これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

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問われる存在

◇地竜街セーブポイント

 

「マスターッッッ!!?」

マスターが急にログアウトしてからログインしたと思ったら、その場で倒れた。

 

ワシは心臓がキュッと締まるような感覚を覚えた。一体マスターの身に何が起きている・・・?

 

エンブリオが見る事ができるマスターのステータスに精神系状態異常に罹患していない表示がされていないのが、この場で起きている現象の異常さを引き立てていた。

 

調べて反応を試したが、マスターは意識が無い。読心も出来ない。ステータスは健常そのもので【気絶】や【昏倒】すら罹っていないのに。

 

マスターを背負ってこの場から街の外まで移動する。

 

何が起きるにせよ、この場はマスターではないティアンが多い。巻き込んでしまった場合の被害が分からない以上、人気がない広い空間に移動するしかない。

 

「主様・・・おんしの意識は何処に行ってしもうたんじゃ・・・」

 

◇■ ■ ■ ■ ■ ■

 

「・・・なんだ、ここは。」

俺が異常に気づいた瞬間地竜街の街並みがボロボロと崩壊していく。それだけじゃない。

 

「空が・・・」

 

晴天の空が剥がれていく。剥がれた箇所は黒い空間が広がっていた。

 

『ようこそ。化身の気配を纏うものよ。』

 

それはいきなり視界の中に入ってきた。

 

黒い大きな蜘蛛。甲虫のように硬そうな甲殻を纏っていると思いきや、次の瞬間には黒い靄になって、甲殻に戻る。

 

その身体が実体かどうかも怪しい。

 

世界がいつの間にか変わって森の中にいた。

 

『ここは私の世界。私だけの私の為にある世界だ。』

 

コイツが怪しいラーメン屋の正体って訳か。俺がおかしくなっていた時カーソンが倒れていたが彼女は無事だろうか。

 

『化身どもは私を【幽智霊血 スゥチェング・ヘイワン】と呼ぶ。』

 

森の地面と樹々を押し退けて神社の境内が迫り上がってきた。

 

『汝を招いたのは我が証明に参加して貰いたく。』

 

何やら怪しい展開になってきたぞ・・・

 

『私の力は化身どもに値するか証明を。』

 

俺は挙手して言った。ちょっと良いか?

 

『何だね?』

 

化身て何ぞ?超次元サッカープレイヤーの背後霊?

 

『・・・そうか。奴らは知らせていないのか。良いだろう。少し講義してやろうか。それもまた一興・・・』

 

勝手に納得して目の前で自己解決されたが、良いだろう。聞かせてくれや。

 

『遥か昔、化身どもは宙から降りて来た。それらはこの世界の異物だ・・・』

 

壮大な噺が始まった。奴は全然話す機会が無さそうなエリートボッチっぽいのに、要点を纏めて話すのが上手かった。

 

要は宇宙から来た無茶苦茶強い十二体の異物が、現地人の横暴に報復して大陸荒らして、今世界の裏から管理者として暗躍しているらしい。

 

おぉ。このゲームにそんな背景が。

 

そんな壮大な舞台の上で俺は賭け事と飲酒しかしていない気がした。が、きっと気の所為だと思った。

 

で、そんな異物の気配が、僅かにさせているのが俺らしい。もっと言うと“冒涜の化身”の人形に似ているとも奴は言った。

 

成る程。冒涜の人形ね。

 

嗚呼、このゲームのジャンルはハイファンタジー系VRMMOだと思っていたのだが、ディストピアだったのか。

 

どう考えても培養機からリスポーンするクローンのホムンクルスとかその類じゃんね。プレイヤーって。

 

遥か昔の事を知っている蜘蛛さんは当時生まれておらず、先祖代々から受け継いでいるらしい。

 

先祖の記憶ごと。

 

『我らは現に流離う定命に在らず。夢、幻の世にて現世を観測する傍観者故、彼我の境界の境は無しに等しい。』

 

生まれた蜘蛛さんは生きるのに疲れた蜘蛛さんのバトンを継ぐ。ただ生きる目的が何であるかも知らずに。受け継いだ記憶が目的であり手段の蜘蛛生を過ごす。

 

そして全記憶のバトンを渡した後に自分を漂白して世界に還るんだとか。

 

だがこの蜘蛛さんは一味違う蜘蛛何だと。

 

『生きて死ぬ。それが生の定めであるならば。』

 

英雄譚に強い憧憬を抱いた蜘蛛は観測された英雄達のように燃え尽きるような生を遂げたいらしい。

 

『灰になる闘争を。目を焼く命の輝きを。存在全てを賭した我が生の終着証明をここに。』

 

◇地竜街郊外

マスターは未だ変化が無い。酷く寂しい。いつもの様に話しかけて欲しい。

 

ブシュウ!!

 

マスターの脚を突然見えない何かが貫通して血を吹き出した。

 

「マスター!!ぽ、ポーションで治療を・・・!!」

 

必死の治療も追い付かずに、着ている衣類を傷つけずに体のあちこちが傷を負っていく。

 

このままではマスターが・・・

 

【同調者マスター生命危機感知】

【同調者生存意思感知】

【<エンブリオ>TYPE:メイデン【星浄巫蠱 カーソン】の蓄積経験値――グリーン】

【■■■実行可能】

【■■■起動準備中】

【停止する場合はあと20秒以内に停止操作を行ってください】

【停止しますか? Y/N】

 

「これは・・・」

 

◇■ ■ ■ ■ ■ ■

 

気に入らない。そう思った。

 

奴はただ希死念慮を患って死に希望を抱いただけの抜け殻だったから。

 

殺してくれ。奴はそう言ってるだけなのだ。自分の能力も大部分を封印したまま。

 

奴の本気は。決して反撃が掠ることのない、夢の中からの現実に対する幻惑にある。

 

奴が出したショートソードで奴の脚の刺突を受け流す。恐らく奴の能力自体非戦闘系の傾向だから物理ステータスはさほどじゃ無い。

 

しかし知性が高く、経験が深い。英雄達の技巧をマジマジとTVの前でヒーロー番組を見てる子供のような目で見ていたのか。

 

「お前は!!今までの蜘蛛とは違うだと!?イイヤ、違わねーよ!!」

 

俺は必死こいて捌きながら叫んだ。気に食わない奴の全てを否定してやりたかったから。

 

「証明だと!?今までジッと石のようにしてた奴が!!いきなり死闘繰り広げて何が証明できるってんだ!!」

 

「何も出来はしねーよ!!お前はただ空っぽなだけだ!言えよ!死にたいだけだって!!」

 

『汝に何がわかる!!我は汝より遥かに生きている!!遥かに智慧を蓄え、技を盗み、誰よりも遅々と力を時間をかけて、蓄えた!』

 

『我は証明する!!得た全てを、憧憬の技を出し尽くし、血を撒き散らす、泥に塗れた決闘を以って!!』

 

奴の殺意が込められた脚が俺の足を貫いた。脚が引き抜かれる。

 

「お前は、」

 

殺意と憤怒で染まった目でこちらを見る蜘蛛が言わせまいと脚で体を刺し貫いていく。

 

まだ終われない。此処で死んだら、もう奴はこの世界に俺を招く事は無い。

 

今勝って奴をねじ伏せるしか無い。

 

奴は次に招いた他のマスターに口で何言おうが、きっと殺されようとする。

 

【同調者マスター生命危機感知】

【同調者生存意思感知】

【<エンブリオ>TYPE:メイデン【星浄巫蠱 カーソン】の蓄積経験値――グリーン】

【■■■実行可能】

【■■■起動準備中】

【停止する場合はあと20秒以内に停止操作を行ってください】

【停止しますか? Y/N】

 

奴に勝てるなら。反射的にNを押した。

 

【■■■による緊急進化プロセス実行の意思を認めます】

【現状蓄積経験より採りうる241パターンより現状最適解を算出】

【対象<エンブリオ>:【星浄巫蠱 カーソン】に対して■■■による緊急進化を実行します】

【負荷軽減のため次回進化までの蓄積期間を延長します】

 

【■■■――完了しました】

 

 理解する間もなくウィンドウに新たな文字列は表示され、

 

【――FormⅡ 【The Downloaded_Saviour】】

 

ーーダウンロードされた救世主ーー

 

「来い!!カーソン!!!」

 

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

 

この小説はギャグコメディ世界だ。身を引き裂くような悲劇は要らない。後味の悪い結末も。

 

だから。悉くを覆し、破滅に走る意思を暴力でねじ伏せる。

 

手を伸ばせ。手の届く全てを救え。

 

 

「マスターーーーー!!!」

 

《星の救世》

 

・・・・・

 

それは嘗て瘴鼠と呼ばれた鼠だ。

 

内乱で汚染された土地で、

 

汚染された母体から身体的欠陥を抱えたまま生まれて、捨てられた。

 

しかし、幼い鼠には強烈なまでに生への執着心があった。

 

ドブを啜り、土を齧り、死体を漁る日々。汚染は体を蝕んだが、一定以上は進行することは無かった。

 

汚染と共に産まれ落ち、汚染に守られて生きて、汚染と共に死した鼠の最後の光景は。

 

晴れ渡る蒼い空。一切汚染されていない遥か彼方の上空。

 

生きたい。それだけを願って地を這いずる鼠は、空は敵しか居なかった。

 

上空から飛行する捕食者にいつも怯えていた。

 

命日となったこの日は、恐怖の象徴である空を、綺麗だ、と初めて思った。

 

 

それは生き続けた鼠の人生だ。

 

それは汚染と共にあった鼠の願いだ。

 

それは穢れなき世界。それを迫る命の危機さえ後回しにして、尊いと思った。

 

 

だから。これはちっぽけな鼠の世界への挑戦であり、生命の証明だ。

 

 

 

夢幻の世界に侵入したカーソンと融合する。

 

奴が脚で融合をさせる前に殺そうとしたが、薄っぺらい【瘴鼠衛衣】で止められた。

 

【瘴鼠衛衣】は俺たちとも融合していた。今は加算されたSTRで動かせる。

 

《窮鼠精命》!

 

発生した傷痍系状態異常のデメリットを相殺した。

 

穴が空いた足はもう充分に動かせる。

 

奴が夢幻の世界の主人としての力を奮い始めた。地面が金属をも穿つ程に尖り、空が質量を持ったブロックになって降り注ぐ。

 

それらを巨大な鼠の怪物となった俺たちが俊敏に跳ね回って回避し、強固な毛皮となった【瘴鼠衛衣】で弾いた。

 

奴の朧げな巨体を殴り飛ばす。

 

奴は痛みを知らない。初めて感じた感覚に悲鳴をあげなかった。憧憬の矜持か。

 

そのまま馬乗りになってボコボコにする。

 

グッタリとした奴に語りかける。

 

「これが証明だ。たかが古代伝説級ぐらいで意思を曲げねぇってな。」

 

「お前は無為な生き方に耐えられなかっただけだ。だから華々しく死のうってなったんだろ。永遠に続く観測に終止符を打って、最後に空虚な使命をぶち壊してな。」

 

奴は大人しくなって考え込んでいる。

『・・・・・』

 

「生きたいって言えよ。こっちの世界に来いよ。劇を鑑賞するだけが生きがいなんかじゃねーぞ。」

 

フッと脱力した奴が言った。

『我は、そうだな。耐えられなかったか。この使命を。背負い続ける事を。』

 

『現の世界は楽しいか?争いに満ち、悲劇が起きる。我らはそれを観測し続けた。』

 

『一生報われない英雄がいる。嘆き叫びながら死ぬ英雄がいる。』

 

『或いは、人間と寄り添った人ならざる人外達も、また然り。』

 

『それでも汝らは証明するか?生きるという苦行の成果を。』

 

「そりゃあ、報われねぇだろうさ。嘆くこともするしよ。」

 

「短い平和を楽しめよ。長い戦乱の記憶なんてポイって捨ててよ。」

 

「過去を活かさない馬鹿で良いじゃねぇか。酒の過ちだって後で笑える話だしよ。過去を省みて賢くなったって知りたくもねぇこといっぱい知るだろうが。」

 

「ウダウダ言って引き篭もってってんじゃねぇ。この種族単位のニートどもが。」

 

『フッ。ふふふふふ。ニートか。傑作だな。そうか。ただ観ているだけで何も生み出さなかったのは、我々でもある。紛れもなくニートだな。』

 

『長きに渡るニート生活も終わりにしよう。先祖達よ。これで観測を終了とする。記憶の継承はしない。私で最後の継承者だ。これまでの記憶を選別して破棄する。』

 

『ルンバよ。我を討伐して特典化させよ。大丈夫だ。死ぬ訳ではない。汝の旅が終わるまで共にいる為の最適化だ。我を現世に引き出したんだ。力を貸してやる。代わりに見せてくれ。外の世界を。』

 

そう言ってる奴は目を閉じた。憑き物が取れたかのような晴れやかな表情?だ。

 

「おう。責任でも何でも取ってやんよ。」

 

HAPPY BIRTHDAY。そう呟いてショートソードで奴を貫いた。

 

ルンバとカーソンの子供は何人欲しいかアンケート

  • 一人(抗菌と同じく特典化)
  • 双子
  • 五つ子(五等分の花嫁√(嘘))

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