歩容鑑定システムのスクリーンショット
◆研究のきっかけは何ですか
顔が見えないほど遠く離れたところにいる家族や友人を、歩き姿で見分けられた経験を、多くの人が持っているのではないでしょうか。実は、歩き方から誰であるかを判定できることは、シェイクスピアのテンペストの“High’st Queen of state, Great Juno comes; I know her by her gait(女王陛下であらせられる偉大なるジュノーが来る、それは私が歩き方で彼女だと分かったからである)’’という一節にも述べられているほど、古くから人々が共有してきた感覚と言えます。
一方現代では、街かどに数多くの防犯カメラが設置されており、顔認識技術などを活用した犯罪捜査への活用が期待されています。しかし、犯人がヘルメットで顔を隠している場合や、遠方にいて顔が良く見えない場合は、どうすれば良いのでしょうか?もしコンピュータが、歩き方から個人を判定することができるようになると、その問題を解決できるかも知れません。
◆どんな成果が上がりましたか

人工知能(AI)の一種である画像認識技術により、歩幅や姿勢、腕の振り方など、人の歩き姿の個性(歩容)をコンピュータに認識させる、歩容認証技術を開発しました。また、その歩容認証技術を発展させ、防犯カメラに映った2つの歩き姿が、同一人物であるかどうかを鑑定できるソフトウェアを、世界で初めて開発しました。これにより、2歩分の映像があれば、遠くにいる小さな歩き姿からでも鑑定可能です。
◆その研究が進むと何が良いでしょうか
歩容鑑定システムは、顔が見えないくらいに小さく映った犯人映像や、ヘルメットなどで顔を隠した犯人映像などで、頭を悩ませることが多い犯罪捜査現場での活用が期待されています。犯罪捜査員は、このソフトウェアを使って、手元で適時に人物鑑定結果を得ることができるようになります。
歩容鑑定システムは、実際に警察庁の科学警察研究所で、試験運用を開始しています。平成26年度の警察白書では、防犯カメラ映像に基づく新たな個人識別法として掲載されました。また2016年には、歩容鑑定システムによる鑑定結果が、日本の裁判所で初めて証拠採用された実績もあります。
歩き方には、その人の個人性だけではなく、病気や健康状態に関する情報も含まれています。例えば、パーキンソン病は歩行障害を伴うことが知られています。また、治療可能な認知症である水頭症については、手術の効果予測にも、歩行が1つの指標として用いられています。
また、成人病予防などのために重要な要素として、体脂肪率や筋肉量などが挙げられます。それらを、歩き姿から推定する研究も行っています。これらを歩き姿の画像認識で実現することで、より効果的な医療や健康維持に貢献できると考えています。
私は大学生時代、機械工学コースに所属し、力学・制御学・設計学を中心として科目を履修していました。一方、機械工学の中では少し異色である、信号処理に関する講義も受講していたのです。
先生から、ピンぼけした画像を鮮明な画像に復元する方法などをお話いただいたことがきっかけで、画像認識に関して興味を持つようになりました。それがきっかけで、信号処理の講義を担当されていた先生の研究室に配属となり、現在の画像認識に関する研究を志すようになりました。
このように大学の講義では、各先生方自身の研究や、関連する内容を交えて、お話しいただく機会も多くあります。皆さんもぜひ様々な講義を受け、自分がやりたい研究の探索の場としてください。
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「13.IT・AI」の「48.人工知能・機械学習、画像(CG等)、インターフェース系」
歩行器と多視点カメラを用いた歩行映像データ収集実験の様子
研究室では、人工知能の一分野である、コンピュータに人の視覚認識機能を与えることを目的とした、コンピュータビジョンと映像メディア処理に関する研究をしています。学生は、特殊なレンズや鏡を使った視覚センサの光学設計から、ミクロな細胞画像からマクロな群衆画像までを含む、多様な画像に対する画像認識アルゴリズムの設計やプログラミングなど、幅広い内容に取り組んでいます。
また、近年急速に普及している深層学習(ディープラーニング)に基づく画像認識手法の開発にも取り組んでおり、歩容認証を始めとする人物映像解析技術への応用を進めています。
◆主な業種
・電機メーカー、IT企業
◆主な職種
・研究開発者
◆学んだことはどう生きる?
画像認識は、人工知能の中でも近年急速に進展している分野で、多くの企業が参入している分野でもあります。工場のラインでの画像認識による自動製品検査システムから、セキュリティ用途の画像による人物認識システムなど、画像認識の研究を通して学んだ技術は、様々な場所で活用されています。
スマートフォンによる顔認識機能など、画像認識は皆さんにも身近な技術になってきており、実際の応用がイメージしやすい研究分野です。一方で、画像認識を始めとする人工知能分野の技術には、プログラミングを始めとする情報科学技術に加えて、皆さんが高校で学習している数学の知識が必要不可欠です。皆さんが高校で学んだことを活かせる画像認識の分野で、将来、皆さんと一緒に研究できることを楽しみにしています。
・ジェスチャ認識によるコンピュータのユーザインタフェース
(概要)OpenPoseを始めとして、世の中には人体姿勢推定のプログラムがいくつか公開されています。それらを活用して、ユーザのジェスチャ(身振り・手振り)を認識して、マウスの代わりにコンピュータを操作するユーザインタフェースを作成することを目指します。
これは、例えば、手術室でのコンピュータの利用時など、マウスなどを直接手で触れて操作することが難しい場合などに活用されることが期待される機能で、実際、そのような研究実施例もあります。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 実は、学生時代に力学などを通して学んだ数学の知識が、現在研究している画像認識の研究でも非常に役立っているので、同じ分野で学びたいです。 | |
Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? ニュージーランドです。何度か訪れたことがあり、豊かな自然と温暖な気候が、気に入っています。 | |
Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は? 映画ではなく演劇となりますが「レ・ミゼラブル」が印象に残っています。 |