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うめざらめ 
されるがままで踊らせて - うめざらめ の小説 - pixiv
されるがままで踊らせて - うめざらめ の小説 - pixiv
3,116文字
aocrワンドロ
されるがままで踊らせて
ワンドロ【メイク】

付き合ってないアオチリ。

残業で疲れた二人が、お遊びでメイクを落としたり施したりする話。
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2126916
2023年4月28日 16:26

 時計の針が頂上を越えたころ、チリは大きなため息を着いて背伸びをする。リーグの事務所には彼女と隣の席のアオキが残るのみだ。どれだけやってもさばききれない書類の山を、もう何日見送っただろうか。
「いい加減、帰りたなってきたわ……」
 珍しく弱音を吐くチリに、アオキはハッと顔を上げ、何やらポケットや机の中をゴソゴソと探る。
「あの、良ければこれ……」
 そう差し出した手の中には飴玉。彼なりに、若年の自分に対して気を使ってくれたのだろう。フッと頬が緩む。
「……ほんま、おおきに」
「何日目ですか?」
「4日帰っとらん。アオキさんは?」
「3日です。無理だけはなさらず」
「そっくり返すわ。明日って何かありましたっけ?」
「明日は何もなかったので、トップからもこの資料をやっつけるように言われました」
 アオキも大きくため息つく。この状況がまだまだ続くことに、二人で絶望を噛みしめる。チリはもらった飴玉を舐めながら伸びをする。
「あ、おいし。あめちゃんで元気出ましたわ」
 ニコニコと笑いながら席を立つ。集中力の途切れたアオキも一息入れようと、給湯室にコーヒーを取りに行く。メーカーのコーヒーが残りわずかになっている。まだまだ残る自分と、残るだろう彼女のことを考えて、多目にコーヒーを作る。『どうせ残業で飲むなら美味しいものを』と買っておいたコーヒー豆の焙煎された良い香りが広がる。コポコポと水音が鳴るのを聞いていると、ウトウトとしてくるが、軽く左頬を叩いて目を覚ます。
 コーヒーができた頃、チリが席に戻った音がした。自分のカップにコーヒーを入れて、チリにも飲むか声をかける。
「チリさんコーヒー入りましたけど、いりま……」
「あ、もらいますもらいます」
 振り返ったチリは化粧を落として素顔を露わにしていた。所謂、男装メイクを普段している彼女の素顔。ベースは同じだが、女性的になっている……いや戻っているというべきか。なんだか見てはいけないものを見てしまったようで、アオキは固まってしまった。
「そんな凝視せんでくださいよ、恥ずかしいわ」
「いえ、あの、化粧ってすごいですね」
 チリは豆鉄砲を食らったポッポのように目を丸くしてから思わず吹き出してしまった。
「アオキさん、それ絶対他の人に言ったらあかんやつやで!」
 自分の発した言葉に改めて気づいてアオキのただでさえ悪い顔色がますます青くなる。
「あーかまんかまん。すっぴんみたら男の人はそう思うやろしな」
「あの、本当にすみません……。頭では理解していたのですが、チリさんが本当に女性なんだなと……」
「ふふふ。なんや、チリちゃんのこと意識しちゃいます?」
「そういう冗談に付き合えるほどHP残ってないので」
「ちぇ〜。冗談やないのにー」
 はいはいと窘めながらアオキはチリのカップにコーヒーを注ぐ。チリは礼を言ってコーヒーに口をつける。
「化粧ってすごいですね。こうなるともう何を信じたらいいか分からなくなりそうです」
「文字どおり、化けますからなあ」
 とカラカラと笑う彼女は何かを閃いたようで席を立つ。嫌な予感しかしないが、アオキはコーヒーを飲みながら携帯のメールをチェックする。
「ふっふっふ」
 右手にポーチを持ったチリが戻ってきて、この後何が起きるか、直感的に分かってしまったアオキは心底嫌だという顔をする。
「なんやそんな顔せんでくださいよ」
「嫌です」
「まだ何も言うてへんやん」
「嫌です」
「えー」
「そんなことしてる場合じゃ無いでしょう、あなた」
「集中力切れてもーてん。ちょっとだけ息抜きですやん」
「嫌です」
「男装メイクの方ですよ。パルデア1のイケメンにしたりますよ」
「それはあなたの称号でしょう」
「まあそれはそうなんやな。ならパルデアで2番めにしたりますよ!」
「丁寧に遠慮申し上げます」
 むむむとチリは唸るが、またパッと何かを閃く。
「トップへの提出書類、代わりに持っていきますよ」
「……」
「この書類の山やっつけたらご飯もおごりますよ」
「……デザートもつけてもらえるなら」
「よっしゃ、カエデちゃんにオススメ聞いとくわ」
 ポーチをゴソゴソと漁ってファンデーションを出す。クリーム状のそれを左手に取って祈るように伸ばしてそっとアオキの両頬に触れる。ひんやりとした感触に眠気が引く。
「あ、手ぇ冷たかったね、すんません」
「いえ、ちょうど眠気が飛びました」
 はははと笑いながら顔全体を撫でていく。柔らかいパンを撫でるように、瞼や唇を優しく人差し指が撫でる。なんて無防備なんだろうと思いながら手のひらで顔をそっと押さえていく。
「ライナー引きますね」
 閉じた左目尻にすっと黒い線をひく。違和感に思わず目を開ける。
「ああっ、あかんよまだ」
「す、すみません」
「ふふふ。されるがままやね」
「落ち着きません」
「大丈夫、かっこええよ」
「冗談を」
 冗談なものかと言いながら右の目尻にも線を引く。
 目を閉じたついでにブラウンのシャドウを薬指でなじませる。閉じた瞼がピクリと動くのが感じられた。
「もう目を開けても?」
「ん、目は終わったから開けててもええよ」
 そういって目を開けるが、想像以上にチリの顔が目の前にあり、目のやり場に困って再び目を閉じる。まっすぐに自分を見る鳶色の瞳が瞼の裏にも焼き付いて胸が鳴った。
 チリは気にせず眉を撫でる。アイブロウをしているのだろう。
 続いて頬骨の横や下顎のラインにもふわふわとした感触を感じる。一体何がどうなっているんだろうか。
「最後、リップやな」
 軽く口開けてぇな、と言われアオキは言われるがまま口を開ける。唇に一瞬何か触れる。今まで使われていたメイク道具や指のような固さは感じられない、柔らかい何か……と思っていると筆の細い感触が続いて、疑問は霧散する。
「ん、完成や!さっすがチリちゃん。アオキさん、かっこええよ」
 そう言って目を開けるとチリはメイク用の鏡を差し出す。鏡の向こう側には隈や顔色の悪さがカバーされ血色良くなり、顔のメリハリが幾分かはっきりした自分がいた。心なしかいつもよりマシな気がする。
「顔色悪くないだけで大分違うんやし、アオキさんこそもっと休み取った方がええで」
「……善処します」
「サラリーマン的否定やん」
 自分の顔を満足そうに見つめて来る彼女の視線に耐えられなくなり、アオキは目線をそらす。
「さ、そろそろ仕事に戻りましょう。これどうやって落とせば良いんですか」
「えーかっこええのに勿体ないやん」
「そもそもあなただって、疲れたから落としたんでしょう」
「えーもーちょいだけー」
「ハイダイさんのところのコースも付けますよ」
 ちぇーっと拗ねながらポーチからオイル状のポンプを出してアオキに渡す。
「これでくるくるーって丸描くみたいに化粧なじませて取るんやで」
 チリはすっとアオキの唇に人差し指と中指で丸を描く。その感触が思ったより固くて疑問が再度湧き上がる。
「あのチリさん」
「その後洗顔で洗うんやで。アオキさんのやつでもええと思うよ」
「いえ、それはわかりましたが。先程リップのとき……」
「ほらっ!仕事続きせなあかんのやし、はよ洗いに行く行く!」
 言葉を切られ、洗面所へ追いやられる。言われた通りに顔を洗う頃にはすっかり顔も頭もスッキリしていた。
 改めて左手で軽く唇に触れてみて、先程の感触を思い出そうとする。
「………。……どんな顔して仕事の続きしろって言うんですか……」
 顔の赤さを戻そうと、再びアオキは水で顔を洗った。

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