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オレンジペコ
すでに腹の中 - オレンジペコの小説 - pixiv
すでに腹の中 - オレンジペコの小説 - pixiv
6,934文字
すでに腹の中
季節外れオブ季節外れ
涼しい話が書きたかった

捏造過多

続きを書くとしたら、デロデロに甘やかすアオキがいる。
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2023年7月27日 07:48

「ぐっ!」
最小限になんとか抑え込んだ悲鳴はあの人に聞こえていないだろうか。
テツノドクガの攻撃が掠ってしまった。
毒でやられた右足からすぐさまじわじわと痺れが広がる。
テツノドクガの毒は人間にとって神経毒であり、人間の体内に入るとだんだんと痺れが広がって最悪死に至る。
彼には迷惑をかけられないし、さっさと処置したいところだがまずは場の制圧が先だろう。
「ドンファン!大丈夫や!そのままストーンエッジ!!」

幸いにもテツノドクガを素早く撃退できたが、チリは内心焦る。
彼が、アオキが、冷たい目でこちらを見ているからである。
「…すみません。先、行っといてください。」
ズボンの裾を捲り、患部を確認しながらそう言うと、彼はため息をついた。
「それは規約で許されていません。エリアゼロを警備巡回する際は非常事態を除いて、必ずツーマンセル以上で動くことが義務づけられています。…貴女もお分かりでしょうに。」
淡々と呆れ混じりに告げられる言葉に、やはり自分は足手纏いなのだと突き付けられた気がして目が熱くなる。
怪我をしたのは足なのになぜだか胸も痛くて、それを振り払うように急いで処置をした。

アオキはチリに対してだけ何故か冷たかった。
いや、それは元からではない。
最初は普通だったのだ。
しかし、いつしかアオキの態度がそっけなくなり、今では「チリはアオキに嫌われている」というのが周知の事実となってしまった。
他の女性社員であれば、重い荷物を持つのを手伝うのに、チリには手を貸してくれない。
それどころかあの冷たい目で、それくらいのことで何をしているのだと訴えかけているようなのだ。
また以前のような優しいアオキに戻って欲しかった。
チリはアオキのことが好きだから。


その日のエリアゼロのパトロールはチリの負傷を除いて順調に終えることができた。
「では、お疲れ様でした。」
「…お疲れ様です。」
オモダカに2人揃って報告を終えると、アオキは足早に去っていく。
まるでチリとはなるべく一緒に居たくないと言わんばかりである。
処置が早かったとはいえ、まだジクジクとした痛みと多少の痺れが残る足を引きずるようにチリも帰路へついた。


アオキに冷たくされるたびにチリの胸がジクジクと痛む。
好きな人にこれ以上嫌われたくないと思って、なるべく足手纏いにならないように立ち回るが、それがから回ってまた迷惑をかけてしまう。
その度に向けられる失望したような眼差しに、自己嫌悪で消えてしまいたくなった。

迷惑をかけるくらいならと、アオキとのペアを解消したいと考えるが、それも現実的ではない。
四天王としての業務はリーグに挑む挑戦者たちの壁として立ちはだかるだけでなく、エリアゼロや他のエリアの巡回、治安維持、凶悪ポケモンの捕獲などと様々である。
危険が伴う業務がほとんどなのでペアを組まされるのだが、やはりスケジュール的にもポケモンの相性的にもアオキと組むのが一番だとなるのだ。



次のアオキとの警備巡回業務はナッペ山とオージャの湖に挟まれた場所。
なんでも精神状態に異常をきたした複数のポケモンが暴走しているらしい。
チリとアオキに課された任務は二つ。
彼らの保護とその原因を突き止めること。
チリは黙って、なるべくアオキの視界に入らないように後ろを黙々とついて歩いた。

ナッペ山から吹き降ろされる冷たい風が肌が露出した部分を容赦なく打つ。
防寒具を着込んでいるのに寒くてたまらない。
かといってバクーダを出して歩くと周囲のポケモンが怯えるので暖を取る手段はポッケに入ったカイロのみだった。

さすが地面使いというか、偶然と言うか。
「アオキさん、ここに複数のポケモンの痕跡があります。」
アオキを呼び止めると、チリは痕跡を指差した。
「ナゲツケザルたちの足跡です。」
アオキもそれを確認し、「確かに。」と呟いた。
「しかし、これが暴走したポケモンのものという証拠はあるのですか?」
チリはバレないように深呼吸をした。
「…地面に食い込んでいるのは彼らの手の爪です。血がついています。ナゲツケザルは「投げつける」を得意にしているので手を大事にしています。だから…「わかりましたが、もう少し端的にお願いします。」…っすみません。」
アオキはチリの方に見向きもせずに淡々と話した。
「合格点ですが、まだまだです。周りの木の上らへんを見てください。彼らの爪痕がびっしりでしょう。そして木登りが得意なはずの彼らの毛があちこちの枝に引っかかっています。おそらく錯乱して身体をぶつけているのでしょう。…もっと周りを見てください。特に上を。」
「はい…。」
チリは項垂れる。
アオキはそれをチラリと見て呆れたように「下ばかり見ていてもみつかりませんよ。それにここからは彼らのテリトリーですから。」と言って足早に進んでいく。
チリも慌てて彼の背中を追いかけた。

なんとか錯乱状態のナゲツケザルたちを何体か捕獲する頃にはもう日が暮れていた。
それに吹雪いてきていたのでこれ以上の探索は危険だと判断したアオキが終了を告げる。
チリも異論はないので頷く。
彼らをリーグの調査機関に転送したのち、それぞれ帰路につくことになった。

しかし現実は小説より奇なり、というか無情というか、タクシーが雪による影響でストップしているのだという。
幸いチリの自宅はここから歩いて帰れなくもないが問題はアオキである。
いつもの仕事用カバンのみで明らかにきちんとした装備を持っていないだろう彼が野宿をすれば最悪凍死だ。
流石に気まずいとはいえ好きな人である。
吹雪の中置き去りにできるはずもなく…。
「こっからチリちゃ、…私の家までならギリ歩けなくもない距離ですが、家来ますか?」
引き攣った笑顔でそう言う他なかった。

意外にもアオキは「…では、すみませんがお邪魔します。」といつもの何を考えているのかわからない表情で承諾した。
驚いた。
まさか素直に応じるとは。
「じ、じゃあ、あの、こっちなんで着いてきてもらってもいいですか?」
暗くてよかったと心底思った。


40分ほど雪に足を取られそうになりながらも歩いてやっとのことついた我が家。
ハードな業務の後の癒しの空間になる予定だったが、チリの後ろを黙々とついてきている男によってその癒し空間は破壊される。
チリは若干挙動不審になりながら急な来客をもてなすべくバタバタと動いた。
まずはアオキの雪にぐっしょりと濡れた上着を受け取ってハンガーにかけ、薪ストーブに火を起こし、湯を沸かし…。
なんとなく忙しくしていると気まずい雰囲気もなんとかなる気がしてチリはとりあえず動いた。

細身でパルデアの女性の平均身長である独身女性の家に190あるかないかのああ見えてかなり体格のいい大男が着れる服はない。
風呂を薦める際にそう言うと、着替えはあるとのこと。
備えがよろしい。
客人が先に風呂に入るべき、いやいや女性が先にと押し問答があった末にチリが先に入浴することとなった。
が、当然だがゆっくりリラックスというわけにもいかず、暖まりきる前に上がる。
パタパタと髪の水気を取りながらアオキに「お風呂どうぞ。」と言うと、何故か彼は嫌なものでも見るかのように顔を顰めながら「ありがとうございます。」とボソボソ言うので、また少し傷ついた。

アオキが入浴している間、チリは髪を乾かした。
長い髪はなかなか乾いてくれない。
「そんなに見苦しかったやろか…。」
それとも、そんなに自分と一緒にいるのが嫌…?
小さな呟きはドライヤーの音に全部かき消された。

ドライヤーを終える頃にはアオキが風呂から上がってきた。
普段のかっちりした姿ではなく、髪を下ろしたスウェット姿だと数段若く、そしてかっこよく見えた。
その姿で、出会った頃のあの優しい小さな声と目でチリを見てくれたら…と乙女の脳内に淡い期待がよぎる。
しかし、そう都合の良いことがあるはずがないなんてチリが一番よくわかっていた。


おずおずと風呂上がりのアオキにおいしい水を渡して、ついでに夕食を食べるか聞いたところ、必要ないとのことだった。
よく食べる彼のことだ。
遠慮してるのだろうが、無理に勧めてこれ以上嫌われたくないので何もいえなかった。

人間はいいとして、ポケモンには食事を用意しなければならない。
流石のアオキもポケモンの食事は十分な量を用意していないとのことだったので、チリは自分が普段与えているメーカーのもので食べれるものがあるか聞いた。
「ありがとうございます。では、脂肪分が一番少ないものをいただけますか。」
「わかりました。」
彼のポケモンたちは比較的素早さを重視することが多いのでそうなるのだろう。
反対に、チリの愛する相棒たちは耐久性を重視しているのでイメージするならお相撲さんと少し似た食事だったりする。
ただ、彼らが体調を崩した時に食べやすい脂の少ないものを常にストックしていた。

量がわからないので、20キロの袋をえっちらおっちら半分引き摺るように持っていくと、アオキは手伝ってくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「いえ、私が頼んだので。」
アオキはポケモンたちに食事を与えた。

チリも相棒たちに食事を与えて、その後せがまれるまま外にリンゴを掘りに行く。
冬は雪がすごいので、雪の下に野菜やら果物を埋めておくとキンキンに冷えるのだった。
「さっむ…。」
リンゴをいくつか掘り出した頃には手が寒さで真っ赤だし、身体は冷え切っていたが、相棒たちの喜ぶ顔の前では些細なことである。

チリの自宅は人里離れた標高が町より高い位置にある。
元々金持ちの山小屋として使われていたのをチリが借りたのだ。
そのため設備等はいいが、冬はクソ寒いし、交通面で不便である。
しかし、それでも周りに人がいないというのはチリにとってかなり都合が良かったのである。

相棒たちにリンゴを剥いてやると、アオキのポケモンたちもソワソワとしだした。
チラリとアオキを見ると、「すみません。少し分けてもらってもいいですか。」と言うので、小さめに切って与えた。
黙々とりんごの皮を剥いていると、妙にアオキからの視線を感じるので、めちゃくちゃ緊張した。

「チリさんは、」
「は、はい。」
リンゴをあげ終えると、アオキが急に声をかけてきたので肩を跳ねさせた。
ナイフを持っていなくてよかった。

「何故このようなところに住んでるんですか?」
「ああ、不便っちゃ不便ですもんね。」
チリは苦笑いした。
「パルデアに来た最初の頃はちゃんと街中に住んでたんですけど。」
「はあ。」
「安全じゃなかったので。あと、相棒たちがのびのびできるところが良かったんです。」
「安全ではない…?」
アオキが不思議そうな顔をするので、チリは説明した。
「んと、ストーカーとか下着ドロとか…。」
「ああ…。すみません、嫌なことを聞いてしまって。」
納得したようで何よりである。

それっきり会話が途絶えて気まずくなったので、チリはアオキをベッドルームに案内した。
好きな人(嫌われているが)を、特に男性を自分の寝室に案内するのはひどく緊張する。
「えっと、ここ好きに使ってください。お手洗いは出て右です。」
アオキは怪訝そうな顔をした。
「…ここはチリさんの寝室では?」
「せやけど、ここ以外ベッドないんで申し訳ないんですけど我慢してください。」
「あなたはどこで?」
「んと、ソファあるんでそこで。」
「…毛布等の寝具は?」
「あ、え、っと、」
そもそも人里離れた客人を招くつもりが一切ない独身の家にそう都合よく予備の毛布やらがあるわけもなく。
「えっと、なんとか、します。」
バクーダと一緒ならなんとかなる…!と心の中で意気込んだが、アオキから返ってきたのは心底呆れた声だった。
「…あのですね、急に押しかけておいて言うのも失礼ですが、それだと凍死しますよ…。」
「せ、せやけど…。」
「では、こんなおじさんとで申し訳ないのですが、同衾ということで。」
「どうきん…?」
どうきん?
え、同衾って一緒に寝るやつ???
「え、え、」
顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせるチリに、アオキは「…何もしませんよ。」と呟く。
緊急時とはいえ、急に押しかけたのは自分ですから、ソファで寝ても構いません、と言うアオキに、チリは白旗をあげた。

支度があるんで…、とアオキに断りを入れてから泣く泣くチリは寝る前のルーティンである湯たんぽの準備を始めた。
カバーはバクーダの可愛いタオル生地のもの。
今日はバクーダが大活躍だ。
いつもは寒くてお湯が沸くのがおそいとかんじるのに、今日はやけに早く感じた。

寝室に戻ると、アオキはベッドに腰掛けていた。
スマホロトムを操作し、何やら作業をしているようである。
「もう寝ますか?」
「は、はい…。」
ノロノロとまだ冷たいベッドに入る。
アオキも反対側に潜り込んだ。


が、眠れるわけがない。
チリはベッドの端のギリギリで丸くなっていた。
もちろんアオキに背を向けている。
好きな人であると同時に自分のことを嫌っている人と同じベッドの中である。
心臓はバクンバクンだし、こんなことならまだチリのストーカーがベッドの中で全裸待機してた時の方がまだ冷静だったかもしれない。

好きな人に嫌われている罪でいっそのこと凍死した方が…?
いやいや、可愛いポケモンたちが泣くだろう。
発狂しそうになりながら、腕の中のバクーダを強く抱きしめた。

「…すみません、若い女性にこんなに甘えてしまって。そこ寒くないですか?」
「ぴっ?!」
急に話しかけられた驚きで発せられた奇声に心底恥ずかしくなる。
顔を真っ赤にさせながら「寒くないデス。大丈夫デス。」とモゴモゴ話した。
もう泣きそうである。
「またそうやって強がって…。ほら、もう少しこっちに来てください。」
「ひん…。」
もぞもぞと芋虫のように身体を動かしながら少しアオキに近づいた。
「おじさんとで最悪でしょうけど、絶対に手は出しませんし、風邪を引くからもう少しこちらに。」
「ミ°ッ」
やめて、チリのライフはもうゼロよ。
人慣れしていない無垢なチリには酷すぎる。

それでもすでに虫の息ではあるが、さらにアオキのそばに寄った。
人の温もり、アオキの匂いに顔だけ真夏のように熱くてたまらない。

「ではおやすみなさい。」
「…なさい。」
そう返すので精一杯だった。

絶対に寝れないやつやん!って心の中で絶叫していたくせに、アオキの体温と疲れもあってトロトロと眠くなってきた。
冷え性なチリには考えられないほど布団があったまっていて、強張った身体からどんどん力が抜けていく。
チリは眠気に抗えず、あっさり眠ってしまった。


アオキはむにょむにょと何やら寝言を言っている同僚の寝顔を見つめていた。
いくらなんでも無防備すぎやしないだろうか。
義理堅いといえば聞こえはいいが、緊急時とはいえ男性を家に招くとは…。
しかもゴリ押しで一緒のベッドである。

しかし、他人をこれまで招いたことがないらしいのはわかったのは僥倖。
皿やコップは1人分しかなく、客が来る想定ではない。
それに、寝る直前のあの慌てようからはかなり初心なことがわかる。
頬をそっと撫でると、彼女はまた何かをもにょもにょ言って手に擦り寄ってきた。
手が暖かいのがいいのだろうか。
布団から華奢な肩がはみ出しているので、布団をなおすついでにこちらに彼女の身体を引き寄せた。
アオキの体温は高い。
無意識に彼女が擦り寄ってきてくれ、アオキは満足げに笑った。



チリは、アオキが自分のことを嫌っていると思い込んでいるのだろう。
実際は全く逆なのに。

チリの好意に気がついた頃は、彼女にそこまで興味がなかった。
しかし、冷たい態度をとると、普段の表情が崩れて悲しそうな顔をするのを見て、なんて可愛らしくて健気なのだろうと思った。
もうその時点でアオキは彼女をすっかり自分のものにしたくなった。
好きな子をいじめたくなるというのはよく言ったもので、最近ではオモダカにもいい加減にしろと苦言を呈されていたが、傷ついた顔をする彼女があまりにも愛らしかった。
それに、彼女にそんな表情をさせることができるのも自分だけだという優越感もある。

だが、そろそろ彼女の悲しい表情にも飽きてきてしまった。
ならば今度は「自分にしか見せない」心底嬉しそうな顔が見たい。
今まで冷たかった好きな人が、今度は蕩けるほど甘くなったら彼女はどんな反応をしてくれるだろう。

アオキはチリを抱き寄せた。
さっきは寒がっていたくせに、今度はアオキの体温が高いせいで暑がって離れようともがく。
逃すわけないのに。
可哀想に。
こんな酷い男に捕まって。

まだ離れようともがく彼女を抱きしめながらアオキは自分のものだと笑った。

すでに腹の中
季節外れオブ季節外れ
涼しい話が書きたかった

捏造過多

続きを書くとしたら、デロデロに甘やかすアオキがいる。
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771042,341
2023年7月27日 07:48
オレンジペコ
コメント
07
07
2023年7月29日
k
k
2023年7月27日
本の蟲
本の蟲
2023年7月27日

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