挿絵表示切替ボタン
▼配色






▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:三嶋 与夢

第五章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
117/177

幕間 ノエルのリハビリ

 リオンたちが再び外国に留学している頃。


 バルトファルト男爵家で世話になっているノエルは、リハビリを行っていた。


 聖樹の巫女。


 その一族の血を引くノエルは、王国にリオンが持ち帰った苗木――若木の巫女だ。


 アルゼル共和国では、双子の妹であるレリアが巫女となっている。


 部屋の中、手すりを掴んで歩いていた。


 ほとんど助からない傷を負いながら、ルクシオンたちの治療により命を取り留めた。


 それからしばらくは、療養生活を送っていたが、今は来年度に向けてリハビリを行っている。


 汗をかきながら、何とか歩いていた。


 エルフのユメリアが、そんなノエルを応援している。


「ノエル様、頑張ってください!」


 ノエルは可愛らしいユメリアの応援に、笑いそうになっていた。


「分かったから変な踊りは止めて」


「え? 応援のための踊りですよ」


 どこか抜けたところのあるユメリアは、男爵家の屋敷で使用人として働いている。


 今はノエルの専属になり、身の回りの世話をしていた。


 ノエルは思う。


(これが終わったら勉強で、その後は――)


 世話になっている男爵家での扱いは、とりあえず大事なお客様というものだ。


 リオンの側室になるのが決まっているという話が広がっており、リオンの両親は申し訳ないという感じで接してくる。


 そもそも、リオンの両親は側室に反対の様子だった。


 理由は、アンジェとリビアにある。


 二人の婚約者がいるのに、三人目なんてどうなの?


 そのような感じだ。


 リオンには呆れ、事情やら立場から側室になるしかないノエルには同情的だった。


 しかし、屋敷内の全ての人間が、ノエルに優しいわけではない。


 ノエルを嫌っている人間が、部屋に入ってくる。


「ちょっと、ユメリア! あんたに、頼んでいた仕事が終わっていないじゃないの!」


 その人物こそ、リオンの妹である【フィンリー・フォウ・バルトファルト】だ。


 ボブカットで、ジェナと違って小柄なフィンリーは、使用人が着る衣装に身を包んでいた。


 ユメリアが慌てて謝罪する。


「も、申し訳ありません、フィンリー様! で、でも、奥様が甘やかしてはならないと仰せで」


 フィンリーが地団駄を踏む。


「少しは頭を使いなさいよ! 母さんに分からないようにやれば済むでしょう!」


 今まで女の子だからと甘やかされてきたが、王国の事情が変わってきている。


 このままでは嫁ぎ先に困ると、ジェナ同様にフィンリーも花嫁修業をはじめていた。


「もう、どうしてこうなるのよ! お姉ちゃんは結婚できそうにもないし、私は奴隷も買えないのよ! せめて私が卒業するまで今までと同じで良いじゃない!」


 劇的に王国内の事情が変わっている。


 まるではしごを外されたように感じるのは、フィンリーだけではない。


 エルフの奴隷が欲しかったと泣き出すフィンリーを見て、ノエルが溜息を吐いた。


(これは酷いわ)


 王国と共和国では事情が違った。


 奴隷を専属使用人と呼んで連れ回したりしない。


 そのため、フィンリーの気持ちがノエルには理解できなかったのだ。


「あのさ、もう諦めなよ。素直に花嫁修業をした方がマシだよ」


 キッと睨み付けてくるフィンリーは、ノエルに文句を言う。


「居候が私に話しかけるな! あんたなんか、あの馬鹿兄貴の愛人じゃない!」


 ――三番目に愛している女とリオンは言っていた。


 だから、フィンリーの言葉も間違いではない。


「男が愛人を持つのは、子供を生ませるためよ。あんた、調子に乗らないでよね」


 ユメリアがブルブルと震えていた。


 ノエルがフィンリーを怒鳴りつける。


「キャンキャン五月蠅いんだよ、このガキが!」


「なっ! なんですって!」


 元々ノエルは姉御肌だ。


 一時期、エリクというヤンデレ彼氏により追い詰められていたが、元来は気が強い。


「あんた、同じ事を母親に言えるの? そもそも、男の数が少ないんだから仕方がないじゃない! いい加減に現実を見なよ」


 女性の立場が強かった頃、愛人が認められていた理由は男が少なかったからだ。


 地方領主の力を削ぎたい王国も、あまりに男が少ないのは問題だった。


 だが、立場の強い女性たちは、子供をあまり生みたがらなかったのだ。


 そもそも、子供を生むというのは命懸けだ。


 何人も産めば、それだけリスクが高まるのである。


 そのため、女性たちも側室を持つことを認めた経緯がある。


 そして、今は男性の立場が強い。


「アンジェリカが言っていたけど、男の子はコリン君くらいの年齢でも奪い合いだよ。あんた、今のままで同年代の男の子を、振り向かせることが出来るの?」


 フィンリーが視線をそらした。


「が、学園に行けば男なんて選び放題だって――」


「あんたのお姉ちゃん、そう言って未婚で卒業しそうなんだけど?」


 現実を突きつけられて、フィンリーが泣きそうになっていた。


 そのまま部屋から出ていく。


「五月蠅いのよ! この馬鹿兄貴の愛人!」


 去って行くフィンリー。


 部屋で溜息を吐くノエルだったが、すぐにリュースが入ってくる。


 どうやら会話を聞いていたようだ。


「奥様!」


 ユメリアが驚くと、リュースが困った顔をして謝ってきた。


「フィンリーが迷惑をかけてごめんなさいね。ノエルちゃんがリハビリで苦しんでいるのに、あの子ったらわがままばかりで」


 対して、ノエルは困ったように笑っていた。


「わ、私こそカッとなってしまって――ごめんなさい」


 リュースはノエルを座らせると、そのまま世間話をはじめた。


 今のリュースは正式なバルカスの妻だ。


 男爵夫人である。


 リオンの立場もあって、そのことに表向き文句を言う人物はいない。


「ノエルちゃん、ここでの暮らしはどう? 不自由はしていないかしら?」


「前よりいい暮らしをしていますよ」


「そう、よかったわ」


 リュースからすれば、ノエルとは話しやすかった。


 アンジェは身分が高すぎ、リビアではまた立場が違う。


 そのため、接し方が分からないのだが、ノエルはいい意味で話が合う。


 リュースはノエルに悩みを打ち明けるのだ。


「――うちの子が王女様と結婚するかもしれない話を聞いたかしら?」


「はい。アンジェから教えてもらいました」


「あの子、どうして普通でいてくれないのかしらね。ノエルちゃんの気持ちも考えてあげたらいいのに」


 三番目発言やら、ノエルの生い立ちも聞いているリュースからすれば、リオンには不満もあった。


 ノエルは、リオンの家族に好かれている。


「いっそニックスと結婚してくれたら嬉しかったんだけどね」


「お義兄さんと結婚ですか? 私は微妙な立場だから、難しいですよ」


 ニックスの方も大変だ。


 何しろリオンの兄だ。


 そして、男爵家の当主で、今後は確実に出世すると思われている。


 そのため、数多くの見合い話が来るのだ。


 リュースからすれば、全員が雲の上のお姫様ばかりである。


 ノエルのように話しやすい娘がいない。


「ノエルちゃん、色々とあると思うけど――応援するからね」


「ありがとうございます」


 笑顔で答えるノエルを見て、リュースが「こんな娘が欲しかった」と嘆くのだった。


 すると、今度は部屋にコリンがやってくる。


「ノエル姉ちゃん! 虫を捕まえてきたよ!」


「お、やるじゃん」


 コリンをノエルが褒めると、リュースは叱る。


「コリン、ノエルちゃんはリハビリ中だって言ったでしょう」


「だって、兄ちゃんは忙しいし、フィンリーは怒るし、誰も遊んでくれないんだ。リオン兄ちゃんがいたら、色んな悪戯を教えてくれるんだけどなぁ」


 誰も遊んでくれないと言うコリンに、ノエルが手招きをした。


「拗ねるな。拗ねるな。姉ちゃんが相手をしてあげるよ」


「やった!」


 素直なコリンを見て、リュースは涙を流す。


「リオンにもこんな可愛い頃があったんだけどね。なのに、今ではこんないい娘を愛人にするなんて」


 ノエルは苦笑いをするしかなかったが、男爵家での生活は悪くなかった。


  • ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいねで応援
受付停止中
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
作品の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ