AIが検索結果の概要を生成して表示するGoogle 検索の「AI Overviews」で、検索ワード(クエリ)に対して生成された概要の文章に『WIRED』の記事が予期せぬかたちで“引用”されていることを発見した。おかげで、ジャーナリズムの未来について憂いる羽目になった。
グーグルが米国で提供を開始したAI Overviewsを試していたときのことだ。最近の記事で扱った話題についていくつか質問してみたのだが、この場合には脚注に自分が書いた記事へのリンクが張られていても驚きはない。
記事へのリンクは、生成AIがつくった回答を表示するボックスのかなり下のほうにある。ところが、まったくの想定外だったことに、AI Overviewsが示した概要の最初の段落に自分が書いた記事が直接的に引用されていたのだ。
以下の画面写真の左側は、Anthropicの会話型AI「Claude」を使う際のアドバイスを製品開発者のひとりに尋ねた記事の内容だ。そして右側はClaudeについてGoogle 検索に尋ねて、AI Overviewsが生成した文章である。
これらを並べて読むと、学生時代に自分の宿題の回答をずるい同級生が丸写しにして、言葉遣いすら変えていなかった記憶がよみがえる。
AI Overviewを有効にしなかった場合は、この記事はGoogleの検索結果の最上部に「強調スニペット」として表示された。この場合、好奇心の強いユーザーがClaudeを使う際のアドバイスを求めていた際にクリックするよう、明確なリンクが示される。
最初にAI Overviewsを試した際には、検索ワードに対して記事の強調スニペットがまだ表示されていた。ところが、それも後にAI Overviewsが生成した文章に取り込まれてしまった。回答は記事を引用し、記事の一部を10項目の箇条書きとして表示していたのである。
グーグルの広報担当者とメールや電話でやりとりした結果、AIが生成した要約にはウェブページから収集された文章の一部がそのまま使用される可能性があることをグーグル側は認めた。一方で広報担当者は、「AI Overviewsは参照元の情報源を明示的に示している」と擁護してもいる。
今回の場合、回答の最初の段落には著者である自分に関する直接の言及はない。代わりに記事へのリンクが、検索結果の最下部の近くにある6つの脚注に含まれていた。情報源へのリンクがこれほど下に配置されていることを考えると、このような状況で記事を掲載したメディアがそれなりのトラフィックを得ているとは考えづらい。
「AI Overviewsは、概要でリンクが張られているものも含め、ウェブの検索結果の上位に表示される情報と概念的には一致します」と、グーグルの広報担当者は説明している。「この情報はウェブコンテンツの差し替えではなく、ユーザーがどんな情報があるのか感覚を掴み、クリックしてさらなる情報を得る助けになるように意図されています」
今回のAI Overviewsの回答で使われている単語や全体の構造を見ると、検索結果は『WIRED』の記事との「概念的な一致」にすぎないというグーグルの表現には同意できない。AI Overviewsが生成した文章は、それを超えた内容になっているからだ。
仮にグーグルの開発陣が、元の記事の差し替えになるような機能を意図していなかったとしよう。それでも、属性を埋もれさせ、ユーザーがクリックして元の情報源までたどろうとする気持ちを削ぐかたちで、AI Overviewが質問への直接的な回答を提示していることには変わりない。
「AI Overviewsに含まれているリンクは、そのクエリについて従来のようなリスト形式でページが表示された場合と比べて、より多くのクリック数を得られると考えています」と、グーグルの広報担当者は説明している。ただし、この主張を裏付けるデータは提供されなかったので、AI OverviewsがCTR(クリックスルー率)に及ぼす影響を独自に検証することは不可能だ。
また、AI Overviewsの参照トラフィックについて、グーグルが強調スニペットに選ばれた記事(CTRが高くなる傾向がある)ではなく、従来の形式に近い青色のリンク表示のトラフィックに例えていたことは注目に値する。
これは著作権侵害に該当するのか?
AI関連の訴訟の多くには、いまだ結論が出ていない。こうしたなか、著作権法を専門とする弁護士に尋ねてみたが、仮に(グーグルに対して)訴訟を起こしても勝てる見込みは薄いという。
「著作権侵害について確固たる主張はできないと思います」と、法律事務所Faegre Drinker Biddle & Reathの弁護士であるジャネット・フライズは説明する。「著作権法では一般的に、有用・有益なことの妨げにならないように配慮がされています」
今回の問題に関してフライズは、オリジナルの文章の具体例に着目した。それによると、詩のような創造性の高い文章とは異なり、今回のアドバイス記事のような教育的な文章や事実に基づいた文章では、賠償請求が非常に難しいという。
会話型AIでプロンプト(指示の文章)を書く際に意図したオーディエンスに焦点を当てるようアドバイスした記事は、決してこれが初めてではない。このため、記事の文章の事実に基づいた部分が全体の状況を複雑にしていることは認めなくてはならないだろう。それでも、Google 検索がClaudeについて『WIRED』の記事を最初に参照せずに、あのような文章にたどり着いたとは考えづらい。
別の著作権の専門家にも聞いてみたところ、今回の発見に基づいて訴訟を起こした場合にどう裁かれるか、確定的なことは言えないとの回答があった。「陪審団の判断に委ねることはできると思います」と、ジョージタウン大学ローセンター教授のクリステリア・ガルシアは言う。「そして陪審団が(法的な基準に沿って)『実質的に類似している』とみなすかどうか、見てみることはできるでしょうね」
明確にしておきたいのだが、これらの訴訟に関する話題はすべて仮定の話だ。個人的にグーグルを訴える予定はない。この記事は、人工知能(AI)の影響について世間に伝え、有益な議論を促すという利益に照らして書かれている。
ジャーナリズムへの影響は多大
今回のような状況でグーグルが『WIRED』の著作権を侵害したかどうかは別としても、グーグルがAI Overviewsを普及させようとした場合にデジタルジャーナリズムが劇的に変わる(それも悪いほうに)ことは間違いないようだ。
テック系ニュースサイト「The Verge」の共同創業者で編集長のニレイ・パテルは、しばしば「Google Zero」という概念について口にしている。これはある朝、メディアなどの情報提供元の人々が目を覚ますと、ウェブの世界で最大の参照元からのわずかなトラフィックがついに途絶えていた──という日のことだ。
インターネット検索という行為に支配的な力を及ぼすことで、グーグルは唯一無二の地位を築いた。その地位を利用して自社のサービスが機能する方法を変えることで、トラフィックを途絶えさせたり、場合によっては情報を公表する行為を完全に途絶えさせることができるのだ。
ジャーナリズム業界はすでに資金難に苦しんでいる。このため最近のAIの進化に気をもむメディア界のリーダーたちが相次いで大手AI企業とライセンス契約を結んでいることは理解できる。
実際、これまでにAP通信や『The Atlantic』のほか、「Business Insider」や「Politico」の運営元、『フィナンシャル・タイムズ』、Vox Media、『ウォールストリート・ジャーナル』の運営元、そしてデジタルメディア大手のDotdash MeredithがOpenAIと契約を結んだ。それでもなお、これらのメディアの従業員たちは、そうした契約のなかで自分の書いたものが“売り払われる”ことを面白くは感じていないだろう。
AI企業が発行者のコンテンツにライセンス料を支払わなかったとしても、信頼できるジャーナリストの仕事は、AIを専門とするこれらの企業にとって明らかに価値がある。
グーグルの検索部門の責任者であるエリザベス・リードは最近の公式ブログへの投稿で、ユーザーが生成したコンテンツに矛先を向けた。具体的には、ピザのチーズのとろみを増すために「毒性のない接着剤を加える」ようAI Overviewsがアドバイスした原因が、オンライン掲示板「Reddit」のコメントにあったというのだ。問題のコメントを書いたのは「fucksmith」というユーザーとみられる。
ユーザーの質問に対してAIが要約した直接的な回答を提示することで、グーグルは事実を明確にし、質の高い情報を目立たせるという責任をさらに負うことになる。もし誰かの宿題を写そうと思っているなら、オンライン掲示板の“荒らし”のコメントではなく、成績優秀な生徒のものを写したほうがいいだろう。
(Originally published on wired.com, edited by Daisuke Takimoto)
※『WIRED』によるグーグルの関連記事はこちら。
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