806 クマさん、マーネさんと話す その3
マーネさんが成長していない理由は分かった。
「母は自分の研究する合間に、わたしが成長するための研究をしてくれた。でも、わたしも大人、自分のことは自分ですると言って、成長する研究をすることにしたの。それから、母と一緒に研究をしたわ。でも、限界がある。個人で研究するより、魔法省で働くほうが、研究が進むと思ったの」
「魔法省は莫大な資料があるわ。研究するなら適した場所ね」
「ええ、貴重な資料から、研究者の資料の閲覧もできるし。なにより、お給金がいいしね」
人は働かないと生きていけない。
お金を稼いで、食べ物を購入するか、自給自足するしかない。
自給自足しながら研究するのは大変なことだ。なら、得意分野で働いて、お金を稼いだほうがいい。しかも、貴重な資料の閲覧ができるなら、魔法省で働くのは一番いいかもしれない。
なにより個人で情報や資料を集めるより、国の専門機関で働いたほうが集まる。
「ちなみに、魔法省で働くのって、それなりに優秀じゃないと入れないのよ」
確かに、魔法省って聞くと、優秀な人の集まりってイメージだ。
さっきの色が変わるインクだって、簡単に作れる物ではなことぐらい、わたしでも分かる。
「まあ、幼いときから母の研究を見て、育ったからね。試験ぐらい簡単だったわ」
一種の英才教育ってことだね。
「……お母さんは?」
少し気になったので尋ねる。
「亡くなったわ」
「ごめん」
「別にいいわよ。もう、昔のことだし。思い出して、泣くような歳じゃないわ。ちなみに父は、生きているか死んでいるかは知らないわ。もう、十年以上はあっていない。まあ、別に父親が恋しく思う歳ではないし、生きていれば、そのうち会えるでしょう」
淡白な考えだ。
見た目は子供でも、中身はちゃんと大人みたいだ。
「魔法省に入ってからも、実力を付け、国に貢献してきたマーネ様は、魔法省では高い地位にいるのよ」
「人より長く生きているだけよ」
それでも凄いことだ。
何年経っても進まない研究はある。
それは時代を超えて、何代も引き継がれることもある。
どの分野でも、貢献できるってことは凄いことだ。
「まあ、魔法省に入ったわたしは、国に役に立つものを研究しながら、自分が成長する薬を研究しているのよ」
マーネさんが魔法省に入った理由は分かった。
「それで、その成長する研究って進んでいるの?」
「母が残してくれた研究と、自分の研究、過去の研究家たちの資料を照り合わせて、いろいろと試作品を作って、確かめているけど、このとおりよ」
マーネさんは自分を見るような仕草をする。
成功していれば、成長しているってことだ。
「わたしは、別の今のままでもいいと思うんだけど」
エレローラさんはマーネさんを見る。
「まあ、当時のわたしは気にしてなかったんだけど、子供の姿だと仕事もできないし、年下から子供扱いされるし、どこに行っても子供扱い、買い物をすれば、お使いだと褒められるのよ」
確かにそれは辛い。
「仕事なら、このまま魔法省で働けば問題ないと思いますが」
「いつかは、自分の足で世界中を回って、見たことも聞いたことがない植物を探すのが、わたしの夢なのよ」
それには子供の姿では不便なのは間違いない。
どこに行っても子供扱いされ、場所によっては、子供では行けない場所や入れない場所もある。
「それに子供の見た目じゃオークション会場に入れないし、いくらわたしが大人だと言っても聞いてくれないし」
「わたしが一緒に付き合ってあげましたでしょう」
エレローラさんが宥める。
「オークションなんてあるんだ」
「ええ、商業ギルドが主催することが多いわね」
「たまに珍しいものが出されるときがあるから、参加するのよ」
わたしも参加してみたいな。
漫画とかで番号札を上げたり、手を挙げたり、訳が分からない指サインをしたりするシーンを見る。
一度はやってみたい。
でも、クマの格好で参加したら目立つよね。
「それにエレローラの子供なんて、わたしより小さかったのに、今じゃ、わたしよりも大きいし、嫌になるわよ」
「シアとノアを知っているの?」
「下のノアールには小さい頃に会ったきりだけど。シアには学園で会っているわよ」
「マーネ様は学園で教鞭することがあるのよ」
「仕事の一つよ」
それじゃ、シアもマーネさんが小さいことを知っていたんだよね。
「でも、どの子も、わたしより大きく、わたしのことを子供扱いするのよ。だから、子供扱いした生徒には、減点するようにしたわ」
「横暴だ」
「わたしを子供扱いする生徒たちが悪いのよ」
だから、シアはマーネさんのことを年寄りって言っていたのかな?
「それで、その森深くにある素材が手に入れば、成長することができるの?」
マーネさんは首を横に振る。
「それは分からないわ。ただ、成長を促進させる効果があるとしか言えない」
「そうなんだ」
「研究とは可能性の一つ一つを確かめて、地道に進んでいくものよ。答えが分からないから、研究するのよ。答えが分かっていたら、誰も研究はしない。生きている間に、自分が望むものが作れないかもしれない。でも、それは後に続く者がいるわ。この部屋にある本。中途半端な研究も成果も多くある。それをわたしが引き継ぎ、さらに良いものを作り出している」
研究にゴールはないってことなのかもしれない。
ゴールがあったとしても、ゴールの先も道が続いている。
たとえ成功したとしても、それは最終目的地はない。
研究には、さらに良い物を作るとしたら先がある。
回復薬だって、低級から、最上級といろいろとある。ゴール地点は不老不死の薬かもしれない。
「とにかく、手に入れないことには始まらないわ」
前向きな考えだ。
とりあえずは一歩でも前に踏み出すことが大切だ。
「それで、わたしの護衛はしてくれるの?」
ここまで話を聞いて、断れない。
それに、見た目で苦労する気持ちは、わたしほど理解できる人はいない。
「うん、引き受けるよ」
「ありがとう。でも、一応、サーニャに、あなたの確認はさせてもらうわよ」
それは仕方ない。
簡単に、クマの着ぐるみを着た女の子に命を預けられない。
「それで早めに行きたいけど、あなたの予定は?」
「特にはないけど」
予定はない。
強いて言えば、ゴロゴロとのんびりするぐらいだ。
ただ、氷竜との戦いから、数日後に仕事をすることになるとは思いもしなかったけど。
「それじゃ、明日、出発しましょう。問題ない?」
「大丈夫だよ」
「待ち合わせは冒険者ギルドでいいかしら?」
待ち合わせの場所、時間も確認して、移動手段の話になる。
「移動手段だけど、くまゆるとくまきゅうに乗っていくから、馬や馬車は必要はないよ」
「あの子たちに?」
マーネさんは大人しくしているくまゆるとくまきゅうに目を向ける。
くまゆるとくまきゅうは任せて、って感じにわたしたちを見る。
「馬より速いし、魔物が近くにいれば教えてくれるから、安全に行くことはできるよ」
「凄いクマなのね」
マーネさんが褒めると、くまゆるとくまきゅうは嬉しそうに鳴く。
明日の予定も決まる。
「それじゃ、わたしはそろそろ仕事に行かないといけないけど。ユナちゃんはどうする? フローラ様に会って行く?」
どうしようかな。
マーネさんに研究の話を聞きたい。
研究している魔道具も見たい。
マーネさんを見ると、「えっと今日中にやらないといけないことは」「あれはしばらくは大丈夫だから」「あの報告書の確認して」「植物の世話を誰かに頼まないといけないわね」「あと休暇届も書いて」とか口にしている。
どうやら、気軽に魔道具や研究の話を聞けそうもない。
「フローラ様に会いに行くよ」
フローラ様にも会いたいしね。
「それじゃ一緒に行きましょう」
さっき、仕事に行くって言ったよね。
どうせ言っても、わたしの付き添いが仕事とか言いそうだ。
それに、ここ魔法省から、1人でフローラ様のところに行く方法が分からないので、黙っておく。
わたしはくまゆるとくまきゅうを送還し、仕事を始めるマーネさんと別れ、わたしとエレローラさんは乗ってきたエレベータに乗り、一階に戻り、受付でカードを返す。
「ユナちゃん、マーネ様の護衛を引き受けてくれてありがとうね」
「まあ、暇だったから、問題ないよ」
本当はしばらくのんびりしたかったのは本音だ。
でも、話を聞いたら、断れない。
見た目で苦労する気持ちは分かる。
だから、引き受けた。
終わってから、休めばいいことだ。
わたしたちは乗ってきた馬車に乗り、城の中を移動する。
ちゃんと舗装はされて、馬車は進む。
魔法省がある、こっち側に来たことがないから新鮮だ。
ちなみに、魔法省と反対側には騎士や兵士が練習するところがある。
「マーネさんって、魔法省に長いの?」
「わたしも詳しいことは知らないけど、わたしが学生のときにはいたわよ。それで、子供扱いしたら怒られたわ」
そうなんだ。
「学生時代にはお世話になったし、お城で働くようになっても、お世話になっているわ」
そして、クリフと結婚して、幼いときのノアとシアも知っている。
だから、マーネさんには丁寧なのかな。
今度、マーネさんにエレローラさんの学生時代の話を聞いてみたいね。
マーネさんはエレローラさんが学生時代からいたみたいです。
だから、丁寧口調だったみたいです。
【書籍】
書籍20.5巻 2024年5月2日発売しました。(次巻、21巻予定、作業中)
コミカライズ11巻 2023年12月1日に発売しました。
コミカライズ外伝 2巻 2024年3月5日発売しました。
文庫版10巻 2024年5月2日発売しました。(表紙のユナとサーニャのBIGアクリルスタンドプレゼントキャンペーン応募締め切り2024年8月20日、抽選で20名様にプレゼント)(次巻、11巻作業中)
※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。
一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。
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