やはりこの生徒会はまちがっている。   作:セブンアップ

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白銀圭は奪わせない

 

 前回のあらすじ。

 俺の家に泊まりに来た早坂愛。その早坂が泊まる代わりに作ったオムライスを食べている最中、いつもより早くやって来た圭。

 

 そして今、俺の隣には圭が。向かいには、早坂が座っている。前回の続きをどうぞ、ご覧下さい。

 

「…それで」

 

「ん、何?」

 

「なんでこんな時間帯に八にぃの家に居るんですか?しかも夕飯まで一緒に食べて」

 

「泊まるからだけど」

 

「おかしいでしょ!」

 

 さも当然のように返した早坂の答えに、圭は反発する。

 

「恋人でも無いのに泊まるなんておかしいです!早坂さんには常識が無いんですか!?」

 

 そうだそうだ。もっと言ってやれ。

 

「かもね。でもそれは君の固定観念でしかない。加えて言えば、私と八幡でその話は決着してる。今更圭ちゃんが何を言っても仕方無い事だよ」

 

 圭の正論を更に言い返す早坂。当事者2人が話を着けていると言われれば、反論の余地が無い。

 

「というか、私からすれば君もおかしいと思うけど」

 

「え?」

 

「君、中学生でしょ?毎晩毎晩、男子高校生の部屋に行くってどういう事か分かってる?下手をすれば八幡が犯罪者になるんだけど」

 

「これは私と八にぃが決めた事です!早坂さんに何か言われる筋合いはありません!」

 

「そういう事じゃなくて…」

 

「ちょっと落ち着けってお前ら」

 

 彼女達の論争がヒートアップしそうな所で、俺が静止に入る。

 

「早坂の話は本当だし、俺が許可した。圭の話もだ。だからこの話は終わりだ」

 

 俺が蒔いた種。こいつらの論争がヒートアップしそうな原因は俺の責任だ。

 

「…私も泊まる」

 

「は?」

 

 すると突然、圭が口を開いてそう言った。

 

「ちょっとお兄…さんとお父さんに言ってくる。どうせ明日学校休みだし」

 

「ち、ちょっと待て。なんでそうなる」

 

「早坂さんは良いんでしょ?だったら私も泊まる」

 

 圭は引く気を見せない。それどころか、彼女からの瞳からはどこかから感じた事のある圧が垣間見える。

 

「それとも何?私はダメなの?早坂さんは良くて、私じゃダメな理由とかあるの?」

 

「いや、女子中学生が男子高校生の部屋で寝泊まりするのは…」

 

「今更何を常識ぶってるの?私もう何回も八にぃの部屋に来てるじゃん。ただ八にぃの部屋に居る時間が長くなるだけ。ねぇ、何がダメなの?」

 

 ヤバい。圭の目がヤバい。瞳孔が開いているのは相当ヤバい。

 

 確かに、圭は何度も部屋に来ている。俺は彼女に何もしないし、白銀パパからもよろしくされている。だから許容していたのだが、泊まるとなると話が違ってくる。

 

「良いよね、八にぃ。私が泊まっても」

 

「……今日だけだからな」

 

「やったっ。ありがとう、八にぃ」

 

 そう言って圭は部屋を出て行き、一旦自分の家へと戻った。隣からは、圭の声が聞こえてくる。

 

「そういえば、私ってどこで寝たら良いの?」

 

「…小町用の布団がある。それ使って寝ろ」

 

 小町が泊まる事を想定して置いていた布団だが、まさかこんな事に使うとは思わなかった。

 

『八にぃ、開けて?』

 

 扉越しから圭の声が聞こえて来た。扉を開くと、布団を丸ごと抱えた圭が立っていた。

 

「八にぃの部屋には予備の布団なんて無かったでしょ。だから持って来た」

 

 圭は壁際に布団を置いた。そして早坂の方に振り向いて、一言。

 

「2人きりになんてさせませんから」

 

「…ふうん」

 

 なんでこんな事になったんだろう。同級生と知り合いの妹が家に泊まるとか何そのラブコメ。石上に話したら即トイレットペーパーで処されるぞ。

 

「あ、そうだ。折角こうやって話す事になったし、一緒にお風呂に入らない?圭ちゃん」

 

「…良いですよ」

 

 話の流れをなんとなく察した俺は、風呂を沸かし始めた。沸かした後、引き出しからバスタオルを取り出し、足の裏を拭くためのシーツをベランダから持って来る。入浴の準備をしている間、2人の話し声は全く聞こえてこなかった。

 

 なんで俺の部屋なのにこんな殺伐としてるのだろう。逃げ場が無いなんてどうかしてる。

 

 そうだ。白銀の家に転がり込もう。こいつらは俺の部屋に泊まると言っていた。なら家主が居なくても良いだろう。流石に部屋を荒らしたりはしないだろうし、第一何かされて困るような物は置いていないからな。

 

「あー、俺白銀の家に泊まろう……」

 

「殺すよ?」

 

「ふざけないでよ」

 

「…としたけどやーめた…」

 

 えっ怖い怖い。なんでそんな時だけ息が合うの?

 後、早坂さん殺すとかやめて。物騒よ。君の場合、本当に殺せる技術持ってるんだから。ボディーガードの首にナイフ突き付けてたの知ってるから。

 

「私は良いけどね。私の家でもあるし、八にぃが泊まりに来るなら私も戻るから」

 

 結局、事は解決しないのである。

 そうこうしている内に、お風呂が沸いた。

 

「2人仲良く入るんだろ。さっさと入って来いよ」

 

「…そうだね。行こうか、圭ちゃん」

 

「はい」

 

 全く仲が良い様に見えない2人は、着替えを持ってお風呂に入って行った。

 

「…頼むから浴槽をぶっ壊すような修羅場は起こさんでくれよ」

 

 切実に、そう願うだけだった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 私は今、早坂さんと共にお風呂に入っている。

 

 早坂愛。今日初めて出会った人。とても美人な人だけど、高等部では見た事が無いし、この人の噂を聞いた事が無い。

 

「…圭ちゃんは、なんで八幡の事が好きなの?」

 

 早坂さんに唐突に尋ねられる。八にぃを好きになったその理由を。

 

「…最初は、特別意識する事はありませんでした。お兄……さんの友人が来たなってくらいで。一応、兄さんの友人が来ているから粗相の無いように、最低限しか関わっていませんでした」

 

 お兄が生徒会に入って、しばらく経った頃。友人だと言って、連れて来られたのが八にぃだった。

 

 特徴的で印象に残りやすい人。アホ毛が目立って、目が腐っていたんだから。お兄の目より酷い人は初めて見た。けれど、特に悪い人では無かった。

 時々、おにぃの馬鹿さ加減やパパのクソ発言にツッコミを入れたり、自虐ネタを挟んだりしていたが、まぁ悪い人では無い。陰気な人ではあったけど。

 

「…今のだけ聴いてると八幡ボロカスの印象だね」

 

「最初は、です。…でも、段々と八にぃと接していく内に……何気ない優しさが好きになって…」

 

 お兄みたいに真面目じゃないし、目も人に自慢出来るような物じゃない。

 でも、八にぃは凄く優しい。捻くれているけど、根っこの部分では他人に優しく出来る温かい心の持ち主。不真面目だけど責任感は強い。

 

 そんな優しさに触れたから、私は好きになったのかも知れない。

 

「…そうだね、言いたい事は分かる。自分で優しく無いとか吐かしながらその実、過保護なほど優しい。とんだお人好しだよ」

 

 そう語る早坂さんの表情は、間違いなく恋する乙女そのものだった。先程まで私を詰めた表情とはえらい違いだ。

 

「それに、八幡ってちゃんと人を見てるよね。見た上で、それでも尚許容してくれる。…私を、早坂愛を受け入れてくれた八幡が好き」

 

「早坂さん…」

 

「だから誰にも渡さない。八幡は私が貰うから。いずれは彼と結婚もする気で居る。…その邪魔をするなら、例え会長の妹でも遠慮しない」

 

 先程の乙女の表情が一転、冷徹な表情に。確固たる意志があるという表れなんだろうが、私だって引く気は無い。

 私も八にぃを意識させる。きっと今の八にぃは、私を妹扱い、またはただの後輩としか見ていない節があるから。

 

 そんなの嫌だ。絶対、私を1人の女として見てもらう。私だけを見てもらうから。

 

 私は白銀御行の妹、白銀圭。あのクソッタレの兄がかぐやさんと付き合えたんだ。つまり、私にだって八にぃと結ばれる未来はある。

 

「…譲りません。私だって、半端な気持ちで八にぃを好きになったわけじゃない。八にぃの隣にずっと居るのは、私です」

 

 この意志は揺らがない。揺らいだりしない。絶対に、八にぃを振り向かせてみせるから。

 

 そう簡単に逃げられるなんて、思わないでね。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 その後。

 2人は風呂から上がり、俺もその後すぐに入って上がった。特別何かするわけでは無いので、しばらくリビングで寛いでテレビを点けている。

 

「…一つ聴いていい?」

 

「どうした?」

 

「昨日、家に来てから思ったんだけど。何あのぬいぐるみ」

 

 早坂が指を差したのは、藤原からの誕生日で貰ったとっとり鳥の助だ。チョイスが脅威の変化球レベルなんだが、いざ飾ってみるとなんだか情が湧いたのだ。

 

「藤原から貰った誕生日プレゼントだ。今となっては、あれはあれで良きオブジェではある」

 

「書記ちゃんが……」

 

「千花ねぇ、というか千花ねぇの家って中々癖のある一家だよね」

 

「対人間用の秘密兵器としては効果抜群だけどね」

 

 藤原もそうだが、あの妹と大学生の姉も一筋縄じゃいかない曲者なんだよな。妹サイコパスだし、姉ビッチだし。

 

「前のクリスマス、兄さんとかぐやさんと一緒に千花ねぇの家に行ったんだけど。家にかどまツリーがあったの」

 

「かどまツリーとは」

 

「門松とツリーを合体させた、藤原家オリジナルのオブジェだよ」

 

 のっけからパンチ強いの出たなー。いや、藤原の話になって何もないわけがないと思ってはいたが。

 

「そこにね、ししまトナカイなまはげサンタが居たの」

 

「なんで書記ちゃんの家ってクリスマスと正月が混ざってるの?」

 

「千花ねぇ曰く、お姉さんがクリスマスが終わって出しっぱなしだったツリーを改造したそうなんです。買い換えるのが勿体無いから、そのまま放置してたって」

 

 で、放置した結果が異教徒の奇祭みたいなのが出来上がったわけか。流石は藤原姉。妹に劣らない狂いっぷりだ。

 

「それに、妹の萌葉は私の兄に手錠をクリスマスプレゼントとして渡して…」

 

「やっぱあの妹怖ぇよ」

 

 今のうちに排除した方が世の中のためなのではないだろうか。マッドサイエンティストになってからじゃ手遅れだぞ。

 

「…八にぃって萌葉と面識あったの?」

 

「まぁ一回だけな。そのまま藤原家(悪魔城)に連れて行かれたわけなんだが」

 

 もう二度と会いたくないと思った瞬間だった。姉にも妹にも。命が1つだけじゃ足りねぇ足りねぇ。

 

「確かに萌葉、いつだったかあの先輩の特殊的な目をホルマリン漬けにしたいって言ってたけど、まさか…」

 

「それ多分俺。なんなら直で言われた」

 

「書記ちゃん一家恐るべしだね」

 

 確か父親が政治家って聞いたが、政治家の娘があんな曲者揃いだと思うと父親もどこかヤベェとこあるんじゃないかって思ってしまう。

 

 …とはいえ、別に悪い奴ではないんだよな。

 妹と姉は今のとこヤベェ奴ってなってるが、藤原とはかれこれ1年以上一緒に居る。俺が思ったより生徒会に居続けたってのもあるが。

 

 なんだかんだで人を想う優しさはあるし、この間の早坂の件でも助かった。

 ただそれらを帳消しにするようなウザさがあるので、偏に良い奴かと言われたら再審議なのである。

 

「…さて、そろそろ布団敷くわ」

 

 一旦話を切って、俺は立ち上がって自分の部屋に畳んである布団を広げた。これでいつでも寝る事が可能である。

 

「お前らはリビングで寝るといい。というかそこしか無いわけだけど」

 

「え、八にぃもリビングで寝ないの?」

 

「アホか。自分の部屋があるのに、なんでわざわざリビングで寝なきゃならんのだ」

 

 そもそも早坂と圭と寝泊まりする事自体おかしい話なのに、加えて一緒に寝たら単なる女誑しだ。

 

「むぅ…」

 

「剝れてもダメ」

 

 こればかりは俺も許可出来ない。というか個人的に、緊張し過ぎて寝れなさそう。

 

「八幡」

 

「ん?…ひっ!?」

 

 早坂はこちらを睨み付けるわけでもなく、ただ視線を向けているだけだった。しかしその視線は絶対零度の威力。一撃必殺レベルの圧が放たれている。

 

「…ぜ、絶対寝ないからな」

 

「…ふうん」

 

 しかし、依然早坂は俺に絶対零度を浴びせてくる。何も言わず、ただただ凍えるような視線を向けられると、恐怖心が芽生えてしまう。

 

「…ま、マジでやめてくんない?呪われそうなんだけど」

 

「へぇ……」

 

 これはあれですか?ここで寝ると言うまでずっと視線を向けられるやつですか?

 いや、しかしここは断固として拒否しなければならない。話が通らないと言うなら、無視して自分の部屋に行こう。

 

「…ねぇ八幡。少し借りたい物があるんだけど」

 

「な、なんだ?」

 

「包丁」

 

 えっ待ってその包丁でどうするつもりなんだ。まさか、それで俺を脅かそうって事か?

 

「ち、ちょっと待って?包丁でどうすんの?」

 

「どうされたい?」

 

 あっヤバい。「どうされたい?」って俺に聞いてる時点で、矛先が既に俺に向いてる。死ぬまではいかなくとも、精神的に死ぬ可能性大。

 

「…刺されたく無いので」

 

「刺されたく無いので?」

 

「…リビングで…寝る方向で…」

 

「…そっか。それなら良かった」

 

 怖い怖い早坂怖い。主と近侍って似るんだな。特に人を殺そうとする殺気とか。

 

 俺は仕方なく、部屋から布団を持って来て、床に敷いた。圭は俺の左隣に布団を敷いて、早坂は小町用の布団を俺の右隣に敷いた。

 

「おかしいな」

 

「何が?」

 

「や、なんで俺真ん中?別に真ん中じゃなくても良くない?」

 

「別に端じゃなくても良いでしょ?」

 

 良いわけが無い。JKとJCに挟まれて寝るとか絶対に良いわけが無い。ただ、これが俺の勝手な勘違いだった場合な。

 

『え、何?八幡って変な妄想するのが趣味なの?』

 

『八にぃキモい。控えめに言ってキモい』

 

 死にたくなる。「明日は良い自殺日和だ」とか言って、この寒い中入水自殺してるかも知れない。何その太宰治的な思考。

 

「…もう、はい。そうですね」

 

 結局、断る術は無かった。早坂がこの家に泊まる瞬間から、何かが狂い出したんだ。

 

「…もう俺は寝るからな。喋ってんのは別に良いけど、ボリューム考えろよ。じゃ」

 

 俺は布団の中に入り、目を閉じた。身体を全て布団に委ね、脱力していく。そのまま、意識が少しずつ薄れていくのを待った。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…寝ましたね」

 

「寝たね」

 

 私や圭ちゃんが居ると言うのに、よくもぐっすり眠れるものだ。

 

 …それにしても。

 

「…カッコいいな…」

 

 圭ちゃんが徐にそう呟く。

 

 八幡は目は腐っているが、閉じると中々のイケメンなのだ。いつしかフランス校の交流会で眼鏡を掛けていたのだが、あれはあれでイケメンだったりした。フランス校の女子達の何人かは、八幡を噂していたのだ。

 

「…八にぃ…」

 

 彼の名前を呟く圭ちゃんの表情は、メス顔も良い所だ。会長と違って、妹の圭ちゃんは全面的に好意を出している。

 女子中学生にまで手を出す男なんて、クズの極みじゃないのか。

 

 …だが、私は彼が好きだ。彼じゃないと嫌だ。私の一生を添い遂げてくれる人は、比企谷八幡でなければならない。

 例え中学生だろうが初恋だろうが、私の邪魔になるのなら遠慮はしない。

 

「…そろそろ私達も寝ようか」

 

「…そうですね」

 

 リビングの電気を消して、私達2人も布団の中に入る。隣には、熟睡している八幡が。

 こんな無防備な八幡は初めてだ。今なら、頬にキスをしてもバレないのではないか。そう考えて、私は視線を頬に向けた。

 

 目を閉じて、八幡の頬に唇を近づける。そして。

 

「ん……」

 

 八幡の右頬に、唇を当てた。

 

 ゆっくり目を開けると、私の目の前に映ったのは八幡の熟睡した顔。そして、反対の左頬にキスしている圭ちゃんの顔だった。

 

「あ」

 

「あ」

 

 互いが互いを見つめ合う。

 私だけでなく、圭ちゃんまでもが八幡にキスをしていた。考える事は、同じという事なのだろうか。

 

 にしても。

 

「中学生が高校生にキスなんて良くないんじゃない?」

 

「早坂さんこそ。人にあれだけ常識がどうのって言っておきながら、人が寝てる間にキスするなんて。非常識じゃないんですか?」

 

 このエロガキめ。全くもって可愛く無い。

 ちょっと可愛いかもと思っていたが、それは間違いだ。恋愛に情けは無用。

 

 風紀委員ちゃんだけじゃない。会長の妹、白銀圭も私の敵だ。

 

 


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