「『差別・偏見』っていうのを1番最初に大きく取り上げ、植え付けたのは、報道の方々だったと思います」 未だ根強い偏見や差別が残っているHIV。30年以上前、HIVは不治の病と大きく報道された一方で、治療薬の進化については、あまり報道されていない。それが偏見や差別が続く原因でもある。
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2022年9月18日,石川県金沢市でプライドパレードが実施された。沿道で手を振る市民の姿も増え、性的マイノリティーLBTQプラスへの理解が着実に進んでいることが感じられた。
HIV陽性者をいまも苦しめる゛スティグマ(間違った認識)”
実はこのパレードの中には、HIVなどの感染症に対する差別や偏見に苦しむ人も参加していた。特にHIVに対しては、社会全体で正しい知識が共有されない為に、未だ根強い偏見や差別が残っているという。
奥村兼之助さん:
報道の方々に申し上げるのは、すごく心苦しいんですけど、この病気に対する「スティグマ(間違った認識)」とか、「差別・偏見」っていうのを1番最初に大きく取り上げ、植え付けたのは、報道の方々だったと思います。「HIVは死の病だ。同性愛者がかかる病気だ」って…。

こう語るのは奥村兼之助(おくむら・けんのすけ)さん。白山市に住む奥村兼之助さんは、ゲイであることと、HIVの陽性者であることを公表している。
奥村さんは、県の非常勤職員として働く傍ら、今回のプライドパレードを始めする「金沢プライドウィーク」を主催した金沢レインボープライドの事務局長を務めている。
奥村さんはHIVの陽性と判明したのは、約20年前のことだ。
奥村兼之助さん:
まず親になんて説明しようか、それから、その時のパートナーになんて説明しようとか、そういうのが1番最初に頭に浮かびました。そのあと、「これで自分は、死んじゃうのかな」みたいなことを、その時思いました。
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HIV、ヒト免疫不全ウイルスは、人間の免疫細胞に感染し増殖する。その結果、免疫細胞が徐々に減っていき、さまざまな病気を発症するようになる。この段階で、後天性免疫不全症候群、
つまり、エイズ(AIDS)と診断されるのだ。奥村さんの場合は、「HIV陽性者」であって、「エイズ患者」ではない。

HIV陽性と判明してから約20年たつが、奥村さんは一般の人と変わらない生活を送っている。
それを可能にしているのは、治療薬の進化だ。
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奥村兼之助さん:
ここに薬を持ってきたんですけど、1日1回。もしくは、種類によっては1日2回飲み続けるだけで、体の中でウイルスが検出されなくなります。そうなると、他の人にHIVをうつす心配もないですし、他の人から、また再度うつ可能性もかなり低くなってくるんです。じゃ、薬を飲みます。(ゴクン)。これで、きょう一日大丈夫です。
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偏見や差別を無くすのが「僕の使命」
金沢プライドウィークに合わせ、奥村さんも出席し、HIVへの偏見・差別を解消を訴えるイベントが開かれた。イベントにはHIVの治療に携わる日本エイズ学会指導医の渡邉珠代医師がオンラインで登壇し、現在の治療薬について説明した。
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渡邉珠代医師:
昔は1日20錠ぐらい飲んでいました。そこから、1日4錠、あるいは、1日2錠といった治療に変わってきています。最近は、1日1錠で済む治療薬や、1カ月に1回、注射を打つだけでよい薬などが開発されています。
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今やHIVは、早期発見、治療することでエイズの発症を防ぐことが出来るだ。しかし、奥村さんは訴える。
奥村兼之助さん:
こうした最新の情報を、報道の方々は「以前はこんなこと言っちゃいましたけど、実は現在、こうなってますよ」って、どれだけ取り上げてるかなって…。
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30年以上前、HIVは不治の病と大きく報道された一方で、治療薬の進化については、あまり報道されていない。それが偏見や差別が続く原因でもある。
奥村兼之助さん:
HIVになっている人間で、「顔を出してもいいよ、話してもいいよ」という人を広げていかなければいけないのかなと。それが、僕の病気になった理由か、義務だと思う。カッコつけているわけじゃないですけど…。
奥村さんは、これから声を挙げ続ける。支援者への感謝と共に…。
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奥村兼之助さん:
こうした機会を通して、皆さんはHIVについての情報に触れて、その情報を持ち帰って、広げることが出来ると思うんです。僕らは、雪崩の一粒を最初に作りたいという思いで、イベントをやっています。来てくださった皆さんには、本当に心から「ありがとうございます」とお伝えしたいと思います。
(石川テレビ)