デマ「Stability AIのトップがついにデータの盗用を認めた」

 2023/7/25、「Stability AIのトップがついにデータの盗用を認めた」という内容のデマが流れる。

 

元記事

 

https://petapixel.com/2023/07/13/stability-ai-boss-admits-to-using-billions-of-images-without-consent/

 

 PetaPixelの元々の記事は「using(使った)」と書かれており、盗んだとは書かれていない。というより「機械学習フェアユースの範疇に入るか否か」を今まさに裁判で争っている最中なので、勝手に「盗んだ」と書くとデマになる。 

 「LAION-5Bを学習に使用した」と言った事に関しても、「新事実を認めた」かのような扱いになっているが、これは前から言っていた事であって、別に「ついに認めた」というような物ではない。問題は使用したかどうかではなく、それが合法なのかどうかである。

 

デマ化

 

https://twitter.com/petapixel/status/1679499857399099394

 

 PetaPixelがこの記事をTwitterで宣伝する際、なぜか「using」を「stealing(盗んだ)」に変更。動詞以外の部分はほぼ同じ。ここでデマに変化した。

 「盗んだ」というのは反AI主義者の認知そのままなので、国内の反AI主義者がこのTweetを取り上げ、デマを拡散する結果になった。

JASRAC、反AI宣言

JASRAC、生成AIのフリーライドに懸念 - Impress Watch

 2023/7/24、JASRACが「生成AIと著作権の問題に関する基本的な考え方」を発表。具体的に何かをするという話ではなく、JASRACの基本的なスタンスを示すだけのテキストで、色々書いてあるが要するに「著作権法第30条の4を潰せ」と言っている。これ以後乱立する「業界団体の見解」系テキストの第一号に相当する。

 JASRACは既存の権利者を守る立場の組織なので、最初から他に選択肢はない。

 

 JASRACはどちらかと言えば嫌われていた組織だと思われるが、これ以降反AI主義者からは「味方」と認識されるようになる。

 

https://www.jasrac.or.jp/release/23/07_3.html

東京都教育委員会、公式パンフレットに生成AI使用

画像

 2023/7/19、「#だから都立高」をキャッチコピーにした中学生向けの都立工科高校の紹介パンフレットで生成AIを用いたイラストを使用。

 これは教育委員会側が使用をアピールしたわけではない。指がAI特有の破綻を起こしたまま修正されていないなど、絵としての基本的な完成度が低かったために発覚した。完成度が高ければ誰も気付かなかったかもしれない。

 

 まとめblogやtogetterによっては「東京都がAI絵を使用して炎上」のようなベタなタイトルを付けているが、実際には炎上と呼べるような規模の話にはなっていない。

 

https://twitter.com/aki_matsutsu/status/1681998137530130432

https://twitter.com/Itigota_ruto/status/1681637556558110721

https://twitter.com/tarupachi/status/1681991342766063616

Adobe社、後続潰しを画策

 2023/7/13、Adobeの副社長Dana Rao氏が、AIと著作権をテーマにした上院司法委員会主催のヒアリングにおいて、「ディープフェイクを防ぐ機構を持たない生成AIは全て開発禁止にすべき」「学習データがクリーンでない生成AIは一切使用禁止にすべき」「そのために新しい法案を作るべき」等と発言。

 

 主張だけを見ればまるで反AIだが、狙いは全く逆で、Adobe社は「Firefly以外のAIを『汚いAI』という事にして使用禁止・開発中止に追い込み、Fireflyだけが唯一の『クリーンなAI』として業界に君臨し、AI事業を独占する」こと、「クリーンな素材を集める資金がない企業や団体はそもそもAI事業に一切参入できないようにする」ことを狙っている。

 

 以前OpenAI社もAI規制論を述べた事があるが、これもOpenAI社が倫理的だからそう主張しているのではなく、目的はあくまでも後発潰しである。どの業界でも「トップの会社には後続潰しのために規制強化を図る動機がある」と言える。

全米俳優組合、ストライキ開始

 2023/7/14、アメリカのSAG-AFTRA(全米俳優組合)が、「全米映画テレビ製作者団体(AMPTP)との交渉が決裂した」として、全米脚本家組合(WAG)に続く形でストライキを開始。両方が同時にストライキに入るのは43年ぶりとのこと。

 

 ストライキの最大の争点は「NETFLIX等の動画配信サービスが放送回数に応じたギャラを俳優に支払っていない」という点で、生成AIは関係ない。「いわゆるエキストラに関して、スキャンのための1日分の給与は払うが、その後はデータを使い回して二度と給与を支払わない」という条件の提案があったらしい、という耳目を引く噂も流れたが、これも生成AIの話ではなく、従来通りのCGベースのモーションキャプチャやテクスチャスキャンの話である。しかし反AI的にはなぜか「これは反AIストライキだ」という事になった。

Pixivアプリ、Googleからリジェクト

  

 2023/7/5、Pixivアプリが、Google Playストアから消滅。

 原因について説明がないまま1週間以上消えた状態が続き、「英BBCがPixivを児童ポルノの温床であるかのように報じたせいで消された」という憶測が流れていたが、7/14になってPixiv公式が「写実的に児童を描写したイラスト・マンガが増加したせいでリジェクトされていた」「それらは元々削除対象だが、増加が速すぎてチェックし切れない状態になっていた」と発表し、推測が概ね当たっていた事が判明した。その後7/15になって、PixivアプリはGoogle Playストアに復帰した。

 

 法律用語としての「児童ポルノ」は、「児童っぽく見えれば何でも当てはまる」というようなフワッとした便利な物ではなく、あくまでもそれが実在の人物である事を前提としており、そもそも実在の人物を描写していない漫画・アニメ・ゲームは対象外となっている。もちろん「児童っぽく見えるものは何でも規制したい」と思っている人間は存在し、それがいわゆる「表現規制派」と呼ばれている。

 

 6月の文化庁見解の発表以降、著作権の土俵で勝負できなくなり、新しい「勝てる争点」を求めて表現規制派に合流しつつあった反AIは、本件でも「生成AIは児童ポルノ生成装置」「生成AIを全面禁止しないとこういう事になる」として表現規制派に同調し、生成AIを葬り去るためならマンガ・アニメ全体を巻き添えにする事も厭わないという姿勢を明らかにした。

 

 なお、この騒ぎの間、Googleより基準がより厳しいとされるiOS版は、なぜか普通にダウンロード可能だった。

Pixiv FANBOX、「線画とキャラを自力で描けば手描き」と定義

 2023/7/11、Pixiv FANBOXが、長らく定義が曖昧なまま運用されていた「AI生成コンテンツの定義」について言及。

 

https://official.fanbox.cc/posts/6292096

 

 まず定義については、以前から暫定で発表していた「制作過程のすべてもしくはその主要な部分にAI(これに類する技術を含みます。)を使用して生成したコンテンツまたは当該コンテンツに軽微な加工・修正を施したコンテンツ」のまま変化なし。つまり曖昧なまま。今後さらにAIが高度化してAI絵境界問題が発生した場合、この定義では対応できない事が目に見えているが、「※上記の要件は、当社の判断により変更される場合があります」として先送りしている。

 

 一方で除外項目で進展があり、下記は明確に「AI生成コンテンツとは見なさない」とした。

 

①自身が制作した画像に、ペイントソフト等に内蔵された自動彩色機能を用いて着彩を施した画像
②自身が制作した画像に含まれる文章を、AI関連技術を用いて自動翻訳したコンテンツ
③AIによって生成された作品やそれにまつわる技術を解説するコンテンツ

 

 まず技術解説コンテンツは完全免責となっている。

 「塗りにはAIを使っていい」と明言している一方、「背景にAIを使っていい」とは明言していないが、イラストの大半を占める人物画では「主要な部分」が前景の人物になるので、結局は「背景にはAIを使ってもいい」と言っていると解釈できる。

 結果としてPixiv FANBOXの定義は「線画とキャラを自力で描けば手描き」「塗りと背景はAIでも許す」となった。