pixivは2024年5月28日付でプライバシーポリシーを改定しました。改訂履歴
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「自分には、言えなかった言葉があります」
男性が話し始めた。
その場にいた人たちが手を止めて注目する。
男性はその視線に構わず話し続ける。
自分は平凡な人生を送ってきました
小さい頃から大人しく、静かにご飯を食べているか本を読んでいるか、そんな子供でした
親からしたら手のかからない子供だったでしょう
静かすぎて部屋にいないと思われて捜索されたこともあります
ポケモンについて知ろうと思ったきっかけは割愛しますが、その頃からポケモンとご飯のことばかり考えていました
子供から少年になり、ポケモントレーナーとして旅をしました
その時の相棒は今も一緒にいるムクホークです
少年から青年になり、ポケモンリーグに就職しました
慣れない仕事をしながらポケモンと暮らす、そんな身の丈にあう平凡な人生だったのです
それがパルデアに来てから変わりました
始めは普通の営業職だったはずが
いつしかジムリーダーを兼務し
四天王も任命されてしまいました
気付けば平凡な人生から離れ、非凡サラリーマンと呼ばれるようになりました
そんな自分の人生に、眩い光が差し込みました
初めて見たときから心奪われていたと、今なら言えます
その光は、優しく、温かく、自分と自分の周りを照らしてくれました
このパルデアの地さえも照らしていました
バトルに勝利して、喜ぶ顔が素敵でした
バトルに負けて悔しげに、でも次は勝つという瞳が輝いていました
仕事が思うようにいかなくても、諦めずに努力する姿が堅実でした
照れた顔で嬉しかったことを話す声色に耳を傾けていました
ただ一人を見つめる熱い眼差しも、見ていました
…何もしない自分ではいけないと思いました
勝利は勝ち取らなければなりません
ポケモンバトルと同じです
今日まで言えなかった言葉を贈らせてください
愛していますチリさん
自分と結婚してください
壇上にいる、ウエディングドレスを着た女性を真っ直ぐに見つめる
女性…チリはポカンとした顔から一転、くしゃっと表情を歪ませる
「…なんやねん、それ」
席を立って、壇上から降りる
思うように足が進まず、ドレスを蹴りながら歩く
「チリちゃんもう花嫁やで!」
「すみません、でも、」
「ずっと言えなかったので」
チリが男性…アオキの目の前に立つ
「そやな、だって…」
「チリちゃんがプロポーズしてしまったもんな!」
堪忍やでアオキさん!とくしゃくしゃの笑顔で背中を叩く。
さっきまでの静かな空気から、フロアにいる人たち…結婚式の招待客から笑いが起きた。
今日はアオキとチリの結婚式だ。
急に始まった新郎のスピーチは、アオキからチリへのプロポーズだった。
「えぇ、なのでこの場をお借りしようかと思いました」
そう言うとスタッフから準備していた花束を受け取り、チリの目の前に跪いた。
「改めて言います、自分と結婚してください」
真っ直ぐにチリを見つめる。
「…はい!」
チリが花束を受け取ると、大きな拍手が巻き起こった。
二人が揃ってお辞儀をする。
「素敵な時間をありがとうございました。それではここで、新郎新婦にはお色直しをしていただきます」
司会の言葉を聞いて、アオキがチリをエスコートする。
二人が中座をすると招待客たちもあの出来事について話し始めた。
遡ること3ヶ月前、テーブルシティの中央にあるバトルコートにて衝撃的なことが起こった。
その日、パルデア四天王のチリが白いタキシードを着て立っていた。
手には赤いバラの花束を持って。
いつもの笑顔が封印され、キリッとした表情で前を見据えていた。
誰がどう見てもプロポーズします!と言わんばかりの格好だ。
真剣な眼差しで待っているチリに、誰も近付くことはなかった。
ただ遠巻きに、どんな人が来るんだろうとざわついていた。
しばらくして、一人の男性が近付いてきた。
スーツの姿のサラリーマンだ。
まさかチリの相手とは思わず、バトルコート関係の人だろうと周りの人達は思っていた。
チリと一人分離れた距離から何かを話しているようだが、声が小さすぎて周りには聞こえなかった
突然、チリが片膝をついて花束を差し出した
「チリちゃんと結婚しましょ!幸せにすんで!」
よく通る声が響き渡った。
ワンテンポ遅れて、周りから絶叫があがる。
まさか、そんな、信じられない、などの阿鼻叫喚の巷と化していた。
男性は静かに花束を受け取るとチリの手を引いて立ち上がらせる。
胸元からボールを出してムクホークを呼び出すと、そのままチリと共に背に乗って行ってしまった。
風に舞うバラの花びらが、さっきまで見ていたことが現実だったと教えてくれる。
残された人達はパニックのまま。
その日の夕方のニュースで、リーグからのお知らせが流れたのであった。
『四天王アオキ、チリより 結婚のご報告』
着替えながら二人もあの出来事について話していた。
「あの日は驚きましたよ、まさかプロポーズされるとは思いませんでしたから…」
「アオキさん全っ然プロポーズしてくれへんからな〜…待ちきれんかったわ」
チラチラとアオキを恨めしげな目で見る。
アオキは反論出来ないのか、素直に負けを認めることにした。
「それについては申し訳ないとしか…それにしても、あそこであんなことをする必要はあったんですか?」
「だってあぁすれば、世間の目はチリちゃんに釘付けやろ」
チリの人気は計り知れない。
ファンにアオキさんのことがバレたら…危ないだろうと交際を隠していた。
しかしさすがに結婚となればいずれバレてしまう。
どうせ騒がれるなら、大々的な印象付けるアクションをしてアオキではなくチリへ目を向けるようにしたのだ。
「チリちゃんのタキシード姿、好評だったやん」
あのチリが逆プロポーズしてまで結婚したいという気持ちがファンに伝わったのと、相手が女性でなければ今まで通り『みんなのチリちゃん』として応援できるそうだ。
ファンの考えることはよくわからないな、と内心思っているアオキだった。
「それより、この後の予定は変わるん?」
「いえ、予定通りですよ」
チリがパンツスタイルのドレスに着替えている間、一足先に着替え終わったアオキは控え室へ移動しておにぎりを食べ始めた。
静かに黙々と食す。
残り2つになったタイミングでチリが出てきた。
「お待たせ〜なんや、補給してたんかいな」
「チリさんもおひとつどうぞ、少しなら入りますよね」
「そやね」
二人で最後のおにぎりを食べる。
塩気が効いていて、海苔はしっとりしていた。
「ん〜美味しい!残りもきばってこうな!」
「全力でやりきりますよ」
二人の人生が重なって道が一つになる。
新しい道はどんな形になるのだろうか。
ーー皆様、大変長らくお待たせいたしました。装い新たな新郎新婦様を会場にお迎えしたいと思います。
さて、この後は皆さんお待ちかね、新郎新婦による1対1の熱いバトルをお楽しみいただきます。
それでは、お二人の入場です!大きな拍手でお迎えください!
aocrのお話
井島ちゃん(@ppt_omt )のセリフをお借りしました
許可はいただいています
※キャラの口調迷子
※なんなら性格も迷子
※捏造がひどい
※なんでも読める人はどうぞ