《お前が赤ちゃんになるんだよォ!!赤ちゃん候補生続出!?》
そんな見出しの新聞を丸めて焚き火の燃料にする。新聞というのはとても燃えやすい。
内容がレジェンダリアン(誤字にあらず)の奇行特集であれば尚更だ。まさかの母体回帰のエンブリオなどとは俺も恐れ入った。
拗らせすぎでは?新聞の一面に大きく取り上げられているのは十五児の母親だ。(白目)
合意があるとは言え、外聞も記憶も何もかもをリセットせんが為に実行する辺り、レジェンダリアの人の闇が深いことが窺える。
幼児退行(物理)した仔が女性に抱かれている光景は、何も知らない人間が見れば崇高な絵画のような母性愛を見出す事が出来るのだが、実情を知っている者からすれば奇怪極まりない。
そいつら実年齢が母親より2桁以上だぞ・・・?若い母親より歳をとった赤子とは矛盾しているようで実際に成り立っているのだからこの世界何が起こるかわからないものだ。
流石にレジェンダリアンの奇行は一部の例外だとは思うが。
俺は全裸パージの変態や幼児化の変態について書かれている記事から目を逸らした。
全裸の変態などムキムキの漢が鎧を剥がれている写真が載っているのだ。全裸の男同士(片方は鎧が進行形で剥がれている)が真剣な表情で向き合う光景は目が腐る。
心なしか腐の気配を漂わせる紙面が焚き火の種火で浄化される光景を三人で見ていた。揃って理解の埒外に出た表現し難きものを見た顔をしていた。
俺は一方で意外な手応えを感じていた、カーソンに腐海の住人の素質は無かったらしい。
俺にとって理解の外にあるカーソンが少しだけ近く感じたのだ。
今この時は俺の下半身の経歴に関して何も言うまい。あれらは酒の過ちであり、当事者たちの間では無かった事なのだから。
その証拠にそれぞれが自分が異性愛者であることを再確認している。
そろそろ砂上船の到着日に近づいてきた。カルディナに帰る期日だ。
小僧も当初の目的を忘れている。忌まわしき過去から今、未来へと小僧の視点が変化している途上を俺達は共に見てきた。
時に宙に吹き飛ばし、時にゲロ以下の薬粥を気絶した口内に流し込み、うっかり【猛毒】で殺しかけ、魔狼の群れに叩き込み、怒り狂う成体の竜を嗾しかけ、うっかり手が滑って俺の全力の《死霊術》で強化された【グデアメール】と、【救命のブローチ】ありの殺し合いをさせた事もあった。その結果小僧は全身傷が無いところが無くなった。
【覆竜王 ドラグフォッグ】の目の前に投げ込んで、小僧が死にそうになったら待機していた【グデアメール】が《キャスリング》で救助した事もあった。
あの時ほど小僧の生に対する貪欲な欲求が輝いた瞬間は無い。あれ以来吹っ切れたように鍛錬をするようになった。
それを引き出すには【グデアメール】、魔狼の群れ、上位純竜など生半可な脅威では駄目だったのだ。それこそ手心も無く、抵抗のしようがない死を感じさせる相手で無くては。
避けられえぬ圧倒的で敵対的な死の気配を体感することで生きる気力が湧く。
生きる気力というのは他人がどうこうできるものでは無い。本能によるものだろうが錯覚だろうが本心から想起することが重要なのだから。
実際、【ドラグフォッグ】の生命体に対して致命的な霧を目前に小僧の目は死んでいなかった。
生き足掻こうと必死になって全力を尽くしている姿は死人のそれでは無い。醜くも穴という穴から液体を流しながら生きようとするのは生者の在り方だ。
小僧の師匠としても、保護者としてもやってて良かったと思う。
命のやり取りを通して彼我の命を知る。それは獲難き宝物にして生涯不朽なる支柱になる。
霧に対してトラウマは出来たかもしれんが。
過酷な拷問じみた鍛錬の度に小僧の目は後ろ向きな鬱屈とした澱みから、怒りや殺意等感情のオーナーフローで純粋で澄み切った輝きを放つようになった。
死人のような孤児だった小僧も今はいない。若者らしく生命力に溢れた瑞々しい殺意を向けてくる。
憎悪の対象を皇国から何度も三途の川を見る事になった原因の【グデアメール】に。
一切の【気絶】をも許さず孤児だった頃より過酷な拷問に叩き返したカーソンに。
力尽きて発症した【昏倒】の度に舌が焼ける糞まずい飯を流し込むルンバに。
一度似た経験があった俺が見てきて、その変貌ぶりはかつての団長を想起するほど。
未熟な子供の成長というのは成熟した大人よりも早い。
カリスマ性こそないものの、眼差しに込められた猛暑の陽射しの如し焼けつく熱は一種の美を魅せている。その熱は寝る時も食事の時も常に人外じみた鬼畜どもに向けられているが。
体格も幾度も修羅場を潜ってきた事でしなやかで瞬発力に富む筋肉に。その挙動に一切の隙や油断は無い。生き延びる為には変化せざるを得ない環境だった故に。
ログイン中の俺が注ぎ込めるだけの全ての時間と手段を費やして、何処に出しても恥ずかしくない弟子が育てられたと自負している。
肉体と精神の強さは三人の師からのお墨付きだ。
【グデアメール】は戦う者としての強さを。幾度も指導の峰打ちを叩き込んだ。
カーソンは現実を打開する為の精神の強さを。何度も計画された逃亡を阻止してきた。
ルンバは心身を支える体の強さと、暗闘の術を。数えきれぬほど体に刻み込んだ。
そして締めとして俺達は名もなき小僧・・・弟子に名前をつけた。
【ギフドラグ・ノーライド】。竜の君臨者である竜王より新たな生を受け、過激に叩きつけられても潰れず起き上がる不屈の子。不壊の叛骨の志と苛烈な生存欲求に焦がれる者。
皇国の裏路地に蹲った死霊の寵児は、人から外れた不死者どもの家族になった。
殺意と流血が絶えぬ歪な関係だったとしても、与えられる愛を知らぬ孤児は普通では無い無償の愛を知った。彼らは何くれと指示すれど、見返りを求めなかった。
部下でも無く、奴隷でも無く、主従でも無い。
血の繋がりも無く、家庭の温もりと言うものは無かったが、彼らは確かに家族だった。
俺は掴みかかるノーラを片手であしらいながら晩飯を作る。食事に対して手を抜かなくなったカーソンが調理の邪魔をするノーラを一撃でのした。
顔面から地面に追突しかけたノーラを【グデアメール】が慌てて支える。
常に打倒と逃亡の機を窺う弟子の姿を飽きる程見てきた。その度に平均戦闘力が高いこのパーティによって鎮圧されて地に伏している。
全く、懲りない奴だ。
ノーラの手から没収した毒針を弄ぶ。掴みかかる振りで針を刺そうとしていたのか。
今日のノーラの晩飯は一人だけ毒入りだな。幸い味に影響しない無味無臭の毒が塗ってあることだし、この毒なら自然治癒で死なない程度に治るだろう。
解毒の際、腹が捩れる程の便意と腹痛が発生するだろうが。なんつー恐ろしいもんを使おうとしてんだ。
一気に治療する【快癒万能霊薬】を使ったが最後、そいつはその場で脱◯することになるだろう。
これは社会的に抹殺する毒の一つだ。致死の危険性は皆無であるものの、簡単に解毒でき、解毒の際に便意と腹痛を発生させる性質を合わせて、一部の【高位薬師】にしか使用を許されていない。
緊急時に服用する下剤としての性能は最高峰なのだが。実際、この下剤で特殊な毒を盛られた権力者が社会的名誉を犠牲に一命を取り留めた逸話が残っている。
この毒の対処法は時間をかけて自然治癒で解毒するか、特定の中和剤で無効化するしかない。
とは言ってもこの毒はそう出回るものでもない。その原材料が地面に埋まっており、とても希少なものだから。精製できるのもごく僅かとなれば流通することは無い。
それこそ拳サイズの原材料から一滴分となれば当然。
ノーラは何処で調達してきたのやら。時々、この弟子が見せる執念は意外な結果を起こすことがある。
もっとも、カーソンの殺気なき殺意には到底及ばないが。
【グデアメール】の被キルスコアの大部分を【竜王】勢が占めいているように、俺の被キルスコアはカーソンがトップを占めている。
ノーラの殺気マシマシの暗殺など殺気なき虐殺に比べればまだ可愛いものよ。
何故かカーソンは高レベルの《隠蔽》も持っていないというのに《殺気感知》を擦り抜けてくるのだから。
俺は毒入りのミネストローネをノーラに配膳し、【昏倒】したノーラを叩き起こす。
冷めた料理を食わせるのは俺が許さねぇ。たとえ毒入りだろうとちゃんと食えるのであれば完食してもらうぜ。
これはとある夢のVRMMOの物語。
ノーラの過酷な鍛錬は起きて寝るまで続く。全ての行動が鍛錬と化し、睡眠導入時は強制的にリラックスさせられることで精神的疲労を持ち越させない。ルンバの栄養バランスを考えられた完璧な食事は肉体疲労回復と超回復に特化しており、【快癒万能霊薬】では直せぬ身体的異常を根本的に治癒させる。
子供の教育方針はどれにする?
- 蠱毒にぶち込む
- 普通の子供のように育てる
- 子供の為だけの揺籠()で育てる
- 放任主義。子供は勝手に育つ
- 帝王に愛など要らぬ!!