本日(2024/5/28)、政府から正式に「AI時代の知的財産権検討会・中間とりまとめ」が発表されました。AIと著作権を含む、知財権全般とAIに関する考え方について、よくまとめられています。
kantei.go.jp/jp/singi/titek
これを読めば「生成AIの動向や技術の概要」から、現時点での知財とAIとの関係に関する「政府の考え方」まで分かるので、ぜひ一度読んで頂きたいのですが、今回私の方では、
(1)何とか「作風」や「労力」を保護できないか
(2)声優の「声」を保護できないか
という2点について、特に抜き出して解説いたします。
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(1)
まず「作風」や「労力」それ自体は、著作権法や不正競争防止法では保護されないものの、「ヨミウリ・オンライン(YOL)事件」という、一般不法行為責任として「労力」を保護したとも評価できる裁判例が紹介されています。(p.53)
(※YOLの見出しや記事を、特に労力を要することもなくデッドコピーして使ったライントピックスサービスについて、それは社会的に許容される限度を越えたものであって、不法行為を構成するものというべきだ、という判決。) ip.courts.go.jp/app/files/hanr
つまり、知的財産法では保護されなくても、なお「法的保護に値する利益」が違法に侵害されたと評価できる場合には、不法行為責任を問うことができるわけです。これは「作風」であっても同様だと述べられています。
そして当然、ある特定の漫画家などクリエイターの「絵柄」に特化したLoRAをネット上で公開して、作者に嫌がらせをする、挑発をするといった悪質な事例については、5/13の国会答弁の通り、
・既存のクリエイターの作品と創作的表現が共通する生成物を、生成AIによって出力させることを目的とした追加的な学習を行うために、当該作品の複製を行うような場合は、享受目的が併存すると考えられるので、著作権法第30条の4は適用されず、他のいずれの権利制限規定も適用されない場合、著作権者の許諾が必要となる。
ということになります。
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(2)
次に、「声」の保護については、パブリシティ権による保護が考えられます。
パブリシティ権とは、芸能人など、ある人の名前や肖像などが「顧客を惹きつけて商売できる価値がある」場合、そういった価値を排他的に利用する権利をいい、判例で認められています。そして、名前や肖像のほか「声」についても、パブリシティ権が及ぶ場合があると考えられています。(ただし、前述した「作風」や「労力」は、当然パブリシティ権が及びません。)
また、人の社会的評価を下げるような態様で他人の外見や声を使って「無断でディープフェイクを拡散するような行為」は、名誉毀損罪にもなりえます。
(1)と(2)で、法律による保護が難しい場合でも、契約や技術を活用して解決を図り、クリエイターの創作意欲が削がれないようにしていくことが大切だと述べられています。クリエイター側も、時には自分から「契約や技術を活用した方策」で対抗することを模索すべきです。(黙っていても守られないので)
itmedia.co.jp/news/articles/
まとめると、
・著作権法など知的財産法で「作風」や「労力」それ自体を保護することは困難である。
・しかし「労力」を法的に保護したとも評価できる裁判例がある。
・「声」の保護については、パブリシティ権による保護が考えられる。
・法律による保護が難しい場合でも、契約や技術を活用して解決を図ることが重要である。
という内容になります。
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漫画家/参議院議員。代表作に『ラブひな』『魔法先生ネギま!』『UQ HOLDER!』など。海城高校・中央大学卒。日本漫画家協会常務理事。マンガ図書館ZやGANMOを運営。表現の自由を守る会最高顧問。
★赤松健の国会にっき min.togetter.com/VzKLnrb
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