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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:三嶋 与夢

最終章

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腹黒とナルシスト

 動力炉を目指して突き進む俺たちは、通路の関係から一度外壁近くの通路を移動していた。


「本当に近付いているんだろうな!?」


 ルクシオンに尋ねれば、いつものように返事をする。


『問題ありません。それにしても、理解に苦しむ内部構造です。機能美に欠けています』


 新人類が建造した要塞だからか、それとも本当に機能美がないのか。


 ルクシオンの文句は止まらない。


『大体、無駄が多くこれではスペースが――マスター!』


 すぐにその場から下がると、壁を突き破って帝国の鎧たちが侵入してきた。


『見つけたぞ、侵入者共!』


 外壁に穴を開け、そこから無理矢理侵入してきたようだ。


『ちっ!』


 グレッグがすぐに飛び出し、敵を倒すとユリウスが帝国の兵士たちが侵入してきた穴を見る。


『まずいな。敵が集まってきている』


 穴が開き、外の景色が見える。


 飛行船数隻。


 そして、鎧やモンスターたちが――沢山。


「こいつら、無茶苦茶するな」


『この数を相手にするのは面倒ですね』


 敵がこの場を目指して集まってきている。


 すると、ブラッドが俺たちの前に出るのだった。


『なら、ここは僕の出番だね。僕の機体は多数を相手にするのに向いているから』


 背中に背負ったランス型のドローンは、遠隔操作ができる。


 確かに多数を相手にするのに向いていた。


「馬鹿! お前一人をここに残していけるか。お前は、この中で――」


 一番弱いという言葉を飲み込む。


 だが、俺の言葉を引き継いだのは、ブラッド本人だった。


『一番弱い、だろ? 自分でも理解しているよ。だから、ここで僕が時間を稼ぐんだ』


 ブラッドの決意に感謝する。


「お前ら、本当にどうしてこういう時だけ――いいか、駄目そうなら逃げろよ」


『そこはお世辞でも追いつけと言って欲しいね』


 俺たちが移動しようとすると、ルクシオンが『無人機をサポートに残します』と言ってブラッドの周囲にコンテナを背負った無人機が配置につく。


 すると、ジルクが動きを止めた。


『リオン君――そして殿下。ブラッド君だけでは不安でしょう。ここは私も残ります』


 ユリウスの乳兄弟で、側を離れないはずのジルクがそんなことを言い出した。


 ユリウスも許可を出す。


『お前の好きにしろ』


『そうさせてもらいますよ。ここから敵が流れ込むのは避けたいですからね』


 大きなライフルを構えたジルクが、すぐに近付いてきた敵を撃ち抜いていく。


 俺に声をかけてきた。


『すみませんが、殿下のことをよろしくお願いしますね』


「俺にこいつの世話を押しつけたな」


 それを聞いたユリウスが不満を漏らすのだ。


『お前ら、俺を何だと思っている。――リオン、行くぞ。時間を無駄に出来ない』


 グレッグが二人に声をかける。


『死ぬんじゃねーぞ!』


 二人は笑っていた。


『君たちこそ』


『殿下たちも気を付けてください』



 要塞の外に出た二人は、壁に開いた穴を目指して押し寄せる敵を排除していた。


 ブラッドは六本のランスを飛ばし、モンスターに突撃させて貫いていく。


 そして、自分はランスを持って帝国の鎧を相手にするのだ。


「くっ!」


 襲いかかってくる敵の中にはエースがいたのか、手強くて押されていた。


『貴様らに家族を殺されてたまるかぁぁぁ!』


 帝国軍の兵士たちも、この戦いの意味を知っていた。


 ブラッドは声を上げる。


「こっちだって、はいそうですか、と負けるわけにはいかないんだよ!」


 左腕に仕込まれた銃を相手のコックピット間近で撃ち込むと、敵はそのまま落下していく。


 ランス型のドローンが戻ってくると、機体の背中にマウントされて充電を開始した。


 ブラッドは次々に集まってくる敵を見るのだ。


「こいつら、いったいどこからわいてくるんだ」


 ライフルを構えたジルクが、敵飛行船のブリッジを撃ち抜く。


 そのまますぐに、大砲も破壊して一隻を行動不能にした。


『とにかくここで食い止めます。リオン君たちが動力炉を止めてくれれば、敵も戦いを止めるでしょう』


 だが、不安もあった。


「止めてくれると良いけどね」


 戦争をする理由が消えても、自棄になって突撃してこないとも限らない。


 それに、戦争は自分たちだけでやっていない。


 味方の状況が不安だった。


 見て、そして聞こえてくる情報からすると、王国軍は既に二百隻以上を失っている。


「何とか持ち堪えてくれているのは、共和国とファンオース公爵家のおかげかな? まったく、微妙な気分だよ」


 長年、ファンオース公爵家に苦しめられてきたブラッドの実家からすれば、素直に喜べない状況だ。


『共和国のセルジュ君も頑張っているみたいですよ』


「あいつが?」


 押し寄せるモンスターたちに、魔法陣を展開して広域攻撃魔法で吹き飛ばすブラッドは少し驚いていた。


(助けに行きたいが、逆にこちらも増援が欲しいくらいだ。すまないけど、耐えてもらうしかないな)


 多くの敵が押し寄せる中、ブラッドとジルクは必死に耐えていた。



 リコルヌの船内。


 胸元を押さえ、汗を流すリビアは呼吸が乱れていた。


「こ、声が」


 戦場で聞こえてくる声を一身に受け止め、それを補助するクレアーレが必要な情報を抜き出していく。


 目に涙を浮かべ、苦しみながら耐えるリビアの背中をアンジェがさする。


「リビア、無理をするな。疲れたら休め」


 リビアは首を横に振る。


「ここで頑張らないと、リオンさんの助けにならないから」


 涙を流して耐えているリビアは、いつ倒れてもおかしくない状況だった。


 マリエはアルカディアを見ている。


「兄貴たち、成功するわよね?」


 無事に戻ってきて欲しいのだろう。


 それはみんな同じ気持ちだった。


 すると、空中に映像が浮かび上がる。


 そこに映し出されたのはギルバートだった。


『アンジェ! 艦隊を編成した。これより、私たちが前に出る』


「あ、兄上? 何を言っているのですか!」


『父上の飛行船は沈んだ。誰かが前に出て指揮を執る必要がある。このまま、共和国とファンオース家に頼っていては持たないからな』


 リコルヌの横を通り過ぎる大きな飛行船は、ギルバートの乗り込むレッドグレイブ家所有の飛行船だ。


 次々に王国軍の飛行船が続き、崩れた前衛の穴埋めに入る。


 ギルバートがアンジェに頼み事をする。


『私が死んだら、レッドグレイブ家の後見人を頼むぞ。必要ならお前の子供に継がせてもいい』


「兄上!」


『お前が選んだ道は、そういう道だ! ――家族すら犠牲にして、国を守る義務がある。それを忘れるな』


 アンジェが俯く。


 そして、すぐに顔を上げると普段の表情になっていた。


「ご武運を」


『それでこそ、私の妹だ』


 王国軍は既に三百隻近くが沈んでいた。


 帝国軍も同様に数多くの飛行船が沈んだが、お互いに退けない。


 本来であれば王国が敗北を認めて撤退している場面だが、ここでの敗北は死を意味する。


 互いに退けなかった。


 胸を押さえるリビアが、立ち上がって前を見る。


「前に――私たちも前に出ます」


 クレアーレが驚いていた。


『リビアちゃん!?』


「リコルヌが前に出て、王国の皆さんを守ります。そうしないと――私は自分が――」


 苦しむリビアが胸を押さえる。


 アンジェはリビアに額を当てた。


「お前も無茶をするな」


 そして、船内の顔ぶれに視線を巡らせる。


「リコルヌを前に出す。降りたい者は、すぐに脱出しろ」


 ノエルが両手を小さく挙げて降参のポーズを見せる。


「冗談でしょ? 今更降りないわよ」


 ユメリアもカイルと手を握り合い、頷いて見せた。


 マリエの腕に抱きついているカーラも、震えながら逃げないと頷く。


 そして、マリエは笑顔を見せる。


「あんたが言わなかったら、私が突撃するって言っていたところよ」


 胸を張って答えるマリエに、アンジェは目を細めて言うのだ。


「前に出るが、突撃するとは一言も言っていない」



 ジルクはモンスターたちの相手をしながら、王国軍の動きを見ていた。


「後方の艦隊を前に出しましたか。こうなると、王国側が追い詰められていますね」


 戦力から考えれば、王国側が不利だった。


 それを持たせているのは、リオンと――力を貸してくれている人工知能たちのおかげである。


 無人機たちが厄介な敵を相手にしているため、王国側の被害は予想よりも少なかった。


 だが、そんな無人機たちも次々に落ちていく。


 ジルクは距離を詰めてきた敵の鎧に、ハンドガンを向けてコックピットを撃ち抜く。


 そして、ライフルを放り投げた。


「交換します」


 そう言うと、コンテナを背負っていた無人機が代わりのライフルを用意する。


 受け取ったジルクは、ライフルを構える。


 ライフルに取り付けられたスコープから、映像が届く。


 拡大された映像を見て、呼吸を止めた。


 引き金を引くと、こちらを目指して飛んできていた帝国の鎧が一発の弾丸で二機も貫いて落ちていく。


 すぐに次の敵を探し、同じように引き金を引いていく。


「まったく――嫌になりますね」


 戦争など恐れないと思っていた。


 戦ってこそ騎士。


 だが、こうして戦場を何度も経験して気が付く。


 戦争などするものではないな、と。


「私は書類仕事をする方が向いていそうですね」


 生き残ったら、もう戦争は出来るだけ回避する道を探ろうと考える。


 幸いなことに、次の王様は平和主義だ。


(いや、平和主義ではありませんね。甘いだけだ)


 だが、そんな王様も嫌いではない。


(足りない部分は臣下が補う。それだけのことですからね)


 自分も出来うる限り協力しよう。


(マリエさんとの幸せな生活のために!)


 そう思って引き金を引く。



 アルカディア内部を進む俺たちは、動力炉に繋がるルートを発見した。


 そこに配置された戦力は多いが、アロガンツで無理矢理押し通る。


「邪魔だぁぁぁ!」


 次々に敵の鎧を破壊し、そして突き進むと――そこに待っていたのは魔装をまとった騎士“たち”だった。


『マスター、魔装です』


「団体でお出ましか」


 魔装をまとっている騎士たちのリーダー格が声を出す。


『まさか本当にここに来るとは思わなかったぞ』


 俺が構えると、グレッグとユリウスが俺の前に出るのだった。


『リオン、お前は少し落ち着け!』


『補給を受けろ。私たちが相手をする』


 二人が向かい合う魔装の騎士たちは三人だ。


 一人で一機を相手にすれば、何とか乗り切れそうだが――残念なことに時間がない。


『マスター、敵主砲の発射態勢が整います。早めにけりを付けなければ、味方に被害が出ます』


「そうだな。――ルクシオン、強化薬だ」


『マスター、それは駄目です!』


「命令だ!」


 ルクシオンが目を伏せて、そして俺の命令に従う。


『――はい。強化薬を投与します。中和剤投与まで残り時間は九分五十八秒です』


 背中のバックパックから針が打ち込まれ、液体が俺の体の中に入ってきた。


「かはっ!」


 体が急激に熱くなり、目の前の視界が狭くなってくる。


 苦しくて呼吸も出来ず、涎が垂れる。


 だが、しばらくすると急激に気分が良くなってきた。


 視界が広がる感じに加え、まるで何でも出来そうな気がしてくる。


 体に力が入る。


 心臓がいつもよりも強く鼓動している気がした。


 俺は涎を拭う。


「二人とも、下がれ」


『リオン!?』


 グレッグを押しのけて前に出ると、目の前の魔装をまとった騎士が何か言い始める。


『ほう、英雄自ら相手をしてくれるのか? 私は帝国騎士で序列第二位の――』


 名乗りを上げているが興味がなかった。


「悪いな。興味がない」


『アロガンツのリミッターを解除します』


 俺の肉体が耐えられないために、アロガンツにはリミッターが搭載されている。


 リミッターは安全装置だ。


 パイロットの負担にならないように、アロガンツに制限を設けていた。


 それを解除しても問題ない程に、薬の効果は大きかったのだ。


『なっ!?』


 魔装が武器を手に取ろうとする前に、アロガンツが敵の頭部を握りつぶした。


 そして、戦斧を振り下ろすと綺麗に両断される。


「あと二つ!」


 周囲の流れが遅く感じる。


 慌てている敵が剣を抜いてこちらに向けてくるが、それをアロガンツが握りつぶして手の平を敵に当てた。


『インパクト』


 二機目は爆散し、残った一機が逃げようと背中を見せたので戦斧を投げ付ける。


 両手ががら空きになったアロガンツの前に、魔装が率いていた鎧たちが控えていた。


 その数は通路を埋め尽くして先を見えなくしている。かなりの数だ。


「逃げれば追わない」


 逃げて欲しいと思っていたが、敵は恐怖を押し殺してアロガンツに向かってきた。


『怯むな! 帝国の意地を見せろ!』

『フィン様が来るまで耐えるんだ!』

『ここから先に行かせるものか!』


 向かってくる帝国の鎧たちを前に、俺は操縦桿を強く握る。


 ギチギチと音が聞こえてきた。


 普段よりも力が入る。


 だが――。


「くそっ!」


 ――涙が出たと思ったが、出ていたのは血だった。


 どうやら、体への負担が大きいのは本当らしい。


『マスター、中和剤を!』


「駄目だ。こいつらを倒して先に進む!」


 帝国の兵士たちに向かってアロガンツを向かわせ、そして全てを破壊した。


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