pixivは2024年5月28日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴

縹 れお
嫉妬と狂 - 縹 れおの小説 - pixiv
嫉妬と狂 - 縹 れおの小説 - pixiv
1,985文字
嫉妬と狂
Twitterの企画
#同じ一文から始まるaocrをかいてください
に参加させていただいた作品です

両片思い
嫉妬深いアオキさんがいます。
チリちゃんも見方によっては狂ってるかも。
続きを読む
1519978
2023年7月24日 21:45


「結婚したんです」

 その言葉に思わず顔を上げて隣のデスクに座っている彼女に視線を移した。彼女は前を見つめたまま、手に持っていた缶コーヒーに口をつけ始める。その横顔は笑顔でもなくかといって悲しんでいる風でもなく。今思いついたことをふと言葉に出したというような、まさに昼休憩中にたわいも無い雑談をしている時のいつもの彼女である。しかしその内容はたわいも無いとは真逆な、自分にとってはあまりにも衝撃で重要すぎるもので。
「えっ?――それは、おめでとうございます」
 声が少し裏返ってしまったのが情けない。それに気がついたのか定かでは無いが、彼女はありがとうございますと口元に笑みを浮かべてみせた。
 おめでとう、なんて祝福の言葉、心にもなさ過ぎて自分で口に出しておきながら吐き気がする。その理由は、自分が彼女のことを好きだからに他ならない。年甲斐もなく何年もこの思いを燻らせて伝えられないままでいたせいで、「信頼できる同僚」からは一向に昇格できないでいた。だから彼女に恋人ができるなんて充分あり得ることだ。むしろ今まで何も無かったことが不思議なぐらい。なのにいざこうして本人の口から聞いてしまうと、醜ささえ覚える程の拒否反応が心の内を支配する。嫌だ。彼女が他の誰かのものになるなんて。しかも一っ飛びに結婚ときた。そりゃあ確かにただの同僚にいちいち彼氏ができたなんて報告はしないだろうが、事後報告とはいくら何でもあんまりではないか?
「優しい真面目な人なんです。責任感も強くて、どんなに忙しくても与えられた役割はしっかりこなすから頑張り過ぎるところが心配なんやけど」
「そう……ですか」
 彼女を奪った相手の話なんて正直聞きたくもなかったが、何でもない風を装って彼女の話に相槌を打つ。
「普段はあんまり喋らんくて、怖く見えるんやけど。ご飯食べる時とかポケモンの事話す時とか、凄い優しい顔で喋るんよね。そん時はすごく優しい顔してて、ちょっと幼く見えてそこがまた可愛いというか」
 彼女が喋りながら床を軽く蹴ると回転式の椅子はゆっくりと半回転して体が自分の方へ向く形になった。横顔の時よりよく見えるようになった彼女の双眸。ポケモンバトルをする時は冷静さの中にも静かな闘争心を燻らせているその瞳も、自分の知らない伴侶の事を語っている今は愛おしさを湛えている。こんなに柔らかい表情をするのか。こんな形で知りたくはなかったが。
「……よっぽど大好きなんですね、その方のこと」
「分かります?はっきり言われると照れるわあ」
 恥ずかしそうに笑う彼女。やっぱり綺麗だ、なんて思うのは未練がましいだろうか。でも心の中で勝手に思うのは許してほしい。
「……でもな、相手はチリちゃんのことどう思ってるか分からんねん」
「分からない?何で」
「絶対チリちゃんのこと好きやっていうのは伝わってくるんやけどなー、でもなかなか直接言ってくれんのよ」
「言わなければ、伝わっていないのと同じでしょう」
 だんだん腹が立ってきて自然と語気が荒くなる。彼女を手に入れておきながらこんな事を言わせるとは。
「アオキさんもそう思います?やっぱり言ってくれんと不安になるんですよね」
「それはそうでしょう。自分なら――――」
 言いかけた言葉を慌てて飲み込む。自分は今何を言おうとしていた?自分が伴侶なら彼女に思いを伝えると?馬鹿らしい。自分だって言えないからこんな状況になっているんじゃないか。彼女の相手と何ら変わりない、同じようなものだ。……同じ?
 黙り込んだ自分を見た彼女の口元が弧を描く。その笑みは先程のものとは明らかに違う。まるで何かを面白がっているような――。

「すみません、アオキさん。チリちゃん嘘つきました」
「……嘘?」
 彼女の言葉の意図が読めない。嘘?結婚が?何の為にそんな嘘を?
「正確には【した】んやなくて、これから結婚するんです」
 彼女はデスクの引き出しを開けると、1枚の紙を取り出した。自分の方へ差し出されたそれを受け取り、目線を落とす。

「婚姻届?」
 
 まだ自分が世話になったことは無いが一目見て何かが分かるそれには、既に必要事項が記入されている。これから、ということはこれを提出するのだろう。
(でもそれを何で自分にわざわざ――)
 疑問に思いながらも、相手の名前ぐらいは見てやろうという意地の悪い考えで氏名の欄を探す。

「――――え、」

 そこにあったのは自分の名前だった。何故?勿論書いた覚えはないし、そもそもこれは明らかに自分の字ではない。
 目に見えて狼狽えている自分の反応を面白そうに眺めていた彼女は、机に頬杖をつくと今まで聞いたこともないような甘ったるい声で自分に言うのだった。



「チリちゃんは、結婚するんです。アオキさんと♡」

 

 
 

嫉妬と狂
Twitterの企画
#同じ一文から始まるaocrをかいてください
に参加させていただいた作品です

両片思い
嫉妬深いアオキさんがいます。
チリちゃんも見方によっては狂ってるかも。
続きを読む
1519978
2023年7月24日 21:45
縹 れお
コメント
作者に感想を伝えてみよう

こちらもおすすめ


ディスカバリー

好きな小説と出会える小説総合サイト

pixivノベルの注目小説

  • 悪ノ大罪 master of the heavenly yard
    著者:悪ノP(mothy) イラスト:壱加
    『大罪の器』、『エヴィリオス世界』の全てが明らかになり世界は衝撃の展開を迎える!

関連百科事典記事