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この作品「恋に落ちると言うけれど」は「アオチリ」「アオキ(トレーナー)」等のタグがつけられた作品です。
恋に落ちると言うけれど/ゆーみんの小説

恋に落ちると言うけれど

8,079文字16分

二人が恋に落ちるお話です。
一人称と出身がふわっと捏造されてます。

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はじめは多分、チリの気遣いだった。

三足の草鞋を履くアオキは、多忙を極めている。チャンプルジムを本拠地とし、営業として各地を飛び回り、四天王として呼び出しを受ければリーグへと向かう、と言った具合で日々のスケジュールをこなすアオキは、リーグにある四天王控室へはなかなか顔を出せていない。
四天王達とは、それなりに折り合い良くやっているつもりである。個性的な面々は、それぞれに人との距離感を図るのが上手い。アオキにとっても、過ごしやすい場所である。もう少し顔を出せたら、とは思うのだが、如何せん時間が無い。それに対し、チリがどうも気を回したらしい。


突然、メッセージアプリにポコンと通知が入る。画像が送られているらしい。続けざまにポコンとまた通知が入る。そこには『今日のおやつです!』と表示されている。チリからだった。
トーク画面を開くと、画像は写真のようだった。写真には満面の笑みのチリとポピーが写っており、ポピーの手には少しいびつな形のクッキーが盛られた皿がある。おやつとはこれの事か、と自分の口元が緩むのを感じた。『いいですね、美味そうです。』と返信をすれば、ドヤ顔のスタンプが返って来た。
それ以来、度々写真が送られてくるようになった。基本はチリとポピーの二人だが、たまにハッサクやオモダカが登場する。ハッサクはともかく、オモダカが優しくカメラに微笑みかけているところを見るに、自分に送ることは伝えていないのだろう。チリはなぜ、こんなにも自分に写真を送ってくるのだろう。少しだけ疑問に思うが、彼女からのメッセージを楽しみにしている自分がいる事も確かで、下手につつけばこのやり取りが無くなってしまうのではと、何も聞けずにいた。

いつの間にか、他愛のないメッセージのやり取りをするようになっていた。連絡不精な自分がこんなにも日々誰かと連絡を取り合うなんて。仕事以外のメッセージは、ほぼチリとのやり取りで埋まっている。
挑戦者が現れリーグへ顔を出せば、チリがすぐに寄ってくる。「昨日送ったクッキー、まだ残ってるで」なんて笑顔で声をかけてくる。
懐かれているな、と思う。何故かはわからないが。
聡明で努力家で気遣いもできる同僚に懐かれるのは、嫌な気はしない。ただただ、不思議に思うだけだ。


数日にわたり立て込んでいた仕事に、漸く目途がついた。この日はチリとアオキが二人で残っていた。もう日も暮れて大分経つ。
繁忙期に二人が揃って残業するのは珍しくない事だった。アカデミーの宝探しと連携してリーグの仕事が発生する以上、リーグの繁忙期はアカデミーももれなくそうである。ハッサクはアカデミーに缶詰になることが多く、ポピーはそもそもこれらの事務作業では戦力外だ。
チリが「あ~腹減ったあ~」と伸びをしながら声を上げる横で、呼応するようにアオキの腹がグゥと鳴った。
思わず顔を見合わせる。チリは堪えきれなかったように声を上げて笑い出した。
アオキは少しばかり気まずく、目線をそらした。笑い続けているチリに少しばかりムッとして、声をかけた。

「この後飯でも行きますか」

チリは不意を打たれたようだった。ぽかんとした顔をしたのち、すぐに表情を輝かせる。

「行く行く!行きます!」

まさかこんなに前のめりで来るとは思わず、アオキは少したじろいだ。
同僚と食事に行くだけ、これはセクハラじゃない、と自分に言い聞かせながら、残りの仕事を捌いた。


テーブルシティの片隅にある、アオキの気に入りの店で、食事をとることにした。アオキから提案したのだから、店は自分がピックアップすべきだろうと個室のある居酒屋にした。

「おっ、ここは初めて来るわ」

アオキに続いて店に入りながら、チリが声を上げる。

「てか、アオキさんと二人でご飯食べんのも初めてやな」

ニッと笑った顔が照れくさそうに見えた気がして、アオキは動揺したが、無表情は崩さなかった。
席に着くと、それぞれ注文をする。アオキの量の多さに、チリは驚いたようだった。

「いつもぎょうさん食べはるなとは思っとったけど、ほんまに多いな。その体のどこに消えとるん」
「食えばそれなりに太りますよ」
「嘘や太ってるアオキさん見たことない」
「動く仕事をしていますから」
「女の敵やな」

なははと笑うチリをそっと盗み見る。もう少しぎこちなくなるかと思ったが、会話はスムーズで場は和やかだ。チリが最初に指摘した通り、二人きりで食事をとるのは初めての事だったが、最近ずっとやり取りをこまめにしていたせいもしれない。

「てかアオキさん、彼女とか奥さんいてはります?」
「いえ、いませんが」
「よかった~チリちゃんアオキさんの奥さんに刺されるかと思ったわ」
「それなら、自分の方が刺される可能性高いでしょう」
「チリちゃんも今フリーやで」
「……貴女には熱烈なファンも多いじゃないですか」
「なはは!流石に人刺すような子ぉはおらへんて!」
「わかりませんよ」

カラカラと笑いながらビールを煽るチリ。飲みっぷりの良さが気持ち良い。
飯はいつも美味い。人と食べる飯は、いつもより美味い、という事を思い出した。こんな風に誰かと食事をするなんて久しぶりだった。とりわけチリとの食事は楽しく、飯も美味いように思えた。
和やかに時間は過ぎる。居心地が良い。こんな機会が、またあれば良いのにと思った。


二度目は割とすぐに訪れた。先日と同じように仕事帰りにタイミングが合い、今度はチリのおすすめの店に行った。二人での食事はやはり居心地良く、飯が美味かった。
それから、チリとは度々二人で食事をとるようになった。
元々食道楽なアオキはその仕事柄も相まって様々な良い店を知っていた。チリはチリで、たくさんの店を知っており、アオキが店構えで敬遠してしまっていたような店からも入りやすい店をチョイスしてくれた。センスも気遣いも良くできた人だった。


「なあアオキさん、次の休み被っとるやろ。空いてます?」
「はあ、空いていますが……」
「この店、行ってみいひん?」

チリがスマホロトムの画面を見せる。今は職場で、昼休憩中。たまたま二人きりだった。アオキはチリに顔を寄せ、スマホを覗いた。
画面には、ハッコウシティに新たにできたレストランのランチコースが表示されていた。先日アオキも広告を見かけ、気になっていた店だった。
ここのコースはポケモン用にもメニューが用意されており、トレーナーと共に食事が楽しめる。個室も用意があるため、チリも利用しやすい。

「行きましょう」
「二つ返事やな」
「一人では行きづらいなと思っていたので」
「なんや知っとる店やったんか。予約しとくから、休日出勤なんて許さんで」
「はい」

ありがとうございます、と言えば、いーえ、と満面の笑みが返って来た。
休日はいつだって待ち遠しいが、いつもより浮足立ってしまう。年甲斐もなく、と思うが仕方ない。美味い飯はいつだって楽しみだ。


待ちに待った休日。この日を確実に休む為だけに、ここ数日は物凄く集中して働いた。
どうにか休日出勤も前日の残業も免れたアオキは、チリを待っていた。いつもより少しだけカジュアルなスタイルをし、前髪を下し少し流したアオキをチャンプルジムリーダーであると見分けられる人はいないようで、街中に佇むアオキに注視するものはいない。
腕時計をちらりと見る。約束の時間まであと10分。予約の時間まではあと20分。休日に待ち合わせ、なんてのも数年ぶりの事である。休日に若い娘さんと待ち合わせをして浮足立って、本当に年甲斐もないな、と自嘲するも、楽しみな気持ちが上回って全てがどうでもよくなった。傍目に見ればまあ怪しく見えるかもしれないが、店に入ってしまえば個室だし、自分が誰かわかる人はいないだろう。いや、むしろそれは逆に良くないのではないか。チリのオーラは隠しきれないだろうから、怪しい年上の男と二人で個室の店に入っていくチリの姿は目を引くのではないか。あらぬ噂を立てられて迷惑をこうむるのはチリだ。自分は誘いを受けるべきでは無かったかもしれない。でも、この店が気になっていたのも、一人では来難かったのも事実だ。それにチリに誘われて断るなんて畏れ多い。気安い相手と美味い飯。それだけを楽しみにすれば十分ではないか。

「アーオキさん、お待たせ」

気づけば目の前にチリが立っていた。腕時計をちらりと見る。約束の時間5分前。うだうだと考えている間に5分が経過していたらしい。

「まーたなんか考えとったやろ。どうかした?」
「いえ、何も」
「何もなわけあらへんがな。まあええわ。行きましょ」

機嫌よく笑うチリを、思わず上から下まで眺める。髪はアップスタイルに纏められ、細身なスタイルが引き立つパンツドレスを着ている。いつもは履いていないハイヒールを履いており、目線が少し近い。片手にはクラッチバッグを持っている。化粧もいつもと少し違うようだ。
十分に理解していたはずだったのに、改めてチリが若く美しい女性であることを意識する。
数歩進んだチリは、アオキがついてきていない事に気づいたようで、振り返る。

「どしたん」
「可愛いですね」
「へ」
「あ、いえ、つい」
「ついってなんや。アオキさんも、かっこええやん」
「は」
「さ、行きましょ!遅れてまうって」

ちょっとだけ照れくさそうに笑ったチリに我に返る。思わず余計なことを口走ってしまったし、カウンターをくらってしまった。いい年して何をやっているのだか。

「ほら、はよう」

焦れたようにチリが手を引く。さすがに拙いと、そっと手を外し、少しだけ背筋を正し歩き出す。チリは特に意に介した様子もなく、アオキがついてくる事を確認すると、店に向かって歩き出した。


店に入ってしまえば、いつもの二人での夕食のような雰囲気だった。二人とも装いは違ったし、相棒のポケモンも出していたので、いつもとは違うはずなのだが、何故か二人での食事はしっくりと馴染んだ。個室で誰に気を遣うでもなく、食事の感想を話したり、相棒と戯れたりする。和やかな時間だった。

「これ、ほんと美味いですね」
「こんなに喜んでくれはるなら、誘った甲斐あったわ」
「そういえば、なぜ自分を誘ったんです」

これは純粋に疑問だった。人気者のチリが、自分以外に誘う人がいないなんて訳は無い。勿論食事代は出す気でいるが、それを当てにして誘ったわけでも無いだろう。自分としてはチリとの食事は楽しいし、一人では訪れづらいレストランで食事にありつけたし、誰かに見咎められるリスクはあったもののメリットの方が大きいのだが、チリにとってはどうだろうか。チリは「せやなぁ……」と考える素振りを見せた後、アオキの目を見てニッと笑った。

「アオキさんと一緒やと、ご飯が美味しいからな」

笑顔の眩しさに、目が眩みそうだった。


これ以来、休日にも予定を合わせて会うようになった。大抵は食事の誘いだが、見たかった映画等にも足を運んだ。勿論、見終わった後感想を話しながら食事をするのもセットだったが。
本当によく懐かれたものだ、と思いながら、オージャの湖の近くでピクニックの準備をする。今日は天気が良く、何も予定が無かった。オージャの湖に生息する野生のポケモンはレベルが高く生半可なトレーナーは近寄れないため、邪魔が入る可能性は低い。食材を買い込み、ポケモン達とここを訪れた。
アオキは料理は割と好きな方だった。別段得意なわけではないのだが、食べる事が好きな人間が作ることにも興味を持つのは自然な流れだろうと思っている。食材やスパイスにも興味をもっていたが、誰と食べるかも重要なファクターだと強く思うようになったのは、彼女と食事を共にする機会が増えてからだ。
今日は残念ながら一人だが、外で食べるのはそれはそれで一つのスパイスとなる。一人を残念、等と思った自分に苦笑しつつ準備を進めていると、スマホロトムが鳴りだした。どうやら電話らしく、画面を確認すると、チリからだった。今の今まで思考を巡らせていた相手からの電話に少々驚いたが、すぐに出た。

「はい、アオキです」
『まいどチリちゃんです。突然やねんけどアオキさん……今、もしかして外おる?』
「ええ、天気が良かったのでピクニックでもと思いまして」
『なんや!運命やな!』
「は?」
『いやな、あんまりにも天気ええもんやから、家に一人でおるん勿体ななって、ほんでアオキさん誘ってピクニックでもどないやろかと思ってん』
「はあ、それはまた」
『な?運命やろ。電話してみたらなんや外みたいな音するから、なんか用事でもしてはるんかと思ったけど、同じこと考えてたとは』

スマホロトム越しに楽しそうに笑う声が聞こえる。アオキは何も返せない。

『なあ、今からそっち行ってええ?チリちゃんも一緒にピクニックしたいんやけど』
「ええと」
『どこおるん?』
「オージャの湖ですが」
『ほんなら直ぐ向かうわな』

そこで通話は切れた。完全に彼女のペースである。断る理由も無かったし、チリと一緒ならいいのにと思ってもいたので、来てくれるのは構わないのだが、どうにも面映ゆい気分になる。とりあえず下拵えだけ済ませて、待つことにした。

ただ待っているのも何なので、ポケモン達の身体を洗っていると、チリから到着した旨のメッセージが入った。「ムクホーク、チリさんが」と言いかけた途中でムクホークが高くひと鳴きし飛び立った。頼みたかったのは迎えなので正しいのだが、アオキは少し複雑な気持ちになる。
先日のハッコウシティのレストランでチリに大層可愛がってもらって以来、ムクホークはチリにべったりなのであった。リーグに挑戦者が現れた時なんて、チリにいい所を見せようと勝手に急所に当てまくる。立ちはだかる壁としてのバランスが崩れてしまうので、お上からも苦言を呈された。チリの名前を聞いた途端嬉しそうな顔を隠しもしない相棒に苦笑していると、その背にチリを乗せて戻って来た。自分を乗せる時には普通にするくせに、今日はやけにゆっくりと丁寧に降り立つ。チリに「おおきにな」と撫でてもらって、誇らしげだった。

「おまちどおさん。ムクホークが乗せてくれるなんて思っとらんかったから、びっくりしたわ」
「あの子は、貴女の事が大好きなようで」
「なはは、そら光栄やな」

もう一撫でしてから、チリも自分の手持ち達を出した。ずいぶんと大所帯になってしまったが、ポケモン同士は面識もあるため、すぐに仲良く遊びだした。
満足そうに見やるチリの手には、大きな袋が下げられている。

「ほな!はじめましょか!」


チリは料理が上手かった。元来器用な手先をしているらしく、見た目の良いサンドイッチを次々と作る。あれだけアオキを食事に誘うのだから、チリだって食べるのが好きなのだろう。にしたって、少し多すぎやしないか。チリは小食ではないが、別段大食らいでもないはずだ。

「あの、チリさん」
「ん?なんです?あ、これは地元から持ってきたソースで、サンドイッチにも合うんですよ」
「そうなんですか。いや、そうではなくて、少し多すぎはしませんか?」
「そうです?アオキさんこれじゃ足らんことない?」
「え、俺のですか」
「アオキさんて、自分のこと俺って言わはるんやね」
「あ、いや、そうですね」

なんだかチリのペースに振り回されっぱなしだ。油断して一人称までうっかり口を滑らせた。アオキはアオキでサンドイッチを並んで作っていたので、まさか自分の分としてチリが作ってくれているとは思わなかったのだ。それならば、とアオキは思う。オーソドックスなサンドイッチばかりを作っていてよかった、これで、こちらからもお裾分けができる。


「あ、これ美味いですね。先ほど言っていたソースですか」
「そうそう、お好み焼きなんかにかけるんやけどな、サンドイッチのアクセントとしても丁度ええんよ」
「なるほど」
「気に入ったんやったらまた作ったるわ」

ニコニコとしながらチリはアオキの作ったサンドイッチを頬張り、「おいしい」とさらに頬を緩めた。
いつの間にか、二人で食事をするこんな時間が特別ではなくなっている事に気づく。こんな幸せな瞬間が、特別よりももっと近い場所にあるなんて、なんて贅沢なのだろうか。こんな時間が日常であればいいのに、と思考して、耳に熱が集まるのを感じた。

「アオキさん?」

チリがこちらを覗きこんでいるのはわかったが、目を合わせる事は出来なかった。
もう引き返せないところまで、アオキの中にチリが食い込んでいる事を自覚する。

この人が好きだ、と思った。


気づいてしまったらもう駄目だった。目が勝手にチリを追う。今もなおチリは、アオキがチャンプルジムや営業で席を外している日には写真を送ってくれている。アオキの写真フォルダには、チリの写真がたくさん入っていた。それを見てふっと笑い、いけないいけないと表情を引き締める。何故だかわからないがチリは自分に懐いてくれている。こんな邪な感情で、彼女を失望させるわけにはいかない。
こんなおじさんに、彼女のような未来ある娘さんは、相応しくない。


相応しくないと思いながらも、ずるい大人なもので、誘われれば喜んで食事に行ってしまう。よく表情筋が死んでいる等と揶揄されているが、今回ばかりは助かった。万が一にも気取られてはならない思いを抱えながらでも、チリとの食事は楽しかった。


「なあ、飲み足らんことない?」

そんな誘いは、初めての事だった。帰りたくないと駄々を捏ねる女性のあしらい方など、何年も前に忘れてしまったし、仕事終わりの酒に酔った頭はチリからの誘いを断る方向には働いてくれない。一瞬見えた黄色信号を無視し、チリに誘われるまま、バーへと向かった。
カウンターの隅に、横並びに座る。大抵向かい合って食事をとるため、いつもより近くにある体温に少し心が跳ねる。年甲斐もない、とは思うものの、抑えられるものでもない。
客はそれなりに入っており、それぞれが思い思いに話している。マスターは常連と思しき客を相手にしており、こちらには近づいてこない。薄暗いここでは、アオキの小さな声が丁度良いボリュームのようだった。チリも、いつもより抑えた声で言葉をこぼす。その様が、なんとなく艶めいて見えた。

「アオキさん、かっこええなぁ」

不意にそんな言葉が漏らされ、アオキは驚いてチリの方を向いてしまった。チリが頬を赤く染めているのは、きっと酒のせいだ。

「アオキさんの隣は居心地よすぎて、手放されへんようなるわ」

妖艶に微笑みながら、こちらに視線を寄越す。アオキは慌てて視線を逸らした。

「あんまり可愛らしい事言わないでください。うっかり勘違いしそうです」
「勘違い?」
「……おじさんに本気になられたら、困るでしょう」
「困らんよ。チリちゃんはアオキさんに本気やもん」
「は」

唖然としてまたチリの方を見る。さっきよりも、頬が赤い。

「さっさと惚れえや。相手はこの美人さんやで。何の不満があるん」
「いやですから、こちらはれっきとした中年で」
「その中年のおじさんが、チリちゃんは好きなんやけど。」

アオキさんは、チリちゃんの事、好きやないん?
耳元で囁かれ、もう抗う術は無かった。

「……好きです」
「やっと言うたな」
「ほんとに良いんですか」
「ええ言うとるやろ」
「では、俺と付き合っていただけますか」
「よろこんで」

美しく笑むその視線に捕らえられる。

「もう離したらへん」


恋に落ちると言うけれど、もしかしたら撃ち落されたのかもしれないと、その時初めて気づいた。

コメント

  • ☆ST

    うちおとしたらじめんタイプの攻撃も効くようになりますね! うちおとされていることを自覚したのでこれからはよりチリちゃんの攻撃が効くようになりますね╰(*´︶`*)╯

    2023年2月17日
  • mon
    2023年1月31日
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