強制捜査があった7日午後、石井直社長は本社で1時間にわたる訓示を発表。この模様は同じく捜査を受けた関西支社・中部支社にも中継された。
この訓示では、労働時間が長くなってきた背景や変革すべき点、変革するためにはどのような投資が必要なのかが列挙され、「チーム力を結集し、社が直面する課題を共に克服し、新しい電通を作り上げていこう」という前向きなコメントで締めくくられたという。
「この訓示には、電通上層部の強い『屈辱』がにじんでいます。『電通は働きに働いて、日本を動かしてきたんだ』という矜持が、この期に及んでもどうしても捨てきれない。今回の強制捜査も、心のどこかで『なぜ俺たちが』と思っている節があります」(全国紙デスク)
一方社員からはこの訓示に対し「理想と現実があまりにもかけ離れている」と冷ややかな声が上がっている。
電通本社は10月に臨検監督を受けて以降、36協定で設定している月間労働時間に関し、所定外70時間の上限を65時間に引き下げ、「不夜城」とも呼ばれたオフィスの電気も22時で全館「強制消灯」している。
だがそれで労働環境が劇的に改善したわけでは到底なく、「早朝、5時から出社している」と嘆く社員も少なくない。
社長逮捕は「ありうる」
前出の藤沢氏は次のように語る。
「電通には『鬼十則』という労働規範が今でも残っている。『取り組んだら放すな、殺されても放すな』といった過酷な価値観が今でも企業カルチャーの根幹になっています。
たとえば電通には深夜0時から会議を始めるのが『かっこいい』という風潮さえある。そんな上司のために、新人は資料づくりや後片付けまでやらされ、残業が際限なく増えるのです。
石井社長の訓示も、この『鬼十則』から進歩しているとは思えない。まずはこれを捨てるところから始めなければ、労働環境は改善できないと思います」
旧態依然とした伝統を今日に至るまで引きずり、社員に大きな負担をかける電通幹部たち。彼らへの追及は、これまでと同じと考えないほうがいい。場合によっては、トップが「逮捕」される可能性も出てくる。
前出・厚労担当は「官邸や『かとく』の本気度を見誤らないほうがいい」と語る。
「石井社長は『捜査に協力する』と言っていますが、万が一捜査に面従腹背するようなことがあれば、証拠隠滅罪など刑法罪に問われていく可能性もある。その隠蔽が石井社長の指示によるものとわかれば、当然逮捕だってありえます」
また、前出・渡辺氏は「労基法でも石井社長が罪に問われる可能性がある」と語る。
「労基法121条2項では、現場の違法行為を知りながら是正措置をしなかった場合、事業主、つまり社長まで処罰されます。電通は'91年にも過労自殺事件を起こしており、残業時間を過少申告させる企業文化があることは当然知っていたはず。これに対策を取らなかったことは社長自身が罪に問われる可能性が十分にありえる」
今回のような強制捜査が入った場合、事情聴取から書類送検までは確実に行われる。企業が起訴されることも必至だが、彼らが恐れる「最悪のケース」は、石井社長自身が罪に問われることだ。
まさに落日。日本のマスコミ・広告業界の王者として君臨してきた電通が、そのプライドをズタズタに切り刻まれようとしている。
「週刊現代」2016年11月26日号より