冒険します。冒険者なので。


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作:POTROT
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帰宅にも一苦労


 エルマーの工房で、カン、カン、と言う槌の音に合わせて剣を振る。

 ……かれこれ、1時間近くはずっと剣を振っているのだろうか。

 未だに疲れは感じないが、そろそろ汗の量が増えてきた。

 このままだと、戻って来たテスカトリポカに汗臭いだの何だのと文句を言われてしまいそうだ。

 そろそろ素振りを中断した方が良いだろうか……

 

「おう、やってるかー? って相変わらずクソ暑ぃなぁオイ。クーラーとか無いのかこの部屋」

「やっとらん。帰れ、このロクデナシめ。ただどうしても涼みてぇっつうならそこに試作品の魔剣がある。どれかが氷結魔法だ。使って良いぞ」

「お? 不敬か? 相変わらずクソ度胸だなァじーさん。えぇ?」

 

 などとそんな事を考えていたら、唐突に工房の扉が開き、ズカズカと彼女が入って来た。

 どうやら神会(デナトゥス)はもう終わったらしい。

 心なしか、何だか疲れているように見える。

 神の力(アルカナム)を封印し、常人と同程度の身体能力であるはずの彼女がこの灼熱にも等しい工房で平然とできているのは、まぁ、彼女がテスカトリポカだからと言う事にしておこう。

 ……いや、そんな事よりも。

 

「俺の新しい二つ名はどうなった。テスカトリポカ」

「おうおうおうおう。オマエも相変わらずクソ度胸だなぁオイ。……ったく。まぁ良い、テスカトリポカは寛容だ。赦してやるし教えてやる。ついでにそこのじーさんの分もな」

 

 ホレ、と。

 テスカトリポカが一枚の羊皮紙を投げ渡して来る。

 紐で巻かれたそれを開けば、どうやら今回付いた新しい二つ名の一覧らしい。

 いつの間にやら槌を打つ手を止めてこちらへと来ていたエルマーと共に、その名前の羅列を覗き込んでみれば────

 

「…………【蒼き猛火(アズール)】」

 

 ……成程、素晴らしい。

 前回の『火種』から『猛火』への成長、と言うのは学のない俺でも理解できるが、これを『アズール』と読ませるのは、流石の神の技と言ったところか。

 ……いやまぁアズールの意味は分からんが、響きが格好いいのでそんな事は気にしない。

 

「うーむむ…………」

 

 隣を見てみれば、エルマーも自らの新しい二つ名を噛み締めているようだ。

 エルマーの新しい二つ名は……【鉄火場の老山(アルト・シュタール)】!

 ……成程、エルマーが唸るのも納得だ。

 人間では一生かかっても思いつきすらしない、奇跡の一作と言って良い。

 やはり神々は、ことネーミングセンスにおいて下界の遥か先を征く…………!

 

「はぁ……それがオマエらの新しい名だ。良かったな。オレとしちゃあ納得いかねぇが」

「ん? 何故だ。良い名前だろう?」

「あぁ? ……あー、うん。そーだな。うん。イイと思うぜ。オマエが満足ならテスカトリポカそれでいいと思う」

 

 新しい二つ名に夢中の俺たちに、何だか不機嫌そうな雰囲気のテスカトリポカ。

 一体何があったのかと彼女に聞いてみると、彼女がわかりやすく拗ねた。

 そんな彼女の様子を見て、俺は何となく神会(デナトゥス)でどう言うことか起きたのか察する。

 

「……もしかしてアレか。この名前、アンタが考えたのじゃないのか」

「ああそうだ。オレの考えたのじゃねぇ……クソ、あんのトリ頭め……」

 

 テスカトリポカが忌々しげに嘯く。

 トリ頭……と言うのは、確かアストレア神の事だったか。

 どうやらテスカトリポカの考えた名前は、アストレアによって邪魔されてしまったらしい。

 あの神の性格的に、余程の名前でもなければ俺の主神である彼女の命名にケチはつけないだろうが……そうなると、彼女がどんな名を俺に付けるつもりだったのか、気になるな。

 

「なぁ、アンタは俺にどんな名前を付けたかったんだ?」

「【偉大なるテスカトリポカの化身(ジャガーマン)】だ。いいだろ?」

「……………そうか」

 

 自分の考えた名を自信げに告げたテスカトリポカ……であるが、さてどうしたものか。

 人の身でもこれが『ダサい』と言うことが理解できてしまう。

 どうしてウチの主神はこう……普段は格好いいクセに所々で死ぬほど不器用になるんだ?

 

「銘を考えるのが苦手な儂からしても糞みてぇな名前じゃのう。英断じゃぞ、そのトリ頭とやら」

 

 俺もそう思う。

 本当にアストレア神には感謝を送りたい。

 

「ハンッ! テメェみてぇな耄碌したじーさんの意見なんざ知ったことかよ。おいカイ。オレの考えたこの名前はどうだ? ……そうかそうか、感動のあまり声もでねぇか。やっぱりオマエはこっちの方が良いと思うよな?」

 

 と、反応に困っている俺にテスカトリポカがそんな事を一方的に捲し立てて来る。

 テスカトリポカには申し訳ないが、普通に【偉大なるテスカトリポカの化身(ジャガーマン)】は嫌だ。単純にダサい。やるならせめて【象神の杖(アンクーシャ)】くらいが欲しかった。

 しかし、ここで馬鹿正直に俺の所見を答えてはダメ。一件余裕そうに見えて極東の『トウフ』より柔らかくなっているであろう彼女の心を、容易く傷つけてしまう。

 だからと言って嘘をつくのもダメだ。神は人間の嘘を見抜く能力を持っている。

 となれば、誤魔化すしかあるまい。

 

「…………(ネーミングセンスが)残念だったな」

「ハハハッ! そうか、(この名前になれなくて)残念か! ハハハハハハハハハ! やっぱりそうだよな! オマエはそう言ってくれるよなァ! 良い名前だよなぁ!」

 

 テスカトリポカが俺を撫でまくって安心しているところを、エルマーが咎めるような目で俺を見て来る。

 ……わかっている。わかっているんだエルマー。甘やかしすぎだと言うのはわかってる。わかってるから何も言わないでくれ。ここはホームじゃないから本格的に拗ねられると最高に面倒臭いんだ。頼む。

 そんな意思を込めて視線を送ると、俺の訴えが伝わったのか、エルマーは目を閉じて、ゆっくりと炉の方に戻って行った。

 

「…………用が終わったなら、そろそろ帰ったらどうじゃ?」

「……ケッ。言われなくてもそうするつもりだ。オイ、帰るぞ」

「ああ。じゃあな」

 

 ありがとうエルマー、と心の中で思いつつ、扉を開いて外へ出る。

 工房とのあまりの温度差に軽く寒さを覚えつつ、テスカトリポカに続いて昇降盤へ。

 

「……ったく、耄碌じーさんめ。最高に良い名前だってのに……なぁ?」

 

 操作盤を動かしつつ、テスカトリポカがこちらを向く。

 

「エルマーも80超えてるからな。俺らとは違う視点を持ってても不思議では無いと思うが」

「……テスカトリポカは寛容だ。オマエがそう言うならそう言う事にしてやろう」

「感謝する」

「ああ、存分に感謝して…………あっ」

 

 不意に、テスカトリポカが何かを思い出したかのように声を上げた。

 猛烈に嫌な予感が俺を襲う。

 

「何があった?」

「あった、と言うよりは今からある、と言った方が正しいな。オイ、オレをホームまで安全に運べ。下に着いた瞬間に()()ぞ」

「………………まさか」

 

 テスカトリポカからの命令に、俺はこの下に何が待ち構えているのかを察した。

 急いでテスカトリポカを抱え、恐らく来るだろう()()()に備える。

 そして、昇降盤が下に着いた瞬間─────

 

「「「「「「「「「「【蒼き猛火(アズール)】くん、こんにちわー!」」」」」」」」」」」」

 

 ────待ち構えていた神々が昇降盤に雪崩れ込んできた。

 

「やっぱりかァ!!」

 

 予めそれを予想していた俺は、神々の頭上を飛び越してそのまま下へ続く階段へ飛び込む。

 そのまま落ちるようにして2階、1階へと降り、バベルの外に飛び出て────

 

「よう! 待ってたぜ【火種(フォンカ)】……じゃなくて、【蒼き猛火(アズール)】!!」

「悪いがウチの主神様の命令なんでなぁ!!」

「いやー、ごめんねー!?」

 

 ────今度は待ち構えていた冒険者達が一斉に襲いかかって来た。

 武器を持ち出していないところを見るに殺す気は無いようであるが、捕まったら面倒だ。

 全力で逃げさせてもらう。

 

「ッ!? 速ッ!?」

「なにそれっ!?」

 

 今の俺はレベル4。

 それに加え、戦闘方法の関係で【俊敏(あし)】はかなり伸ばしている。

 それこそレベル5や6の第一級冒険者でも連れてこない限り、俺を捕える事は難しいだろう。

 まぁ、仮に連れて来たところで今度は【英雄願望】(格上補正)が発動するだけだが。

 

「追え! 追いつけずともホームの位置を特定しろ!!」

「「「了解!!」」」

「チッ! 面倒な!!」

 

 俺に追いつけないと理解するや否や、民家の屋根に登ったりと、俺を視界から外さないように動き始める冒険者ども。

 面倒だが全員振り切るしか無い。だが振り切れなければもっと面倒になる。

 扉から出たら神々がスタンバイしている生活など御免だ。

 更に足に一段階ブーストをかける。

 

「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!! いいねぇ! 最っ高だぜぇ!!」

「黙ってろテスカトリポカ! また舌噛むって言っただろうが!!」

 

 そのまま街を縦横無尽に駆け回り、ダイダロス通りの方へ。

 ダイダロス通りとは、バベルを作り上げたのと同じ、名工ダイダロスが作った区画だ。

 そのあまりにも入り組み過ぎた通路は現地住民ですら目標(アリアドネ)が無いと迷ってしまうレベルであり、つまり追手を撒くには最高の場所だと言う事だ。

 

「げっ! アイツダイダロス通りに逃げるつもりだ!」

「クソッ! 絶対に見失うな! 見失ったら終わるぞ!!」

 

 当然、終わらせる。

 複雑怪奇なダイダロス通りを上へ下へ、右へ左へと、たまにフェイントをかけつつ動き回ってやれば、すぐに追手は俺の事を見失ったらしい。

 既に遠くの方から俺を探すような声が聞こえるだけだ。

 

「……帰るか……」

「おう。帰りも特急で頼む」

「絶対に嫌だ」

 

 ……はぁ……疲れた。

 ダンジョン探索にも行ってないのに何でこんなに疲れなくてはならんのだ。

 まぁ、追手をキッチリと撒けたのは不幸中の幸いと言うやつか。

 明日はダンジョン探索だ。行く前に邪魔されたら困っていたところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……などと考えていた俺であったが、どうにも追手を完全に撒けてはいなかったらしい。

 思いっ切り邪魔に入られてしまった。

 

「どうやったら、私はあなたみたいに強くなれる?」

 

 翌日、ホームに扉を開けて目の前に現れたのは、輝くような金色の髪に、同色ではあるが酷く燻んだ印象を受ける瞳の、人形の如き美しく、そしてどこか恐ろしい雰囲気を纏った少女。

 俺より少し下くらいの年齢だったはずの彼女は、開口一番にそんな事を聞いて来る。

 

「………………………なんで居る?」

「ロキじゃない神様に教えてもらった」

「………………………そうか」

 

 ……………………さて、どうしたものか。




Topic:お姫様抱っこで全力ダッシュは抱えられている側の腰に相当な負担がかかるので、神様と冒険者以外には遠慮しておこう。
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