どちらも僕…明かした正体 漫画家「ぴあき」/弁護士 川畑光輝 二兎を追う
居場所を奪われた喪失感や虚無感。「法律の知識があれば、泣き寝入りせずに済んだのに」。困った人を助ける弁護士に、初めてあこがれた。
法学部に行こうと決めた高校時代、参考書を詰め込んだカバンを3つ抱え、読みながら登校した。同級生には「二宮金次郎」とからかわれた。毎日早朝から学校に行き、自習室や塾から帰ってくるのが夜7時過ぎ。そこから深夜2時過ぎまで漫画を描いた。高校3年間、ページに換算すると1千枚は下らない。
大学進学後もペースは衰えなかった。「乗っ取り事件」後、しばらくしてからハンドルネームを変えて、投稿を再開した。同人誌も定期的に出し、4年のころ出版社の目に留まり、商業誌デビューを果たした。
自分の作品が目の前で売れていく様子は、最高の一言に尽きた。「新参の漫画家なのにがっつりホラーでいいね」。読者からのコメントを、何度も何度も読み返した。
■弁護士と漫画家、切り離せない……
あこがれの弁護士に向けた道のりも着実に歩んだ。司法修習を終えた後、弁護士専用の求職サイトには、迷った末に「漫画を描き続けたい」と条件を付けて登録した。それを見て採用したのが四谷見附法律事務所の弁護士、田畑貴之だ。
「企業法務は無理だし、他の事務所でも難しいだろうなと。でも弁護士にとって幅の広さは大事。まあ、僕が漫画好きだから甘かったのかも」
昨年4月から、田畑について交通事故や相続などの民事訴訟を学ぶ。
自分と「ぴあき」が同一人物だと公表するのは初めてだ。
「僕の漫画をバカにする人は絶対いると思う。でも、困っている人を助けたいと思う現実世界の弁護士と、空想世界を描く漫画家のどちらも僕で、切り離せません。名前を出すことで、両方を究める覚悟がより固まった気がします」
吹っ切れたような、どこか晴れ晴れした表情だった。=敬称略(大森貴弘)
◇かわばた・こうき 平成9年9月、北海道釧路市生まれ。北海道大卒。東北大法科大学院を経て司法試験合格。令和5年4月から四谷見附法律事務所(東京都新宿区)で弁護士として勤務している。漫画家「ぴあき」としても令和2年に商業誌デビューした。