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魔術師クノンは見えている 作者:南野海風

第七章

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209.デート 2





 正式な名前はない。

 ただ、ラバカの木が立ち並ぶ道だから、ラバカの小道と呼ばれている。


 農耕地帯へ続く道の一つで、この辺から建物はどんどん少なっていく。

 ゆえに、人通りが少ないのだ。


「あそこ、空いてますね」


 人気が少なく、景観は悪くない。


 要するに、恋人たちがいちゃつくには丁度いい場所、となる。


「どうぞ、ミリカ様」


 ふぁさぁぁぁ


 首尾よく空いていたベンチに、ハンカチを広げるクノン。

 紳士的な行動である。


「ありがとう、クノン君」


 その上に座るミリカ。


「どうぞ、ミリカ様」


 ふぁさぁぁぁぁ


「布型水球」で作ったブランケットをミリカの両肩に掛けるクノン。

 紳士的な行動でしかない。


「あ、ありがとう、クノン君」


 布としか思えない触感のそれを受け入れるミリカ。


「どうぞ、ミリカ様」


 ふぁさぁぁぁぁぁぁ


 ついでに膝掛も用意するクノン。

 紳士的すぎる。逆にしつこいくらいだ。


「あ、うん。クノン君も座ったら?」


 秋である。

 それなりに空気は冷たいので、まあ、有難い気遣いではあるのだが。


「あれ? 足湯は?」


「足湯までは結構です」


 クノンはどこまでも紳士的である。

 紳士が行き過ぎなくらいだ。

 本当に。


 並んで座り、買ってきた暖かい飲み物をすする。


 紅葉が美しい。

 喧噪は遠く、木の葉が揺れる穏やかな音に、心が休まる。


 クノンも、ミリカも。

 久しぶりに二人きりで過ごした時間は、とても楽しかった。


 気が付けば、もうすぐ夕方。

 あっという間にこの時間である。


「――クノン君」


 のんびりと、今日の出来事を振り返る。

 まるで熱された気持ちを落ち着けるように。


 そんな時、不意にミリカはクノンを見た。


「お話しないといけないことがあります」


「はい? なんでしょう?」


 改まった声に、クノンは何事かと身構える。


「実は……ずっと話そうかどうか迷っていたのですが……

 でも、きっと話した方がいいと思って。だから話すことにします」


「もしかして、昨日のディナーから何度か言いかけていたことですか?」


「……気づいていたんですね」


「気づいた、と言っていいんでしょうか。そう感じただけで根拠はないですけど。でも、ずっと気になってました」


 会話の最中でも、会話が途切れても。

 ミリカが何かしら迷っている気配は感じていた。


 だからクノンは、何も言わずに待っていた。


 紳士は淑女を急かしたりしないものだ。

 伝えるかどうか迷うくらい言いづらいことなら、猶更だ。


「そうですか……」


 ――気になっても問い質さないクノンの心境を、ミリカは己への気遣いだと解釈した。


「クノン君、実は私」


「はい」


「今現在、王城を出て、辺境の地に住んでいるんです」


「……はい?」





 予想もしていなかった話だった。


 まさか別れ話だろうか。

 あるいは、何かの事情で国にいられなくなって、ここまで来たのではないか。


 クノンもそれくらいは考えていたが。


 ミリカは王族である。

 正式な理由もなく、国から離れられるわけがないのだ。


 婚約者に会いに行く。

 そんな理由で国を離れることは、許されない。


 他国の王族や皇族が婚約者である。

 それならあるかもしれない。

 それはもはや公務に等しいから。


 まあ実際どうかは知らないが、少なくともクノンはそう学んでいる。

 基本、国から離れられないのだ。


 だからこそ、それ相応の事情があってディラシックまで来たのではないか、と思っていた。


 それこそ、正式に婚約解消となり。

 ミリカの最後の我儘でクノンに直接会いに来た、とか。


 それくらいの事情があれば、あるいは許されるかも、と。


 そんな心配もあり。

 だからミリカが来た事情を、クノンは深く考えることはしなかったが――


 しかし彼女が抱えていた事情は、クノンの想像の範疇を超えていた。


「え? じゃあ、上級貴族学校の騎士科にいるという話は?」


 ミリカの近況は、手紙で知らされている。


 逆に言うと手紙でしか知らない。


 そこにでたらめや虚偽があれば。

 クノンには、ミリカの動向の一切を知る術がない。


「今年の春までは王都にいましたよ。それまで所属していました」


 だいたい半年くらいだろうか。


 今は秋。

 つまりミリカは、春から王都を離れ、それから辺境の地で過ごしたということになる。


 一応、手紙に嘘はないのだろう。


「今は辺境の地で、上級貴族学校の勉強と、騎士見習いとしての鍛錬を積んでいます。

 住んでいる場所こそ変わりましたが、やっていることは変わりません」


 まあ、気にならないとは言わないが。

 そこはいいだろう。


「なぜそんなことに?」


 そもそもなぜ辺境の地に行くことになったのか。

 問題はそこだろう。


「簡単に言うと、クノン君と結婚するのが難しくなったからです」


「はい? ……話が飛んだ?」


「いえ、飛んでませんよ。理由はそれです」


 そうしてミリカはぽつぽつと語り出した。





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