petapi、反AIに焼かれる

 

 2023/05/30、AI専門のマネタイズ支援サービス「petapi」がサービスイン。ニュースリリース内にあった「LoRAを使うとその作成者にキックバックが発生するシステムを実装予定(※サービスイン時点では実装されていない)」とする文言が、「画風の剽窃」「盗品市場」「泥棒市場」だとして反AIが群がり、焼かれる。

 

 LoRAについてはjcom事件以降「特定の画風をコピーするために作られた悪質な技術」とするデマが流れていた。LoRAは汎用技術であり、画風のコピーだけでなく大体どんな事でもできるのだが、反AIの認知では「LoRA=画風LoRA」のため、本件を通して「LoRAとは特定の絵柄を集中学習させることでその人の絵柄で無限に画像生成できる代物」「作家の絵柄などを狙い撃ちで画像生成AIで再現するためのもの」等とデマに尾ひれがついていった。

 

 petapiは後日、別のニュースリリースで「作者本人が自身の画風のLoRAを作って売る事を想定していた」と書いている。つまり食いついた反AIのみならず、実はpetapi自身も「LoRA=画風LoRA」と考えていた。当事者の中にLoRAが何なのか正しく理解している人間は存在しなかったようである。

 

 petapiはそもそも「そのうち実装する」と言っただけで、肝心の物ができていなかったので、結局「出来てもいない機能の話をしたせいで反AIに無駄に餌を与え騒ぎを起こした」という結果になった。

さつきあい、反AIに焼かれる

見出し画像

 2023/5/29、集英社が、AIで生成した架空の人物「さつきあい」のデジタル写真集を発売。立場的に反AIとしか思えない集英社が実行したという意外性と、「手が左右逆」といった基本的な部分すら修正できていない技術レベルの低さで注目される。特に違法性はなかったが、その後順当に反AIが群がり、焼かれる。

 

 6/7になって販売中止を発表。理由は明らかにしていないものの、結局のところ反AIに焼かれて屈したとみられる。この状況下での発売だったので、集英社は当然反AIと戦う覚悟があると思われていたが、特にそんな事はなかった模様。

 

 反AIは「実在したモデル『浅倉唯』に酷似していたから権利侵害で販売中止になった」というデマを流していたが、これは言うほど似ていない。

Adobe Generative Fill、なぜか反AIに焼かれない

 2023/5/24、Adobe社が、Gen-AIによる作画アシスト機能「Generative Fill(ジェネレーティブ塗り潰し)」を発表。同日OBTに入る。機能としては既存のinpaint/outpaintそのもの。

 

 クリスタ事件(https://note.com/wintermutex/n/n06b6db0ae098)の経緯を考えれば、Adobeも同じ目に遭いそうなものだが、当時セルシスに群がって放火しまくっていた反AIが、なぜかAdobeに対しては借りてきた猫のように大人しく、Adobe叩きは全く盛り上がらなかった。

 

 Abobe社は「Fireflyは他の画像生成AIと異なり学習元がクリーン」と主張している。実際は言うほどクリーンでもないのだが、「綺麗なAIはFireflyだけ、他は全部汚い」という事にして市場の独占を狙うというのがAdobeの戦略という事である。

 

 巨大なシェアを持つAdobe Photoshopが強力なアシスト機能を見せてきた事で、AI登場当初より存在した「今後あらゆるツールにAIアシストが入る事が確実な現状において、手描きとAI絵の境界はどこにあるのか」というAI絵境界問題が顕在化していく。

AIイラスト、主要なマネタイズサービスから締め出される

 2023/5/10~11にかけて、Fanbox、Fantia、Cien、DLsite等の主だったマネタイズサービスが、AI絵の取引を実質的に禁止。

 

 理由としてはおおよそ「既存のクリエイター様への影響を考慮」とされているが、端的に言って「5/1のjcom事件に対する火消し」という意味合いがかなり大きい。実際、これらの発表により、5/1以降続いていた反AI的なムーブメントは急速に沈静化した。

 

 一連の騒ぎを通し、反AI内の温度差が可視化され始める。以下箇条書き。

 

 「一切の無断学習を禁止すべき」「少しでもAIを使ったらその絵はAI絵でありゴミ」「全てのサービスからAI絵を締め出すべき」「合法なのは法律が間違っているだけで自分の考えの方が正しい」といった先鋭化した反AI原理主義者が誕生し、その高い攻撃性によりコミュニティ全体から徐々に浮き始める。

 

 「イラストレータの仕事を奪う画像生成AIは絶対に許さないが、翻訳家の仕事を奪った機械翻訳はどうでもいいので便利な道具として使う」「文章は著作権がないからOK」といった自己中心的なダブルスタンダードが目立ち始める。

 

 「人物が手描きなら背景はAIでもOK」とする人物至上主義・背景軽視主義の存在が可視化され、背景専門のイラストレータと軋轢が発生。

 

 イラストレータとマンガ家のスタンスの違いが顕著となる。イラストレータが反AI化しやすい一方で、マンガ家はそうでもない。イラストレータにとっては作画が全てだが、マンガ家にとって作画は構成要素の一つに過ぎず、全てではないからである。

 

 「無断学習やAI生成物の販売に嫌悪感を示す一方で、権利者に無断で作ったエロ同人が利益を出し続けているのはダブルスタンダードではないのか」という、木目事件で浮上した根本的な議論も存在感を増した。

Pixiv非公開デモ

 2023/5/7、Pixivで過去絵を非公開にするムーブメントが生じる。

 直接の理由は「Pixivに絵を置くとAIに学習されるから」とされているが、実際には「AI絵を全面禁止しないPixivに対する反AI主義者による抗議デモ」という意味合いが強かった。

 数日で収束。

jcom事件

 2023/5/1、jcomなる人物が、著名なイラストレータである萩pote氏に対して、収益画像付きで「素材ありがとう」的な煽りレスをした、という画像が拡散され、これが「反AIが叩きたいと考えている悪質なAI絵師像」と合致したため、大きなAI叩きの波が発生。

 

 しかし、
 ① 「jcom」なる人物は、このTweetをポストすると同時にアカウントを消して逃亡している(騒ぎになった頃には原本が読めなかった)。
 ② にも関わらず、「バナナ生産農家」という別のアカウントが僅かな時間でスクリーンショットを撮影し、「こんなやつばっか」というコメント付きで晒している。
 ③ 「jcom」も「バナナ生産農家」も、取ったばかりの捨て垢である。
 ④ 「jcom」なる人物の過去の活動履歴が全く見えて来ない。
 など不自然な点が目立ち、当初より「『架空の悪質なAI絵師』を演出するために実行された自作自演ではないか」と疑われていた。

 

 同日、Pixivが「特定のクリエイターの画風・作風を模倣した作品発表を、反復・継続して行うことで、当該のクリエイターの利益を不当に害すると当社が判断する行為」を規約で禁止。とりあえず火消しのために発表した事で、内容は深く考えられていない。

 

 5/3になって、jcomなる人物がアップロードしたFanboxの収益画像が、金額部分を手動で改竄したフェイク画像だという事が判明。jcomなる人物が「反AIの扇動を目的としてデザインされた『架空の悪質なAI絵師』」である事がほぼ確実となった。

 

 しかし、当の反AIにとってjcomは非常に都合のいい人物であったため、架空の人物だと判明した後も、「AIを使ってる奴はこういう奴ばかり」というサンプルとして頻繁に用いられ続けた。

 

 また反AIはこの件以後、単なるファインチューニング手法の1つでしかないLoRAを「他人の画風をコピーするために作られた悪質な技術」だとする新しいデマを流し始めた。