 

これが《死霊術》なのか。

 

これが知り合いをアンデッドにされた者の視点なのだろうな。

 

・・・胸糞悪いぜ。こんなことなら幻覚を選べば良かった。

 

こんな見るに堪えない催しは早く破壊してしまおう。俺の精神衛生的にも、【アガナースタ】の名誉の為にも。

 

いや、【アガナースタ】だったら奴の【全身遺骸】でアンデッドを作っても許容していただろう。

 

良くも悪くも潔い最期だったからな。死んだ敗者に配慮は必要ないだなんて言ってもおかしくない奴だった。

 

そんな奴が不出来なアンデッドにされて気に食わないのは俺だ。

 

ーーーだからこれは俺の腹いせで良い。

 

【――Form Ⅳ 【The Demonstrationer of existence】】

 

融合しているカーソンを第4形態に変える。

 

そして躊躇いもなくブレーキを蹴り壊した。

 

《メッセンジャー・アポートシス》

 

《天上天下唯我独尊》

 

《窮鼠精命》

 

《星侵超樹》

 

《禁忌融騎》

 

俺は【アガナースタ】の偽物を試験空間ごと

 

ーーー《天上天下唯我独尊》の肉体限界の超越と空間の物理干渉で殴り壊す。

 

俺が殴った空間を中心に試験空間の空間に罅が走る。罅が全ての空間に入った瞬間、臨界点に達し虚空の大穴が空いた。

 

空間破壊の奔流によって試験空間に存在する全てが粉砕され、空間が自ら修復する際に歪みが生じる。

 

歪みは座標状の物質の強度を無視して捻り切り、破断する。この時点で【アガナースタ】の偽物は森を粉砕されて《万象神森》が解除された事により、木っ端微塵に細断されていた。

 

俺も空間の修復が終わるまで空間の歪みに巻き込まれて死亡と《ラスト・コマンド》による生存&特典による復活を繰り返す事になったが、後悔はない。

 

恐らく【アガナースタ】の後も控えている死者の再戦もあったのだろうが、出現しては空間の歪みに巻き込まれて即死する事を繰り返していた為、修復が終わるまでには全部クリアしてしまった。

 

きっと【死霊王】の試練を設定した出題者にとって不満の結果に終わっただろう。殺された死者全てをぶつけて異形の精神を試す筈が一発の拳によって全て粉砕されたのだから。

 

修復された空間に一人佇むルンバは【死霊王】の試練達成のアナウンスとメインジョブに【死霊王】が表示されていることを確認した。

 

俺は大きく息を吸い込んで、思いの丈を言葉にして吐き出した。

 

すーーーーーーーーっ・・・・スッキリしたぁぁ!!アハハハハハハァ!!

 

悪趣味な不快感の塊を空間ごと粉砕した後の気分は非常に爽快だった。

 

やっぱり気に食わないものは殴り壊すに限るな!!余波で何回も死んだが!

 

試練空間から退出し、用済みとなった遺跡から出る。

 

陰鬱な遺跡から出た時の眩い陽射しがとても心地よかった。

 

その陽射しは俺の新たな門出を祝っているようで・・・

 

俺は目を細めながら・・・陽射しを浴びた部分から出現した青白い火に、全身を覆われて燃えた。

 

・・・?

 

・・・・・・!?

 

 

 

一般的に有名なアンデッドの弱点は聖属性、炎・・・そして日光である。

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

【死霊王】に求められるのは技量でもステータスでもなく精神のみ。

 

超級職の試練の中でも最も陰湿で凄惨な試練。

 

達成者は頭の螺子が何本か外れている狂人か倫理観ゼロ。或いは・・・

 

 

ーーー試練の意図を無視した超常の蹂躙者。(と言う名の脳筋解決)

子供の教育方針はどれにする?

  • 蠱毒にぶち込む
  • 普通の子供のように育てる
  • 子供の為だけの揺籠()で育てる
  • 放任主義。子供は勝手に育つ
  • 帝王に愛など要らぬ!!

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