ベーコンを合わせたピエロギ・ルスキェ,写真:アンジェイ・ジグムントヴィチ Andrzej Zygmuntowicz / Reporter

市場のピエロギ店の様子,写真:セバスティアン・コツォンSebastian Kocon / Forum

ポーランドの伝統料理
「ピエロギ」

ピエロギは世界で最も有名なポーランド料理。実は「ピエロギ」[pierogi] というのは複数形で、単数形は「ピエルク」[pieróg] という。小麦粉などでできた生地で、肉や野菜、チーズなどの具材を餃子状に包んで茹でるのが基本のピエロギ。少し厚めの皮でできた(スープの入っていない)小籠包のような味わいと食感で、初めて食べる人でも懐かしく感じられる味だ。

生地は卵の入ったパスタ生地から作られることが多いが、油分の強いペイストリー生地が使われることもある。

塩水で茹でるのが一般的な作り方だが、オーブンで焼いたり、油で揚げるレシピもある。中に詰める具材も、定番のマッシュポテトやチーズ、キノコから、ザワークラウト、フルーツまで、その種類は実に様々。生地と具材、調理法を変えるだけで新しいピエロギが作れてしまうので、人それぞれが違ったレシピを持っている。

共産主義政権下にあった数十年間、ポーランドの人々は、質素な田舎風ピエロギしか「楽しむ」ことができない暮らしを強いられたが、その苦しさの分、素朴な料理をご馳走に変えようと、今日では様々な趣向を凝らしたピエロギが作られている。

ピエロギの人気の秘密

市場のピエロギ販売の様子,写真:セバスティアン・コツォンSebastian Kocon / Forum

多くのポーランド人にとって、ピエロギは子ども時代を思い出す懐かしい味。粉物料理が子供に人気なのは、どの国でも変わらないようだ。しかしポーランド人がピエロギを好むのは、単に「懐かしい味だから」というだけではない。ピエロギは心もお腹も満たしてくれる、幸せが詰まった特別な料理なのだ。

根強い人気の理由の一つは、先にも述べた種類の豊かさにある。毎回、中に何が入っているかはお楽しみ。作り手も、新しい具材や組み合わせを試しながらレシピを考えていく楽しみがある。温かいままはもちろん、冷ましても、茹でても、焼いても、揚げてもよし。あえて一晩寝かせて、フライパンで溶かしバターと炒めたピエロギの美味しさといったらたまらない。一度に食べきれなくても、冷凍保存できるから安心。作り置きにも最適だ。

ピエロギの小歴史

ピエロギ作りには技がいるが、そんなに難しくない,写真:セバスティアン・コツォンSebastian Kocon / Forum
そんなに難しくはないけれど、ピエロギ作りにはちょっとしたコツが必要,写真:セバスティアン・コツォン Sebastian Kocon / Forum

ピエロギの文化がポーランドに入ってきたのは13世紀。聖ヒアキントゥス(キエフ修道院の修道士で、ピエロギの守護聖人になった人物)を通じて、キエフ大公国(現ウクライナ)などの隣国から伝わったといわれている。歴史を遡っていくと、ピエロギはもともと、旧ポーランド領西部の東側の国境地帯でよく食べられていた料理だそう。ピエロギのレシピが文献として最初に登場するのは1682年のことで、『料理大全 [Compendium ferculorum, albo zebranie potraw] 』というポーランドの最初の料理本の中でその作り方が紹介されている。(著者は高名な料理人、スタニスワフ・チェルニツキ [Stanisław Czerniecki] )ポーランドではまだジャガイモが知られていなかった17世紀という時代。中に詰める具材として書かれているのは、刻んだ腎臓、仔牛肉の脂身、葉物野菜、ナツメグなどだ。

味付けと具材

キャベツときのこのピエロギ,写真:ピョトル・イェズラPiotr Jedzura / Reporter
キャベツときのこのピエロギ,写真:ピョトル・イェズラ Piotr Jedzura / Reporter

様々な種類のピエロギの中でも最も人気があるのが、具材にマッシュポテトとフレッシュチーズが使われたピエロギ・ルスキェ [pierogi ruskie] と呼ばれるもの。この言葉を直訳すると、「ロシアのピエロギ」という意味になる。実はこの「ピエロギ・ルスキェ」という名前が、とても誤解を招きやすい。

結論から言ってしまうと、ピエロギ・ルスキェはれっきとしたポーランド発祥の料理だ。ところが、この名前のせいで、ロシアの料理と勘違いされることが多々ある。

実際のところ、ピエロギ・ルスキェが生まれた戦前の旧ポーランド領、現在のウクライナでは、この手のピエロギを「ポーランドのピエロギ」と呼んでいた。ピエロギ・ルスキェの名で呼ばれるようになったのは第二次世界大戦後のこと。つまりこの名前の真相は、「ロシア(ウクライナ)に住んでいたポーランド人が作ったピエロギ」ということなのだ。(この頃のポーランドには、領土が西に移動したことによって、数千人もの人々が西ウクライナから西ポーランドへの移住を強いられたという歴史がある。)

揚げピエロギ,写真:ピョトル・イェズラPiotr Jedzura / Reporter
揚げピエロギ,写真:ピョトル・イェズラ Piotr Jedzura / Reporter

ピエロギ・ルスキェと同じくらい人気があるのが、肉の入ったピエロギ。肉は無難に豚肉、牛肉、鶏肉、仔牛肉、を使う時もあれば、時には変わり種として、ラム肉、鴨肉、ガチョウ肉が使われることも。こういった肉入りのピエロギには、細かく刻んだベーコンをトッピングすることが多い。

季節の変化に応じた食材で作るのがピエロギの醍醐味。春夏には豊富な種類の野菜を使って、少し驚くような組み合わせを試すこともしばしばだ。アスパラガス、ほうれん草、グリーンピース、そら豆、ブロッコリー、山菜などを地元産のチーズと合わせるなど、ポーランドの美食家たちは具材の研究に余念がない。秋冬になると、ザワークラウトと地元で採れた特別なキノコ(通称「森のキノコ」)を使ったピエロギが食べられるようになる。これはクリスマスイブの料理としても知られるもの。地域性が強いのもまたピエロギの特徴で、ソーセージやタトラ山脈の羊乳チーズ(ブリンザ [bryndza] )を具材にするという地域、ニシンなどの魚を詰める地域もあれば、そばの実やレンズ豆など、穀物や豆類を詰めるのが一般的だというところもある。

ピエロギの味の決め手になるのがトッピング。伝統的なトッピングは、揚げタマネギ、ベーコン、溶かしバター、サワークリーム、豚皮揚げなどだが、こういったトッピングの代わりに(もしくはその上に)特製のソースやパセリ、チャイブ、ディル、ミント、タイム、ローズマリー、タラゴン、バジルなどの新鮮なハーブを添えても美味しい。

意外な具材

果物のピエロギ,写真:マリ・ヘムMari Hem / Reporter
果物のピエロギ,写真:マリ・ヘム Mari Hem / Reporter

ポーランドでは、甘いピエロギも人気がある。夏にはフルーツをたっぷり使ったピエロギを夕食のメインディッシュにする人もいるくらいだ。甘いものを夕食のメインにする文化は、外国人からすると違和感があるかもしれないが、ポーランドでは決して珍しいことではない。

フレッシュチーズを詰めた甘いピエロギは、子どもたちの大好物。夏のピエロギには、アプリコット、ビルベリー、リンゴ、甘い酸っぱいサクランボが入る。クリスマスになると、中身は甘いケシの実のペーストに変わり、ここでも季節の変化を楽しむことができる。

甘いピエロギは、トッピングに粉砂糖と溶かしバターをかけていただくのが基本。これをオレンジソース、レモンカード、クレーム・アングレーズ、生チョコレート、ラズベリーやイチゴのクーレに変えれば、豪華なデザートに早変わり。

最高のピエロギを求めて

 市場やフェアでばら売りされるピエロギ,写真:ヤン・グラチンスキJan Graczyński
市場やフェアでバラ売りされるピエロギ,写真:ヤン・グラチンスキ Jan Graczyński

ピエロギを作るのは決して難しくはないが、ある程度の時間はかかってしまう。必要なのは、多少の料理の心得と良いレシピ。普段料理を作らない人には、少し難しいかもしれない。

ピエロギの皮は、具材の味を邪魔しないよう、弾力を残しながら、繊細で柔らかく仕上げなければならない。厚すぎず、薄すぎない絶妙なバランスの皮を作れるようになるまでには、日々の積み重ねが必要だ。

ポーランド国内でピエロギを食べようと思えば、食料品店、軽飲食店、レストラン、高級料理店、学生食堂など、大抵の場所で出会えるはず。ここ数年は、ピエロガルニャ [pierogarnia] と呼ばれるピエロギ専門のレストランも出てきている。ただ、どこでも食べられる代わりに、当たり外れがあることに注意しなければならない。皮が硬く厚みがあったり粘り気があるもの、具が少ししか入っていなさそうなものは、できれば避けたいところ。

若い世代のポーランド人シェフの中には、「手を尽くされた過去の料理」といってピエロギを作らない人もいる。それでも、ポーランドの美食家たちは、この伝統あるポーランド料理を出す店がミシュラン星に輝く日を心待ちにしている。素朴な田舎料理から、料理界のトップへ。私たちも、その進化を見届けられる日を楽しみにしておこう。

執筆: Magdalena Kasprzyk-Chevriaux、2013冬

日本語下訳:YA、2018.01 編集:野又菜帆、YNA 2019.10

公開日: 10月 6 2019
Last updated: 10月 8 2020
Magdalena Kasprzyk-Chevriaux

A lawyer by education and a journalist by passion, Magdalena specialises in the history of Polish cuisine. She is the co-author of the 2019 book ‘Kapłony i Szczeżuje: Opowieść o Zapomnianej Kuchni Polskiej’ (Capons and Duck Mussels: Tales of Poland’s Forgotten Cuisine) – the book is a conversation between herself and Professor Jarosław Dumanowski. Their discussion points to the fact that Polish cuisine was influenced not only by the climate, regional traditions and religious directives, but also important historical shakeups as well as the whims of the rulers at the time.