これはとある夢のVRMMOの物語。   作:イナモチ

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チキンレーサー・ルンバ

カーソンが芋殺害未遂事件から熱っぽい。

 

チラチラとこちらを盗み見るが、目を合わせようとしない。お子ちゃまが、色気付きやがってからに。

 

ハァと溜息をつくとカーソンがビクッとした。この色情メイデンはプライバシーの壁をぶち壊してマスターの思考を読むことができる。

 

ぶっちゃけ血塗れの状態で美少女の魅力をアピールされようとそれは只のサイコパスでしかない。

 

モンスターが死んだら血も消えるとも言えるが、自分の格好を見直す冷静さを失ってしまわれた野生の原始回帰幼女に何をときめけば良いというのだ。

 

マスターのプライバシーを犠牲に思考を読んだ野生の原始回帰幼女は慌てて紋章に入って血を落とした。

 

紋章さんが最近ご活躍されているようだ。幻の3人目かな?

 

にしてもドロップアイテムが美味しい。2人がかりだから回収も楽になる。

 

俺は死に掛けた黄河の荒原を思い出した。群のモンスターは連携を取っていて生前も死後も処理が面倒だった。うちのエンブリオより賢いんじゃないか?

 

あと辞世の句はどうなったのだろう。中々の出来前だったのだが。スクリーンショットをする前に【昏倒】してしまったから今どうなったか全く分からない。

 

案外、猿のモンスターが読んで文明的になったりするかもな。

 

土竜人の故郷はどうなったのだろう。結局今もあのままの土地に住んでいるのだろうか。彼らにとってその小さな村が生まれ故郷である事に違いはない。

 

つれつれと荒原について考えていると、

 

あぁ。きっとあの黄河の赤い荒原がカーソンの生まれ故郷なのだ。そう思った。

 

もし俺が飢えて生肉のドロップアイテムを食べなかったら。土竜人の汚染環境に憤りを感じていなかったら。今のカーソンは生まれなかった。

 

別の側面が出て無機質な機械だったかもしれない。或いは性欲塗れのサキュバスだったかもしれない。機械、淫魔、結界、牢獄。どの側面が出てもおかしくはなかったんだ。

 

紋章からおずおずと出てきたカーソンの頭をポンポンと叩いた。

 

「俺はカーソンが生まれてきてくれて良かったと思ってるぜ。」

 

カーソンは息を飲んで、一泊置いたのちに、言った。

「・・・わしも、今のマスターと過ごせて楽しいと思ってる。」

 

退屈せんで済みそうだしの!そう付け足して彼女はにやっと笑った。

 

◇黄竜山麓 地竜街

 

到着だ。ここ地竜街は鉱山採掘の宝庫であり、温泉街としても賑わっている。

 

そして労働者いるところに娯楽施設あり。なんだと思う?

 

そうだね。酒(飲食業)、女(色街)、賭け事(ギャンブル)だね。

 

ジトっとした目線が降り注いでくるが怯む事はない。

 

ヌーディストビーチの全裸ですが何か?といった開き直り感が羞恥心を発生させないようにするのがコツ・・・!

 

そして上級者である俺は気分が良ければ何処でも全裸になることが出来る自信と実績があった。俺はたとえ子供のダメな大人を見る純粋無垢な視線で咎められても、堂々と開き直ることができる。

 

キリッとした表情でカーソンに向かって言った。

「一緒に混ざるか?」

 

カーソンは温泉とショッピングに行くと明日の昼まで別行動を取ることにした。・・・計算通り。俺はカーソンが思考を読むことが出来る範囲から離れた事を確認して嗤った。

 

いつまでもプライバシーを侵害されていると思うなよ。俺は度重なる現実世界での訓練で思考を覆い隠す事を身につけた。

 

裏の思考を隠蔽して表に別の事を貼り付ける。そうするとカーソンは表を読んで裏で考えている、読心の有効射程を探っていることに気がつく事はない。並行思考、マルチタスクのプレイヤースキルだ。

 

テクテクと道を歩く頬に真っ赤な紅葉をつけた俺は非常に目立っていた。チラチラとこちらを盗み見る人の視線がウゼェ。

 

俺は沸き上がる怒りを焼べてガンを飛ばした。俺の目からビッと放たれた光が緩急を付けて

ククっと曲がり枝分かれする事で、此方を盗み見る人の全ての目を焼いた。

 

俺は目を押さえてのたうち回る野郎どもを尻目にポーションで頬の腫れを消してから賭博場に向かった。TPOってな。今回は国家公認の賭博だ。

 

黄河の賭博場は外観はとても中華風の装飾だが、内部は西洋だ。

 

ルーレットやポーカー、バカラなどマスターには見慣れたものが大半を占めている。

 

店内では黄河風の脚線美を主張する衣装チャイナドレスを身に纏った給仕達が、手に盆を持ち、遊戯する客に酒を配っている。

 

給仕には容姿面接があるのかいずれも美女、あるいは美少女に見えるほどの少年も少数ながら混ざっている。

 

俺はだらしなく鼻を伸ばした。良いね。こういうの。凄い良い!俺は語彙を消失して頭がピンク色に埋め尽くされていた。綺麗な美女にワイングラスに酒を注いでもらう。

 

が、柔かに笑顔を浮かべながら視線を悟らせず、脚線美に夢中だった。ほほう。ムフフ。

 

くいっと酒を喉に通していく。美味い。美女の脚を肴に飲む酒は最高だ!

 

おお、ここに来た目的をすっかり忘れていた。挨拶回りで龍都の賭博場のオーナーに運び屋のクエストを任されたのだ。運び屋と言っても違法な薬物とかそういうのじゃないぞ。手紙だ。

 

ここの賭博場のウェイターとして働いている【詐欺王】への手紙の配達クエストだ。

 

・・・・・

「運び屋か?どんなやつ運ぶんだ?リスクは?」

俺は健全なプレイヤーとして懸念を呈した。国家転覆に携わる予定はないからだ。

 

カーソンは知り合いと話し込んでいて近くにはいない。

 

「安心せ。ただの手紙。これ地竜街の公営賭博場で働く知り合い。渡すだけ。」

 

そうか。なら請けるよ。どんな奴だ?

 

「お前。好きそうな奴。美人だ。【詐欺王】な。今奴はウェイター。」

 

へぇ。美人か。好きそうな奴っていうのがアンダーな意味か容姿的な意味かとても気になるが、まぁ、今はいい。

 

【詐欺王】は【詐欺師】系統の超級職だ。【詐欺師】はアイテムの表示とか、容姿、名前なんかを誤魔化すことが出来る。その超級職は詐欺を働くのに必要なスキルを高レベルで持ってる。そんな認識でいいらしい。

 

【クエスト【配達依頼――【詐欺王】への手紙 難易度:九】が発生しました】

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

・・・・・

ピラリと胸元から出した写真の数々を見る。老若男女様々な姿をしたティナンが写っていた。これら全て【詐欺王】が変装した姿らしい。因みに今ウェイターをしている【詐欺王】の写真は此処にはない。

 

一通りじっと目に焼き付けて写真をライターで燃やして証拠を隠滅した。

 

奴を美女、美少女、美少年の中から探し出せ。そういう事だ。

 

【ルン・バ・ンルはギャンブルを嗜みながらウェイターを目に焼き付けている・・・】

 

【ウェイター照合率25%】

 

【ウェイター照合率50%】

 

【ウェイター照合率80%】

 

【ウェイター照合率99%】

 

【ウェイター照合率100%】

 

成る程な。流石【詐欺王】だぜ。全然分かんね。体格も声帯も誤魔化す詐欺師の面目躍如ってか。

 

だが、怪しい奴には目星を付けたぜ・・・分かるんだよ。匂い、或いは近親感ってやつかね。オーナーが言ってたのはそういう事だ。容姿とアンダーの両方で気が合う奴。

 

んじゃちょいと先達に声掛けて来ますかね。

 

「そこのウェイター。ちょっとこっち来てくんねーか?」

俺はスロットの機体の座席に座ったまま通りがかった美女に声をかけた。

 

「はい。如何なされましたか。」

丁寧な接客が為せる技か、耳に痺れるような声だ。

 

「知り合いから手紙を渡して欲しいって頼まれてさ。」

俺は何も感情を込めずに言った。

 

「アンタだろ。オーナーが言ってたぜ。俺が好きそうな奴だってな。」

 

暫く深い困惑と照れの表情を浮かべていたウェイターだったが、俺の反応が思わしくないのを見るとスッと表情を真顔に変えた。

 

「へぇ。そうか。アンタがオーナーのお気に入りか?好きそうな奴?そりゃどーも。光栄だね。」

 

言葉遣いが粗野になったウェイター・・・いや【詐欺王】だが耳に痺れる声は健在だ。流石プロだ。声のイントネーションが変わるだろうに。振動域を自力で操作しているな。

 

「まぁ座れよ。キレーなウェイターさんと勝負したいんだ。スロットでな。賭け金はこっちがだそう。」

 

俺がウェイター呼びした意味を察した【詐欺王】は表情を接客中のものに戻し、了承した。

 

infinite dendrogramのスロットは現実と同じような仕組みになっている。運営が用意したものか、或いはティアンの賭博の歴史が地球と同じ筋道を辿ったか。今はそれはいい。

 

今重要なのは博徒としてのプライド・・・!

 

奴も博徒だ。奴が賭博場でウェイターとして働いていたのは只の偽装だけじゃない。

 

根っからの賭博好き・・・!奴のウェイターとしての立場は常日頃から賭博場に自然に入り浸る為の背景に過ぎない。

 

パラララララとスロットが心地いい音を鳴らしていく。頼むぜ。俺の賭け金はカーソンが持って行った額を除いた全財産だ。ドロップアイテムはもう換金済みよ!

 

命綱を引き千切って崖に飛び降りるような所業・・・!賭博は胴元が儲かるように出来ている。客が大当てしても店は損をしない。それが可能なように確率を設定している・・・!

 

俺は奴にハイリスク・ローリターンのチキンレースを挑んだ。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

勝ったぞ〜♪

 

俺は膝をついた奴の目の前で小躍りしていた。奴のチャイナドレスがはだけているのを俺は見逃さなかった。

 

「なぜ・・・?此処は初めての筈だ・・・」

 

勝負はついていたさ。最初っからな。

 

「なんだと・・・」

 

お前は俺が決めたルールで自分の賭け金で勝負しなかった。俺は全財産を賭けた。

そういうことだ。賭け事は負けるかもしれねぇのが楽しいんだ。そうだろ?

 

最初っから俺がペースを掴んでたのさ。エンジンがかかっていないスポーツカーよりもエンジンが絶好調の軽トラが勝つに決まってんだろ!!

 

俺はイキった。

 

俺たちの勝負は第二ラウンドに移行した。まだ奴の目は諦めちゃあいねぇ!!勝負師のプライドに火が付いた!ようやくエンジンが掛かったか!

 

第二ラウンドは公営賭博場のバーでの一気飲み勝負だ。

 

奴は超級職でステータスが高いが・・・非戦闘職だ。おそらくDEXとSPに特化している。

 

いや。むしろENDが俺より高くても良い!勝負は不利な逆境が1番楽しい!

 

それで十分!!!

 

お互いのプライドを賭けたギャンブルが 今

 

互いにグラスをつけて鳴らすと グイッと飲み干した。 俺は・・・勝ち組である超級職の吠える姿が見たい。

 

始まる!!

 

 

 

・・・・・

 

 

 

チチチチ!

 

小鳥の軽やかな鳴き声が【宿酔】の頭に響いた。朝だ。

 

強烈なデジャヴがあった。それはinfinite dendrogramにログインした翌日のものと酷似していた。

 

隣にはスヤスヤと眠る、美少女紛いの美少年になった【詐欺王】が。

 

どうやら俺はオーナーの言っていたことを誤解していたようだ。オーナーは裏社会に所属する情報通だからジーエンとの一件を知っていてもおかしくは無かった。

 

どちらかと言うと誤解されていた。

 

カーテンを開いて太陽の光を浴びる。

 

あぁ、今回もまたそういう事ね・・・・

 

【クエストクリア 大成功!】

 

【クエスト【配達依頼――【詐欺王】への手紙 難易度:九】を達成しました】

 

これはとある夢のVRMMOの物語。

オーナー「‘あの’ジーエンと寝た。そういう奴。好きだろ?」

ルンバ「俺は・・・女が好きなんだよーーーー!!!」

ルンバとカーソンの子供は何人欲しいかアンケート

  • 一人(抗菌と同じく特典化)
  • 双子
  • 五つ子(五等分の花嫁√(嘘))

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