初めまして! T田といいます!
某日、コミックDAYS内の闇結社「ゴシップ班」に所属するサキコ記者と酒を飲んでいた時のこと。彼女が過去に仲良くしていた男のスペック自慢(事実かどうかは疑わしい)を散々聞かされていた最中、ふと頭にこんな疑問が浮かびました。
これは酒場で注文した羊の脳みそ。不思議な味がしました… ※記事とは無関係の写真です
「そういえばエロ漫画家の奥様は、旦那の仕事についてどう思っているんだろう?」
「ご近所には旦那の職業を何て説明しているのかな?」
「さらに子どもがいる場合、子どもはお父さんの仕事を知っているのだろうか……?」
某動物園で見た親子 ※記事とは無関係の写真です
はい決まった!
今回は特別インタビューを敢行。
ご登場いただくのは……
(一時期エロ漫画を描いていた)福満しげゆき先生の奥様です!
……現役エロ漫画家じゃないのかよ!!
いきなりコンセプトずれたよ!!!
サキコ:●●●●先生や△△△先生(※成年漫画誌で活躍する方々)にもインタビューしようとしていたんですが、修羅デスクに『どうやって先生方の漫画を紹介する気だよ! 1ページも見せられねぇだろうが!』と怒られちゃいました~……。
ただ、福満先生の奥様と言えば、先生のエッセイ漫画にも登場する御人であり、美人ということで知られる。
……是非ともお会いしたい。
というわけで、福満先生の奥様に「エロ漫画家の家族ならではの話」を伺ってきました!
いざ、福満邸へ……
サキコ&T田:おふたりとも、本日はよろしくお願いいたします!
福満しげゆき先生(以下、福満)&奥様:よろしくお願いします~。
(『妻に恋する66の方法』1巻103p)
サキコ:おふたりは'01年にご結婚。そもそも奥様と出会った当時、福満先生はすでに漫画家だったのでしょうか?
奥様:『ガロ』(青林堂より'02年まで刊行されていた漫画雑誌)に4コマ漫画を載せてもらっていた時期でしたね。でも趣味で描いてるみたいな感じだったので、「職業:漫画家」という印象ではなかったです。「賞を獲って、今度雑誌に漫画が載るんだよ」「こういう絵も描けるんだよ」と言って色々見せてくれたりはしたんですが、本当にシュールな作風で……。私は当時“ガロ系”の意味をわかっていなかったんですが、元々クリエイティブな仕事に興味はあったので、すごいなーとは思いましたね。
T田:福満先生は'00年代前半にいわゆるエロ漫画を描かれていました。彼女として、妻として、ぶっちゃけどう感じていましたか?
奥様:単純にお仕事だと思ってました。大切なお仕事をいただけて、とってもありがたいなと。
T田:(奥様、すごい良い人なんですが…)先生がエッチな絵を描かれている姿を横から見たりとかして……。
奥様:はい、見てましたね。でも、イヤに感じたことはまったくないんです。それよりも「大変そうだな」という気持ちのほうが大きかったですね。上手く描けないと言って悩んでいることが多かったので。
T田:その時は横でこう、セクシャルなポーズをとったりとか……。
奥様:それはないですね(笑)。夫は綾波レイのフィギュアを見たりしていたんじゃないかな。
福満:確かに綾波フィギュアはよく見てたけど、行きづまった時にそんなことはしてないよ。昔から何か見ながら描いたりするのはルール違反的な思いがあって……一度記憶したものを思い出しながら、時には妄想で色々膨らませながら描いてましたね。
T田:(……奥様が良い人でゲス質問とか普通にツラくなってきてるけど、頑張ってインタビュー続けるよ!)
サキコ:福満先生が描かれる女性は胸部の服のしわが多い印象ですが、そのあたりも奥様がモデルになっているわけではないんですか?
(『中2の男子と第6感』)
福満:僕は緒川たまきさんという女優さんが好きでしてね。その方がかつて『週刊プレイボーイ』でタンクトップ姿のグラビアを披露した時に、シャツのしわで乳首が表現されていたんですよ。乳首が見えてるわけじゃないんですけど、シャツのしわによって乳首の存在が証明されているっていう……そのことに当時の僕はすごく感動しましてね。その体験が原点です。妻から学んではいないです(笑)。
T田:奥様はその絵を見て、女性の視点から「この胸、違くない?」みたいなツッコミを入れたりは?
奥様:そこはですね、私が入ってはいけない領域な気がして……何も言わないです。ただ、夫が描いたストーリーを見て、「あ、この人こういうことで興奮するんだ」とは思ってます(笑)。「ふーん、そうなんだ……」みたいな。
福満:その空気は僕も感じていますよ。「あ、この人いま『ふーん』って思ってるな」とか。
奥様:お互い無言でバチバチしあいますよね。
サキコ:「それ言ったらダメ」なラインが暗黙の了解で出来上がってる感じですか?
奥様:なんか独特な「何も言うな」オーラを感じて、口にしちゃいけない気がして(笑)。もっと分かりやすいネタには突っ込めるんですけどね。以前、某コスプレイヤーさんが好きだという話を描いていて、「ああいうコ、好きなんだ?」的なことを私が言ったら、夫が「ハ、ハハハ」と露骨に動揺したことがあって。ワナワナする感じが面白かったですね。
でも、夫の作品を読んで私が嫉妬するとかはないです。彼の描く好きな対象が芸能人や二次元だったりするからですかね。近くにいるアシスタントさんが好きとか、そうなると話がまた違ってくるのかもしれないですけど。私が俳優を眺めて「かっこいい」って言うのと一緒かなと思ってます。
(『妻に恋する66の方法』1巻117p)
子どもに作品を見せる?見せない?
サキコ:おふたりの間には2人のお子さんがいます。奥様はママ友に福満先生のご職業を明かされていますか?
奥様:子ども関係で仲良くなった方のうち、2~3人にだけ、夫が漫画家だと話してますね。みんな、漫画家という職業の人に会ったことがなかったみたいで、驚いていました。「『ONE PIECE』のルフィを描いて!」と言われたり。「漫画家っていっても、いろんな漫画家さんがいるんだよ」とは言ったんですけど、“漫画家=週刊少年ジャンプで連載”と思われるみたいで。
T田:(ジャンプってやっぱすげー)
サキコ:興味がわいて、福満先生の作品を買って読まれる方もいるのでは?
奥様:そうですね、一応読んでくれているみたいで、たまに「読んだよー」って直接言われます。でも、みんな本当に応援してくれてますね。特に意識はしていないですが、そんなふうに応援してくれるような人を選んで、夫が漫画家だと明かしているのかもしれないです。
サキコ:お子さんたちはお父さんが漫画家ということは知っているんでしょうか?
奥様:上の子が小学校2年生で8歳、下の子が5歳ですが、最近になって「いつも家にいて絵を描いている人」から「漫画家っていう職業があるんだ」と認識してきたという感じです。子どもたち自身も出てくるエッセイ漫画『妻に恋する66の方法』とかをたまに読んでる姿は見かけますね。最初はどうなることかと思ったんですが、面白いみたいで笑っています。
(『妻に恋する66の方法』2巻93p)
T田:ちょっとセクシーな女の人が出てくる作品群は読まれていないですか?
奥様:それは見せてないですね。夫も子どもに読まれるのはとてもイヤみたいなので、目につかない場所に隠しています。私も夫から「きわどいのは読んでほしくない」と言われているので、実は一部しか見たことがありません。こっそり隠れて読みました(笑)。
福満:漫画家を目指すとか、そういう意思がしっかりある子ならまだ見せてもいいかなと思えるんですけど、たんなる興味だけで見られるのはちょっと……。うちの子どもには公務員や薬剤師になってほしいんですよ。
T田:すごく堅実ですね!
福満:これは昔バイト先の子が「将来安定する職業だ」って言ってた2つなんですけどね。
漫画のネタにされる日々
サキコ:『僕の小規模な生活』や『うちの妻ってどうでしょう?』など、福満先生は奥様を登場人物に据えた作品を多数描かれています。漫画で描かれることについて、奥様はどう感じていますか?
奥様:それはもう抵抗がありましたよ! ただ、どんなに言っても描くのをやめないんですよね。ネタのいくつかは泣き崩れ落ちながら抗議したり、怒鳴ったり、色々なかたちで抗ったんですけどダメでした……。できあがった作品を見て、「私はこんなに太くない!」と文句をぶつけたこともありましたねぇ。まぁ今は実際太くなっちゃったので、そこは何も言えないんですけど(笑)。
サキコ:奥様、いい人すぎます……!
奥様:ケンカした時のこととか、本当は描いてほしくないんですよ。でも私が言った悪口をよく覚えていてですね。「あのとき、○○って言ったよね?」と。確かに言っているから、いくらイヤがったところでネームを変えてはくれないんですよね。
(『妻に恋する66の方法』1巻84p)
サキコ:夫婦生活を送っている中で、「これはネタにされそうだから言わないでおこう」みたいにブレーキをかける場面はあるんですか?
奥様:それができればいいんですけどねぇ……。コントロールできたらなとは思いつつも、なかなか上手くいきません。
福満:一応「これを描いたら嫌がられるかな」っていうラインは自分の中に設けているんですよ。とはいえ、こういう漫画を描いて収入にしてきた部分もありますし。妻には「もっと一緒に犠牲になってよ」って思ってるんですけどねぇ。
サキコ:いやいやいや! 奥様は本当に懐の深い女性だなと感じましたよ……!
福満:うーん。確かに19~20歳のころから6~7年間、無収入の僕を働いて支えてくれてたので、ありがたいと感謝もしているんですけれど。でもその後、僕は都営住宅の抽選に申し込んで当てたりもしたし、もういいじゃんって……。
T田:それ、当てるのかなり難しい抽選ですよね(笑)。
福満:そうですよ。相当なくじ運も使ったんだから、もう色々大目に見てくれよと。ただ、妻が働いている間、僕はずっと漫画を描いていたのかというと全然そんなこともなくて。妻に「ちゃんと漫画を描いて出版社に送れ」ってハッパをかけられた部分もあったので、「はたして妻と出逢っていなくて自分ひとりだったら、漫画家になっていたのか?」みたいな想いはありますね。妻とつき合うようになってから、描く女性キャラが全体的に太めになりましたし、やっぱり色んなところで影響は受けていますね。
サキコ:いいお話じゃないですか!
福満:ただ、何で結婚したのかは全然覚えてないんですよね。お互い、カラダ目当てだったのかなって。
奥様:いつもこういうことを言うんです……。
T田:先生、独特な愛情表現、ごちそうさまです!
いやはや、ご夫妻が予想以上に善人すぎて毒気が抜かれたと言いますか、インタビューしながら「こんな善良な夫婦のウラ事情を探ってやるぜゲヘヘ、と息巻いていた自分がすごいイヤ」という感情に苛まれてきたのでインタビューはここまで……。
ものすごく愛のあるご夫婦というのがひしひしと伝わってきました。そして奥様の器の大きさがすげぇな、と……。
お二人とも、ありがとうございました!
(『妻に恋する66の方法』3巻77p)
今回お話を伺った福満しげゆき先生は現在『イブニング』にて『妻に恋する66の方法』、『週刊ヤングマガジン』にて『終わった漫画家』を連載中。名著『僕の小規模な生活』も第6巻まで講談社より発売中です!