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満月の夜、会えなかったX脚おじさん

日課にしている夕暮れウォーキングの道で、いつも必ず会うおじさんがいる。

白いワイシャツに、お尻のあたりが食い込むぐらいにぴったりした黒のスラックス。

ワイシャツの胸元は開いていてネクタイもないけど、たぶんこの格好で仕事してるんだろうなと思われる。

部屋着のままちょっと運動に出てきました、という体の人(高齢者)たちが圧倒的に多いご近所ロードで、その格好はけっこう異彩を放っている。

歳は還暦はすぎてるかなって感じ。

スニーカーを履いてるし、スラックスの後ろポケットには手拭いのようなものがぶら下がっているので、家に一旦帰ったのかもだけど。

運動着?そんなもの必要ない。仕事の終わった勢いのまま運動するのが効率的ってもんだろう、帰ったら美味いビール飲むだけだ、というような男気というか気概が、とにかく歩き方からみなぎってる人なのだ。


最初にこの人を見たのは、コロナ騒動が始まったあたりだった。

コロナ以前からこの道でウォーキングしてる者からしたら、いわゆる新参者なこのおじさん。

遠くから近づいてくるときから、普段見かけないこの人に嫌な予感はしていた。

普通、お互いの距離をはかりながら、ちょうど上手くすれ違うのが、我ら川べりウォーキング族の暗黙のルールだったのに。

このおじさんときたら。

絶対に道をゆずらない。

大手を振って歩くとはこうだ、と見本を見せるかのような大仰なフォーム。

四角い顔には、大胆不敵にもマスクなし!

視線は揺らぐことなくまっすぐ前を向き、あらわになってる口元はぐっと引き締まり、口角は不機嫌そうに下がり切っている。

そして、なんといってもその見事なX脚。

蹴り出される脚は、それぞれいちいち外を向き、まるで足元に子犬が群がるのを蹴散らしてるかのように乱暴なのだ。

おじさんには、我が道をゆく、の我が道が、この歩道にもまっすぐ1本通ってて、向かいから来る私のことなど見えてないんだろう。

川べりの道はくるくると周遊する形になっているので、おじさんとは何度かすれ違うことになるのだが、その度に私は早くからおじさんを避ける準備をしなければならず、おじさんからはそんな私への感謝の会釈が。。あるはずもなく。

正直、私は「おじさん、見たくないんですけど」と苦々しい思いでいた。

そういや、今までもみんなこんなだったなーと、馬が合わなかったX脚のおじさんを何人か思い出した。

私がこれまでの人生で出会ったX脚のおじさんは、態度はでかいのに気は小さい。そして頑固者。

権力や体制に弱くて、いったんプライドを傷つけられると、勇退に見せかけて逃げ出す。

仕事で出会ったあのおじさんも、趣味で知り合ったあのおじさんも。

そして最近ではアメリカンドラマ「デッドマンウォーキング」に出てくるモーガンも!!

X脚の見本のような体型で、信念をテコでも曲げない。登場人物の中で一番イライラするタイプだったっけ。

X脚やO脚と性格の相関性ってあるのかわからないけど、私がX脚のおじさんと相性が悪いのは確かなようだ。


ところで、昨日は満月だった。

夕焼け空から、満月へと主役がうつり変わる美しい時間。

ずっと上を向いてお月さまを追いかけながら歩いていた。

そしてふと気づいた。

あれ? 今日X脚おじさん、いない。


小雨が降っても、私たち休まずに歩いてたじゃない、なんで今日に限って。

こんなに美しい満月なのに、もったいない。

やっぱり、X脚おじさんは、いろんな意味で分かってない。

もしX脚おじさんが、同じように満月を見上げて歩いてたなら、ちょっと好きになれたかもしれないのになあ。


まあ、おじさんにとっては、こんなおばさん1人に好かれようが嫌われようが、どうでもいいと思うけどー。







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気づけば人生折り返しをとうに過ぎ。。。 今はバレエに青春を捧げてます。
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