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2.或る売れない男について

 2023/04/03という日は皆さんにとってどのような一日でしたでしょうか。

 私の同期にとってはここ山形大学での学生生活のスタートシグナルとなった門出の日でしょう。桜色の暗転幕が降り、人生の新機軸となった清々しい何気ない春の一日、私にはもう一つの面を持つ一日でした。それは三浦隆一の命日であるということです。三浦隆一は日本のバンド「空想委員会」のフロントマンです。「いや誰だよ。」そう思われる方が殆どでしょう。如何せん私の生涯19年において知っていると言った方に出会ったことがほとんど無いマイナーバンドです。この先も出会うビジョンはないでしょう。私が齢11の時、物見遊山な気分で音楽サイトを物色した中偶々このバンドに出会いました。その当時の私にとってはそのバンドは容れ物も中身もかなり好きだなという心象を抱きなんだかんだで全てのアルバム・EPを聴く程ハマりました。「この音楽に共感してしまったら恋愛において負け組です。」このスタンスでやってきた彼らは通行人「R」の如く中々陽を見ることなく、私も次第に聴く機会が無くなってゆきました。そんな彼らは活動休止を経て2021年冬に再び動き出したと一報のち訃報。大腸癌によって41歳でこの世を去りました。

 「死」という概念に対して皆さんはどのような感覚を持ちますか。そんなこと全く空想できないですよね、私も今まで親戚などで死に対面する場面はありましたが、スイッチのように明確なもののようで蜃気楼に縋るようなぼんやりさを感じます。要は良く分からないんです。でもいつかその瞬間は自分にも絶対来るという何とも不思議な永遠の不在証明です。私は彼の訃報を目にした時に、あまり聴かなくなったとは言えもう彼の新しいミュージックを聴くことは無いのだと意識しました。全か無かの法則の通りに強く感じ取ったのであります。それと同時に、彼は無名ながらも音楽によって彼が何者であったかをこの世に遺しているのだと考えるようになりました。俗に言う生きた証。世の芸術家はあらゆる分野でそれを我々に提示します。それを作る間、彼等にとってはエンペラータイムなのです。では自分はどうなのでしょうか?私は決して厭世観や希死観念が強いわけではないのですが、この世を去った時に何が自分として残るのだろうと時々考えることがあります。忙殺していく日々の中でそんな我執はまがいものだと知りつつも自演被害を続けています。


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