日本の年金基金を運用するGPIFが2014年に行ったポートフォリオ変更は、GDPの10%もの資産を生んだ。国債中心の運用から株式や外国債券の運用への転換は投機的と批判されたが、結果は成功と言える。この政策実験からは、債務の考え方や民間投資の注意点など世界が参考にできることが見えてくる。

 先進経済大国が国内総生産(GDP)の1%に相当する財源を毎年増やすことができる──そんな政策を想像してみよう。その政策は魔法のように働く。増税も、歳出削減も、資産の売却も、償還すべき借り入れもせず、何もないところから資金が湧き出てくるのだ。財源不足に悩む世界中の政府にとり、そのような政策はとても魅力的だが、そんなにうまい話があろうはずがない。

 だが、実際にそれは存在するのだ。お分かりだろうか。

 答えは、世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2014年に行った改革だ。それは、為替と株式のリスクをある程度負う改革だった。

 当時の首相だった安倍晋三氏が推し進めたこの改革で、GPIFのポートフォリオは、国債が60%という国内中心の構成から、国内・外国の株式を50%とし、外国債券も増やす形に変更された。

 その結果、14年度末に137兆円だったGPIFの資産は、今では226兆円にまで増大している。英ヘッジファンド、ユーリゾンSLJキャピタルのスティーブン・ジェン氏とジョアナ・フレイレ氏の計算では、14年の改革がなければ、現在の資産は168兆円だったという。改革のおかげで増えた58兆円は、日本のGDPの約10%に相当する。歴史上、資産構成の見直しがこれほどの富をもたらした例はないに違いない。

 言うまでもなく、このポートフォリオは円安の恩恵を被っている。14年には1ドル100円程度だった円相場は、この間に150円程度まで下落した。しかし、これはただ運が良かったという話ではない。為替のリスクを負ったからこそなのだ。資産がリターンを生まない時期には、利益の一部が消え去ってしまう可能性もある。

 それでも、この政策実験について、世界は詳しく見ておく必要がある。そこには6つの教訓が見て取れる。

 第1に、日本は、12~20年に首相を務め、22年に銃撃事件で死亡した安倍氏に感謝すべき理由がある。反対派は、この改革は公的年金基金を使った投機であると非難した。基金の価額が下落して批判が噴出したこともあったが、安倍氏とアドバイザーらは指導力を発揮して乗り切った。GPIF改革は同氏の最大の遺産ではないかもしれないが、誇ってよい業績だ。

純債務が10ポイント縮小

 第2に、この改革は、公的債務を総債務(グロス)ではなく純債務(ネット)で見ることの重要性を浮き彫りにしている。日本がGDP比252%という世界最大の公的総債務を抱えることはよく知られている。だが、純債務はGDPの158%であり、その差のかなりの部分はGPIFの資産が埋めているのだ。

 14年に、ポートフォリオの変更ではなく、GPIFの資金を使って国債発行残高を減らす方策を採っていたとしよう。その場合、総債務は縮小しただろうが、新たな投資ポートフォリオで得られたはずの利益が失われ、純債務は今より10ポイント高くなっていたと考えられる。

この記事は有料会員登録で続きをご覧いただけます
残り1646文字 / 全文3072文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題