バザーで掘り出し物が無いかこの前フレンドになったレッセルとぶらぶらしている。
オススメの店やお互いのことについて話しながら歩いていく。
「じゃあ、両親の都合でレジェンダリアから来たので?」
神妙な顔をしたレッセルが頷く。
「レジェンダリアは内乱の兆しが視えかけているのですよ。亜人種の格差もありますし。これから政権騒動が起きるだろうから、と。」
レジェンダリアはいかにもファンタジーな国だ。自然魔力が豊富であり、魔道具などの魔力製品を主に輸出している。
国民はエルフや吸血氏族、獣人や妖精など様々だが種族同士の軋轢が生じている部族もいる。
「特に吸血氏族の迫害は酷いですね。昔は一大勢力として栄えていたのですが【鮮血帝】の死後、復権しないように他勢力から押さえ込まれているのが現状なのです。」
夢が無いな。ファンタジー世界の住人が現実世界のような近代的な生活をしていればそうもなるか。
「あっ。あそこにあるあの店は質が良いアクセサリーが売っているんです。カルディナは普段から暑いので熱耐性のアクセサリーが売れ筋だったりしますね。こういった魔道具やアクセサリーはレジェンダリアの自然魔力が高い環境で作られているんです。」
ほう。アクシデントサークルとかいう現象が起きるんだっけ?
「ええ。街なんかだと魔力を散らす魔道具が設置させているんですけど、街の外はそうでも無いので、予想外の事態に巻き込まれたりもしますけど。最悪の場合、気づいたら深海や上空だったっていうケースがあってもおかしく無いですね。」
怖えな。ファンタジーの国っぽいが政治が泥沼、環境も魔境かよ。住人も逞しくもなるわ。マスターの増加とかで一番大国の中で混乱がなかったのも頷ける。
「まぁ・・・結構皆さんどうしてそうなったのかわからない現象に慣れていますから・・・アクシデントサークルで超級魔法がすぐ側で発動した時は生きた心地がしませんでしたけど。」
超級魔法とな。超級職の奥義相当の魔法なんだっけ?
「そうですね。私自身戦闘職に詳しくは無いのですが、超級職は特別な存在ですから。アクシデントサークルが特に魔力が濃くて運が悪かった時発動しまして。発光したかと思ったらサークル内の物質が塵になってました。」
サラサラ〜って風に吹かれて森だった場所がモンスターごと拓けた空間になってたんですよ。他の魔法だったら余波で死んでいたかもですから、運が良い方なんですけど。レッセルが手振りを交えてそう言った。
レジェンダリアは魔境だな。俺行きたく無いわ。
「い、一応対応策はあるんですよ?《魔力感知》等のスキルが無くても自然魔力が色づく程濃いですからアクシデントサークルの予兆とか分かりますし。《魔法隠蔽》が掛かったアクシデントサークルは逆に魔力が無くて分かりやすいです。」
まぁ、魔力が無くて魔道具の有効範囲だと思った過去の人が死亡した事故もありましたけど。レッセルが付け足すようにボソッと呟いた。
そして《聴力強化》を【斥候】で習得している俺はバッチリ聞いてしまったが、何も聞かなかったことにした。そして密かにレジェンダリアに行く事は無いであろうと心に決めたのだった。
そんな年がら年中危険に塗れてる所に行けっか!!汚染地帯の方がまだ危険が見えるだけでも有情だわ!
結局バザーでは目利きが効く【商人】達に掘り出し物を掻っ攫われていて、良いお店を教えてもらうだけの結果に終わったが、危険地域を事前に知れたのは良かった。
・・・・・
さあ。お待ちかねの【もかでぃあ】の再会日だ・・・
マニゴルドがすごく微妙な顔で【もかでぃあ】を入れているであろうジュエルを持って、待っていた。
「ルンバ。お前の【もかでぃあ】なんだか・・・」
・・・【もかでぃあ】に何かあったのか?深刻そうでは無さそうな表情だが。
「【高位従魔師】が依頼を失敗してな。というより手がつけられなかった。俺もあれは仕方が無いと思う。」
依頼というとダイエット兼戦闘訓練か?【もかでぃあ】のダイエットに失敗したとか?
「いや。もっと根本的な所だ。お前は【もかでぃあ】が他の生物に潜り込めるのを知っていたか?」
無理でしょ。あの体型だぞ。破裂するわ。
「だろうな。だとしたら隔離の時点で手遅れだったか。」
さっきからどういう事か全くわからんのだが。
「お前の【もかでぃあ】が初日から依頼した【高位従魔師】のテイムモンスターに潜り込んで全然出てこなかったんだ。餌で釣ろうとしても反応せずテイムモンスターから栄養を徴収していてな。」
マジか。全部ダメだったパターンなのか。
「あぁ。現にこのジュエルには【高位従魔師】のテイムモンスターが入っている。【もかでぃあ】ごとな。」
うちの子がすみませんね。
「いや、そういう種族であるならば仕方ない事だ。【もかでぃあ】にはダイエットも戦闘訓練も必要ないだろう。おそらくジュエルから出したらお前に潜り込むだろうから。」
マニゴルドは「《喚起》」と言って中に入っていた【ハイエンド・ステルス・ドラゴン】を外に出した。
心なしかやつれた【ハイエンド・ステルス・ドラゴン】の全身から光の粒子が溶け出して、膨れた蛙のようなシルエットに整形されていく。
そこには隔離の時よりも大きく、ツヤツヤとした【もかでぃあ】の姿が。大型モンスターである純竜の【ハイエンド・ステルス・ドラゴン】よりも体積が大きい。
そして今までの宿主にペコリと頭を下げると光の粒子に戻って俺のアバターに入っていく。
そしてステータスを確認してみると【もかでぃあ】分のステータスが俺に加算されていた。カーソンよりも多い加算だ。
いつの間にか、アイテム化するドラゴンだった【もかでぃあ】が進化して不思議生物になっていた。
ドラゴン?ドラゴンとは一体・・・?
そして視界内にバフ表示が。デフォルメされた【もかでぃあ】の姿が表示されている。
特殊バフ【もかでぃあ】?
脳内交信してきた【もかでぃあ】の面倒臭そうな説明によると俺が死亡した時は自動でアイテムボックスに帰るらしい。
なのでアイテムボックスは【もかでぃあ】専用の部屋にしてほしいそうだ。
そして自動清浄、空間拡張、高耐久小型のアイテムボックスを指定した。
いつの間にか我が子がよく分からない成長をしていた件。
なんか知能も発達しているような気もする。
【ディスマキア・ブレンド・ドラゴン】
それが【もかでぃあ】の種族名だ。
固有スキルは《無形竜器》と《自動帰還》の二つのみ。
戦闘スキルとか耐性スキルも一切ない真っ白なスキル欄。
ステータスは純竜級のステータス。SPとDEX、LUCが異常に高いが、逆にSTRやAGI、ENDと言った戦闘に関するステータスが低い。全く戦う気が無いステータスだ。
《無形竜器》はアイテム化だけでは無くバフ化まで可能にするスキル。特殊バフ【もかでぃあ】化だ。
《自動帰還》は宿主の死亡時に安全地帯に転送されるスキル。テイムモンスターと主人の位置を入れ替える転送系スキル《キャスリング》に似ているが、運用目的が思いっきり私心的だ。
うん。まぁ良いか!!
俺は情報の密度が大きすぎて考えるのを止めた。
しかし俺には【ハイエンド・ステルス・ドラゴン】よりも栄養が足りなかったらしく、カーソンの方に引っ越してしまった。私は悲しい・・・。
よりカーソンが強化?されたが、カーソンが特に加算されたステータスを使う事は余りないんだが・・・
一体カーソンはどこに向かって行くのだろうか?
結構マスター共々、特典武具とか色んな要素が入り混じっていて、どんな進化を遂げるのかが全くわからない。
《星の救世》の装備枠が追加されるのか、【もかでぃあ】の加算ステータスを活かすのか、マイナスLUCになった経験がどう影響するのか。
マスターの死亡回数も多い。ジャイアントキリングを超級職では無い身で複数経験している。
全く、デンドロは予測がつかないのが楽しくて堪らない。
【ヘイロン】との戦いで緊急進化とやらを経験してから二ヶ月ほど。
勝つ為に代償覚悟で選んだとはいえ、2形態も差をつけた同期達が掲示板で煽ってくるのが良い加減うざったくなってきた。
俺も特典武具5個所有実績で煽り返して、掲示板住人ごと憤死させているのだが。
お陰で結構ヘイトを稼いで、掲示板暗殺チームが再結成されそうだ。
しかし、俺が以前暗殺チームを全滅させた時に結んでいた【契約書】で、俺への襲撃を禁止している。
より具体的に言えば、襲撃の意思を持った時点で【契約書】に違反したことになる。
過去に、一対多数が勝てるわけがない、と思っていたゴミどもは快く【契約書】にサインした。
【契約書】の勝利条件を荒唐無稽の産物と侮ったツケが、今、首輪となっている。
襲撃の意思を持った奴が【契約書】を破った瞬間、奴らは大通りで変態的行為を強制されて社会的名声を失うことになっている。〈自害〉も禁止された状態で。
ついでに連帯責任制だ。破った奴の名前がサインした者全員に通達される。
奴らに下手に罰金とか状態異常を付与しても止まらないだろう。
しかし全裸で公衆の面前を走り回る事を強制されるのであれば。
奴らは踏み止まる。決して消えぬ傷を負うであろう事は確実だからだ。
しかし嫉妬で理性を失って先走った阿呆がいてもおかしくは無い。
世の中には理屈だけでは納得できない人間というのは、一定数いるものだから。
その時は連帯責任制の【契約書】のペナルティで、デンドロのニュースの一面を変態集団の記事で埋め尽くすことになる。
黄河の国際的評価も落ち込む。変態の国と呼ばれるようになる。
暗殺チームのメンバーのヘイトは、特典武具独占者である俺から、先走った阿呆に向けられる予定だ。
「先走った阿呆の所為で!」と。
なぜなら。
阿呆が襲撃の意思を持たねば、【契約書】はデンドロがサービス終了するまで効果を発揮せずに終わる筈だったのだから。
黄河は騒がしくなる事だろう。変態集団騒ぎから阿呆の粛清運動のダブルパニックで。
事態の鎮静に【上位契約書】で黄河に協力する【拳姫】も、おそらく動員される。
黄河帝国のプレイヤーズイベント第二弾だ。
国を巻き込んだ粛正の嵐が吹き荒れる。
俺は事件当日に黄河にいる事は無いが、【ツチノコ地竜開拓団】のサブマスター君に録画を頼んである。
事が起きた時、彼はリアルタイムで収集した情報を余さず俺に送ってくる手筈になっている。
気分はチョコラータだ。彼にはカルディナの高級角砂糖を3個送っておこう。
やっている事は吉良吉影のキラークイーンと同じだが。
条件を満たした者(俺に危害を加えようとする者達)を(社会的な被害を発生させる)爆弾に変える・・・それが俺のスタンドの能力・・・
過去に掲示板の住人に襲撃されておいて、俺が何もしないと思ったか?
俺は愛すべき阿呆に対し友愛を抱いていると自負しているが、残念な事に聖人ではないと自覚している。
聖人では無いので、愉悦を得られる騒ぎを見逃さないようにバッチリ対策してあるのだ。
以前の「龍都性嵐の乱」で得た反省を生かして。
決して届かぬ安全圏から。その時をずっと待っていた。
これはとある夢のVRMMOの物語。
ある日、黄河の各地でマスターの変態集団が発生した。
前兆は全く無く、連携した様子もないというのに、彼らは息を合わせたかのように出現する。
変態集団は揃って全裸で、必死な様子で叫んだ。ティアンの官憲から走って逃走しながら。
ーーー俺達を殺して止めてくれ!
変態の暴走は止まらない。ログアウトしても無駄だ。アバターの所有権は管理AIにある。
そして管理AIは【契約書】を履行する事も業務内容としている。
【契約書】のペナルティ発動から、サインした者がデスペナルティになるまで。
【契約書】は無慈悲に契約内容を発動する。
黄河は桃色の桃源郷から、肌色のモザイクの国と化した。
悲痛な悲鳴と報復の意思に染まった怨叉が黄河に響き渡る。
かつて「桃源郷」発言をした、マスターが言った。顔を未熟な桃のように青くして。
「地獄絵図のようだ。吐く空気がゲロのような酸っぱい匂いがする。」
後にその遠隔自動型スタンドに似た性質から「バイツァ・ダスト=第3の爆弾 事件」と呼ばれる悲惨な事件の幕開けであった・・・
ルンバとカーソンの子供は何人欲しいかアンケート
- 一人(抗菌と同じく特典化)
- 双子
- 五つ子(五等分の花嫁√(嘘))