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海法さんだけのために書くのは労力の無駄なので、みなさんに向けて書きます。『トランスジェンダーになりたい少女たち』について。もっとも、これまで書いたことの繰り返しです。 『少女たち』の出発点は「性別違和を訴えてトランスジェンダーを宣言する少女たちが最近になって急増している」という観察事実です。シュライアーは主にリットマンの論文に依拠していますが、この事実は欧州でも見られており、キャスレビュー最終報告書の24ページにイギリスでのデータがあります。キャスは「指数的増加」と表現しています。従って、シュライアーの出発点は間違っておらず、ジャーナリストがこれを追うのは筋が通っています。 シュライアーはそれが学校やネットを通じて少女たちに「伝染している」と想定します。これもリットマンに依拠しているといえます。 取材の結果、シュライアーが問題として提起したのは(1)性別違和を訴える生徒たちへの学校の「不適切」な対応(2)安易なジェンダー肯定医療(3)ネット・インフルエンサーの悪影響、です。これらはシュライアー独自の調査結果といっていいと思います。特に1と2はアメリカ特有の問題です。シュライアーの本はこれらを今から対策すべき問題として提起しています。それがこの本の主眼です。 キャスレビューはイギリスのものだし、はじめから医療にフォーカスしているので、シュライアーとは視点が違います。ただし、キャスレビューは専門家の見地から思春期ブロッカーが性別違和対策として有効であるエビデンスはないとしており、直感的な記述に留まっていたシュライアーの主張(上記2の一部)に医学的裏付けを与えた形になっています。 シュライアーの本の主な論点のひとつとしてSNSや交友関係の影響がありますが、これらについては状況の記述に留まっており、疫学的裏付けがあるわけではありません。可能性の域を出ないと思います。 シュライアーが取り上げている主な問題はこれだけです。最後に彼女が考える対策が開陳されていますが、これらにはエピソード以上の裏付けはありません。その点、キャスレビューは子供や若者の性別違和に医療がどう向き合っていくべきかの提言があります。というか、キャスレビューはそのために書かれた報告書です。 『少女たち』とキャスレビューは目的が全く違う文書ですが、「性別違和を訴える子供や若者(特に少女)が増えている」という出発点は共通しており、またそれに対する医療が不適切だったという主張でも(英米の違いは大きいですが)共通しています。 『少女たち』をヘイト本と呼ぶ人たちがこの本のどこをもってヘイトと判断したのか、僕には理解できません。キャスレビューと照らし合わせてみても、問題意識は特に間違っていないと思います。医学的・疫学的エビデンスが欠けているところは、専門書ではなくジャーナリズムだから仕方ないのではないでしょうか。少なくとも、この問題を提起した点で価値のある本だと思います。 なお、客観的な記述だけがほしいかたはキャスレビュー最終報告書をお読みになるといいでしょう。こちらはイギリスの公的な報告書であり、ジャーナリズム的なセンセーショナリズムとは無縁のものです。

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Macoto Kikuchi/physicist/thereminist/psychedelic rock. 菊池誠。物理学者、テルミンとサイケなロック。放射線の本やニセ科学の本。反緊縮・反放射能デマ・反反ワクチン・変拍子。意識の低いリベラル。第十回星新一賞優秀賞。運営スタッフが書いています
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