名前・3
「ああ、おかしい(笑) あのね、徳川。跡部くんは、いつも徳川に『おい』としか呼んで貰えないって悩んでたんだよ。それがいきなり下の名前で呼ばれたんじゃ、そりゃびっくりもするよ(笑) ねえ、跡部くん」
「……は…い///」
カッチリと固まったまま動けずに、跡部はやっとのことで頷いた。
「跡部よ、こっち来いや(笑)」
鬼は真っ赤になったまま動けずにいる跡部を手招きして、薄い色の髪をガシガシとかき回してやった。
「先輩…痛いです///;」
「痛かったら泣いてもいいぞ」
言われてすぐに、跡部の瞳からポロリと涙が零れた。
ほんのふた粒。
それだけで跡部は楽になって、大きく溜息を吐いた。
驚きに胸がいっぱいで吐き出せなかった苦しい塊のようなつかえが涙で溶け出したような感じだった。
「そんなに驚くことないだろうが。徳川まで呆然としとるぞ(笑)」
鬼のジャージを掴んだまま振り返ると、徳川はまだ入江に弄られていた。
「徳川。合宿所で唯一跡部くんの名字を呼ばない男から一気に、唯一下の名前を呼んだ男になっちゃったね(笑)」
「普通、名前を呼べと言われたら下の名前だと思うでしょう」
「普通はね。でもそれは、普通に名字で呼びかけるって事をしてなかった徳川が悪いんじゃない」
「呼んでたでしょう!」
「呼んでないよ。跡部くんに相談されてから、僕も鬼も『今日こそ呼ぶかな』って毎日チェックしてたもん」
「え…。」
徳川はチラリと跡部に目をやった。
跡部はまた真っ赤になって鬼のジャージを強く握った。
(4に続く)
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