これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

16 / 114
魔王降臨祭

はあっはあっはあっ!

 

俺は乱れた呼吸を押さえつけるように整える。2体のUBMを討伐した猛者である筈の俺はデスペナの危機まで追いやられていた。

 

市街の壁に隠れた俺が息も絶え絶えに呟く。

「ご、ゴミどもめ。やれば出来るじゃあないか。」

 

彼方此方で俺を探して血祭りに上げようとする音が聞こえる。

 

胸に掛ける蜘蛛のアクセサリーになった【ヘイワン】が言った。

『どうする。此処で休んでいるだけでは奴らに見つかり、逃亡もままならんぞ。』

 

呼吸を整えてポーションを飲み干した俺は言った。

「大丈夫だ・・・俺に秘策がある。奴らを纏めて一網打尽にするしか方法はない。」

 

 

・・・・・

 

俺がゴミどもに狙われているのには理由があった。

 

それは俺が現時点のプレイヤーの中で最多UBM討伐者である事が掲示板のゴミどもに漏れた事にあった。

 

その中でも《指揮官》と呼ばれるコテハンによって面白半分嫉妬半分の掲示板住人を扇動し、俺を誅殺する暗殺チームを編成した。

 

此処での《指揮官》は美少女ゲームの廃課金ガチ勢だ。ガチャの爆死をも恐れぬ神風特攻で有名なコテハン勢である。

 

それに対して、俺は奴らのガス抜きついでに【契約書】で奴らと契約して勝敗で賭けをした。

 

【契約書】には賭けの履行の強制と時間帯や勝敗設定、場所、ルール設定などを盛り込まれている。

 

話を戻すが奴らはエンブリオやジョブ構成を馬鹿正直にログに残す素直なゴミどもではない。

 

総合レベル、役割、名前のみをログに残し、《指揮官》がゴミどもを前衛、中衛、後衛、後詰、遊撃の部隊に編成する形になる。

 

希望制などしていたら時間が掛かるから当然の流れだった。

 

俺も掲示板で情報を収集して大まかな参加者人数と傾向を掴んだが、エンブリオの多様性に手をこまねいていた。

 

直接的な殺傷力を持っていないエンブリオでも、他の火力と組む事でシナジーを生み出す事ができる。

 

だから、俺は索敵の役割をログに残したゴミどもを開始時間前に、刈り取った。なんなら中には女体化した掲示板住人Fも混ざっていた。

 

開始時間は決められたが、ルールには個人的なPKは制限されていないからだ。

 

参加した掲示板住人たちの中には女体化したまんまのマスターがちらほらいた。

 

お前らまだデスペナになって無かったのかよ。

 

まあ、面白半分で暗殺チームに編成される奴らはお祭り好きの愉快犯どもばかりだからな。騒ぎに乗じて女体化してても可笑しくは無い。

 

丁度良いから俺がお前たちを立派な男にしてやるよ。デスペナでな。

 

敵に回った索敵は生かしてて益は無いから殺す。俺には情報戦に使える特典武具があるが、ご開帳する機会はまだその時では無いからだ。

 

前衛や後衛はフレンドリーファイヤーや、いざと言う時の肉壁といった役があるので此方が優先になる。

 

火力と射程に長けた後衛はDPSそのものは低いものの、護衛と防衛に向いた後詰部隊が居るから手を出す事が出来ない。

 

中衛の中にはヒーラーやバッファーも混じっているのでマジで潰したいけど。位置的に無理だった。

 

索敵の次に最も狙いたいのは《指揮官》その人だ。奴は中衛にて指揮を取っている。しかも最悪な事に集団指揮と集団バフに特化したエンブリオ持ちだ。

 

遠距離攻撃手段が無いと割れている俺にとって、貝のように閉じこもられるのは厄介極まりない。

 

誰かアイツを前線送りにしねぇかな。いたらそいつが戦犯だ。

 

まぁ良い。俺が厄介な索敵を刈り取ったのは、居場所を突き止められて攻撃されない為という防衛的意図だけでは無い。

 

突発的奇襲の効果を飛躍的に上昇させる攻撃的意図のためだ。

 

 

しかし、秘策を実行するには奇襲し易い市街戦ではなく、郊外での拓けた空間が望ましい。

 

奴らに数の利を与える事になるが、上手くいけばハマる筈だ。

 

まずは如何にして街から脱出して自然に誘い出すか。

 

「見つけたぞーーー!血祭りに上げてやれーー!!」

 

奴らに見つかったか。そうだ。その手で行くか。多少の犠牲は払うがデスペナよりかは幾分かマシだろう。

 

肉眼で目視された俺はダッと身を翻して逃走を開始した・・・

 

 

逃走を開始して十数分。遊撃部隊に逃走経路を阻まれたが、問題はない。寧ろ好都合。

 

遊撃部隊は【暗殺者】や【密偵】、【斥候】、集団戦に向いていないロールプレイヤーなど部隊とは名ばかりの散開っぷりを見せている。

 

しかし《指揮官》に取って、指揮がしにくい、各個撃破されるといったデメリットは無いにも等しく、バラバラに散開されるのはメリットでしかない。

 

索敵役を皆殺しにされた今、遊撃部隊は接敵位置を知らせる鳴り物兼足止めを期待されているのだから。

 

今ので《指揮官》に範囲内の街の外に出ようとした事が知られた筈だ。このまま接敵を繰り返して強引に突破していく。これが俺の作戦だ。傍目から見て街の外で融合からの総力戦目的に見えるだろう。

 

遊撃部隊の女体化掲示板住人C、Sが手を組んで襲い掛かって来た。

 

俺は瞬時にスクショを撮ってから、紋章にいるカーソンとの部分的融合でステータスが部分的に跳ね上がった異形の巨腕で奴らをプチっと押し潰した。

 

カーソンはマスターとの融合を特性としたエンブリオだ。コツを掴めば市街地でも高いステータスを生かす戦闘が出来るようになった。

 

融合を解除して走り出す。巨大な腕は戦闘では非常にアンバランスで一瞬しか使えないからだ。

 

遊撃部隊は高いAGIでそれぞれがバラバラに接敵して各個撃破された事で壊滅した。

 

 

 

街の外に出た瞬間カーソンが《星の救世》を発動させた。

 

《星の救世》は緊急進化で第2形態に進化した際、《穢食星浄》の名前と内容が変化したスキルだ。

 

変化したスキルの内容は、カーソンと融合する際に装備も融合する事。

 

融合した装備は融合時の巨体に合わせてサイズが変化し、加算したステータスが適用される。

 

ただし融合できる装備枠は今のところひとつだけだ。融合する装備を変える時は一度融合を解除してからもう一度融合する必要がある。

 

【瘴鼠衛衣】と融合して巨大な鼠の異形になった俺は《採掘》スキルを発動させて地面に潜って行った。

 

 

【指揮官】《指揮官》

奴は地面に潜ったか・・・。索敵役のマスターが初期に殺られたのが痛かった。中には街中では使う機会が無かったが、地中探査を持つエンブリオが居たというのに。

 

戸惑う指揮下にジョブスキルの《拡声》で指揮を出す。

「奴は地面の中から奇襲するつもりだ!モンハンの地中から襲撃するモンスターだと思っとけ!!人型に囚われるなよ!奴はガードナーと融合する事で巨体に成れる!!」

 

全体を散開させて陣を敷く。密集するのは悪手だ。巨大化して攻撃範囲が広がった奴にとって対集団戦は得手とするところ。

 

「ならば奇襲した場所ごと袋叩きにするしかあるまい・・・」

 

《拡声》で後衛部隊にフレンドリーファイヤーに構わず出てきたモグラを叩けと指令を出す。敢えて他部隊の面々にも事前通告を出す事で混乱を避ける。

 

さあ、どう出る。最多UBM討伐者よ・・・

 

【開拓家】ルン・バ・ンル

 

《指揮官》が散開させたか。だが問題はない。これからする事に一切の支障足りえない・・・

 

俺は【瘴鼠衛衣】をハリネズミみたいに鋭く、細い針状にミッと地上に向けて《採掘》込みで伸ばした。巻き込まれた不幸なプレイヤー達が串刺しになっていく。

 

それはかの串刺し公を想起させた・・・

 

それだけでは終わらない。俺は口の中に入れた薬品類を容器ごと噛み砕いて摂取した。

 

自分の血管に【瘴鼠衛衣】を注射状に変形させて吸い上げ、ポンプのように地上に血液を送り出していく。

 

送り出された血液は針の先から霧状に広範囲を散布した。

 

血液の霧を吸い込んだゴミどもがバタバタと倒れ込んでいく。

 

【麻痺】【石化】【強制睡眠】【拘束】【脱力】といった無力化メインの状態異常に罹患して。

 

俺は《星の救世》でそれらの耐性を獲得している為、地上に散布された血の霧は数秒で無害化する環境に優しい仕様になっている。万が一ティアンが巻き込まれても安心のラインナップだ。

 

《同病哀葬》でも良かったかも知れないが精神系状態異常である【強制睡眠】は対象外なのだ。

 

状態異常対策をしている残党が幾人か居るが、最早無駄な抵抗。

 

 

暗殺チームは一人一人丁寧にプチっと潰されて全滅した。

 

 

チューーチュチュチュチュチュ!!!!

 

 

マスターが死亡した光の粒子群の中で鼠の異形が勝利の哄笑を上げた・・・

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

魔王鼠の渾名が掲示板に投稿された決定的な瞬間であった・・・

ルンバとカーソンの子供は何人欲しいかアンケート

  • 一人(抗菌と同じく特典化)
  • 双子
  • 五つ子(五等分の花嫁√(嘘))

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。