学割証からDXの本質を考えてみる
このnoteでは、僕自身の経験した不条理な体験をもとに、DXの本質について考えたい。
窓口で待たされ新幹線に乗れなくなる
用あって新幹線を利用することがあり、学割での購入のため乗車の20分前に窓口に行ったところ、訳のわからない家族と訳のわからないおばさんが訳のわからない話をしつつづけて列が進まず、結果乗りたい電車に乗れず、1時間待たされることになった。
家族と女性は異常にのんびりしていて、はじめは「電車の窓口はみんな時間制限を背負っているのだから要領よくしてくれればいいのに」と腹が立った。
少し冷静になって「時間のかかるレーンと発券だけのレーンを分けてくれればいいのに」と思ったが、まずもって「そもそも僕が窓口に並んでいるということ自体が問題なのだ」と気づいた。
そもそも学割証なるものがなければ別に窓口に行く必要はなく、人を急かせることもない。学割証こそがこの無駄なディレイと待ち時間の本質的な元凶なのだった。
学割自体は素晴らしい制度であるものの、学割証自体はユーザーにも企業にとっても使いづらい制度である。
少なくとも今の時代の中で学割証のために
①学生は学校に発券に行く必要があり移動が必要で、
②大体は変な機械を操作して発券して感染リスクを負い、その上で
③窓口にいき並んで、学生証も見せないといけず、
感染リスクの三重苦である。
(券売機でも学割対応する場合もあり、裏モードなどと呼ばれたりしているようだが、一般的とは言えないのだろう)
学割証をオンライン化してほしい。
そのことによってユーザの無駄な時間と感染リスクをなくしてほしい。
そして企業の窓口対応の負荷を減らし、複雑な問題を抱えている人に時間を割いてほしい。
本noteの主題はシンプルにそこに帰着する。
突然生まれた1時間の無用な待ち時間を使って、学割証の抱える問題の解決とその価値について掘り下げ、そこからDXの本質を炙り出したい。
学割証の必要性
そもそも学生証とは別に学割証なるものがある訳なので、やはりそこには理由があるのだろう。想像してみるに、JRの場合は学割証を必要とする理由は少なくとも主に2つなのではないか。
①学割の不正利用を防ぐため
まず第一に、学割証の発行の手間をあげておくことで、家族のために券を購入したりするような不正を防ぐ意図もあると考えられる。学生証だけで気軽に券が買えると不正することも気軽になってしまいかねない。
②JR側の認証記録を残すため
第二の役割は、おそらくJR側で名前と行き先、帰りさきの履歴を取るためだろうう。何かしら不正があった際に振り返ったりできるようの記録として学割証で確認する。
主にこの2つの問題であれば、デジタル学割証の方が圧倒的にいい。そしてそれ以上に、デジタルの方がいい。
具体的な手法としては、認証はユーザーごとにIDを振り当てて、Sheer IDなどのサービスを利用して学割認証すればいい。AppleもSpotifyもそうしたサービスを用いて認証される。紙で認証する必要がそもそもない。もちろん対応できない学校なども出てくるだろうと思われるので、そうしたものは最初は窓口で対応しておき、次第にオンライン認証に移行していけばよい。
アプリかWebで認証し、ケータイをチケットがわりにするかもしくはナンバーで発券できるようにしておけば、学割証の呪いは本質的には解決する。
JRにとっての価値①:不正防止としての学割証の必要性の代替のデザイン
学割証の必要性を2点から書いたが、これらはおそらく、同じ問題に根っこがある。それは「不正を防ぐこと」だ。
さまざまな不正を防ぐという観点から言えば、デジタルの方が圧倒的に良いと思う。なぜか。
デジタルであれば、①後追いして不正を発見できるとともに、②コストが積分になって検知精度が高まるからだ。
①オンラインによる不正防止と後追い&解析による不正の検知
そしてオンラインで認証しデータベースに購入履歴が溜まっていけば、そうしたデータを対象として不正がないかどうかを後追いで解析することができる。
具体的には、その人たちの行動履歴から不正を把握できる。例えば山口から東京までの便を購入した翌日に福岡からの便を購入していたらおかしい。こうしたことは窓口対応では発見しづらく、紙にデータは残っていてもその履歴を追いかけたり整合性を確認したりするコストは尋常ではなく高くなる。しかしデータであれば、ルールベースの解析とAIの解析を組み合わせてこの行動履歴から不正を暴くことは比較的容易にできる。
②不正検知&防止コストの積分の重要性
データベースが増えるほど不正検知の精度は上がり、さらに対応したい不正のパターンうや幅は時間が経つごとに増やしていくことができるので、不正の検知精度は時間が経つごとに相乗的にどんどん上がっていく。紙であればずっと変わらず大変で精度の低い不正検知が、システムを使えば比較的用意にできる上、時間が経つごとにどんどん精度が上がっていく。この時間の積み重ねるを利用する積分の効くポイントへの投資が何より重要だ。
日本人はなぜか、初期コストにばかり目がいく。しかし費用対効果は時間的な積分の中で捉えるべきであって、その点からみた時、同じように、学割証は廃止したほうが、不正をむしろ検知しやすくなる。
JRにとっての価値②:窓口負荷も下げる
ここから、JRにとっての不正防止以外のメリットを、2つの点から書いてみたい。まず第一に、窓口の対応コストについてである。
学割証をチェックし、学生証をみせ、赤ペンで色々チェックを入れて棚にしまい、やっと発券するというフローは、明らかに無駄な事務作業を膨大に生んでいる。
あのフローが一人当たり5分のコストを生んでいるとして、およそ100あるらしい新幹線の駅で、1時間あたり平均で10人対応していると仮定すると、およそ6時から21時まで購入のニーズがあるとしたとき、トータルでおよそ1250時間のロスになる。駅員の時給を福利厚生なども入れて3000円と仮定すると、会社としては1日で375万円のロス、1ヶ月になると1億1250万円のロス、1年で13億5千万円のロスになる。実質的にオンライン認証の利用者がこの3分の1程度にしかならないとしても、単純に4億以上は年間の出費を防ぐためにプロジェクトの予算にかけられる計算になる(ラフだが)。
逆に言えばこれだけの時間をかけて紙で精度も悪く、成長もしない不正防止をしているのである。
JRにとっての価値③:行動解析の素材としてのデータの蓄積
学割証は、学生の失踪や事件などがあった際に、移動履歴を追うことにも使われうるだろう。しかしデジタルにした方が、当然記録も残せるし、検索性も上がるので、デジタルの方がいい。こうしたデータは非常時に用いるだけでなく、日常的に利用していくことができる。
認証のプロセスでアプリを入れてもらい行動履歴をとれば、学生の移動パターンのデータベースが出来上がり、再開発に生かすことができる資産になる。
2013年にJRはSUICAのデータを販売しようとしてバッシングをくらい中止して以来、行動履歴を撮ることには敏感なのかもしれない。しかし別に内部利用することには何ら問題はないだろう。是非ともオンラインアプリで予約から認証までできるようにしていただきたい。ついでに通勤定期などの購入も全てそこで管理できるようにするといい。
データを取ることだけを主眼にした施策は個人的にはうまくいかないように思える。むしろ制度上必要になってくるシステムをどう手を少し加えればうまくデータが貯まるようになるかという設計の方が好ましい。
最後に:DXの本質は「ユーザー中心」
学割証という前近代的で非効率的な呪いを消し去り、コロナ禍での感染リスクを解消するDXは、世の中から好意的に受け取られることだろう。
黒鳥社の発行した冊子によれば、各国のDXを先導したインタビュイーが「DXとは?」と聞かれ、そのほとんどが「ユーザー中心ということ」と答えたという。この答えはきわめて本質的なものだと思う。
DXはあくまで手段であって目的ではない。もっというと、システムの効率的な運用のためにはむしろ、会社の縦割り区分や部署の作り方がそもそも問題であるということも少なくなく、治療に体質改善と薬を併用することがあるように、「本質的な問題の同定とその解決」というスタンスこそが重要であって、DX自体は別に重要ではない。
DX自体がパフォーマンスになっているのは本当によろしくない、と思う。
僕自身、数千人規模の大企業のDXのコンサルティングの仕事もしたが、みなVRやARなどの派手なDXを好みすぎる傾向にあると感じた。
派手なパフォーマンスとしてのDXは、サッカーでいうところのオーバーヘッドシュートのようなものだ。それは確かに派手で目をひくが、その実行に至るまでには基本的なドリブルやパス、トラップの能力が不可欠であることを忘れてはならない。
そうした地道な積み重ねを経験した習熟者が、ある危機的な局面でそれまでの経験と努力を集大成して繰り出すのがオーバーヘッドシュートであって、小学生がロナウドの真似をしてオーバーヘッドの練習ばかりしているのが滑稽で的外れなように、パフォーマンスとしてのDXはうまくいかないだろう。
「ユーザー中心の態度で、本質的な問題の同定と解決を泥臭く進めていくこと」。DXを進める方法はそれ以外にないのではないか、という気がする。
また、DXはあくまで体質改善のようなものであって、利用者のリテラシーやスタンスにも依存する訳だから、一朝一夕にはいくとも思えない。
ステロイド剤を使った筋肉の増強と、週3でジムにいき食生活なども改善する人を比べて見れば良い。前者は短期的にはパワーを出すだろうが怪我もうむ。体に馴染まないからだ。後者は徐々にではあるが確実に改善していく。
ぜひJRの方にも、ユーザー中心の視点から全体を構想して絵を描き、効果的なDXのポイントを探り実行していただきたい、と思う。
サポートは研究費に使わせていただきます。


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