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取材ノート担当者が語ります「オストメイト」の記事を実現させたディレクターの熱量とは

編集者 足立義則 :
浜さん…「オストメイト」の記事、「好き」が240ついてますねー。制作に時間はかかりましたけど(笑)かなり読んでもらってますね。この「NHK取材ノート」でもヒット記事ですよ。

編集者 浜由布子 :
そうですね!わたしも初めて編集担当した記事なのでうれしいです~。

※この記事はふだんの「NHK取材ノート」記事とはちょっと違う、わたしたち「ノート編集部」の記者やデスクが、担当した記事のエピソードや裏話などをあれこれ話すという、編集後記です。
足立は取材ノートの立ち上げメンバーで、浜はことしの異動で新しく編集部に入って、今回初めて編集を担当したのが、「オストメイト」についての記事でした。

足立:
病気や障害によって排泄ができなくなって、おなかに人工肛門や人工ぼうこうを作った人たち、「オストメイト」について取材し、番組をつくったディレクターの宮崎さんが、それだけで終わらずに取材で知り合った人たちとオストメイトをめぐる課題を解決するための「課外活動」を始めたという…最初にノート記事のお話がきたのっていつでしたっけ?

浜:
昔すぎてはっきり覚えてないんですが…去年だったような気がします。

足立:
去年!
最初はあちら(宮崎ディレクター)から相談が来たんですか?

浜:
そうです。調べてみたら、初めてメールをもらったのが2021年の10月でした。
彼女がこの特集記事を書いたのが去年の3月でしたから、

そこから半年ちょっと後ってことですね。
もともとは「この記事や番組から派生して外で『部活動』を始めたんですが、何かできませんか?」という相談が来たんでした。
その初めてのメールが、「はじめまして!」以下3000文字弱あったという。

※「NHK取材ノート」の記事は、書きたい記者やディレクターなどから編集部に提案が来る場合と、編集部のほうから「あの取材をした記者に書いてもらいたい」と持ちかける場合とがあります。

浜:
かなりの長文メールでした。いろいろ考えて…こういうことがあって…こんなふうにできたらいいな…ということが盛り盛りと書かれてました。

足立:
すごい熱量ですね。

浜:
熱かったですね。
ただ「デコパウチコレクションを開催する予定なんだけれど、それを広く知ってもらうためにはどうしたらいいか?」とか、いろんな相談があったので、ちょっと整理が必要かなと思いました。それで宮崎さんに会いにいきました。

足立:
対面したと。

浜:
会って、「オストメイトの番組や企画を作って、どんなことを考えたの?」「どんな反応があってどうだった?」とか「いまいちばん伝えたいことってどんなこと?」とか、いろいろ聞きました。
話を聞いていちばん核になるだろうなと感じたのは、やっぱり4歳のオストメイトの女の子と出会って、この子の未来のために何かできることがないのか、と宮崎さんが思ったところです。
それで記事の方向性が見えてきて、「こういう記事になったらいいね」とお互い確認しました。それが去年の11月でした。

ディレクターって、基本的に担当番組にどんどん企画を出していく仕事なんですね。
続編を作りたいと考えるディレクターは数多くいるんですが、
「それ前に一回やっているよね」
「新しいことはあるの?」
とデスク(上司)に言われたり。同じテーマでずっと放送を出し続けていくのはなかなか難しいんです。

足立:
私は記者ですが、「見た感がある」とか、「民放でやっていたね」などよく言われました。

浜:
そうなんですよね。
当事者の方にとっては番組が出て終わりではまったくなくて、ずっと人生は続いていきます。
でもディレクターは次々と新しい企画を作り続けなくてはならないですし、視聴者の方がいま知りたいこと、関心が高いことに即応して、あらゆるジャンルをカバーすることも大切です。

ひとつ番組を作って「お世話になりました、ありがとうございました」で終わってはいけないことだと思っていても、なかなか、仕事で継続的に関わり続けるすべがないというか…。
宮崎さんは、企画とか放送とかを越えて1歩を踏み出したところがすごいと思いました。

それで、じゃあ「第一稿を書いてみよう」ってことになったんですが…

足立:
が…

浜:
宮崎さんの通常のディレクター業務が忙しくなっちゃって。でもなんとか仕事の合間をみつけて書いてくれました。

「まだ全然整理できていないのですが、どの要素をふくらませたらいいかとか、アドバイスください」って書いてきたのが、約6000字の第一稿でした。

それがなかなか、中学生が夜中に書いたラブレターのような。ピュアな思いがほとばしりすぎて逆に意味分からなくなったみたいな感じで。

※通常のネットの記事は2000~4000字くらいが読みやすいとされています。noteの記事は長文も多く、「NHK取材ノート」も、1万字近い記事もあります。

足立:
その第一稿、読みたいですね…
斎藤基樹デスクの「幻のチョウ探訪記」の記事も、最初から1万字超えでしたからね。


浜:
これです(最初の原稿を見せる)

「“不義理”が閾値を超えた」とか表現がすごく面白かったんですけれども。ただオストメイトの企画や番組を見ていない人には、若干、ちょっと前提が分かりづらいかなと思って。すこし整理をしたらもっと良くなるだろうなと思いました。

足立:
すごい表現ですね。サブタイトルにしてみます。

「“不義理”が閾値を超えた」


で、最初の原稿、読みました。私は「ですます」を「だ」にしたらもっと勢い出るかなというくらいで、意外とあまり直さなくてもいいかなと。

浜:
そうか、じゃあもっと早く出せたかもです(宮崎さんごめん…)

こことここを入れ替えてみましょうか、ここはこういう感じで…という打ち返しをメールでして、それで第2稿は少しシンプルに「自分がいちばん言いたかったこと」に即して書いてみようかということになりました。でもしばらく宮崎さんが別の番組ですごく忙しくなってしまいまして。

・・・すいません、夕飯の準備に取りかかります。きょうのメニューは唐揚げなので鶏肉に衣をまぶしたいと思います。

足立:
わたしはカレーを作ります。

※足立と浜の2人はチャットでやりとりしてました。

--------------(翌日)-----------------

浜:
それで年末までちょいちょい進捗状況などを連絡とりあっていたのですが、「メリークリスマス!」と言ったきり連絡がお互い途絶えてしまって。

3月に宮崎さんが「ザ・ヒューマン」という番組を放送することになっていたので。50分のドキュメンタリー番組で、オストメイトとはまた全然違うテーマの番組でした。

足立:
それはしかたないですよね。

浜:
宮崎さんはなんでも全力投球するタイプなので、連絡がないということは番組が忙しいんだろうな…と思っているうちにあっという間に月日が流れ、気がつけば新学期になっていました。
で、番組の後は休んでるだろうな…でもそろそろ進捗聞いちゃおうかな?とか思っているうちに大型連休も過ぎ。

足立:
まあでも期間をおいたからよかったってのも、あるんじゃないですかね。そのあと、どちらから声をかけたんですか?

浜:
宮崎さんから~

足立:
おお。

浜:
もしかしたら「もう書くのが面倒」と思ってるのかもしれないな…と思ってこちらから連絡するのを遠慮していたところがあって。もしわたしが「原稿どうなっていますか?」と聞いたら、嫌でも「遅れていてすいません」「これからやります」とか言わないといけないじゃないですか。

足立:
そうですね

浜:
そうすると、もしかして「仕事がいろいろありすぎて、ちょっといったん考え直したい」って思っている人の退路を断つかなと思って。
きっといつか書いてくれるはず!だから待っていようと思って、とにかく待っていたんです。そしたら、ある日来たんですよ。

第2稿が!


6月になっていました。

足立:
そのときの浜さんのうれしさを想像したらちょっと目から心の汗が。
第2稿はだいぶ整理されてましたか。

浜:
うれしかったですねぇ。はい、原稿は見違えるほどスッキリしていました。完成形がうっすら見える感じでした

足立:
でもまだ「うっすら」…けっこうハードル高いですよね。

浜:
欲が深くてすいません…。

足立:
そういえばすごくニコニコしながら目が笑ってないデスクはけっこういました。

浜:
画像を入れたりとか、細かいところを調整すればさらに分かりやすくなると思いました。
わたし自身が宮崎さんに初めて話を聞いたときに、「この子えらいなぁ」と心を動かされました。その時に感じた宮崎さんの勇気や熱意を、読者のみなさんに伝えたいという思いがあって。
「ここはこういう書き方にしてみようか」とご相談しました。でも6月からは、軽微な調整しかしていないですね。

足立:
宮崎さんの熱に浜さんも動かされた。

浜:
私も、宮崎さんと同じ報道系のディレクターで、同じ悩みを持っていましたから。
「番組出したりニュース企画作ったりしても、社会の役に立ててないかも」とか、一度放送で紹介したらフェードアウト、みたいな関係性に心が疲れていたというか。

足立:
どうしても次の仕事に追われていきますからね。

浜:
そうですね。私も日々の仕事に追われて、あんまり深く考えないようにしようと、自分の心に蓋をしていたところがあります。

足立:
今はさらに、現場の記者やディレクターは、「放送を出しただけじゃだめ」という思いは強いでしょうね。

浜:
私がNHKに入った当時を振り返って見ると、昔はテレビってかなり影響力ありましたよね。次の日に学校や職場で話題になるとか。

足立:
メディアの環境が変わってテレビの影響力が落ちていても、その頃の考え方=「常に新しいものを出し続けなければならない」「鮮度が命」というのは今も残っていて、それだと、キャンペーンをしようとしても「続かない」。どうしても「前やったよね」となってしまう。

浜:
いまはテレビは影響力が落ちていて、テレビを全く見なくなっている人もいます。
放送を出しただけでは、伝えたい人に伝えたいことは届けられないし、ディレクターの方から、いろんなチャンネルを使って、世の中に関わっていくことが大事なんだろうなと思います。

足立:
取材者が当事者としての活動にも踏み込んだ、という例で取材ノートには、以前もこんな記事がありました。これからも広がっていくかもですね。

浜:
小児がん医療について取材してこられた山崎さんの記事ですね。

時代が変わっていくなかで、私たち記者やディレクターの働き方やありようも変わっていくべきかな、なんて思います。
どんな姿を目指していくかが見えてるわけじゃないですけど、その時に軸となるのって、「このままではいけない」とか「何か役に立ちたい」っていう取材者のピュアな熱意なんじゃないですかね。

※宮崎ディレクターへのメッセージや取材ノートへのご意見、ご感想などをお待ちしています!


足立義則:

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NHKでニュースのデジタル部門担当です。
最近作ったのは「TAROMAN AR」、
いつもはサイト制作やVR/AR開発、SNS担、
note、たまにニュースデスク、ラジオ出演。
学生時代は水球選手で古いカメラと古い車(ミニ)と電柱好き。

浜 由布子:

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テレビのディレクターからデジタル展開のプロデューサーになりました
得意料理は餃子です


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