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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:三嶋 与夢

最終章

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親友の剣

 アルカディアの外では、王国軍が押しはじめていた。


 それというのも、敵の一部が要塞内部へと戻ってしまったためだ。


 リオンたちがアルカディア内部へと突撃したことで、帝国側の指揮に乱れが出始めている。


 その様子を艦橋から見ていたギルバートは、すぐに周囲の味方と連携して帝国軍に攻勢をかける。


「この機を逃すな! 押し続けろ!」


 互いに全力でぶつかり合い、損耗率はとんでもない数字になっている。


 普通の戦争なら、互いに退いているのは間違いない。


 だが、この戦いではお互いに退けなかった。


 艦長がギルバートに言う。


「ギルバート様、お下がりください! 貴方はレッドグレイブ家の跡取りです! ヴィンス様の安否が分からない今は、生き残ってもらわないと困ります!」


 その意見を聞いても、ギルバートは下がらなかった。


「ここで逃げては末代までの恥になる。私に恥をかけというのか!」


「耐えるべき恥もあります!」


「そんなことは――」


 二人が言い合っていると、目の前を白い機体が通り過ぎていった。


 モンスターたちを斬り裂いて倒していく姿は、実に美しいのだが――。


『今のは私の獲物だった! これでスコアは私の勝ちだな!』

『俺様の剣が先に刺さった!』


 レッドグレイブ家の飛行船は、改修を受けているためモニターがついている。


 そこに映し出されたのは、変な仮面を付けている男二人だった。


 ただ、声を聞いたギルバートは、それが誰なのか見当がつく。


 額を押さえて膝をつくのだった。


 慌てた艦長が、ギルバートの身を案じるのだった。


「ギルバート様!」


「も、問題ない。それよりも艦長――あの二機を狙えるか?」


「は?」


 ギルバートは、目の前で喧嘩をしながら戦っている仮面の騎士たちを見て無表情になるのだった。


「一発なら誤射だと思わないか?」


「いや、駄目ですよ。味方ですよ!?」


 ギルバートは苦々しい顔をする。


「分かっている!」


(こんなところに出てくるとは、一体何を考えておられるのか?)


 二人の声がモニターから聞こえてくる。


『お前、本当に誰だ!? 戻ったら捕まえてやるからな!』


『貴様こそ、俺様に逆らったことを後悔させてやる!』


 悲しいことに、仮面の騎士同士――お互いのことを全く分かっていないようだった。


 ギルバートは頭痛がするのだった。



 アルカディアの動力炉。


 そこで戦う相手は、俺と同様にドーピングをしたフィンだった。


 互いに機体性能を出し切っている状態だ。


 性能的に言えば――ブレイブの方が勝っているだろうか?


「アロガンツが負けるような相手かよ。黒騎士の爺さん以来だ」


 思い出すのは黒騎士だ。


 元公国の英雄で、油断していた俺をとことん追い詰めてきた爺さんだ。


 その時の経験がなかったら、きっと今頃はフィンに負けていただろう。


『お前に動力炉は破壊させない!』


 フィンが大剣を振るってくるので、それを受け止めるとパワー負けをして壁に叩き付けられる。


 壁にめり込むと、ブレイブの体から赤い球体がいくつも浮かび上がる。


 経験からこれはまずいとすぐに分かった。


「ルクシオン!」


『装甲表面にシールドを展開します』


 赤い球体から放たれる火球がアロガンツを焼いた。


 アロガンツだけではなく、周りの壁まで焼いて溶かしてしまう。


 おかげで動きやすくなった。


「こっちにも負けられない理由がある!」


『お互い様だろうが!』


 アロガンツが左腕を伸ばし、衝撃波を発生させるとフィンが吹き飛んだ。


 だが、自分から退いたのか、ダメージは少ない。


 今度はこちらから攻勢をかける。


 横薙ぎに払った大剣を、フィンは弾き飛ばしてこちらに蹴りを入れてきた。


「足癖の悪い奴め!」


『お前には負ける!』


 蹴られて後ろに飛びつつ、レーザーを放てばシールドを構えてフィンが突撃してきた。


 盾がレーザーで焼かれているが、気にした様子がない。


「さっさと終わらせてやる!」


 ペダルを踏み込むと、アロガンツが速度を上げる。


 同様にブレイブも速度を上げた。


 蝙蝠のような羽を大きく羽ばたかせ、こちらについてくる。


 その羽を狙ってレーザーを撃ち込めば、フィンはシールドや大剣を盾にして防いでいた。


 そして、追われる俺に向かって火球を放つ。


『追尾型の魔法です。数は――八十一!』


「撃ち落とせ!」


 シュヴェールトがレーザーで対処するが、数が多い上に大きいためなかなか撃ち落とせない。


 シュヴェールトのエネルギー残量も計算してルクシオンが対処しているが、フィンを相手にしているとエネルギーの減りが早すぎる。


 回り込んでくる一発の火球を大剣で斬ると、動きを止めたためにブレイブに追いつかれた。


「ちっ!」


 近付いてきたフィンに蹴りを入れると、左手でアロガンツの脚を掴んでくる。


「しまっ!」


 気付いた時にはもう遅く、ブレイブにアロガンツの脚を破壊された。


『右脚をパージします』


「野郎、やってくれたな!」


 ブレイブの表面を見れば、血管が脈打ちながら浮かんでいた。


「ブレイブまで薬を打ち込んだのか!?」


『いえ、パイロットとリンクしており、影響を受けているようです』


 相当無理をしているのだろう。俺に対して凄い集中力を向けている。


 そして、一つの可能性が浮かんだ。


 俺は視線を動力炉に向けた。


「――悪いが、地の利は俺に味方した」


 追いかけてくるフィンは、薬の影響なのか随分と周りが見えていなかった。


『リオン! これで終わらせる!』


 フィンの持っていた大剣から炎が吹き出し、収束して更に大きくなる。


 それを振り回すブレイブが近付いてきた。


「何でもいいから撃ち込め!」


『了解!』


 レーザーを撃ちながら逃げ回ると、周囲の光景がとんでもなく早く流れていく。


 互いに円柱状の空間を飛び回り、激しく戦闘を繰り広げていた。


 薬で強化しなければ、きっとついていけなかっただろう。


 逃げ回る俺に、フィンはどこまでも食らいついてくる。


「フィン――お前は俺よりも強かったよ」


 ただ――お前は無茶をしすぎたな。


 俺が追い詰められると、フィンは持っていた燃える大剣を振り上げて――ためらいなく振り下ろしてきた。


『これで終わりだぁぁぁ!』


『相棒、駄目だ!』


 ブレイブが止めてももう遅かった。


『し、しまっ!』


 フィンも気が付いたのか、大剣を止めようとするが――俺が左腕を使って無理矢理振り下ろさせる。


 止まった大剣を左手で掴み、無理矢理振り下ろさせたのだ。


「フィン――お前のミスは、その薬の効果を調べなかったことだ。少しばかり視野が狭かったなぁ!」


 フィンの使用した薬は、確かに効果はあった。


 だが、視野が狭くなっていた。


 敵である俺に集中しすぎて、周りが見えなくなっていたのだ。


 魔法生物と繋がっているため、その影響が魔装にも出て相棒であるブレイブも気付くのが遅れていた。


 俺が追い詰められた場所は、動力炉の柱そのものだ。


 フィンの大剣が動力炉に突き刺さり、その熱が内部に届いたのか柱が軋んでいた。


 ひびが入り、そして変な音が聞こえてくる。


 それはまるで、悲鳴のように聞こえてきた。


『マスター、動力炉の破壊は終わっていません』


 ルクシオンの声を聞き、唖然としているフィンを押しのけて俺は自分の持っている大剣を突き刺す。


「やれ!」


『はい!』


 大剣に右腕から衝撃が伝わり、そのまま動力炉の内部で爆発が起きる。


「もっとだ!」


『アダマンティスの大剣でも耐えきれません』


「全力でやれ! ここで完全に破壊するんだよ!」


『っ! ――了解!』


 衝撃波を発生させる右腕が火を噴き、そして大剣も砕け散った。


 だが、成功した。


 柱は内部から膨れ上がり、そして亀裂が入っていたところから割れた。


 勢いよく赤い粒子が吹き出し、発生した風にアロガンツも吹き飛ばされた。


 赤く膨れ上がった柱は、そのまま溶解していく。


 周囲が赤く染まって何も見えない。


「どうなった!?」


『動力炉の破壊に成功しました。ですが、動力炉は溶解中です。ここにいては危険です!』


「ならすぐに避難を――ぐっ!」


 口を押さえると、咳と一緒に大量の血を吐いてしまった。


『マスター! 中和剤を――』


 投薬から十分も経っていない。


 まだ数分残っていたが、先に俺の体の方が持たなかったようだ。


「はは、もっと鍛えておくべきだったな」


『中和剤の使用を求めます!』


「残念だな、ルクシオン――無理だ」


 操縦桿を握りしめてアロガンツを動かせば、今までいた場所に大剣が振り下ろされた。


 フィンの乗ったブレイブが、まるで涙を流すかのようにツインアイから液体を流している。


『リオン、よくも』


「フィン――俺の勝ちだ」


『うわぁぁぁぁ!』


 叫びながら向かってくるフィンから逃げるため、上へと移動する。


 ルクシオンが武装の状況について説明してくる。


『右腕は動きません。左腕に関しては、衝撃波を発生する部位が焼かれて攻撃できません。マスター、ここまでです。中和剤の投与を!』


「まだ終わってない!」


 シュヴェールトにレーザーを撃たせ、天井に穴を開けてやった。


 いくつも穴を開けると、空が見えた。


「外に出たか!?」


『アルカディア、出力低下しています。落下を開始』


 俺たちが飛び出してきた穴からは、火が噴き出していた。


 そこから装甲を焼いたブレイブが出てくる。


 俺はシュヴェールトにわびる。


「今までありがとな。――ごめんな、シュヴェールト」


 ルクシオンは俺が何をやりたいのかを察し、そしてシュヴェールトを切り離してフィンに向かわせた。


『シュヴェールトをパージ。遠隔操作』


 シュヴェールトが速度を上げて、ブレイブに突撃すると胴体部分に突き刺さりそのまま飛んでいく。


 ブレイブが悲痛な叫び声を上げるが、それは自らの痛みにではなく相棒のためだ。


『あ、相棒ぉぉぉ!』


『かはっ!』


 シュヴェールトの先端は、魔装の胴体部分に突き刺さっていた。


 パイロットは無事では済まない。


 デッキ上にある建物にぶつかり、止まったブレイブはもう動けないようだ。


 アロガンツはアルカディアのデッキに着地し、そしてフィンに近付いた。


 片足だけのアロガンツは、フラフラと不安定に浮いている。


『マスター、既に十分を超えています。中和剤の投与を!』


 慌ただしいルクシオンの声を聞くと、俺はまた口元を押さえた。


 大量の血を吐いてしまう。


『マスター!』


「あ、焦るなよ。中和剤を――早く――」



 自分がどうなっているのか見えなかった。


 だが、口から吐いたのは血であるのは間違いない。


 フィンはアロガンツの近付いてくる足音を聞いた。


 目がかすんでよく見えない。


「――黒助、無事か?」


 声をかけると、ブレイブは涙声だった。


『すまねぇ、相棒。俺様は――相棒を守れなかった』


 悔しそうにしているブレイブに、フィンは笑みを浮かべてお礼を述べた。


「馬鹿野郎。お前のおかげでここまで戦えたんだ。俺は――お前に感謝しているぞ、くろ――ブレイブ」


 最後に名前を呼ぶと、ブレイブが泣いてしまう。


『黒助って呼んでくれよぉ。――相棒?』


 フィンはそのまま笑みを浮かべたまま、声が出せなくなった。


 走馬灯を見る。


 酷く懐かしい光景が見えた。


 それは前世の妹の――ハッキリした姿だ。


(あぁ、そうだ。こんな顔だった。笑顔が可愛くて、俺が見舞いに来ると本当に嬉しそうで)


 妹の雰囲気はミアに似ていると思っていたが、姿も良く似ている。


 そしてフィンは涙を一筋こぼした。


(俺――また嘘を吐いた。ごめんな、ミア。約束を守れなくて――)


 フィンの瞳から光が消えると、ブレイブは泣くのだった。


『相棒ぉぉぉ!!』



 ブレイブに近付くと、もうフィンは死んでいるようだった。


 ブレイブのツインアイから赤い涙が流れている。


 ルクシオンが、そんなブレイブに声をかけた。


『――まだ、戦いますか?』


 ブレイブに戦う意志はないようだ。


『相棒もいないのに戦えるかよ。それに、俺様ももう――終わり――だ』


 段々とブレイブの体が崩れていく。


 そして、ブレイブが俺にフィンの言葉を伝えてくる。


『リオン、お前に相棒からの伝言だ。相棒は――お前に殺されても恨まないって言っていた。お互い様だってよ』


「そ――うか」


 うまく喋れない。


 中和剤を使用しても、体はボロボロだった。


 崩れながら、ブレイブは言う。


『安心するのは早いぜ。何しろ、アルカディアを管理するコアは残っているんだ。俺様はあいつが大嫌いだけどな』


 ブレイブが指さしたのは、転がっている大剣だった。


 何を言いたいのか分かり、拾い上げる。


 アロガンツの姿を見て、ブレイブは笑っていた。


『相棒――俺様も今から――そっちに――』


 灰色になって崩れたブレイブは、風に流されるとその場に何も残らなかった。


 フィンの死体もない。


「――フィン」


 涙が出てくる。


 俺にそんな資格などないのに、だ。


 ルクシオンがそんな俺に警告してくる。


『マスター、まだ終わっていません。今の話が本当ならば、アルカディアのコアが残っています。再生できるとは思えませんが、破壊が優先されます。味方に伝えるべきです』


 後はコアさえ破壊すれば、何の問題も残らない。


「――そうだな。早く終わらせて」


 これで全部終わると思っていたら、俺たちが飛び出してきた穴から赤い粒子の光がどこかに流れていた。


 風に流されているのではなく、どこかに吸い寄せられているようだった。


『――魔素を急激に吸収している個体がいます』


 フィンから手に入れた大剣をアロガンツの左手に強く握らせる。


「敵さんも往生際が悪すぎるよな」


 まだこの戦いは終わらないらしい。


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