「新番組って、どうやって作るの?」NHKディレクターに聞いてみた
“企画”を形にするのって、大変ですよね。
上司から無茶振りされたり、お客さんからプレッシャーを受けたり、そもそも斬新なアイデアが思いつかなかったり…。
NHKの番組作りの現場でも、日々頭を悩ませ、トライ&エラーを繰り返しています。
そんな中で新しく開発された番組が、大型連休に放送されます。
“開発番組”とは、毎週放送されるレギュラー番組ではなく、単発のスペシャル番組で、「新しいレギュラー番組の芽」ともなるもの。
制作者たちは、ゼロベースからの企画をどう発案し、作り上げていったのか?企画は楽しいけど、実現は苦労の連続?
番組完成間際の3人の担当者に聞きました!
左「ヘイ!モンジュ!~迷えるわたしに教養を~」高橋一暢ディレクター
2011年入局。ふだん制作している番組は「逆転人生」。
右上「宇宙の人気番組 『いとしの地球アワー』」田中涼太ディレクター
2004年入局。これまで「日本人のおなまえ」「光秀のスマホ」などを開発してきた。
右下「あのとき、タクシーに乗って」岡田歩ディレクター
2011年入局。ふだん制作している番組は「ドキュメント72時間」。
それぞれに課せられた「開発ミッション」って?
高橋@モンジュ
僕が制作中の「ヘイ!モンジュ!~迷えるわたしに教養を~」は、“今までにない教養番組”を作れ!という無茶ぶりから立ち上がった番組です。
学問の最前線からひもとく「本格教養」で、みなさんの人生の悩みに答えていきます。
5月4日(火・祝)[総合]後8:15
とある山寺に、一人の住職が暮らしています。ここには若者たちが人生相談に訪れます。「弱さを克服したい!」「本当の愛って何?」相談された住職は、寺の仏像にこう呼びかけます。「ヘイ!モンジュ!」すると不思議な仏像・モンジュさまが、よりよく生きるための“教養”を授けてくれます。さまざまな学問の最前線をポップに学べる新しい教養番組。
出演:秋山竜次(ロバート)・SHELLY
岡田@タクシー
哲学版の「チコちゃん」みたいな感じですか?(笑)
高橋@モンジュ
チコちゃんは「雑学」だけど、この番組はもっと学問の最前線寄りというか、「教養番組」であることにこだわりました。
教養って、学んですぐに役立つものではなくて、生きていく上でのヒントや考える力を与えてくれるものなんじゃないか、というところから人生の悩みに教養で答えるコンセプトを作り上げていきました。
▲初期の構想メモより。本格的な教養ネタ×エンタメショーをアピール!
田中@地球アワー
「いとしの地球アワー」は、「宇宙のとある星で放送されている『地球』に関する情報番組」という設定のバラエティです。
実は「SDGs」をテーマにしていて、SDGs関連のことをNHKでやっていこう、と各部署から集まった企画のうち2つを合体させてできた企画なんです。
ただ、番組を見る人たちにとっては「SDGs」と聞いただけでちょっと抵抗感があると思うので…いかにそれを“言わないか”“見えないようにするか”ということを大事にしています。「SDGsってなに?」という人に見てもらわないと、本当の意味で社会が変わらないと思うので。
…まだ編集中なのでわかんないですけど(笑)
5月5日(水・祝)[総合]後8:15
宇宙人から見ると、地球人は飽食の一方でダイエットに励み、惑星全体でフードロスに悩む奇妙な生き物だった!?番組後半は、地球に暮らす動物たちが、勝手し放題の人類を訴える法廷ドラマ。シマウマから届いた訴状とは?
出演:【前半パート】安田顕・壇蜜・河北麻友子・後藤拓実(四千頭身)ほか
【後半パート】薬師丸ひろ子・朝倉あき・近藤春菜(ハリセンボン)
▲初期の構想メモより。「惑星XのZ世代」「惑星XのF1・F2層」など、独特の世界観が展開。
岡田@タクシー
興味のない人にいかに見てもらうか、ハッとしてもらうかっていう番組ということですよね。
SDGsのような課題解決って大事なテーマだけど大上段に構えると観てもらえない、公共メディアのジレンマあるあるですよね。
そこをどう突破するか自分も悩んでいるので、個人的にはすごく楽しみにしています。
田中@地球アワー
岡田さんの「あのとき、タクシーに乗って」は、世の中の空気みたいなものをうまくパッケージングするような番組ですよね。ストーリーの起承転結だけではなく、穏やかな、優しい気持ちになる番組だなと。
岡田@タクシー
ありがとうございます。
もとは、昨年春の緊急事態宣言中に「コロナ禍のリアルな時代を記録したい」と思ったのが企画のきっかけなんです。100年後の人にも、アーカイブ映像として見てほしいなと思って作りました。
時代を記録することも公共メディアの役割なんじゃないかなと思って…。
5月3日(月・祝)[総合]後7:30
タクシーは様々な人生が行き交う、“社会の縮図”。どんな人がどこへ、どんな事情を抱えて?車内に固定カメラを設置し、乗客とドライバーが織りなす本音の‘世間話に耳を傾ける。先行き不透明な時代を生きる市井の人々の物語を紡ぐ、新しいドキュメンタリー。
出演:【語り】梶裕貴
企画のタネは自分の中に
田中@地球アワー
企画を考えるとき、昔は「いま世の中が求めてるものってどういうものだっけ」ということを意識してやっていたんですけど、そうすると、なんかつまんないですよね(笑)。企画が通ったとしてもつまんない。
本当に自分の中でいい演出だと思っているかとか、問題意識があるかどうかとか…青臭いこと言っちゃって恥ずかしいんですけど、自分が面白いと思っていないとやっても意味がないし、世の中に何もインパクトを与えられないと思うんです。
自分の中で「これをやったほうがいいよね」「こんなテーマや演出が斬新だと思う」「今までにないものが撮れる」と心の底から思っている人がちゃんといないと、その企画は滑ると思っています。
高橋@モンジュ
いま田中さんの話を聞いて、僕はどうしても「今なにが世の中に求められているか」から発想していたなと反省しました(笑)。
田中@地球アワー
もちろん、世の中のことなんて気にするな、というわけではないですよ(笑)。ギリギリのすり合わせですよね。
岡田@タクシー
うーん、私はあまり難しいことは考えていないんですけど、「優しい社会を作りたい」と思って働いているんですよね。
他人に対していいとか悪いとかジャッジする資格は誰にもないだろうし、それぞれがそれぞれの事情や哲学を持って行動したり発言したりしているわけで。その人がそこに存在しているというそれ以上でも以下でもない。
いま、コロナ禍で社会が殺伐としているじゃないですか。自粛警察やら、マスク警察やら。
いろいろな人がいる中で、そうした市井の人の胸の内に耳を傾けて、ちょっと想像力を膨らませるって大事だなと思うんですよね。撮影を通して出会ったドライバーさんや乗客の方々の言葉から学ぶことが多かったです。
0→1で番組を作る=“出汁(だし)の味から考える”?
岡田@タクシー
新しい番組を立ち上げて、今後”継続“することになっても、自分がいつまでもその番組に関わることはできないので…。
カメラマンや音声マン、編集さんなども含めて、途中でメンバーが入れ替わったときにみんなで同じ方向を向くために、「この番組はどういう番組なのか」を言語化して共有することはすごく大事だと感じました。
それがあると、撮るカットや使う機材、編集の仕方も迷わなくなるということに気付きました。すっと筋が通るんですよね。
たとえば今回の番組は、「乗客とドライバーの世間話から社会を描く」「車内の風景から時代を記録する」という番組だと。だから三脚をつけてタクシーの外で撮った映像は、もうハマらなかった。撮ってみたけどやっぱり編集で入りませんでした。
高橋@モンジュ
逆に言うと、普段のレギュラー番組は“同じ文化”の人たちだけで作ってるじゃないですか。
若いディレクターも、その上司であるプロデューサーも同じ文法を共有しちゃっている部分があって、知らず知らずのうちに自分も型にハマってしまっていたんだなというのは、今回発見がありましたね。
田中@地球アワー
僕は、番組を作ることは料理屋を経営していくようなものだと思っていて。たとえば、先週中華料理だったものが今週フレンチになって出てきたら、お客さんはびっくりすると思うんです。
なので、みんなでその出汁はどうやって作るのかということだけは共有して、「素材を変えても出汁は一緒」という風にしていくことがレギュラー番組を作る上では大事。
一方で新しい番組では、店構えから出汁の味から、全く新しいものを作ることになる。
しかもどこかにあった店とは全然違うものを作らなければいけないので、自分たちがそことどう違うのかを理解して、新しい料理屋を作る…という感覚が常に必要だなと感じています。
岡田@タクシー
あ、そうですね。田中さんがおっしゃったことにヒントがあって、隣にずっとある“老舗”を分析することも大事だなと気づかされました。
私にとっての “老舗”は、何年も続いているレギュラー番組である「ドキュメント72時間」なんですけど、それとどう違うのか、自分の番組の個性は何なのか、ということを突き詰めないと“72時間もどき”みたいになってしまう…という懸念はずっとありましたね。
“その船がどこへ向かうのか” を共有
高橋@モンジュ
今回の開発では「今までにない演出」を強く求められていたので、大河ドラマやコント番組など、普段は全く違う番組作りをしているスタッフとの混成チームを組みました。
会議でいろんなアイデアが出てくるのはすごく刺激的だったんですけど、その意見を収れんさせていくのがなかなか難しくて。…実は収録の1か月ぐらい前になっても方針が定まらなくて…この番組出るのかなみたいな苦しさはありましたね。
田中@地球アワー
チームでの番組作りという意味では、僕も迷うところがありました。
「いとしの地球アワー」も新しいチームを組んでの制作だったんですが、新しいメンバーで新たなテーマや演出を考えるとなると、誰が中心になるのか、何のためにやるのかということの共有が難しくて。
お互いに“見合ってしまう”ようなところがあって、探りながらやっていくのは難しかったです。
岡田@タクシー
もし、今後この番組がシリーズ化されたら、「立ち上げ時の思い」を新しいメンバーとどう共有するかについて悩みそうです。
一つの番組が船だとすると、開発番組って定期船じゃないじゃないですか。だからこそその船がどこに向かっているのかがわからないと、誰もそこに飛び込んできてくれない。
もしかしたら「0→1」だけでなく、「1を継続する」ことのほうが難しいのではと感じていて、これからはそこを頑張らないとと思っていますし、それがうまくいった番組が何年経っても「いい番組」になるんでしょうね。
それでもやっぱり、新番組開発はおもしろい!
高橋@モンジュ
NHKって、専門性を突き詰めてストイックに取材してきた人たちがいっぱいいる一方で、横のつながりが薄いんですよね。
今回、いろいろな部署の人たちに揉まれて、自分自身もタテワリの中で見せ方や演出の幅が狭まっていたんだなと改めて感じましたね。自分の型を破っていかなきゃと学びました。
岡田@タクシー
コロナという大変な時代の中で、何ができるのか考え抜いて生まれた撮影手法です。取材もロケも非接触なので、地方やいずれは海外でも制作できるといいなと思っています。
田中@地球アワー
開発番組って、参考にできるものが何もないじゃないですか。ゴール地点が見えないので、どの方向に向かうのかを共有するためにも、核になる思いを確認しながらやっていくことが大事だと感じました。
話を聞いたのは、オンエアまでほぼ10日という、まさに制作の真っ只中。
果たして、それぞれの思いは形になって届くのか?
よろしければご覧ください。