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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:三嶋 与夢

第六章

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共闘

 地下へと続く坑道のようなダンジョン。


 ミアに肩を借りて歩くエリカは、青い顔をして苦しそうにしている。


「ごめん――なさい」


 そんなエリカに、ミアは元気よく返事をするのだった。


「大丈夫ですよ! 私、こう見えても少し前までお転婆って言われていたんです。エリカ様一人なら、ダンジョンの外に連れて行けます」


 そして、十字路に来る。


 ミアは少し考えてから、頷いて言う。


 エリカは苦しそうにしながら左を見た。


「右ですね!」


「左ね」


 二人の意見が割れてしまった。


 ミアが困っている。


「え? 右ですよね?」


「左だと思うのだけど?」


 このように、常に意見が違ってしまう。


 ミアは頷いた。


「なら、さっきは私の意見で左にしましたから、今度は右にしましょう!」


「そ、そう? ありがとう。でも、ここって今はどの辺りなのかしら?」


 ダンジョンの通路などどこも同じに見えてしまう。


 ミアは明るく振る舞うのだった。


「大丈夫です。きっと、もうすぐ出口ですよ。ほら、違う階層の入り口が見えて来ました!」


 そう言って、二人は地下三階を越えて、更に奥へと進んでいく。


 そこは地下五階への入り口だった。


 奥へと進む二人は対照的だ。


 ミアは普段とは違い顔色もよく、元気いっぱいだった。


 対して、エリカの顔色は悪い。


 普段と正反対である。


「エリカ様、大丈夫ですか?」


「――大丈夫よ。それよりも、もしものことがあったら、貴女は一人で逃げなさい」


「え?」


 エリカに言われ、驚くミアは足を止めてしまった。


 ただ、エリカは続けるのだ。


「貴女一人なら大丈夫。モンスターにも襲われないわ」


「どういうことですか?」


 ミアは考える。


 確かに、今までモンスターに襲われた経験はない。


 帝国にいた時も、モンスターが近付いてくることはなかった。


 先程、モンスターたちが自分を避けていたことも気になってくる。


「もしかして、エリカ様は何か知っているんですか?」


 苦しそうに笑うエリカは「少し喋りすぎたわね」と言って、壁に背中を預けるのだった。


「私はね、昔からモンスターを引き寄せてしまうの。だから、私を置いていけば、きっと貴女は助かるわ」


 ミアは困っている。


「あの、モンスターは人を襲いますよ」


「そうね。でも、私は特別よ。嫌われているの」


 嫌われているという言葉が気になる。


 ならば、まるで自分はモンスターたちに――。


 そこまで思考すると、ミアは通路の奥を見た。


「嘘。なんでこんなに怖いモンスターがいるの」


 奥から顔を出したのは、通路をギリギリ通れる大きさのモンスターだった。


 こんなダンジョンの浅い場所に出てくるモンスターではない。


 事前に知らされていたモンスターとは違いすぎる。


 ミアが急いでエリカを連れていこうとする。


 だが、エリカは座り込んでしまった。


 苦しそうに胸を押さえている。


「エリカ様!」


「っあ! ――い、行きなさい!」


 声を絞り出し、ミアに逃げるように言うと、エアバイクが二人の横を通り抜けてモンスターに体当たりを行うのだった。


 吹き飛ぶモンスター。


 そして、発砲音がモンスターとは反対側の通路から聞こえてくると、エアバイクが爆発する。


 燃料に引火して燃え上がるエアバイク。


 周囲が一気に明るくなると、二人に近付いてくるのはリオンだった。


「おや、珍しい。この辺りでは見かけない顔だな。よし、死ね」


 モンスターが炎の中から出てくると、リオンはショットガンを構えて引き金を引く。


 魔法陣が銃口の前にいくつも展開されると、ショットシェルが突き抜けて紫電が発生した。


 モンスターを紫電が貫き、黒い煙に変えていく。


 黒い煙を吸うと、エリカが咳き込み苦しそうにする。


「エリカ様!」


 ミアが叫ぶと、すぐにリオンが側により、エリカにマスクを付ける。


「どうしてこんなに奥まで来た! 無茶をするな」


 マスクを付けたエリカは、少し落ち着いていた。


 ルクシオンが近付いてくると、何やら分析をはじめる。


『地下五階でもかなりきついのでしょうね。マスクの着用をご提案したいところです。もしくは、ダンジョンへ入ることを禁止したい』


 リオンは通路奥を見ると、すぐにショットガンを構えた。


「団体か」


『モンスターがこちらを目指して集まってきています。マスター、五分間だけ時間を稼いでください』


「弾が持つかな?」


 次々に集まってくるモンスターたち。


 先程の話が本当ならば、エリカを目指して集まってきていることになる。


 ミアがエリカの腕にしがみついていると、今度は黒い鎧をまとった騎士がモンスターたちに突撃していく。


 手に持った剣を一振りすれば、モンスターたちが黒い煙に変わっていくのだった。


「騎士様! ブー君!」


『ミア、無事だな!』


『ブー君は止めろって言っただろうが!』


 次々に現れるモンスターたちを斬り伏せていくフィンだが、数も多くて苦戦していた。


 そんなフィンを、リオンが援護する。


 フィンに飛びかかってくる大きな虎のようなモンスターの頭部を、リオンが撃ち抜いた。


「援護するから、もっと派手に暴れていいぞ」


 そんなリオンの言葉に、フィンは少し嬉しそうにしていた。


『俺に当てるなよ』


「当たっても平気だろうに」


 二人とも、どこか余裕すら感じる。


 そんな二人を見て、ミアは思うのだ。


(騎士様、何だか嬉しそう)


 国にいた時よりも、フィンが楽しそうにしている姿を見て、ミアは嬉しくなるのだった。


 いつもは、緊張しているか自分を心配ばかりしている。


 もっと笑顔を見せて欲しかったミアには、王国に来てよかったと思えたのだ。


『当たった! 相棒、あの鉄屑、俺に当てやがった!』


『――変な動きをするからです』


『嘘吐け! 絶対に予測できたはずだ!』


『新人類の兵器を予想など出来ませんね。理解したくもない!』


「お前ら五月蠅いよ! ルクシオン、お前もちゃんと仕事をしろ!」


『マスター、私を疑うのですか!?』


『黒助、お前も集中しろ!』


『相棒、もっと俺様を大事にしろよ!』


 ただ、ブレイブとルクシオンは、仲が良さそうには見えなかった。


 二人が騒いでいる間に、モンスターたちは全て倒されるのだった。



 その頃。


 地上ではメルセが、ローランドの友人である宮廷医に詰め寄っていた。


 場所は誰も来ない倉庫である。


「随分な趣味ですね」


 報告書にまとめられていたのは、宮廷医の趣味に関する情報だった。


 あまり公に出来ない趣味が書かれており、ローランドの友人は慌てて報告書を抱きしめる。


「こ、これはその!」


「言い訳なんて聞きたくないわ。これをばらまかれたくなかったら、分かっているわよね? ちゃんと持って来たのでしょう?」


 宮廷医は、鞄から薬を取り出した。


 ドクロのマークを貼りつけられた瓶を、メルセは奪い取る。


「これさえあれば、あの糞爺ともおさらばできるわ」


 ローランドを糞爺と呼ぶメルセは、本当に忌々しそうにしていた。


「何が愛しのメルセよ。私の恋人になりたいなら、もっと若くないと駄目よ。老人なんて興味ないわ」


 王国貴族の、女性らしい言葉に宮廷医が顔を背けた。


「どうして陛下はお前なんかに」


「口を慎め、下郎! 変態趣味の屑が、私を“お前”ですって? いい、私は本来なら、伯爵家に嫁ぐはずだったのよ。伯爵夫人よ。それが、あいつのせいでこんな目に――」


 息の荒いメルセを刺激しないように、宮廷医は鞄に書類を押し込み逃げ出すのだった。


 その背中を見て、メルセは笑う。


「間抜けな陛下に言ったら許さないわよ」


 下品に笑っているメルセに近付くのは、作業着姿のルトアートだった。


「姉さん、ご機嫌だね」


「そうね。あの爺の相手をしなくてすむもの」


「陛下? まだキスもしていないとか言わなかった?」


「あいつのつまらない話を聞くだけで、苛々するのよ! 私がどれだけ苦労して、王国軍の情報を聞き出したと思っているの?」


 メルセがルトアートを蹴る。


「ご、ごめんよ、姉さん」


「男ならもっと女性に気を遣いなさい! だからあんたは駄目なのよ! さっさと結婚して、あのゴミ共を屋敷から追い出しておけば、私たちがここまで苦労しなかったのに!」


 ゴミ共とは、バルカスたちの事だ。


「あんな領地、私には相応しくない! 本土に領地が欲しいよ。田舎と言うだけで馬鹿にされるのはもう嫌だよ」


「あんたがそんなことを言っているから、リオンの糞野郎が調子に乗ったのよ!」


 まったく関係ないが、メルセは八つ当たりをしたいだけだ。


 ルトアートが作業着を汚していると、ゾラがやってくる。


「五月蠅いわよ、メルセ!」


「お、お母様。――ごめんなさい」


 そんなメルセも、ゾラの一言に萎縮してしまう。


 倉庫内にあった椅子に座るゾラは、酒瓶を持っていた。


 床にはいくつも酒瓶が転がっている。


「まったく、どいつもこいつも私を馬鹿にして。何が淑女の森よ。私が悪いと勝手に決めつけて、八つ当たりをして」


 酒瓶からそのまま酒を飲み、口元を拭うゾラは数年前よりも一気に老けていた。


 年齢よりも高齢に見える。


「――ルトアート、学園の情報は調べたわね?」


「は、はい!」


「なら、あの穀潰しの婚約者たちを捕まえなさい。人質にして、穀潰しを私の目の前で拷問するわ」


 ルトアートが慌てて止める。


「お母様、無理だ。相手は公爵令嬢だよ!」


「どうせ私たちが国を取り戻せば、ただの小娘よ! あいつも前から気に入らなかったのよ。身分が高いだけの小娘が、私を馬鹿にして」


 酒を飲むゾラは、アンジェとの初対面を思い出していた。


 自分を馬鹿にする態度を取ったことが許せないようだ。


「平民の娘も連れてきなさい。目の前でいたぶってやるわ。あの穀潰しが、泣いて許しを請う姿を見られるわね。最後は、穀潰したちの死体をバルカスに送りつけてやる。結婚してやった恩も忘れた極悪人のバルカスは、どうしてやろうかしら」


 メルセもルトアートもドン引きしていた。


 だが、全てを失い、酒に酔って暴れ回るゾラを二人は止められなかった。


 そして、ゾラは外国から取り寄せた品をルトアートに渡す。


「お母様、これは?」


「幹部たちから渡された品よ。扱いが分からないから押しつけられたの。何でも鎧になるとか、そんなロストアイテムらしいわ。ルトアート、お前が使いなさい。この薬を飲んで使えば、凄い力を得られるそうよ」


 どう見ても怪しい薬を、ゾラはルトアートに手渡した。


「――え?」


 黒い鎧の一部らしいが、こんなものをどう扱えばいいのかとルトアートは悩むのだった。



 次の日。


 ローランドと密会したメルセは、宮廷医に渡された毒薬を使用した。


 遅効性の毒物で、絶対に証拠が残らないという品だと聞いている。


 ローランドがメルセに抱きつく。


「今日も君の唇を奪えなかった。残念だよ、メルセ」


「もう、陛下ったら」


(私の唇? ふざけんなよ、おっさん!)


 抱きつくローランドを両手で押しのけ、メルセは手を振るのだった。


「またお待ちしております、陛下」


「ローランドと呼んで欲しかったのだがね」


「あら、では次回ということで」


(お前に次なんてないけどな。私たちを苦しめた元凶が、相手をしてもらえるだけ幸運だと思うのね)


「――そういうことにしておこう。では、さようなら」


 ローランドが去ると、メルセはフードをかぶって移動を開始する。


 表通りに出ると、昔はもっと派手に遊んでいたことを思い出すのだった。


(どうして私がコソコソしないといけないのよ)


 すると、三人組の男女が向こうから歩いてきた。


「ちょっとフィンリー! なんでそんなにお小遣いを持っているのよ!」


「ジェナ、いい加減に落ち着けよ」


「リオン兄さんがくれたのよ。泣きついたらイチコロだったわ」


「あいつも何をやってんだ」


 ジェナがフィンリーに怒っていた。


 ニックスは、そんな妹たちを見て呆れている。


「あ~あ、王都で人気のエステがあるって聞いたから、一度は受けてみたかったのに」


 ジェナが背伸びをしながらそう言うと、ニックスが笑っていた。


「年下の男を落とすために必死だな。性格を直したらどうだ?」


「何ですって! あんたはそんなことだから、結婚が決まらないのよ! オスカル様なら、そんなことは絶対に言わないわ!」


「だって、あいつはお前に興味ないだろ。この前なんか、ずっと筋トレについて話をしていたぞ。俺に『いい筋肉ですね。どうやって鍛えたんですか?』ってずっと聞いてきて怖かったからな」


 フィンリーはクレープを食べていた。


「姉さん必死すぎ。でも安心して。オスカル様が『お義姉さん』って呼んでくれるかもよ」


 煽るフィンリーに、ジェナが叫ぶ。


「今に見てなさいよ。絶対に振り向かせてみせるわ。フィンリー、クレープ頂戴!」


 クレープを奪われ、フィンリーがジェナの腕を掴む。


「返してよ!」


 楽しそうな姉妹を見ながら、ニックスは溜息を吐くのだった。


「お前ら仲が良いよな」


 三人の横を通り過ぎるメルセは、唇を噛みしめていた。


(何であんたたちが楽しそうにして、私がコソコソ隠れているのよ。あんたたちは、王都で遊んでいられる身分じゃない癖に)


 いつまでも過去に囚われるメルセだった。


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