アニメを書きたくなって書いた。以上!
「うま─────っ!打ち上げでお高い焼き肉は何度か食べたけど、こんなに美味しいのは初めて!」
「うるさい。黙って食え」
頬を染め、騒ぎながら肉の味に舌鼓を打つ女に目を向けないまま二言言い放ち、俺もまた焼き師が焼いた肉の味を堪能する。
東京港区のとある場所にある店の個室にて、俺とこいつは焼き肉を食べていた。
「いやぁ、やっぱり持つべきはお金持ちのお友達だよね。こんなに美味しい焼き肉食べられるなんて、私の人生薔薇色だよ」
「友達とか思ってない癖に言ってんじゃねぇよ。俺の事なんか財布程度にしか思ってねぇだろうが」
「ソンナコトナイヨー」
「お前史上一番下手な嘘だな」
今でこそこんな風に軽口を叩ける間柄だが、最初に会ってからもうすぐ一年。ここまで長くこいつとの関係が続く事になるとは、微塵も思ってなかった。
ましてや、便利な財布扱いされるなんて天文学的な確率すらも考えていなかった。
「お前くらいだよ。気軽に俺を呼び出して、肉を奢らせる不調法者は」
「四宮財閥の次期後継者だもんねー。ホント、凄い
「今、財布って思っただろ」
「オモッテナイヨー」
本当に─────こんな風に軽口を叩き合える間柄なんて、かぐやと早坂、帝以外に出来るなんて、こいつと知り合う前の俺に言っても、絶対に信じないだろうな。
「…」
幸せそうに肉を味わう女─────
こいつとの出会い方は、何の変哲もない─────と言いたい所だが、結構特別な出会い方だったと思う。
何しろこの現実で、ナンパから助けてそのまま交友関係が築かれる、なんて事は早々ないだろうから。
あの日は、久しぶりに親父から貰えた休日を使って、珍しく一人で…といっても離れた所にボディガードを配置した上でだが、外出をしていた時だった。
星野が二人の不良に絡まれていたのを見つけ、何をトチ狂ってしまったのか。久しぶりの休日に気分が良くなっていた俺は、気紛れに星野を助けてしまった。
相手を挑発し、相手から手を出させ、正当防衛という名分を得た俺は不良二人を撃退して星野を助けてしまった。
それが運の尽きとは、この時の俺は露知らず、お礼をしたいからと言う星野にホイホイとついていき、近くの喫茶店で一緒にお茶なんてして。
そこでまあ、色々と話をした訳なのだが─────経緯は省略するが、俺は
そんで次の日、俺は赤木が持ってきたアイドル雑誌のとあるページを見て驚愕するのだ。
そこに映っていたのは、【B小町】というアイドルグループ。そのセンターに、そいつは居た。
確かに、かぐやの次に容姿が整っているとは思っていたが、まさかアイドルだったとは。しかも、扱われ方を見ると、割と将来を期待されているらしい。
それを見て俺は、『めんどくさそうだし、関わるのはもう止めておこう』と、赤木がアイドル雑誌を持っている事に驚きつつ、思った。
スキャンダルとかですっぱ抜かれるのは御免だ。そう思っていたのに、星野との再会は、早く訪れる事となる。
『『あ』』
親父から任された商談が終わってその帰り。飲み物を買っていこうと、赤木と寄ったコンビニにて、三十くらいは年上と思われるおっさんを連れていた星野と俺は、思いも寄らぬ再会を果たした。
何という偶然、と何が面白いのか、ケラケラと笑いながら星野は俺に連絡先の交換を申し込んできた。
当然断った。そして一緒に、星野が連れていたおっさんも慌てた様に諫めていた。
星野が連れていたおっさんは、星野が所属する事務所の社長だと知り、なるほどとそいつの慌て様に納得。そして、これなら星野とこれ以上関わる事はなさそうだ、と安心したのも束の間。
せめて名前だけでも、という星野の頼みを受け入れた俺が馬鹿だった。
勿論断るつもりだったさ。というか、断ったさ。
だから断った。公衆の面前でおっさんが土下座を始めるまでは。
当然、周囲からの注目を集める。大の大人がガキに必死に土下座しているのだから当然だ。
赤木に排除を命令するのも考えたが、近くに人がいるのがまずかった。なら、早急にこの事態を収めるにはどうするか。
提案を受けるしかなかった。だから、俺は星野とおっさんと連絡先を交換した。
まあプライベートのものではないし、三つある仕事用のスマホの内、優先度が一番低いもので、だが。
社長としては四宮から少しでも資金を援助してもらえれば、という思惑があった。しかし、この時の俺にはそんなつもりはなかった。
『ライブを見に来てください。それで駄目なら、四宮からの援助は諦めます』
─────援助が欲しければ、俺に相応の何かを見せてみろ。
という俺の台詞に対しての社長からの返答が、それだった。
社長からライブのチケットを貰い、そして何より、社長の自信と確信に満ちたその態度に興味を引かれた俺は、赤木を伴ってそのライブを見に行った。
まあ、その結果は今の俺と星野の関係性を見れば想像出来るだろう。
俺は星野のパフォーマンスに惹かれる事となる。まあ、理由は
「すいませーん。シャトーブリアンくださーい」
結果、こうなった。
は?分からない?色々と省略しすぎだと?
長くなるから却下。とにかく、俺と星野はこうしてプライベートで会うまでの関係になり、そして【苺プロダクション】への投資も続いている。
「で?今日、
「何が、で?なのか知らんが、たかが入学式だぞ。どうもしない」
「主席入学だったんでしょ?答辞で噛んだりしてたら、笑ってあげようと思って」
「不調法者が。そんな筈ないだろ」
きっと、こいつのファンはこの可愛い笑顔に心打たれたりするのだろう。いや、確かに可愛いとは思うさ。
財布扱いされている俺には全くもって響きやしないが。
「お前こそ、今日は握手会だったんだろ。一人くらい、
「んー…。たくさんファンの人達が会いに来てくれたのは嬉しかったし、今日貰った星の砂とか、プレゼントも嬉しかったよ。けど…、んー」
人差し指を顎に当てながら首を傾げる星野。あざとい仕草なのに、堂に入ってるのが腹立つ。
「まだかな!」
「お前を愛してるファン達が絶望するだろうな」
俺は、こいつがアイドルをしている本当の理由を知っている。
その理由こそが─────こいつの中を満たすたくさんの嘘の中に埋もれた本心が、俺が【苺プロダクション】への投資を決めたもう一つの理由だった。
こいつが求めるものは本当に手に入るのか。手に入ったとして、その先にこいつがどうなっていくのか。
「誰かを好きになるなんて、どうしても分からないんだよねー。どうすればいいのやら…」
「安心しろ。俺も分からん」
「何を安心すればいいのかな?」
「それも分からん」
自分で言っておいてあれだが、今の俺の台詞のどこに安心できる要素があったのか、さっぱり分からない。
なら言うなよ、というツッコミは受け付けない。聞こえもしない。そんな言葉は俺の辞書には載ってない。
「うま─────っ!すいません、これもう一人前追加で!」
焼き上がったシャトーブリアンを口に入れて叫んだ星野は、その流れのままシャトーブリアンの追加を頼みやがった。
マジでこいつ、俺を財布としか思ってないんじゃなかろうか?
「いやー、やっぱり人のお金で食べるお肉は格別だねっ!」
「殴るぞ、マジで」
その台詞を、俺にそれは素敵な笑顔を向けて言えるこいつは、本っっっっっっ当に良い度胸をしていると思う。
「お前、マジでここに居るのが俺で良かったな。兄貴達なら、お前の事務所を潰して、更にお前に芸能活動をさせない為に関係各所に圧力掛けてる所だぞ」
「そう?なら、総司の懐の深さに感謝しなくちゃね!」
「…」
違う、そうじゃない。そこは俺への感謝ではなく、俺への遠慮を持って欲しかった。
「そんな懐の深い総司にお願いがあります」
「…なんだよ」
「私、次はフグとか食べてみたいなー」
「俺、帰る。支払いは全部こいつが持つんで」
「わぁぁぁああああああああ!!ごめんなさい、調子に乗りましたぁっ!!」
席を立った俺に縋りついて謝る星野。
まあ、こいつを食い逃げの犯罪者にするつもりはないからすぐに席に座り直すが。
「多分、私の全財産でも足りないよ…」
「ひもじい生活してんな。給料上がってないのか?」
「CDの売り上げ全部人件費にとられるからねー。…って、こんなの他人に言っちゃ駄目だね。忘れて?」
「安心しろ。言われなくとも事務所の懐事情くらい把握してる」
「ふーん?…本当かなぁ?」
「俺の予測だけど、今月の【B小町】の番組出演料は交通費でほぼ吸い尽くされてるぞ」
「え」
星野の表情が固まる。というか、俺を見ながら引いてる。この反応を見るに、予測は当たりらしいが…。疑うから答えただけなのに、疑った本人が気味悪がってんじゃねぇぞ。
「こわ」
「お前が疑うから答えただけだぞ」
「いや…だって、ねぇ?」
「投資をする会社の情報を収集するなんて当然だろ」
「そう、なのかな?」
首を傾げる星野から視線を外し、俺も焼き上がったシャトーブリアンを口に含む。
直後、溶けるように丁度いい甘みと肉汁が口の中へ広がっていく。
やっぱりこの店は良いな。これでうちの兄貴達がここを知らなければ完璧だったのだが、まあそこまで贅沢は言うまい。
俺がここを知ったのは雲鷹兄貴が連れてきてくれたからだし、感謝こそすれど文句など言うつもりはない。
「総司」
「ん、どうしt─────」
不意に名前を呼ばれたから振り向くと、突然開いた口に星野が箸を突っ込んでくる。何をする、と感情が爆発しそうになった瞬間、口の中に箸以外の何かが入っている事に気付く。
その正体が肉だと気付いた時には、怒りではなく、何故という疑問が頭の中に満ちていた。
「私からの細やかなお礼だよ。有難く受け取り給え」
「…」
…何というか、あれだな。普段から傍若無人にあれやこれやと求めてきて、遠慮なしにあちこちに振り回して、そんな奴が突然素直に感謝を伝えてきたら─────「気持ち悪っ」。
「…ちょっ、それはなくない?人からの感謝に対して、気持ち悪いはなくない!?」
「あぁ、声に出てたか…。いや、しょうがないじゃん。心の底からそう思ったんだし」
「…怒った。次はフグね。絶っっっっっっ対にフグを食べさせてもらうからっ!」
「勝手に言ってろ」
星野から貰った肉を飲み込み、次の肉を口に含む。
頬を膨らませながらこちらを睨む星野には目を向けないまま、気付かれない様に小さく笑みを零す。
星野アイは、
星野アイはステージの上で、嘘の笑顔を振り撒いている。
星野アイはファンに対して、嘘の好意を叫んでいる。
星野アイにとって、
星野アイは何時の日か、
だが─────嘘で塗り尽くされた日々の中にほんの少しだけ。ほんの少しだけでも、本当の自分を出す事が出来る時間があれば。
俺と過ごしているこの瞬間が、その時間になっているのだとしたら。
それならまた、こいつに振り回されるのも良いと思えてしまうのだから。
俺は、星野アイという
『心の底から愛してみたい?嘘を本当にしたい?面白い事を言うな、アンタ』
初めて会った時から、私の
『嘘が本当になる事を信じて嘘を吐く?それがどういう事かを知った上で言ってるのか?』
一頻り笑い終わった後、総司は私にそう問い掛けてから続けて言った。
『人って言う生き物は、誰しもが嘘を吐く。仮面を被る。それはこの人間社会で生きていくのに、どうしても必要だからだ。だがアンタは違う。アンタの嘘は、自分の欲望を叶えるためだけのもの。…本来は不必要な嘘だ。忠告してやる。いつか、代償を払う事になるぞ』
私には、人を愛した記憶も人から愛された記憶も無い。そんな私がアイドルになったって、ファンを愛せないし、ファンから愛されない。
だけど、社長からスカウトされた時に言われた、『嘘が本当になるかもしれない』という言葉に惹かれて、アイドルになった。
私は誰かを愛したい。愛する対象が欲しかった。アイドルになれば、ファンを愛せるかもしれないと思った。
心の底から愛してるって言ってみたくて、何度も愛してるって嘘を振り撒いてきた。
私の
言われるまでもなく、いずれ報いを受けるだろう事なんて分かっていた。
『それでも私は、
総司の忠告に対して、この時の私は迷いなく、そう言い放った。
すると総司は目を丸くして、少しの間呆けてから─────また、盛大に爆笑した。
『そうか!どうしようもない嘘吐きが、
確かに矛盾してるとは私も思うけど、そこまで馬鹿にしてくるなんて酷いと思わない?
今でもたまにこの時の事で総司に文句を言ったりするけど、全く謝罪の言葉はない。それどころか、怒られたんじゃなく笑われた事に感謝しろ、なんて言ってくるし。
総司って本当に性格が悪いと思う。
そう言ってやれば、『四宮だからな』なんて返してくるし、本当に意味が分からない。
でも、私は総司に感謝してる。
『いいぞ。斉藤…だっけ?お前の会社に投資してやる。条件の詳細については後日に話し合おう。俺が指定した日と時間は、確実に空けておけ』
今でも、この時の私との会話のどこに、総司の琴線が触れたのかは分からない。
だけど、この瞬間、私は─────
『星野アイ。お前が嘘を吐き続けたその先がどうなるのか、興味が湧いた。事務所が潰れないよう、精々頑張ってくれ』
最強の味方を手に入れたんだと思う。
だって、凄いよ?
お願いしたら色んなお店に連れてってくれるんだもん。
今日だってネットで調べた高級焼き肉店に行ってみたい、って言ったら連れてってくれたし。
社長からは『見つかったら面倒だから止めてくれ』って言われたけど、ムリだよ。あんなの味わったら止めらんないもん。
でも一つだけ不満があるとしたら、私のパフォーマンスを一度も褒めてくれてない事だろうか。ライブには一度も来てくれないし、一応私が出た番組をチェックしてくれてるらしいけど、感想を聞いても─────『まあまあ』とか、『普通』とかしか言ってくれない!
だから、私は密かにもう一つ、誰にも伝えてない野望を抱いてたりする。
私の中で燃え上がった対抗心から生まれたもう一つの野望は、あまり上手くいってない。
だから私は、今この瞬間も笑顔を振り撒くのだ。
「お腹一杯!総司、ご馳走様!」
「二度と掛けてくんじゃねぇぞ」
明々後日くらいに今度はフグを奢って貰おう、と密かに考えながら、変装用の帽子とサングラスを身に着けた私は、総司と並んで家路へと着くのだった。