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”マリオ音楽”制作秘話~名古屋出身・近藤浩治さん~

  • 2023年06月27日

いま、スーパーマリオブラザーズの映画が話題を呼んでいますが、初代スーパーマリオブラザーズのゲーム音楽を手がけたのが、名古屋出身の近藤浩治さんです。制作秘話をたっぷり聞きました。

※近藤浩治さんインタビュー全文を掲載しました。(7月14日追記)

 

スーパーマリオブラザーズBGMがアメリカ議会図書館に収蔵

ー映画の人気をどのように受け止めていますか?

思ったよりもすごく売れて本当にうれしく思っています。 作曲家のブライアン・タイラーさんが、スーパーマリオブラザーズの小さいころからのファンで、担当することもすごく嬉しかったみたいで、たくさんの曲を映画の中に入れてくれて、本当に最初から最後まで、マリオの音楽を聴いているっていう感じで楽しい映画だったと思います。

ーブライアン・タイラーさんとは、今回の映画の音楽について何か話されたのでしょうか?

僕としては、映画のストーリーに合うように、いろいろアレンジしてもらって、いろんな場面で使っていただければいいので、ゲームのストーリーから外れるような、ゲームのことを思い出してしまうと映画のストーリーが集中できないというようにならないように気をつけてという感じでは言っていました。その辺はブライアンさんが、すごく良い感じに映画に合わせて上手にアレンジしてくれたと思います。

2023年4月、近藤さんが作曲した地上BGMがビデオゲームの音楽としてはじめてアメリカ議会図書館に収蔵。世界の音の歴史に名前を連ねました。

ースーパーマリオブラザーズの地上BGMが今年4月、アメリカ議会図書館に収蔵されましたが、率直にどう思いましたか?

最初は本当にとてもびっくりしました。アメリカ議会図書館がそういう録音物を選択して、ずっと収蔵していることは知らなかったので。毎年25の録音物が登録されるのですが、その中にジョン・レノンのイマジンや、レッド・ツェッペリン、マドンナ、マライア・キャリーといった、本当に有名で誰でも知っているような曲ばかりだったので、その中の1つに選ばれるのかと、本当に光栄に思いました
でも、「スーパーマリオ」の曲はそういう曲とは違って、 家庭用ゲームの初期の頃の音楽、初期の頃のサウンドという意味で歴史的なものとして選択されたと思うので、一緒にゲームを作ったスタッフや、ファミコンの本体の音を出す仕組みをつくった設計者、そして世界中で何度も何度も遊んでくれた人たちのおかげだと思って感謝しています。

ー作ったサウンドが「タタッタッタタッタ」と口ずさまれるなど世界中に浸透していることに対して、近藤さんはその状況を客観的に見てどう思っていますか?

そういう風に歌ってもらうために作ったというのは全然なくて、ゲームをより楽しくしたいっていう気持ちで作ったもので、やっぱり何回も何回も遊んでイヤになるほど聞いたので、耳に残っちゃったんじゃないかなと思うんですけど(笑)、うれしいことです。

スーパーマリオブラザーズ地上BGM 誕生秘話

ーゲーム「スーパーマリオブラザーズ」に出会った印象は?

最初にある程度の画面ができて遊べる状態になったところで、これに音楽と効果音をつけてほしいという話を聞いて、それまでは一画面で真っ暗な、真っ黒い画面に小さなキャラクターが動くようなゲームばっかりだったので、パッと最初見た時は今までのゲームよりもキャラクターがすごく大きいし、青空と緑の平原が印象的で、すごい楽しい雰囲気だなと思いました。

ーどういったところからイメージを膨らませたのでしょうか?

最初から青空と緑の草原のイメージが大きかったので、太陽を感じるというか、ちょっとゆっくりした、のほほんという感じのイメージの曲を作ったんですが、マリオが走ったりジャンプしたりするリズムにちょっと合わなかったので、最初作った曲はボツになって、 次に作った曲が今の曲なんです。

ーボツと判断したのは自分?他のスタッフから?

他のスタッフから、ちょっと何かこの曲気持ち悪いなって。確かにゲームの雰囲気としてはバック(背景)には合っていたかもしれないですが、遊ぶことに関してちょっと合っていなかったという感じです。

ーダメ出しを経て、地上BGM制作に取りかかる際に、どういう方向性で作ろうとしたんですか?

走って、ジャンプするっていう、それが一番体に合う体験として、ピッタリくるリズムというのがあるので、それをうまくとらえて、それにメロディーをつけるという感じで作っていました。

ー「リズム」っていうところに気付くまでに試行錯誤はあったのでしょうか?

やっぱり何回も何回もゲームでやって遊んでみるっていうことですね。どんなリズムなのかなと、 テンポを変えたり、ベースパターンを変えたりしながらリズムをつかむという感じです。

ーそれは、ゲームのハードが変わっていっても変わらずにやられてきた?

そうですね。 ゲーム毎にやっぱり敵の動きが違って、いろいろ全体的なリズム観が違ってくるので、そのゲームごとに自分で何回もゲームを触ってみて、そこから正しいリズムというか、合うリズムをつかんで作っていくという感じです

ースーパーマリオブラザーズに携わられたのは?

2年目です。

ープレッシャーや、当時の心境は?

マリオを作る前は効果音を担当することが多くて、あまりBGMは作っていなかったのですが、スーパーマリオを作ることになったときに、 これまでにない音楽を作ろうという意気込みだけでやってたかな。 プレッシャーはあったのかもしれないですが、なんとか3音だけで、楽しませるような音楽を作りたいな、今までにない音楽を作りたいなというのはありました。

ー作り上げて、当時の他のスタッフの皆さんの声は?

地上の音楽は、いろんな人から「あの曲いいね、あれは何のジャンルだ?」って、よく聞かれたのですが、特に何のジャンルという意識もなく作っていましたね。いろんな人にラテンだねとか、ジャズだねとか言われたのですが、僕は「いや違うよ。ゲーム音楽だよ」と言って、何のジャンルにも当てはめずに、ゲームに合わせて作っていましたね

ー当時、どういう風に音楽を作曲されたのでしょうか?

入社したころは今で言うデスクトップミュージックという言葉もないし、そんな環境もないので、会社には5、6歳の子どもが弾くようなミニ鍵盤しかなくて、それで弾いたりしていました。主はもうコンピューターで、コンピューターのキーボードでコンピューター言語のデータを入れていくっていう作業でずっと作っていましたね

ー当時は制約があったと聞きますが?

ファミコンの音源の音階が、使える音源が3つしかないので、3つで上手にメロディーとリズムが分かるようにするのはいろいろ苦労がありました。

ーそれは、大変ですね。

それに加えて、効果音もその3音で出さなくちゃいけないので、効果音が出るときは、どれかミュートして、音を消して、効果音を出すみたいな感じでした。

ーそれにリズムも入れてとなると、3音でというと想像がつかないんですが、何か工夫されたことは?

リズムはもう1つ音階が使える音源3つと、もう1つノイズ 、ホワイトノイズがあって、それを「チッチキチッチキ」とかいう感じでやるとハイハット(シンバル)みたいに聞こえるので、リズムはハイハットの音だけみたいな感じで使ってやっていましたね。

ー聞いていて、リズムを感じるところはノイズでやっているんですか?

ノイズでやっていますね。 そうですね。

ー制約のある中で制作することは、近藤さんにとっては大変だったのか、楽しかったのか、どのように記憶されていますか?

やっぱり苦労はありましたが、そういう少ない数に落とし込むっていうのが、またパズルみたいで、そこも一応いろいろ楽しんでやっていましたね

ーシリーズが続くということにあたって、イメージを覆す方向で考えられていたのか、どのように展開されようとしていたんのでしょうか?

毎回毎回そこは悩むところです。前と同じようなものをつくったらいいのか、ガラッと変えたほうがいいのかというのを、毎回悩んで、いろいろやり方をソフトごとに変えてきているんですけど、「ゲームがより楽しくなるような楽しい音楽」っていうところは一貫して同じで、常に新しいと思われるような音楽を作っていきたいという感じでやっていました。

“マリオはかっこいい存在” 近藤さんにとってのマリオ

ーマリオシリーズにおいて音楽の観点で向き合われてこられたと思いますが、マリオはどんな存在ですか?

これは正解かどうか分からないのですが、だんだんと後輩が入社して音楽作ってもらうと、最初はみんなのイメージは「マリオはかわいい」っていうイメージで、あとマリオはラテン、ラテン系の音楽っていうイメージがついているみたいで、そこはちょっと違うっていうことは毎回言っています。「マリオはかわいくないんで」「マリオはかっこいい存在だ」「かっこいい音楽を作ってください」って言っていますね。

ー近藤さんにとって、マリオはかわいいんじゃなくて・・・

かっこいい。 そう思っています。

ー最初からそのイメージをもたれていた?

どうなんやろ、最初はそういうイメージがなかったかもしれないですよね。 かっこいい・・・(悩んで)、だって、8ビットのカクカクしたマリオなんで、かっこいいとは思わなかったんですけど、そういう反対の見方・かわいいっていう見方があったから、それは違うというふうに言えるようになったのかな。

ーこれまで制作されてきて、印象に残っている曲などあったりしますか?

印象的というのはやっぱり最初のマリオの地上の曲だと思いますが、どれが一番好きかというのは、ななかなか難しいところで、常に新しい音楽に挑戦しているというところでいうと、最近作った曲が一番好きかなっていう感じですね。

近藤さんのゲーム音楽のルーツは?

ーもともと任天堂でゲーム音楽を作ろうというのは興味をもたれていたのでしょうか?

僕が任天堂を知ったのは、就活のときの大学の募集でした。サウンド募集っていう掲示板を見た友達が教えてくれて、「こんちゃんに合うんじゃないか」みたいなこと言ってくれて、なかなかおもしろそうだなと。そのころからシンセサイザーで音を作ったり、友達と喫茶店に行ってテーブルのゲームでマリオとかを遊んでいたりしたので、こういう仕事できたらいいなと思って任天堂1社しか受けなかった。 
そういうゲームサウンドをする職業というのはどこも募集していなくて、任天堂としても、そういうサウンド担当者は初めての募集だった。 それまではハードウェアで昔バンドやっていた人や、音楽の勉強はしてないけどゲームが好きだっていう人がゲームのサウンド担当していたので。

ー大学時代、効果音作りもされていたと。効果音作りへの興味のきっかけは?

効果音はとくに大学時代、パーソナルコンピューターが世に出始めて、自分で買えないぐらいの高価なものだったんですが、大学の研究室に1台あって、いろいろ触って、こうやったらこういう音が出るんだといろいろ試したりしていましたね。

ー大学で、ゼロから音作りをするというのを学ばれていたんですか?

大学では芸術全般を広く浅く 勉強するという学科で、絵も描くし、アートプロデュースみたいな勉強をしていて、1つの学科でミキシングするというのもあって、そこでちょっと音の勉強もしました。

ー芸術・絵とかも?

そうですね。芸術全般、絵を描くのも好きでしたし、いろんな芸術に関して学ぶというのも楽しかったですね。

ー募集の紙があるまで、ゲームサウンドの職業があるということはご存じだったんですか?

知らなかったです。 大学在学時は、レコーディングエンジニアとか、コンサートのPAのエンジニアとか、音楽に携わる技術的な仕事に就きたいなとは思っていました。

ー小さい頃から「音楽の仕事」に就きたいという意識はあったのでしょうか?

小さな頃からエレクトーンを習っていて、 音楽が好きだったので、プレーヤーになるのはなかなか難しいなと思っていたので。

ーそれはどうして?

いろんな人に話を聞いて、売れるのはなかなか難しいだろうなと思っていました。 シンセサイザーとかやっていたので、つまみをいじったり、音量調整したりするのもおもしろかったので、そういうところでサウンドに関われるのもおもしろいかなと思っていました。

ー音楽は小さい頃から習われていた?

5歳ぐらいから高校1年ぐらいまで、名古屋の音楽教室でずっとやっていました。

ー名古屋時代にはどういった音楽に触れてこられてきたのでしょうか?

エレクトーンの教材としては、ポピュラー音楽全般なので、ラテン音楽や普通のポップスやジャズなど、いろんな曲を練習していました。

ー伺ったところ、中学時代はバンド活動もされていたと聞きましたが、ロックとかも聞いてらっしゃったんですか?

中学の頃は結構ハードロックが好きで、中学は「DEEP PURPLE」とかハードロックのコピーバンドをやっていて、高校はフュージョンのコピーバンドをやっていました。

ー当時は、そういった様々な音楽をどういうところから知ったのでしょうか?

きっかけは、エレクトーンの教材にジャズの本があって、小学校6年生の頃からジャズを聴いていて、海外から有名なミュージシャンが名古屋に来ると聞いたらコンサートに行ったりしていましたね。小学校6年生のとき、アート・ブレイキーかな?(ライブに)行ったんですけど、他のお客さんでおじさんとかは「なんで小学生がこんなん聞くんや」と話しかけてきてましたけど。

ー当時、名古屋にはけっこうジャズを聴ける場所がたくさんあったんですか?

コンサートはいろいろありましたね。

ー当時は、名古屋でジャズのコンサートがあると知ったら、自分で調べて行くようにして情報収集されていた?

そうですね。 いろんなコンサートや大きな会場でフェスティバルみたいなものがあって、いろんな日本のミュージシャン・バンドがたくさん出ているのにも行っていましたね。

ー小学6年生のときからジャズを触れてきたということで、当時の経験がいまのゲーム音楽づくりに生きている点はありますか?

ほとんどそのころの記憶がしみついていて、曲に表れているのかなと思っています。大体、作曲方法もエレクトーン教室ですね。グレード試験で作曲が一部ありまして、そのための作曲の仕方というのが今も同じ作り方だなと思います。

ーそれは、小学生の時にそういうやり方があったんですか?

はい。 エレクトーンのグレード試験の課題っていうのが、二小節ぐらいのメロディーだけの音符が書かれたのを渡されて、5分か10分ぐらい考えて1曲にするという。

ー二小節しか書かれていない楽譜を見て広げていくと?

そう、リズムも考えたり、ハーモニーも考えたりして、2分ぐらいの曲にすぐその場でするという試験があるんですけど、演奏もして。それが今の作曲につながっていると思いますね。

ー作曲する際に、これから作るゲームを見て、そこからひらめいたメロディーを膨らましていく作業ですか?

そうですね。

ー中学高校時代、ジャズに傾倒されていたということで、どういうところがお好きだったんでしょうか?

結構、 ほとんどいろんなものを聞いてましたが、ハード・バップとかビバップとか、いわゆるアドリブ、コードに合わせてアドリブしていくっていうところが好きでしたね、スイングとか。やっぱりコード。コードの雰囲気ですかね。普通のポップスにはない、響きみたいなものがかっこいいなという感じで、あと、いろいろな人のソロは、超絶技巧の速弾きやリズム感がかっこいいなと思って聞いていましたね。

ー当時はどんなアーティストに注目されていたんですか?

渡辺貞夫さんもエレクトーンの教材にあって、すごく楽しい曲で覚えやすい曲だな、良い感じだなと思って、カリフォルニアシャワーとか。他にアート・ブレイキーとかマイルス・デイビスとか、MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)とか、もろジャズみたいなものを聞いていましたね。

ー中学高校では、実際にジャズを練習して披露されたのでしょうか?

高校のアマチュアバンドが一緒にコンサートするというところで、ピアノを弾いたりしていました。

ーマイルス・デイビスさんとか渡辺貞夫さんとかを当時聞いていたことで、ゲーム音楽作りに影響はありますか?

渡辺貞夫さんの曲はけっこう、「歌ってる」というか、メロディーが優しくて聞きやすいのだけど、リズムやハーモニーがすごく響きのいいコードでやっている、というところで難しいものを簡単に聞かせる、簡単に聞ける、そういうところを目標にしています。ちょっと難しいことやろうとしているのですが、やっぱり、ゲームらしく、簡単なメロディーにするというところにつながっているかなと思います。

ー「難しいことを簡単に聞かす」というのは難しそうですね。渡辺さんの曲はそういう印象を覚えるということでしょうか?

ハーモニーとかジャズも高度なので、「これどの音が出てるのかな?」と思ったりするようなコードがあるんですけど、メロディーはそんなに突拍子もないメロディーじゃなくて、聞きやすいメロディーで。そういう豪華できれいなハーモニーというのが目標にしているところです

スーパーマリオに携わって6年後、近藤さんの楽曲を、すぎやまこういちさんプロデュースの下、憧れの渡辺貞夫さんに演奏してもらう関係にもなりました。

ー渡辺さんに影響を受けているというお話を聞いて、渡辺さんの民族音楽、アフリカっぽい音楽もするし、南米っぽい感じもするところも影響を受けているのかなと思ったのですが?

アフリカのリズムや南米のリズムも好きだっていうのは、渡辺さんの影響だと思いますね。

ー音楽作りで、どこの国にも寄せすぎないというのは意識されているのでしょうか?

あまりそういうアフリカの音楽というイメージで作っていなくて、まずは楽しい音楽を作ろうということで、今まで聞いてきた音楽が意図せず、曲に表れているのかなと思いますね。

近藤さんが後輩クリエイターに伝えたいことは?

ーマリオシリーズを後輩たちも作られていますが、近藤さんはどういったことを大事にされ、どういったところを後輩に大事にしてほしいと思っているのでしょうか?

僕より優秀な人がどんどん入ってくるので、そんなに言うことはないと思いますが、ゲームをより楽しく遊べるっていうところがやっぱりゲームのBGMとしては一番大切なところなんです。それと、どんどん技術が進歩してきて、プログラム的、デジタル的にいろいろと音を変化させることができるので、ゲームを遊んでいる時に音楽も効果音もリアルタイムに変化するっていう、ゲームのメディアを生かしたような音楽やサウンドをどんどん作っていってほしいと思います。

ー「楽しさ」というのは、僕とかマリオをやると、失敗して、くそーと思うけど、音が奮い立たせてくれて、またゲーム再開してくれる、音が助けてくれる感じがあるんですけど、そういうのも「楽しさ」につながっているんでしょうか?

そこも大事なポイントで、失敗してやられたときに、「おまえはダメだ!」みたいな音楽を作っちゃうと、もうみんなコントローラーをパッと投げてやめてしまうので、「もう1度頑張ろう」というようなゲームオーバーの音楽を作るようにしていますね。

ーゲームオーバー音も、いま振り返ると、とても明るいなという印象があります。

「ダメだな!」というようなきつい音楽にしちゃうと、続けてやってもらえないので、なかなか難しいですね、起伏を作るのは。

ーゲームのハードが進化していくにあたり、ファミコン時代から変えていったようなポイントはありますか?

 技術的に言うと、マリオシリーズって言うぐらい新しいゲームハードができるたびに新しいマリオができるんですけど、新しいハードによって使える音色が変わったり、今ではそのままオーケストラで演奏したまま取り入れられたり、バンドでやった演奏をそのまま取り入れたりできるようになるので、そういう演奏形態に合わせてどんどんマリオの曲も変わってきていますね。

ー作り方の思考として変わったことは?

やっぱり、楽しく遊んでもらえるっていうところは大事にして。 リズムがゲームにぴったり合うようにというところを気をつけてやっている感じですね。

ー渡辺貞夫さんの「歌うようなジャズ」がお好きで、そういうところもイメージされてとおっしゃっていました。マリオシリーズの中には、歌が入ったものも使われるような時代になりました。どう受け止められたのでしょうか?

とうとうマリオにも歌が入る時代になった。すごくでもゲームにすごくぴったり合う感じで、進化したマリオのゲームの音楽という感じでよかったと思います。

ー歌を入れる、オーケストラを入れるというのは、大事にされている、キャラクターの動きに合わせる、リズムを合わせるという点で、大変そうというイメージがあるのですが、その試行錯誤は?

バンド演奏と歌オーケストラの演奏だと、やっぱり一定のリズムではなくて盛り上がるところが生演奏の特徴なので、そういうところはできるだけ出ないようにしています。演奏してもらう人に、コンピューターのクリック音をずっと聞いてもらいながら演奏してもらうとか、コンサートホールで聞くようなオーケストラ音楽とはちょっと違う演奏の仕方で録音していますね。

ークリックに合わせて演奏してもらうことは、演奏家たちにとっては難なく?

スタジオミュージシャンなので全然問題なく、1回か2回のリハーサルでばっちり弾いていただける、 すばらしいです。

ーマリオシリーズを引き継ぐ後輩の皆さんに、改めてどんな思いで音楽を作っていただきたいという気持ちですか?

ゲームもどんどん変わっていくのと、コンピューターの技術もどんどん変わっていくので、マリオの音楽もどんどん進化して、ゲームが皆さんにより楽しく遊んでもらえるように、いろいろ技術を利用して、リアルタイムに変化するというゲームのメディアを生かしたサウンドをこれからも作っていってほしいと思います。

ーマリオに限らずですが、ゲームサウンドの世界に入っていきたいと思う人たちに向けて、ゲームサウンドを作るうえで、近藤さんとして大事にしてほしいことはありますか?

やっぱりたくさん曲を聴いてほしい。 いろんなジャンルがあるので、 民族音楽からクラシック音楽から、どれも好き嫌いなしに、いろんな音楽を聴いて感動していくと、自分の中にそういう体験として蓄えられていくので、自分で作るときに生かせると思います。

ーそれは近藤さんご自身の経験からですか?

そうですね。いろんな音楽を聴いてきた。 こんな曲を作ってほしいと言われたときに、「それ嫌いだからあんまり得意じゃない」と言わなくてもすむように、いろんな曲を聴いていたから対応できたと思います。

ー近藤さんが聴いてみたいという音楽・注目している音楽はありますか?

ここ10年ぐらいですかね。アラビア音楽に興味があって、ダラブッカっていう、ベリーダンスの伴奏するようなパーカッションがあるんですけど、それを毎週習いに行っています。今ちょっとコロナで行けなくなっているんですが、そこでいろんなアラビアの音楽のコンサートをやっていて、そこでウードっていうギターの元祖みたいな楽器で、音程が普通の十二音階じゃなくてその微妙な半音よりも小さい感覚の音があって、それが何か気持ちよくて、なんとか会得したいなといろいろ聞いたり勉強したりしています。

ーその経験は次の制作に活かそうという思いもあるんですか?

そうですね、前に出したソフトにちょっと入っていたりするんですけど、「マリオメーカー」あるいは「マリオメーカー2」かどちらかですけど、砂漠のとこの音楽で、ちょっと微妙に音程をずらしたようなことをやったりしていますね。

ー一般的なインスピレーションに基づく作曲家とゲーム音楽制作者ではどういうところが違うと思いますか?

ゲームの音楽を作っているというところで、作曲家のジャンルに入ると思われていますが、僕自身としてはゲームの制作者としてやっている、ゲームの中の一部の音を作っているっていう感覚です。一応サウンド担当ですけど、ゲームでおもしろくないところはおもしろいからこう変えたらいいんじゃないかとか、こういう動きにしたほうがちょっとおもしろいよ、みたいなことを言いながら一緒にゲームを作っているので、作曲家というよりもゲーム制作者というところで今いろいろ作っているという感じですね

ー制作において、作り手の目線とプレーヤーの目線は切り替えるのか、重ねてみるのか?

毎日一生懸命ゲームを作っていると、プログラマーとかディレクターとか、デザイナーとかもずっと集中しちゃって、あまり客観的に見られなくなるんですけど、僕はけっこう俯瞰して見ていろいろ言っています。ゲーム制作ってたくさんの人数が一部一部を担当していて、全体を見れるのはプロデューサーとかその辺の人しかいないんですけど、サウンド担当は、どういう流れでどういう音楽が必要でどうなっていく、と全体を見ないと音楽を作れないので。サウンド担当として、全体的に客観的に見る目というのは重要な仕事だと思っているので、そこは気をつけて見るようにしていますね。

ーバランスが大事だと聞こえるんですが、制作において「引き算」の作業もされるのでしょうか?

「引き算」は本当にいろんな部分で大事だなと思っていますね。 
曲の一部としても音を詰め込みすぎたりする人が多いのですが、そうするとどれが重要なのか分からないし、ちょっと飽和状態になってしまうので、いろいろ引いていくってことはゲーム制作に重要なところだと思います

ー最後に改めて、一つゲーム音楽作りに着手するとき若い人に何を大事にしてほしいと思いますか?

やっぱりゲームをより楽しくっていうところです。

ーありがとうございます。 
 

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