『バジーノイズ』と『言えない秘密』2本の映画を送り出す、ギャガ宣伝出身のプロデューサーが語る実写映画の戦い方

今年上半期に7本の製作作品の公開を予定しているギャガ。そのうちの2本『バジーノイズ』と『言えない秘密』のプロデューサーを務めるのはこれまでギャガで宣伝プロデューサーを務めてきた山田実氏だ。そんな同氏に2作品の製作経緯とこだわり、映画宣伝の今について話を聞いた。

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『バジーノイズ』と『言えない秘密』2本の映画を送り出す、ギャガ宣伝出身のプロデューサーが語る実写映画の戦い方
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良質な洋画作品を配給するとともに、日本映画の製作にも積極的なギャガ。今年上半期はすでに7本(『デデデデ』を2本として計算)の製作作品を公開する予定で、例年に比べても多い。

そのうちの2本のプロデューサーを務めるのが、山田実氏だ。山田氏はこれまでギャガの宣伝プロデューサーを務めており、この2本が初のプロデュース作品となる。そんな同氏に『バジーノイズ』と『言えない秘密』の製作経緯とこだわり、映画宣伝の今について話を聞いた。

『バジーノイズ』、『言えない秘密』プロデューサー 山田実氏。

※期間限定全体公開中。6月7日(金)から会員限定コンテンツとなります。会員登録は右上の黒いバーから。


宣伝から製作プロデューサーへ転身

――『バジーノイズ』と『言えない秘密』は、山田さんの初プロデュース作品ですね。これまでは宣伝プロデューサーだったそうですが。

そうですね。ギャガに入社して10数年、ずっと宣伝の仕事をしていました。ギャガは風通しのいい会社なので、こんなマンガがあるとか、こんな映画を作るといいのではないかなど、色々な意見を企画部署の上司とも気軽に話していたら、自らプロデューサーをやらないかと声をかけてもらったんです。今は、宣伝部と企画製作部を兼任している状態です。

宣伝プロデューサーとしては洋画も邦画もどちらもやってきました。ギャガは洋画の配給作品の方が多いですから、数としては洋画の仕事が多かったですね。たくさん宣伝を担当してきましたが、一番思い出深いのは『ラ・ラ・ランド』と『シングストリート 未来へのうた』を同時に宣伝出来ていた年ですかね。これからも語り継がれるレベルの傑作音楽映画を続けて担当して、それぞれヒットに結び付けられたのは、宝物みたいな経験だなあと思います。

――現在、円安などで洋画の宣伝は大変なんじゃないでしょうか。監督や俳優さんをコストの面で来日など呼びにくかったり。

おっしゃる通り円安も関係はあると思いますけど、コストの面よりも、洋画を取り巻く環境変化が大きくて、洋画を取り上げてくれるメディアの数が減っています。10年くらい前なら、中規模の洋画なら地上波テレビでも取り上げてくれていましたが、今は本当に難しいんです。紙のメディアも勢いが以前と変わっていますし、お金をかけて海外から関係者を呼んでも費用対効果の面で厳しいことが多くなってきている状況です。

――そういう意味では、邦画の製作にも力を入れる必要があるという感じでしょうか。

そうですね。僕が企画製作グループに加入したのも、より多くの作品を作る必要があるということでしょうし、ただでさえ、コロナ前から洋画を取り巻く環境が変わり、コロナで多くの作品が配信に流れたり、買付市場も変化が大きくなってきている状況もあったりして、もっと自分たちでコントロールできる事業にコミットする必要があり、製作にも力をいれるようになっています。

――今年のギャガは邦画の製作作品が多く公開されていますが、その姿勢の現れでしょうか。

公開作品が今年前半に偶然重なったというのもありますが、製作に力点を置いた結果というところですね。

――公開中の『バジーノイズ』は宣伝プロデューサーも兼任されています。プロデューサーと宣伝を兼任することのメリットはありましたか。

お客さんにこういう風に伝わって欲しいから脚本をこうしたいとか、こういうキャスティングにしたらプロモーション面のリアルな見え方が出来るなど明確に公開という出口を意識した制作が出来たことは、もしかしたら、制作だけをされているプロデューサーとは異なる点かもしれないです。それと、宣伝まで見据えて作っていたことで、各出演者サイドとの本編以外の交渉ごと、撮影現場で宣伝として獲得すべき素材については、一部分だけ担う宣伝マンよりもイニシアチブをとって進行できたと感じています。

『バジーノイズ』と『言えない秘密』の製作経緯

――『バジーノイズ』はどういう経緯で企画されたのですか。

自分が製作のプロデューサーをすることになると思っていなかったのですが、「やってみない?」と声をかけてもらって、改めて自分の好きな本やコミックを読み直した時に、絶対自分の手で映像化したいと強く思ったのが『バジーノイズ』でした。今の世代の若者の心情を絶妙に表現しつつ、DTMという現代を象徴するような音楽のツールがテーマになっている事がとても新しい!と感じ、大好きな原作でした。最初に悩んだのは清澄を演じるキャストを見つけられるかどうかです。僕はK-POPが好きで、その流れでJO1もかなり熱心に追っていました。今回主演の川西さんはDTMの経験もあるというのも見ていたので、ぴったりだと直感し、彼を中心にしたプロジェクトとして動き出しました。

実は『バジーノイズ』の原作に出会う前に一度JO1の事務所にコンタクトを取ったことがあって、その時は「良い企画があれば」ということで話が止まっていたのですが、その数カ月後に『バジーノイズ』の企画を提案したら、賛同してくださって。

――川西拓実さんは映画初主演ですね。不安はありませんでしたか。

言葉数の少ない主人公の清澄は、表情芝居が重要だったのですが、演技経験が少ない中ですごく頑張って、素晴らしく演じてくれました。清澄役は川西拓実くん以外考えられないと今も思っています。応援していたアーティストの初主演作品なので、かなり気合を入れて取り組みました。

――もう一本の『言えない秘密』は台湾映画のリメイクで、こちらも音楽が深くかかわる内容です。

『言えない秘密』は僕がやりたいと言って出した企画の一つです。ギャガは以前、『きみの瞳が問いかけている』という映画を製作していますが、これは韓国映画のリメイクです。オリジナルの韓国映画は日本ではそこまで知名度が高くないのですが、良質な作品で、その雰囲気を上手く出しながら拡がる興行が展開できました。こうした優れたアジア映画をリメイクするという道筋が開けたと感じたんです。

台湾映画の『言えない秘密』はもともと当時観賞していたのですが、改めて観返したら、もの凄く巧みに練られたストーリーラインとピュアな恋愛模様が絶妙なバランスで描かれた素晴らしい作品でした。音楽ものが2本続いたのは偶然ですが、僕自身、音楽映画が好きなのも関係しているかもしれません。

――『言えない秘密』主演の京本大我さんはどうでしたか。

京本さんも初主演とは思えない堂々とした芝居を見せてくれました。『言えない秘密』はクラシックピアノが題材の作品なので、ピアノが弾ける俳優を探していました。調べてみると京本さんは、独学でピアノを学んでいるとのことなので、ハマるのではと思いオファーさせてもらいました。京本さんは舞台の経験は豊富ですけど、映像の芝居もやっていきたいというタイミングだったみたいで、その一本目の映画が音楽ものだったことも運命的に感じてくれたようで一気に決まっていきました。3か月以上のピアノレッスンは私もほとんど立ち会っていたのですが、熱心過ぎて驚く位の取り組み方で「何としても成功させる」という気概がとても強く、実際のピアノ経験がほぼなかったとは思えないほどの演技を見せてくれました。

――『バジーノイズ』はマンガ原作、『言えない秘密』は台湾映画のリメイクと、どちらもオリジナルの作品が存在します。元の作品の作者との向き合い方はどのようなものでしたか。

『言えない秘密』の方は2007年の台湾映画です。リメイクアレンジについてはそこまでコミットしないという権利元との契約ではあったのですが、預かった原作を大事に、現代の日本の観客に受け入れてもらえるようなアレンジを心掛け、脚本段階で台湾側にもチェックしてもらい、大きな問題がなく進行していきました。

『バジーノイズ』の方は、原作者のむつき潤先生にとって初の連載作品ですから大事にされていたと思います。当初オリジナルを尊重して原作に忠実なプロットを出したんですが、先生の方から、改めて映像化するにあたって今に時代に合わせて変えてもいいですよと言っていただけました。むつき先生は学生時代、映像制作について学んでおられたそうで、『バジーノイズ』を描いている時から映像化したいと思っていらっしゃったそうで、撮影中も何度も現場に来てくれて、何より完成した本作を相当気に入ってくださっていて、こんなに嬉しいことはないと思っています。

――大きな変更では、舞台が神戸から横浜になっていますね。ロケのしやすさもあるかもしれませんが、横浜を舞台に神戸出身の二人が出会うという展開になったことで、二人が親密になるきっかけになっていました。

そう思っていただけたなら良かったです。二人の主人公の関西弁は原作の良さだと思い、それは崩したくなかったので、横浜が舞台であっても神戸出身の設定はそのままにしました。

ギャガの劇場映画へのこだわり

――現在の日本映画の市場はアニメが強い状況です。グローバル展開も含めて実写映画はどう戦っていくべきだと思いますか。

そこはとても難しいところですよね。いろんな考え方があると思いますが、1つ対抗できるとすれば、アイドルはアニメと並ぶ「推し」カルチャーですし、可能性があると思っています。そのためには、素晴らしい作品を作るのは大前提として、宣伝のやり方も問われると思います。

――アイドルものの場合、ファンの方に向けてのプロモーションは当然行うとして、ファン以外の方にどう訴求するかは、やはりいつも悩まれるのではないでしょうか。

そうですね。『バジーノイズ』について、キャストファン以外にも広げるという点はプロモーションの一つの柱にしました。口コミ施策や、作品やキャラクターに深みがあるんだと言うことを、口コミでいかに広げられるかを戦略として立てていこうと思いました。

――実際にどんなことをやられたのですか。

今回は音楽がキーワードでした。音で聞く作品だということを大事にして、例えば施策としてSpotifyとの連動企画、また全国のFM局とコラボをしました。ラジオで推してもらうことで、音楽映画としてしっかり出来ている作品だということを広い層にアピールする狙いです。Spotifyともあらゆる展開でがっつり組みました。

――Spotifyでのプレイリストの公開ですね。

そうなんです。むつき先生が毎日一曲ずつ、『バジーノイズ』に合うと思う曲をあげていくというのを4月の頭からやっていて、それがプレイリストになっています。そこに監督や川西さんや桜田ひよりさんのコメントも挟んでいくもので、かなり好評です。

あとは製作委員会にLINEヤフーさんにも参画頂いていることもあり、LINEミュージックともコラボし、LINEスタンプも作ったりと、若年層に向けた多角的な施策を実施しています。

――『言えない秘密』に関してはどうでしょうか。台湾映画のリメイクなので、アジアの国々にも訴求できそうでしょうか。

オリジナルの作品は中華圏のみならず韓国でもかなり人気があって、BTSのメンバーが好きな映画の3本に挙げているくらいなんです。アジア中で公開し大ヒットした作品でしたから、可能性はあると思っています。

具体的に視野を入れて作ったという事ではないですが、本作の制作中に、『今夜、世界からこの恋が消えても』が韓国で大ヒットしていました。マーケットは開きつつあり、我々もボールを投げやすくなっていると感じます。『バジーノイズ』についても、JO1はインドネシアや台湾で人気が高いですし、国際担当とも、色々広げていきたいと戦略をたてています。

――あとは、今の映画産業を考える上で配信の存在は無視できないと思います。

そうですね。ただ忘れてはいけないのは、配信のお客さんにだけ意識を向けてしまうと、結局劇場も逃すことになるだろうなと。日本は、配信に勢いがあっても劇場の興行が下がっていません。なので、まずは劇場の興行収入でしっかり勝負して、その成績をその後の配信に活かすというのが基本だと思っています。

――ギャガはやはり映画の劇場公開にこだわるのですか。

劇場公開以外の新たな事業にもどんどんチャレンジしていますが、劇場公開へのこだわりの意識は変わらず持っていたいと思っています。例えば、『言えない秘密』や『バジーノイズ』のような作品は音がいいですから、特に劇場で鑑賞してほしいと考えています。若い世代にとって劇場体験はアトラクション的なものになっているとも思います。けれど、そうではない映画の楽しみ方も拡げていきたいと考えています。

『バジーノイズ』

https://gaga.ne.jp/buzzynoise_movie/

全国公開中

むつき潤「バジーノイズ」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
監督: 風間太樹「silent」「チェリまほ」
music concept design: Yaffle
主題歌:「surge」 清澄 by Takumi Kawanishi(JO1) ©︎LAPONE Entertainment
出演: 川西拓実(JO1)、桜田ひより、井之脇海、栁俊太郎
円井わん 奥野瑛太 天野はな 駒井 蓮 櫻井海音 馬場園梓 / 佐津川愛美 テイ龍進
製作: 映画『バジーノイズ』製作委員会
制作プロダクション:AOI Pro.
製作幹事・配給:ギャガ
©むつき潤・小学館/「バジーノイズ」製作委員会

『言えない秘密』

https://gaga.ne.jp/IenaiHimitsu/

6月28日(金) 全国ロードショー

出演:京本大我 古川琴音
横田真悠 三浦獠太 坂口涼太郎 / 皆川猿時 西田尚美 尾美としのり
監督:河合勇人
脚本:松田沙也
音楽:富貴晴美
主題歌: 「ここに帰ってきて」 SixTONES (Sony Music Labels)
製作:「言えない秘密」製作委員会
配給:ギャガ
Ⓒ2024「言えない秘密」製作委員会

《杉本穂高》

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杉本穂高

映画ライター 杉本穂高

映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。

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