「杉田水脈(的女性)」の需要
さて、ヒーローが誕生するためには、当たり前だが敵役、ヒール役が必須である。
「愛国ヒーロー」を輝かせるためにも、「反日勢力」こそ欠かせない存在となる。
敵との争いが激化するほど、ヒーローはヒーロー足りうる。
特に、今まで「男」というだけで既得権益を得られる優遇エリアにいた男性たちは、単に公平な競争エリアに移っただけで不当な待遇になったという不満を持つ。
自分たちの身が女性たちの権利主張により脅かされているという不安な感覚を持っているものの、ただ自分たちがその正当性を言ったところで「ちっちゃい」と批判されかねない。
だから「国」に置き換えて話すのだろう。
「国が不当に貶められている」「国が搾取されようとしている」と言う時、もはや「国」と「自分」は一体である。
「国」と言った瞬間から「自分」はオーソライズされる。価値を持つ。なんの担保もないが、「愛国」を全面にすると世界は一変するのだ。
「男女平等は、絶対に実現しえない反道徳の妄想」。万世一系、「日本の伝統」に沿えば「男性」というだけで優遇されるのは当然。
ただ、自分でそれを言うのでは説得力に欠ける。表向きの客観性がほしい。
そこで求む、モモレンジャー!男性側ではなく女性側から主張をするからこそ、要求は不当とは見えないのだ。「杉田水脈(的女性)」の需要がそこに存在する。
日本はセクハラ、パワハラが蔓延する男性社会だ。しかし杉田氏はそれを否定するのではなく、社会で女として生きるなら、むしろパワハラ、セクハラを賢く回避する術をもつぐらいでなければならないと自説を展開するのである。
そういう意味でも「愛国」業界ではわかりやすく男性側の主張を「正義」と言い切る杉田氏は貴重な存在である。
杉田氏が出演するネット番組では、飲み物やおつまみらしき食べ物がならんでいるのを見ることができる。出演者はリラックスし、視聴者もまるでスナックのような雰囲気に入り込んで行く。
名前を出して堂々と口にできないことを、水脈ママは言ってくれる。妻や上司の前では言えないことを言っても、ここでは大丈夫という安心感を杉田氏は提供しているのかもしれない。
「女として落ち度があった」BBC番組の波紋
「日本の秘められた恥」としてBBCが放送したドキュメンタリーの中での杉田氏のインタビューには大きな反響があった(「日本の秘められた恥」 伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送)。
「杉田議員は、伊藤氏には『女として落ち度があった』と語った。
『男性の前でそれだけ(お酒を)飲んで、記憶をなくして』、『社会に出てきて女性として働いているのであれば、嫌な人からも声をかけられるし、それをきっちり断るのもスキルの一つ』と杉田議員は話している。
議員はさらに、『男性は悪くないと司法判断が下っているのにそれを疑うのは、日本の司法への侮辱だ』と断言。
伊藤氏が『嘘の主張をしたがために』、山口氏とその家族に誹謗中傷や脅迫のメールや電話が殺到したのだと強調し、『こういうのは男性のほうがひどい被害をこうむっているのではないかと思う』と述べた」
後半部分はまさに前項で述べたように、加害男性の家族等を持ち出して、むしろ被害者であるとまで言っている。
もちろん、この発言もかなりひどいが、さらに醜悪なのは杉田氏や長尾たかし氏他が出演したインターネットテレビの映像だ。
誰が見ても詩織さんを類推させるイラストを、これは特定の誰かのことを言っているわけではないと言い訳した上で、嘲り、笑い、蔑みの言動を行なっている。
この醜悪さが世界に向けて流されたことは、杉田氏にとっても予想外だったかもしれない。