pixivは2024年5月28日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴

ばらん
月夜にはじまる - ばらんの小説 - pixiv
月夜にはじまる - ばらんの小説 - pixiv
6,383文字
月夜にはじまる
アオチリがお付き合いを始める話。
ほぼアオキさん一人称。

※注意※

二次創作です。
かっこいいアオキさんはいません。
コガネ弁ネイティブではありません。
(変換サイト様使用)

それでも大丈夫な方は、宜しければ。
続きを読む
1061272,630
2023年2月22日 10:33

ここは、チャンプルタウン。人々が眠りにつき始める頃。月明かりが照らす道を歩きながら、先行く影を追いかける。
歩き出して少し。ふと視線を感じて顔を上げた。




「なぁ、アオキさん。チリちゃんと付き合わへん?」




新緑のような髪を夜風に靡かせている彼女は、息を飲んでしまう程、綺麗に笑った。





時は遡り、17時頃。本日、ノー残業デー。
リーグでの仕事が終わり次第チャンプルタウンに戻り、宝食堂で満足するまで食べてから帰ろう。
ここ数日、残業が続いていた自分は、朝からそう決めていた。


周りの同僚達に適当に声をかけ、終業を知らせるチャイムが鳴り終わるよりも前に職場を出る。
人の波に乗って、玄関ホールを通り抜けた時。背後から、自分を呼ぶ声が聞こえた。


(相変わらず、彼女の声はよく通る。)


日頃、腹から声を出せやら、もっとはっきり喋りなさい、などと多方面から突かれる自分も、それには大変世話になっている。
晩餐へと急ぐ足を止め、声の主を出迎えるためにゆっくりと振り返った。




『待ってや、アオキさーん! この後、飲みいかん?』




そう言いながら、声の主であるチリさんが自分へと駆け寄ってくる。
歳の離れた同僚である自分と彼女。
いつからだろうか。2人で飲みに行く程度の仲になっていた。
断る理由もない。
これから宝食堂に行く予定だが、それでもいいかと確認をする。チリさんは、指でOKのサインを作って、それに答えた。


予め呼んでいた空飛ぶタクシーの運転手に、チャンプルタウンまで、と告げ2人で乗り込む。
どちらともなく、アレが食べたい、コレが食べたいと、談笑しながら店に向かった。


店に着き、案内されたテーブル席に腰を下ろす。メニューを片手に、端から端まで注文をする自分を見て



『相変わらず、ごっつい量頼むなぁ』



と笑う彼女。


運ばれてくる大量の料理や酒を飲み食いしながら、お互いの仕事の愚痴や、この間試験にきたチャレンジャーのこと。時間を忘れて語り合った。
閉店時間を告げる音に、一抹の寂しさのような物を感じつつも、会計を済ませ店を後にした。





自分はチリさんが好きだ。



最初は、軽率に若い女性と2人でご飯に行き、万が一、失礼なことでもしたら……と本気で思っていたので、食事の誘いを断り続けていた。
それでも、チリさんは自分を誘った。
物好きな人もいるもんだ、と他人事のように思っていた時期もある。
そんな状態が何ヶ月も続けば、次第に絆されて。健気だな、可愛いな、と思ってしまうのも無理もないだろう。


折れたら最後。その心地良さに足を掬われて。
深い深い沼の底に転がり落ちていくだけ。


好きだと自覚してからは、自分からも誘うことが増えた気がする。
同僚の誘いを無碍にする方が失礼だ、とか、仲のいい先輩と思われている、だなんて自分に都合のいい言い訳をして。
変わらない距離にいられることを、内心、喜んでいる自分に嫌気がさす。


アルコールではなく、チリさんにくらりと、酔いしれて。
シャツから覗く首筋、酒が入って蒸気する頬、勢いよく拭う口元、白い指先。
普段より何倍も無防備な彼女に、とっくに枯れたと思っていた欲が、呼び起こされたのは言うまでもない。


目の前の男が、自分に欲情している。


恋人でもない男からそう思われてると知ったら、恐怖以外の何物でもないだろう。気付かれてはならない。
涼しい顔をして彼女の隣に座る。
いつだってそうだった。





そして、今。





「アオキさん、話聞いとる?」




名前を呼ばれて、現実に戻ると、チリさんがカラカラと笑う。自分の相棒を思い出すような、柘榴色した瞳が覗き込んでいるのが見えた。




「………………すいません、驚いてまして」
「なはは!せやろなあ。チリちゃんも、今、めっちゃ驚いてる」





イタズラが成功した子供のような顔。
場違いにも、自分で言ったことなのに、言った本人が驚いているとはどういうことだ、と詰りたくなる。
チリさんは、急かすことも無く自分の言葉を待っていた。





ーーーー『チリちゃんと、付き合わへん?』




意中の相手からそう言われて、喜ばない男なんているのか。
そんな男はいないと思っているし、自分も、もれなく喜んでいる。



誘われたらノコノコついて行くぐらいに、一緒にいて居心地がいいと感じているし、チリさんと食べる飯はいつもより美味い。


仕事の面でも、自分のタスクはきっちりこなしつつ、周りを見ることも忘れない。細やかな気配りもできる人。
彼女がいる時の仕事は、普段は全くやる気の起きない自分も、頑張ろうと思える。



片やバトルになると、雰囲気がガラリと変わって。
その喉元に食らいついて、地べたに引きずり下ろしてやる、と言わんばかりの圧を感じるのだ。


ひりつく空気。砂塵舞うその先。
ぶつかり合う視線。


ーーー勝ちたい


シンプルにそう思わせてくれる。
チリさんも同じ気持ちだったら、なんて。柄にもなく考えて。
試合終了後に、相棒達に向けるその眼差しが、自分にも向けられたなら、と何度も、何度も思った。


街ゆけば、老若男女問わず彼女の人気は凄まじく、あちらこちらから声をかけられているのをよく見かける。その様子に、自分のモノでもないのに、汚い独占欲のようなモノが込み上げてくることも少なくない。

それだけでは飽き足らず、ファンでは見ることの出来ない、チリさんの顔を自分は知っているんだ、と仄暗い優越感だって頭をもたげていて。


彼女が言うのならなんだってしてあげたいと思う。
甘やかして甘やかして、ドロドロに溶かして。
誰にも盗られないよう腕の中に閉じ込めて。
怖いぐらいの執着心。
我ながら重たいと、自嘲した。


久しく忘れていたこの感情。


ーーーーチリさんに、恋をしている。



理解するのに、そう時間はかからなかった。




そうは言っても、世間は冷たいのだと自分は身をもって知っている。一回りも年下の女性に熱を上げてるなんて、どんな目で見られるか。
わからないほど馬鹿では無い。


ただの同僚。
これが全てだ。


それが、今の自分の当たり前。
恋人になりたいわけじゃない。彼女と過ごす時間を大切にしたいのだ。
燻る想いを伝えて、壊れて、なくなるぐらいなら。このままでいい。このままがいい。






( ……冷静になれ。)





年甲斐もなく浮かれている自分に言い聞かせる。
鞄の持ち手を強く握り直し、浮つく心に鞭を打った。


チリさんには幸せになって欲しい。
そう思うならば、手を伸ばしてはいけない。
こんな冴えないおじさんよりも、似合う人がいる。
彼女に好きの二文字さえ、伝える勇気もない自分では相応しくないのだ。
だから無理やり蓋をする。
時々それを開けて、甘やかでほろ苦い感傷に浸らせてもらえたら。独りよがりだがそれでいい。
平凡で並な自分には、叶わないぐらいがお似合いだ。


そんなことを考えて、ふと思いつく。
そうだ、意味が伝わってないフリをしよう。
お互いにいい大人だ。空気を読んで、初めから無かったことにできるだろう。
なんて最低で狡い人間なんだと思いながら、意を決して口を開いた。





「…………どちらまでお付き合いすれば、よろしいですか」
「なはははっ! なんや、そのセリフ、ひっさびさに聞いたわ!」




堰を切ったように、笑い出すチリさんに少し安堵する。笑いと共にこのまま、この空気をどこか遠くへ。そう思った。


それも束の間。


『あーおかし』


と、ひとしきり笑った後、チリさんが動く。
普段は黒いグローブに隠されている白い手が、スルリと自分の右手を取る。心臓がドクリと音を立てた。




「チリ、さ……」
「なぁ、誤魔化さんで」




意気地なしな男の無骨な手を、ゆっくりと持ち上げた。そして、あろうことか、そのまま頬を擦り寄せたのだ。
想像のチリさんより何倍も柔らかい頬や唇の感触に、背筋に甘い痺れが走る。




「アオキさん」
「……なんでしょうか」
「チリちゃん、本気やで」




さっきまで大笑いしていた人とは思えないぐらい真剣で。
向けられてみたいと、願ってしまった眼差しが自分を真っ直ぐに射抜いている。


あぁ、なんて綺麗なんだろうか。
抱きしめてしまいたい。
このまま、一思いに口付けて呼吸さえ奪ってしまえたら。


身体の中でグツグツと湧く衝動を、必死に理性を総動員させて押しとどめる。
そんな自分を見て、チリさんは妖艶に目を細めた。




「アオキさんが、何考えてそういうこと言ってるかぐらい、チリちゃんにもわかるわ」




わかっているなら、これ以上揺さぶらないでくれ。そう視線で訴える。
せっかく閉めた蓋から、今にも想いがこぼれてしまいそうだから。




「チリちゃんだって同じぐらい……いや、アオキさんよりもずーっと、アオキさんのこと見てたんやもん」
「そんなこと、あるはずがない」
「あるんやなぁ、それが……ふふっ、チリちゃん演技派さんやし? それに気がついてしもたら、アオキさん、鳥ポケモンみたくどっかに飛んでってまうやろ?」



否定できない。
黙り込む自分を見て、チリさんはクスクスと笑う。これではどちらが年上なのか。
なんだかいたたまれなくなり、逃げるように顔を逸らす。


チリさんはそれを許さなかった。自分の手を掴んでいたチリさんの手が、顔に伸びてくる。
抵抗できるはずだった。それなのに。
枷が外れた右手は、接着剤でも使ったのかと思うほど動かせない。


彼女の細い指が触れる。


捕まった。


もう逃げられないことを悟る。





「アオキさん、好きやで……ほんまに、ほんまに好き。アオキさんはチリちゃんのこと好き?」




手を伸ばしてはいけないと思っていた相手から、本当は欲しかった言葉が贈られる。



ーー嬉しい。


ーーいけない。


ーー自分も好きだ。


ーー早まるな。



頭の片隅で理性がアラートを鳴らす。
そんな葛藤を見抜くように、チリさんは言葉を続ける。




「チリちゃんはアオキさんの彼女になりたいんやけど、ダメ?」
「……自分では不相応です」
「チリちゃんはアオキさんが好き。アオキさんの彼女になりたい。ずっと一緒にいたい。それだけの、シンプルな話や。わかりやすいやろ?」



目の前の瞳の中に、喜びに打ち震えている自分が映る。
チリさんは愛おしいものを見るように目を細めた。



「チリちゃんにここまで言わせておいて、まだごねるんか?……いけずな人やなぁ」
「ごねてるわけでは……」
「チリちゃんのこと大好きで仕方ないって顔しとるくせに、めちゃめちゃごねとるやん。言っとくけど、チリちゃんに相応しいか相応しくないかなんて、チリちゃんが決めんねん。アオキさんやない。勘違いせんといて」




(完敗だ)




二人の間を通り抜ける風の冷たさが。
お互いの頬に添えられた、それぞれの手の熱さが。
これが現実なのだと訴えかけてくる。
あんなにうるさかった理性は、とっくに鳴りを潜めて。
チリさんの言うとおり、自分が納得出来ないからと、ごねていただけだったのかもしれないと思えてきた。




「自分、チリさんよりも一回り近くおじさんなんです。これといった個性も、面白みもない」
「チリちゃんはそんな、アオキさんがいっちゃん好き。アオキさんのええ所は、チリちゃんだけが知ってればええよ。バレたら減ってまうわ」




手を伸ばしてもいいだろうか。
誰でもない、自分がいいのだと、彼女が言ってくれるのならば。




「今更嫌だと言っても、逃がしてあげられませんよ。チリさんが知らないだけで、重たい男なんです」
「望むところや。アオキさんが嫌やー! って泣いても離してやらへんからな。だから、チリちゃんの知らないアオキさん、全部教えて?」
「ふっ……なんですか、それ」




もう、我慢の限界だった。
持っていた鞄を放り投げ、折れてしまうんじゃないかと思うほど細い身体を、腕の中に閉じ込める。


ずっと、抱きしめたかった。


チリさんの手が自分の腰に回って。
それに答えるように、もう一度強く抱きしめた。
チリさんからは、さっきまで飲んでいた酒の香りとフレグランスの甘い匂いがした。




「チリちゃんも同じ気持ちやから、安心して捕まえて、ってこと……それよりも、聞きたい言葉があるんやけど、言ってくれへんの?」
「……チリさん、好きです」




二人の距離が0になる瞬間。
その言葉は、チリさんの中に吸い込まれて消えた。


軽く触れて合わせているだけなのに、こんなに幸せなのか。 きっと、自分の顔はだらしなく緩んでいる。
でも、そんな自分がいいのだと、チリさんは言ってくれるのだろう。


ひとつ、ふたつ、みっつ。
重ねる度にどちらともなく、笑みがこぼれる。
離れがたくはあるが、最後にもうひとつだけ。少し長めのキスを落として身体を離した。





「意外と情熱的?」
「嫌ですか」
「ぜーんぜん。チリちゃん的にはむしろ、もっとしてくれてもええんやけど?」




照れくさそうにチリさんが言った。
それを見て、あぁ、好きだ、と再確認する。
もう蓋は閉められない。全部溢れてしまった。




「善処します」
「ほんまに?」
「……彼女からの、お願いなので」
「ひゃー! いざそう言われると、なんかますます照れてまうな。にひひ」






放り投げた鞄を持ち直し、チリさんの手を取り歩き出す。
深夜にも関わらず、盛大な告白劇を繰り広げてしまったが、さすがに帰らねばならない。
数時間後、朝日が登ればまた仕事に追われる日々が始まるのだ。





「チリちゃん、まだ帰りたくないんやけど」
「ダメです。帰りますよ」
「えぇ〜なんでや! こんなにドッカンドッカン盛り上がった後やで? アオキさんやって、チリちゃんともっと一緒に居たくないんか〜!」




チリさんが可愛らしいワガママをひとつ。
こっちだって、自分の巣に連れて帰ってしまいたい気持ちを必死に押し殺しているというのに。
せっかく実ったのだ。お望みならば、いくらでも。だがそれは今じゃない。
好物は最後に食べるタイプなのだ。





「そう思っているのが、チリさんだけだとお思いですか?しかし、残念ながら明日も仕事です。そういうことはまた、今度」
「おっ、自分、言ったなぁ? ちゃんと言質とったし、期待してるで! …………チリちゃん、愛されとるなぁ」




確信犯だ。わかっていて聞いている。
繋いだ手に力を込めた。





「不束者ですが、今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼んます。めちゃめちゃ可愛がったるから、覚悟しい?」
「望むところです」





月明かりが照らす道、ふたつの影がそっと寄り添い合う。
空で沢山の星が瞬いた。

月夜にはじまる
アオチリがお付き合いを始める話。
ほぼアオキさん一人称。

※注意※

二次創作です。
かっこいいアオキさんはいません。
コガネ弁ネイティブではありません。
(変換サイト様使用)

それでも大丈夫な方は、宜しければ。
続きを読む
1061272,630
2023年2月22日 10:33
ばらん
コメント
作者に感想を伝えてみよう

こちらもおすすめ

ディスカバリー

好きな小説と出会える小説総合サイト

pixivノベルの注目小説

関連百科事典記事