剣聖対剣聖
戦場の空。
リーンハルトは、王国の騎士――鎧を剣で貫いていた。
「はい、これで十機目。王国の騎士は弱いよね~」
魔装をまとい、ロングソードのような武器を振り回して王国の鎧を次々に沈めていた。
その戦い振りは、まるで狩りをしているようだった。
「もっと強い奴を相手にしないと面白くないよね」
崩れた王国軍の前衛に襲いかかり、今は一方的な戦いが続いていた。
そんなリーンハルトに、宇宙戦艦――駆逐艦が迫ってくる。
光学兵器を撃ち、そして無人機たちを使ってリーンハルトを囲い込もうとしていた。
リーンハルトの魔装は、悪魔のような翼を広げると速度を上げて無人機たちに接近していく。
そのまま接触すると、全てを斬り裂いて駆逐艦に迫った。
剣を持たない左手を駆逐艦の船体に叩き込むと、魔装のツインアイが赤く光る。
「吹き飛べ~」
笑いながらそう言うと、駆逐艦は内部を爆破され膨らんでいく。
金属が内部から膨らみ、変な音を立てながら爆発した。
その爆発の中からリーンハルトは生還すると、次の獲物を探すのだった。
「先輩には悪いけど、このまま僕がバルトファルト公爵を倒しちゃおっかな~」
敵の英雄を倒したい。
それだけの思いで、リーンハルトは戦場でリオンを捜す。
だが、どこにもいない。
「もしかして、もう沈んじゃったのかな?」
つまらなそうに呟くと、王国の鎧が突撃してくる。
『これ以上、やらせるかぁぁぁ!』
突撃して来たのは、どうやら中年の騎士らしい。
勢いもあるし、それなりに場数は踏んでいるようだ。
ボロボロの状態ながら生き残っているのを見れば、味方が数機食われている可能性もある。
この騎士は強いのだろう。
だが、リーンハルトの好みではない。
「時代遅れの騎士道ってやつかな? 馬鹿の一つ覚えみたいに突撃してきてさ。実力差を考えなよ、おじさん」
敵鎧の頭部を蹴り飛ばし、相手が仰け反ったところで剣を突き刺そうとした。
すると、後方から大きな爆発音が聞こえてくる。
「な、何だ!?」
振り返り、そして剣先の向きが変わって相手のコックピット付近を貫いた。
『こ、このぉぉぉ!』
暴れる敵の鎧を無視して、リーンハルトはアルカディアを見る。
アルカディアに何か突撃し、そこから煙が上がっていた。
「シールドを抜かれたのか?」
そして、皇帝陛下から序列騎士たちに戻るように命令が出されると、リーンハルトは舌打ちをする。
暴れ回る敵の鎧から剣を抜き、そして左手を向けて紫電を放つのだった。
紫電に襲われた敵鎧のパイロットが叫ぶ。
『うおぉぉぉ! ニックス! リオン! みんなを――頼――』
爆発しながら落下していく鎧に興味もなく、リーンハルトは全速力で要塞へと帰還するのだった。
「結局、十一機しか撃墜できなかったな」
◇
アルカディア内の通路は広かった。
動力炉に通じる通路は、魔装をまとった新人類も通るために広く設計されたのだ。
そんな通路を現代兵器で守っているのは、帝国の兵士たちである。
鎧にマシンガンやらバズーカを持たせ、盾を構えている鎧もいた。
「剣を持って突撃してくる馬鹿はいないか」
アロガンツのコックピット内でぼやくと、ルクシオンが生真面目に返答してくる。
『設計思想が騎士による運用を考えられていませんね。それから、帝国の鎧は王国の主力機と比べて世代が一つ違います』
性能は帝国が上で、更には設計思想も違っている。
本当に厄介な相手だ。
だが――。
「でも俺には関係ない!」
――アロガンツに床を滑るように移動させ、右手に持った戦斧で盾を持った敵を両断する。
そのまま、左手に持ったライフルで銃器を持った敵の鎧を撃つ。
乱暴に突き進んだことで被弾もしたが、アロガンツの装甲が全て弾いてくれた。
おら、ドンドン進め!
アロガンツが敵陣を破ると、ユリウスたちが続く。
『リオン、前に出すぎるな!』
「早くこの要塞の動力炉を落とす必要があるんだよ!」
アルカディアの動力炉を破壊してしまえば、魔素の製造は行えない。
そうなってしまえば、俺たちの勝ちだ。
「ルクシオン、無人機たちの様子は?」
『現在、敵の増援を防ぎつつ、動力炉までのルートを探しています』
連れてきた無人機たちも頑張っているが、敵も結構な数を要塞内に配置していた。
そして、ルクシオンが赤い瞳を光らせる。
何かあったのか?
「どうした!?」
『――無人機の部隊が一つ壊滅しました。最後の映像を解析した結果、魔装をまとった騎士が出て来たようです』
そこを守っているとなると、動力炉へのルートの可能性が高い。
「案内しろ。もしもフィンなら――俺が相手をする」
『こちらです』
アロガンツを向かわせると、ユリウスたちもついてくる。
『魔装は性能だけならアロガンツと同等と聞いたが、フィン以外も強敵なのか?』
ユリウスのそんな疑問に答えるのはジルクだ。
『恐ろしい話ですね。こちらも強い鎧を借りていますが、倒すのには苦労しそうです』
ブラッドはノリノリだ。
『リオンを倒すために頑張ってきたんだ。その成果が試せると思えばいいさ』
グレッグはそんなブラッドの意見が気に入ったのか、賛同する。
『そうだな。俺たちの三年間は無駄じゃなかったと証明してみせるぜ!』
こいつら、俺に勝つために三年間も頑張ってきたのか?
いや、正確に言うなら三年ではないはずだ。
そんな余計なことを考えていると、目の前を先行していた無人機たちが吹き飛んだ。
壁はズタズタに切断され、そこから出て来たのは魔装だった。
魔装の体に紫電がバチバチと走り、見るからに危険そうな奴だった。
「フィンじゃないな」
ただ、フィンのブレイブとは違う奴だ。
『みぃ~つけたぁ~』
間延びした声は若く、そして俺たちを前にして楽しんでいるように見えた。
俺たちが構えると、アロガンツを見て喜ぶ。
『へぇ~、公爵様直々に乗り込んできたんだ。やっぱり、英雄はやることが違うよね。それにしても――六人か』
無人機もある中で、有人機である俺たちの数を言い当てる。
「面倒だな。ここは全員で相手を――」
すると、先程から黙っていたクリスが俺たちの前に出る。
『リオン、悪いがここは譲って欲しい』
「あ? お前、何を言っているんだよ」
クリスは現れた魔装を前に戦う姿勢を見せていた。
『魔装の装甲にある紋章が見えるか? あれは帝国の剣聖だ』
ロングソードのような武器を持った敵が感心していた。
『へぇ、僕を知っているの?』
『剣聖の称号を受け継いだばかりだが、ここで相手をするなら私だろう。リオン、さっさと先に進め。こいつの相手は私がする』
俺に構わず先に行け、みたいなフラグを立ててくる。
「お前は馬鹿か! ここは全員で袋叩きにして先に進めばいいだろうが!」
『時間が勿体ない』
クリスにそう言われると、ルクシオンまでもが賛成してくる。
『マスター、ここは先を急ぎましょう』
「――阿呆が」
俺の呟きを聞いたクリスは、笑顔を見せるのだった。
『悪いな。私にも意地がある』
クリスを残し、俺たちは先へと進むのだった。
◇
帝国の剣聖と戦うと決めたクリスは、名を名乗るのだった。
「クリス・フィア・アークライトだ」
相手は剣を担いだ格好で、名を名乗る。
『リーンハルト・ルア・キルヒナーだよ。それはそうと、君って本当に剣聖の息子?』
「そうだ。最近、父から剣聖の称号を受け継いだ」
本当は奪い取ったのだが、そんなことを教えてやる必要がなかったので黙っていた。
リーンハルトは、不満そうにしている。
『一つ聞いて良いかな?』
「何だ?」
クリスが油断なく武器を構えると、リーンハルトの苛立った声がする。
『何で武器が銃器なんだよ!』
クリスの機体だが、持っている武器は銃火器だ。
バックパックにはミサイルコンテナを背負い、左手にはガトリングガンを持たせている。
右手には取り回しのしやすいサブマシンガンのような武器を持っていた。
クリスは首をかしげる。
「戦場では銃の方が優秀だからだ!」
当然のように言うと、リーンハルトはガッカリした様子を見せる。
『王国の剣聖は強いって聞いていたのに残念だね。黒騎士を倒した実力者と聞いていたけど、本当にガッカリだよ』
剣を構えるリーンハルトに、クリスは問答無用で引き金を引いた。
「残念だったな。黒騎士を倒したのはリオンだ」
弾丸やミサイルがリーンハルトに襲いかかると、それらが切断された。
弾丸は魔装の装甲を削るが、リーンハルトは致命傷を避けていた。
『なら、王国の英雄を追いかけて僕が倒すよ。エースを撃墜するのが好きなんだ』
この言葉で、相手が戦場を楽しんでいるのを察する。
クリスはガトリングガンを使ってリーンハルトを倒そうとするも、簡単に避けられて距離を詰められてしまった。
『剣聖が銃を使ったら駄目でしょ!』
「悪いが、剣ばかりにこだわるプライドは捨てている」
そんなものを持っていても、リオンには勝てないのだ。
クリスはリオンとの出会いで沢山のことを学んだ。
その一つが、決闘で剣しか持たない自分は、遠距離の敵に対して極端に弱いという欠点を持つということだ。
決闘ならまだマシだが、これが戦場では致命的である。
常に剣だけで戦える戦場などない。
『剣を捨てた奴が、剣聖を名乗るな!』
リーンハルトの一撃は、とても鋭くクリスから見ても綺麗だった。
ガトリングガンを放り投げ、身代わりにしつつ距離を取るクリスはミサイルやサブマシンガンで攻撃する。
狭い通路内を器用に飛び回るリーンハルトの魔装だが、それ故に逃げ場は少ない。
確実に被弾していく。
後ろに下がりながら、クリスは撃ち尽くしたミサイルコンテナをパージしてリーンハルトに投げ付けた。
それを斬り裂き、リーンハルトは迫ってくる。
『剣で勝てない? それはお前が弱いからだよ! 剣だけで勝てないお前が、剣聖を名乗るなんて笑い話だ!』
そんな事を言われても、クリスは動じなかった。
むしろ――。
「お前は魔装なんて強力な鎧を持っているから対抗できるが、一般の騎士ではどうしようもないと思うが?」
――冷静に言い返していた。
そうしている間にも、クリスの機体は武装を次々に捨てて軽くなってくる。
「やはり、付け焼き刃だったな」
銃などの練習も始めたが、他の四人と比べるとやはり拙かった。
そのため、狙うよりも数をばらまいて敵を落とす方法を選んだのだが、大量の弾薬を使ってもリーンハルトを撃破できなかった。
「今後も練習が必要だな」
そんなクリスに、リーンハルトは怒りを通り越して呆れるのだった。
『お前にもう未来はない。――死ねよ』
冷たい声を出し、魔装を加速させ一気にクリスに詰め寄るリーンハルトの一撃が鎧の装甲を削り取った。
クリスの機体が膝をつく。
クリスはコックピット内で冷や汗をかいていた。
「ふんどしをしていて良かった」
コックピット内に僅かに届き、小さな破片が腹部に刺さっていた。
パイロットスーツを突き破っているが、僅かに届いていない。
きつくしめたふんどしのおかげで、体には届かなかった。
立ち上がって振り返ると、リーンハルトの魔装は各部から血のような液体を噴き出している。
剣を捨てて、お腹を押さえていた。
『血、血が! 僕のお腹が! 早く治療しない――こふっ!』
クリスの機体は剣を握っている。
すれ違いざまに剣を抜いてリーンハルトの胴体部分を斬り裂いた。
ゆっくりと、魔装は上半身が下半身と別れ、滑り落ちるように倒れた。
クリスは眼鏡の位置を正す。
「確かに銃も使うが、剣だって使う。不用意に懐に入り込んだお前の不注意だ」
まだ生きているのか、リーンハルトの声が聞こえてくる。
『死にたくない。こんなこと間違っている。だって、僕は剣聖なんだ』
剣に固執し、そして戦場を甘く見ていたリーンハルトを見て、クリスは目を閉じるのだった。
(お前は昔の私と同じだな)
そんなリーンハルトにクリスは近付く。
「今楽にしてやる」
リーンハルトに止めを刺し、クリスはリオンたちを追うために移動を開始するのだった。