採択されるプロポーザルと採択されないプロポーザル
私は去年、PyConJPのプロポーザルの審査員を担当しました。
プロポーザルの審査員とは登壇希望者が提出する登壇内容の予稿、プロポーザルを評価する人のことです。
審査プロセスを理解していないプロポーザルが多く残念に感じたため、PyConの審査を通過するプロポーザルの書き方を講座をレクチャーします。
3つの背景と3要件
プロポーザルを通すには3つの背景とそこから導き出される3要件を遵守した上でプロポーザルを書くことが必要です。
3つの背景は以下です。
- 基本的にイベント運営者の身内以外は採択されない
- イベント運営者、およびレビュー審査員はPythonの経験がない
- プロポーザルは中身を読まれずに審査される
上の背景条件により『一般枠』で採択されるプロポーザルが備えてなければならないのは以下の3要件です。
- 採択されるジャンルを選ぶ
- わかりやすく有名人アピールをする
- Python、IT技術を知らない人向けに書く
PyConJPのプロポーザル審査を通過するにはこれを理解することは必須です。
この重要性は審査プロセスを知ることで理解できます。
プロポーザルの審査は以下のフローに沿って行われます。
審査プロセス
『良い人』と争わない
3種類の採択経路のそれぞれの採択数については言及をさけますが、あなたが『良い人』でないのならプロポーザルの応募ジャンル、テーマによっては、出した時点で不採択が確定しています。それは低い確率ではありません。
この『良い人』というのはプロポーザルの審査プロセスや国内外のイベントへの参加支援金の補助対象、イベント間の相互招待金の交付枠の人物、高級旅館で行われる運営会議への招待枠で登場する言葉で、五輪貴族のPython業界版、プログラミング香具師のことです。
同じ主題のプロポーザルは一つしか採択されないので『良い人』のプロポーザルとテーマが被った時点で、あなたのプロポーザルは不採用になります。
『良い人』を差し置いて良い人以外が選ばれることはありません。そこにプロポーザルの質は関係ありません。
もしあなたが『良い人』でないのなら『良い人』とトピックが被らず、かつ運営が採択する狭いジャンルの中のプロポーザルを書く必要があります。
実際の戦略
『良い人』対策
『良い人』たちはそれぞれが同じ内容での登壇を繰り返しているので対策を練ることは容易です。
去年(2023年)は、裏テーマとして『mecabの使い方に関するプロポーザルを大量に採択する』という取り決めが内部で共有されており、『良い人』たちがmecabの使い方に関するプロポーザルを投稿するなどして傾向がズレましたが、基本的に2010年ごろから登壇内容にアップデートはありません。
では『良い人』と内容が遠ければOKか、というとそうでもありません。
『良い人』がプロポーザルの採択の最終決定権を保持しているため『良い人』たちが知らないジャンルのプロポーザルがPyConで採択されることはありません。なので『良い人』と被らず、かつ『良い人』の興味をひけるギリギリを攻める必要があります。
これが、Pythonに関連するプロポーザルの内、多様な人の登壇可能性が残されている唯一の枠、『実質ジャンゴ枠』を狙う場合の最初の一歩になります。
なお、これがPyCon運営チームが共同で提出した『最新ツールを知っててmecabをディスれるイケてる俺達』みたいな内容のプロポーザルの概要です。主張内容が全部嘘なので意味わかんなさすぎて怖かったです。1
PyConの運営チームが求め、評価するのはこういった主張のプロポーザルです。その辺りを考慮してプロポーザルを書きましょう。
模範解答としての『ジャンゴ枠』
PyConの運営者たちは2010年ごろに、今風に言うと『Python驚き屋』をやっていた人たちで、若者を使いウェブサービスで一発儲けようと考えているウェブ屋からIT技術を抜いた存在です。
彼らは2010年ごろでPythonに関する知識が止まっているのですが、今だに当時、流行っていたウェブフレームワーク、『ジャンゴ』という単語に過剰反応するので、ジャンゴに関するプロポーザルは異様に評価が高くなります。しかも、当人達はジャンゴを使えない、あるいは10年以上書いた痕跡がないのでプロポーザルが被りにくいです。なのでジャンゴのプロポーザルは通ります。なお、そこで真剣にCVEを探すとかそういうことはする必要がありません。採択されるレベルは『SQLというものを知ってましたか?SQLを知っているのは偉い。私は知りませんでした』とかそういう内容でいいです。そういう内容がいいです。『皆さんはlen関数がどう動いているか知っていますか?なんとlenプロパティが呼び出されるんです』これくらいの内容の深さで30分の投稿を作りましょう。
Django ORM道場:クエリの基本を押さえ,より良い型を身に付けよう by Takayuki Shimizukawa - YouTube
Pythonはどうやってlen関数で長さを手にいれているの? | PPT
一般枠(実質ジャンゴ枠)がジャンゴやその周辺のプロポーザルばかりなので私は「何故ジャンゴに関するプロポーザルだけ評価するのですか?」と運営チームに確認をしたのですが『ジャンゴはPythonでPythonはジャンゴである。機械学習やクラウドはPythonではないので採択しない』という解答を受領しました。『良い人』でない人はPythonではないプロポーザルを送るのは止めましょう。本当に意味ないです。PyConにプロポーザルを通すためには過去問での対策を怠っては駄目です。需要をよく見定めましょう。
実際の傾向
下の表が採択会議の結果です。「DevOps」、「WebProgramming」、「Tips of development with Python」の枠が一般採用でも取れる可能性があった枠です。(去年は他の枠でもわずかに一般採択がありましたが、それは私があまりの偏りぶりにPyConの運営に猛抗議した結果です。今年は枠がありません)
ジャンゴに関するプロポーザルはWebProgrammingだけではなく、DevOpsやTips of developmentにも割り振られます。ジャンゴは多くの分野に跨る、というか運営の言葉を借りるなら『ジャンゴはPython』だからだそうです。
Tips of development with Pythonが多いのは、私がPyCon運営者たちが出したプロポーザルの内容の間違いを指摘した結果、『運営枠』の登壇内容が公式ドキュメントの読み上げに変わったためです。
有名人枠
ジャンゴ枠の他に、スポンサー枠、有名人枠というのもあります。
PyConの運営者が『Twitterで見た』という意見のもとに『準いい人枠』でPyCon運営者がフォローしている人を採択することがあります。
プロポーザルの最終決定権を持つ運営の人たちは、プロポーザルを読まないので一般枠の採用においてはSNSの評判を重視します。
なので、審査日が近いタイミングでSNSのプログラミングワナビー界隈でツイートをバズらせることは採択可能性を大幅に上げます。
毎日、PyConのハッシュタグをつけてツイートする、とかそういう方法で少しずつ『良い人』たちからの認知度を上げていきましょう。
なお、GitHubのスターや芝の量は意味ないです。むしろコードを書いてない方がプラスに働きます。その方が運営と目線や考え方が近くなります。
スポンサー枠
プロポーザルを通すためにスポンサーになるのはオススメしません。PyConのスポンサーの流動性の高さは異常だと思いますし、「PyConでスポンサーやってます」のアピールにポジティブな印象を私は持ちません。
スポンサー枠での応募は採択されますが、それは他のもっとよいプロポーザルを押し退けて採択されていることは自覚した方がいいと思います。
(スポンサー枠に押し退けられようと、退けられまいが中身のある投稿は端から採択の見込みはないのですけど)
それに外様スポンサーと譜代スポンサーは扱いが違います。二年続けてPyConの外様スポンサーをやる企業はあまりない焼畑ビジネスなので、外様スポンサーの扱いが改善される見込みもありません。
(PyConの待遇が悪い/コスパが悪いのが原因でスポンサーが撤退するのか、それともPyConのスポンサーになる企業の側に問題があるのかはわかりません。昔は前者の原因が大きかったと思いますが)
PyCon特有の書き方の作法
また、PyCon特有のプロポーザルの書き方のテクニックがあります。
ジャンル選びに失敗すると、その時点で採択可能性は潰えるので、ジャンル選びがプライマリーですが、二番目に気にする必要があるのが書き方です。
専門用語や高度な内容は絶対に駄目
採択会議の場でプロポーザルの中身は読まれません。
そして採択会議に出てる人の大半は事前にプロポーザルを読んでいません。PyConJP用語でいう2~3人の『忙しくない人』がプロポーザルに目を通します。定年を過ぎたおじいさんやPython経験のない香具師が自分の有利な状況を作るために事前の点数評価をし、その評価を元に採択会議で採択がなされます。
そして、事前評価をする彼らは難しい日本語を読めません。なので専門用語を使ってはだめです。主張が長いのも駄目です。中学生が読める程度の日本語の難易度、文量で書く必要があります。そうでなければ内容に関係なく『よくわからなかった』『3行以上の主張は長くて読めない』という評価とともにリジェクトリストにinします。
また、活用方法が読み手である非技術者に伝わらないものもダメです。
嘘でもいいので、癌を100%の確率で見分けられる、とかそういう大袈裟な書き方をしましょう。雰囲気を眺めているだけで文章は読んでないので真偽が評価されることはありません。採択されるプロポーザルはそうした真っ赤な嘘のものが少なくないです。
もっというと癌とかnvidiaとかAWSとかそういう言葉を使うのも審査基準的には駄目のようでした。もっと幼稚園児にも伝わる単語が好まれます。実態がわからないとエミュレーションしにくいと思うのですが、読み手はITの用語がわからないIQ60の老人だと理解して書きましょう。そうでなければリジェクトです。
ビールは美味しい、あそこのタダ飯は上手い、この話を15分聞くだけでPythonはマスターできる、pandasは簡単、pipはクソ、mecabは時代遅れ、俺が書いた入門書は神!、プログラミングの奥義を語ります、とかそういう内容のプロポーザルを審査員は評価しますし、PyConJPの運営もそうしたプロポーザルを求めています。『良い人』が出してくるプロポーザルの内容もそういうものです。これは冗談ではありません。この水準からズレればズレるほど一般枠での採択可能性は減ります。水準を合わせにいってテーマも被ったら優先順位で弾かれるので駄目なんですけどね。
めちゃくちゃ細かくタイムスケジュールを書こう
そして、テクニックとして、30分のプロポーザルでも3時間のチュートリアルでも5分、10分ごとのタイムスケジュールを書きましょう。
それを書くのが通例になっており、それがなければどれほど濃密なプロポーザルでも『何を話すのかわからなかった』という評価とともにリジェクトが確定します。
ジャンゴに関連するプロポーザルは補正が入り満点評価に近くなるので、(ジャンゴ以外のプロポーザルは)少しでも減点される要素があれば、その時点で一般枠では採択されることはないです。なのでジャンゴの入門方法のプロポーザルを書くか、減点される要素がないプロポーザル、幼稚園児でも読める、幼稚園児がすごいと思うようなプロポーザルを書きましょう。
採択される可能性のあるプロポーザルを書こう
これらのことに注意してプロポーザルを書きましょう!!
PyConJPのイベントには技術の専門家、情報の専門家は関与していませんし、専門家の監修は入りません。そのことに留意した上で、適切なプロポーザルを書く必要があります。
2023年にはDNS流出事件がありましたが、それに対する詳細な事故調査報告や振り返り、防止策の提案はなく、機材トラブル、伝達ミスと嘘をついた挙句『来年からはITの専門家の協力を仰ぐから、これ以上は言及するな』という発表がありました。
イベント開催に関して今後、専門家の協力を仰ぐように方針転換されるのであれば、よい変化だと思いますが、今さら協力したい専門家っているんでしょうか。これまで専門家のプロポーザル、採択してこなかったので……。
なにはともあれPyConへの登壇は情報商材ビジネス、Pythonビジネスに参画するための第一歩です。
ChatGPTを使いこなして頑張ってください。
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SudachiPyはPythonで書かれています。処理速度はmecab等に比べて遥かに遅いです。SudachiPyはmecabを高速化させたものではありません。処理が違います。それは公式ドキュメントのトップを見ればわかることです。紹介される使い方も技術選定も間違えています。そもそも何故、PyCon運営チームが国内の企業のOSSの紹介で枠を取るのかも謎です。また、こんな内容がPyCon運営陣によって各種イベントで使い回されているのも理解できません。これで登壇手当出るの、どうかと思います。 ↩
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