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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:三嶋 与夢

第六章

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苦労人仲間

 居酒屋の個室にフィンと名乗る男を連れ込んだ。


 向かい合い座る俺たちは、互いに酒を頼まずお茶と料理を頼む。


 こちらを警戒しているのがよく分かった。


(ルクシオンがこれだけ警戒するとなると、かなり危険だな)


 不意打ちで仕留めた方がよかったか? そんなことを考えながら、赤い瞳を光らせる自分の相棒を見る。


『○×▲▽――!!』


 何か訳の分からない言葉を話している相棒が怖かった。


 それは目の前にいる相手も同じだ。


『■◇◆◆○●――!!』


 何かの呪文を口にしているようだが、俺には理解できない。


 互いに敵同士――かなり恨み合っているようだ。


「さて、飲み物も料理も来たことだし、そろそろ話をしようか」


 俺から口を開くと、相手は頷いた。


「そうだな」


 口数少ない美形野郎は、先程から飲み物にすら口を付けない。


「毒なんか入れてないぞ」


「気にしていない。それよりも、さっさと話をしてもらおうか」


 緊張して喉が渇くが、目の前の男が飲まないのに俺が飲むのも何か――嫌だ。もしかして、こいつが何か仕掛けているのか?


 とりあえず、飲まないのが無難だろう。


 毒が入っていれば、ルクシオンが俺に忠告してくるはずなのだが――。


『qあwせdrft――!!』


 先程から、会話が出来そうになかった。


「なら、俺から聞きたいことを一つ。――この国に何をしに来た?」


 相手は一拍おいてから答える。


「ミアの――あの子の護衛だ。主人公って聞いて何か分かるか?」


「問題ない。お前もお仲間かよ」


 互いに転生者同士と分かった。


 これで、一つ問題が解決したな。


 チートアイテムを持っているわけだ。


「さて、ここからが重要になってくる。――お前らの目的は何だ?」


 三作目の主人公だが、実は帝国のお姫様だったことが後に分かってくる。


 攻略対象の男子は、お姫様の護衛騎士となって数々の問題を解決していくのだが――。


「俺たちの目的? そんなことは決まっている。無事にあのゲームをクリアすることだ」


「無事に、ね。もっと具体的に言って欲しいな」


 一度痛い目を見た俺は、ここで気を抜かない。


 相手は――フィンは困ったように髪をかく。


「何でそこまで言わないといけない?」


「必要だからだ。お前ら次第で、俺もどう動くか決めないといけないからな」


 敵対するなら容赦しないという気持ちでいると、今度はフィンから俺に質問をぶつけてくる。


「なら、お前は何がしたいんだよ。転生者だからって、ここまで国を変える必要があったのか?」


 その言葉に俺は苛立つ。


「俺のせいみたいに言うな! 俺は悪くないからな!」


「そ、そうなのか?」


 あれ? ここで引くのか? 思っていた反応と違うな。


 そのまま互いに静かな時間が過ぎていくので、とにかく俺はこれまでの経緯を話した。


「もう一人転生者がいる。そいつは前世の俺の妹で――主人公に代わって逆ハーレムを狙いやがった」


「嘘だろ」


 驚くフィンに俺も同意したいが――事実だ。


 前世の妹が逆ハーレムを目指したなんて、家族として恥ずかしいよ。


「おかげで予定が全部狂って、その尻拭いをしていたらこうなっただけだ」


「そ、そうか。大変だったな」


「あぁ、大変だった」


 ――すると、今度はフィンの方が話をする。


「ミアは――転生者じゃない。ただ、前世の俺の妹に雰囲気が似ているかな? だから、守ってやりたくなった」


「お前も妹で苦労した口か?」


「いや、前世の妹は病弱だったんだ。まだ若いのに死んだから、ミアには幸せになって欲しいと思っている」


 何やら地雷を踏みぬいた気がしたので、すぐにフォローしておく。


「そ、そうか。だから学園まで付いてきたのか」


「出来ればミアを任せられる男子を見つけて、シナリオを進めたい。あの子は最近特に体が弱くなっているからな」


 聞けば、シナリオを進めればその問題も解決するらしい。


「そのために学園まで付いてきたのか? 手続きとか、色々と大変だっただろうに」


「そっちは帝国の偉い人が転生者だったからな。割と簡単だったんだよ」


「帝国には転生者が他にもいるのか」


「今のところ、俺が知るのはそいつだけだな。お前の方はどうなんだ?」


「王国には俺を入れて三人だな。分かっているのは、って前置きは付くけどね。ただ、アルゼル共和国にも二人いる」


「共和国か――そうだ! 共和国の話だよ。お前、いったい向こうで何をやったんだ? いきなり共和国が滅びかけたから、帝国でも大騒ぎだったんだぞ」


「俺のせいじゃない! 向こうの転生者二人が、俺に手を出してきたから仕方なくやり返しただけだ」


「そ、そうか」


 そのまま互いに色々と話して分かったのだが――あれ? こいつ、そこまで危険じゃなくない?


 フィンの方も拍子抜けしたようだ。


「つまり何か? リオン――お前は、妹や共和国の転生者たちの尻拭いをしていたら、出世したってことか?」


「そうだ。俺は悪くないぞ。というか、エリカは前世で俺の姪っ子だったから、悪役じゃないから手を出すなよ。あの子は滅茶苦茶良い子でさ」


「それはさっき聞いた。そうか、だからこちらに手を出してこなかったのか。いや、悪かった。安心したよ」


 フィンの言葉に、ブレイブ――いや、黒助が抗議している。


『相棒! こいつらに丸め込まれるなよ。こいつの側にいるのは人工知能だ。どんな手も使ってくる汚い殺戮(さつりく)兵器だぞ!』


 すると、ルクシオンも俺に訴えてきた。


『マスター、こいつは新人類が残した兵器です。旧人類の敵であり、信じてはいけない存在です。目を覚ましてください。さぁ、共に新人類を殲滅(せんめつ)しましょう!』


『聞いたか、相棒! 今、殲滅って言ったぞ! やっぱりこいつは危険なんだ!』


 俺とフィンは、そんな球体二つを手で押さえつけ話を再開した。


「なるほど――お前も相棒に苦労しているのか」


 そう言うと、フィンが頷く。


「旧人類関係のことになると、こいつは暴走するんだ。悪かったな。俺もお前たちを疑っていた」


「いや、こっちも警戒しすぎた。前に転生者絡みで痛い目を見たからな」


 そのまま冷めた料理に手を出しつつ、フィンと話をする。


 ――意外と話しやすい奴だった。



 淑女の森という組織があった。


 かつて、女尊男卑が激しい頃に存在した集団だ。


 王国が方針を変更したことで、淑女の森は過激な組織へと変貌していた。


 地下にある豪華な部屋には、六十代から三十代までの女性たちがテーブルを囲んでいる。


 報告に来た女性は、みすぼらしい格好をしているのに――テーブルを囲む女性たちは、ドレス姿だった。


 皆が既に高貴な身分ではないのに、かつての暮らしを地下で続けている。


 従う奴隷たちは側にいない。


 代わりに、自分たちの息子を使用人のようにこき使っていた。


「――ゾラ、計画は順調なのよね?」


「は、はい! 娘がローランド陛下の愛人となり、王宮の情報を聞き出しております」


 ゾラ――かつてバルカス・フォウ・バルトファルトの妻だった女だ。


 今は離縁され、地位も財産も失っている。


 そして、今は淑女の森の使い走りをしていた。


「あ、あの、報酬はいただけないのでしょうか? 私も生活が苦しくて」


 そんなゾラに、女性たちは言う。


「お前の馬鹿な息子がしでかしてくれたおかげで、私たちはこのような惨めな生活を送っているわ。そのことを忘れていないわよね?」


「で、ですが、私の子供たちは関係ありません。それに、あの馬鹿な男は、側室の子です」


「関係ないわ。お前のミスよ。王国が元の国に戻るまで、お前は今のままよ」


「そんなぁ!」


 ゾラが泣くが、それを気にした女性は誰もいなかった。


「計画は順調なのよね?」

「もちろんよ。各地で同志たちが集まっているわ。爵位を剥奪され、身分を落とした者たちは多いもの。味方は大勢いるわよ」

「まったく、王国も不甲斐ない。でも、これですぐに今の王国も滅ぶわ。外国からも支援が来ているし、すぐに元通りになるわね」


 反乱分子が各地で集まっていた。


 それを支援するのは、冷遇された国内の貴族たちだけではない。


 外国――敵国からの支援もあった。


 淑女の森は、そんな反乱のまとめ役になっていたのだ。


「陛下のところに我々の手の者を潜り込ませることが出来たのは幸運だったわね。おかげで、王宮内の内情が筒抜けよ」

「間抜けな陛下ですこと」

「いいじゃない。おかげで私たちのためになっているのだから。もっとも、男に期待をする方が間違っているわ」


 かつて、自分たちに優しかった国を取り戻すために、淑女の森は王国の地下で蠢いていた。


 ゾラは俯き唇を噛む。


(おのれ――リオン。あいつのせいで、私がこんな惨めな暮らしをするなんて許せない!)


 淑女の森の女性たちが、計画について話をする。


「この一年、我々は苦汁をなめさせられてきたわ。けど、それもここまで――」

「既に外国から武器も届いていますわ。後は、一斉に決起するのみ」

「これでようやく元通りの生活が出来ますわ。まずは奴隷制を復活させないといけませんね。いっそ、男はみんな奴隷にしてはどうかしら?」


 淑女の森はクーデターを計画していた。


 だが、その計画も――外国から操られたものである。



 居酒屋でフィンとお茶を飲んでいた。


 酒? 悪いが俺もフィンも前世で言えば未成年だ。


 あと、酒は体に悪いから却下だ。


「お前と話が出来て良かった。安心したよ。こっちに来て、もう色々とゲームの内容と違うから焦っていたんだ」


「内容が違う?」


「あぁ、俺は妹がプレイしていたのを見ていただけだから、詳しくは知らないんだが――アーロンって攻略対象の男子がいるんだが、知っているか?」


 俺が黙っていると、フィンは続ける。


「黒助に調べさせたら――アーロンが女の子になったとか言うんだよ」


 その黒助――ブレイブは、ジュースを飲んでいた。


『相棒、俺を疑うのか!? 本当にアーレって女子は、元アーロンって男なんだ! 裏もちゃんと取ったぞ!』


 ルクシオンを見ると、一つ目を俺たちから背けている。


 ――俺が言わないといけないのか?


「――アーロンは性転換手術を受けた」


「はぁ!? な、何でだよ! この世界に、そんな高度な手術が出来る場所があるのか?」


「俺の――部下というか、人工知能がやった」


「お、おま、お前! それは駄目だろ! どうするんだよ! 攻略対象の男子の一人は入学していないし、ジェイクは論外だ。おまけに、オスカルの奴は――」


 実は、攻略対象のもう一人の男子だが――学園に入学していない。


 実家が随分と悪さをしていたので、公国戦後に爵位を取り上げられている。


 最近知ったんだけど、本人は結婚して今は平民として暮らしていた。


 すると、フィンが言う。


「――フィンリーと。あれ? あの子の苗字もバルトファルトだったような」


 俺はテーブルに顔を突っ伏す。


「フィンリィィィ! あいつ、何をやってんだ!」


 知らない間に、攻略対象の男子一人と妹が親しくなっていた。


 そんな俺を見て、フィンがまだ疑ってくる。


「おい、他には何もしていないよな?」


「当たり前だ。何でもかんでも俺のせいにするな」


「そ、そうか。すまない。なら、いくつか気になることがあるから教えてくれ」


 頷くと、フィンが気になることを聞いてくる。


「ユリウス王子が廃嫡された件なんだが、何かしらないか?」


「――俺が決闘でボコボコにしたからだ」


 入学時、今よりもお馬鹿だったユリウスに、アンジェが決闘を挑んだ。


 正確にはマリエに、だ。


 だが、その代理人として俺とユリウスたちが戦い――あいつらは廃嫡された。


「おい!」


「あれは仕方なかったんだ」


「なら、一作目の主人公だ。彼女が聖女じゃない理由は?」


「もう一人の転生者であるマリエが、聖女の地位を奪ったんだよ」


「なら、なんで聖女が不在なんだよ!」


「公国と戦争をした時に、あいつが偽物ですって自白したんだ。あれにはまいったよ」


 ヤレヤレと首を横に振るが、フィンの質問はまだ続く。


「そうだ。公国のお姫様だ。確か――モンスターを操る笛があったはずだ」


「あれ? あぁ、壊しておいたから問題ないぞ」


「そうなのか? なら、ラスボスは問題ないな」


 フィンが落ち着いていると、ブレイブが俺を見ていた。


『――相棒の言うゲームの内容がここまで違うのって、ほとんどこいつが原因じゃないのか?』


「おい、ふざけるな。俺は降りかかる火の粉を払いのけただけだ」


『そうです。マスターは邪魔な存在を排除しただけです。ついでにお前らも排除してやる!』


 ルクシオンが会話に割り込んできたが、今日は殲滅病がいつも以上に酷い。


 というか、冷静に考えると――俺って随分とゲームの内容に関わっているな。


 フィンが俺を疑った目で見ている。


「お前、本当に大丈夫なんだろうな? ミアの相手は無事に見つかるのか?」


「だ、大丈夫だ。来年になれば、後輩君が入学するはずだから」


「頼むぞ。あの子の命に関わっているんだからな」


 最近になり病弱になったミアという少女。


 ――エリカとは逆だな。


 エリカは、今まで病弱で、最近になって回復傾向にあるらしいから。


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